12月30日の「動作法について」でご紹介した、心理学からのアプローチである動作法を理解するには、それを生みだした成瀬悟策先生の書物を読むことが第一だろうと思い、読みやすい本ということから、講談社ブルーバックスシリーズの中の「姿勢のふしぎ」を購入しました。
動作法はどのようにして生まれたのか、心理療法とはどのようなものか等については、次回にお伝えしたいと思います。これは、まず最初に「脳性麻痺」と「脳性マヒ」の違いを理解しなければならないと考えたためです。
初め、「脳性麻痺」ではなく「脳性マヒ」とカタカナが使われていることに、特に意味はないように思っていました。ところがそれは下記にある通り、誤りであることが分かりました。
『脳の病変によって肢体が不自由になる現象を、本書ではここまで「脳性麻痺」ではなく一貫して「脳性マヒ」と表記してきたのは、一般に「麻痺」ということばが「神経や筋の機能が停止する状態」(広辞苑)とされているためでした。これまで述べてきたように、この子たちのからだは病理学的に動かないのではなく、生理的には動く自分のからだを、その主体者が自分の思うように動かせないだけですから、「麻痺」ということばはそぐわないため用いません。』
そして、脳性マヒの特徴は次のようなものだということを理解しました。
『「脳性マヒ」は変わらないが「脳性マヒの子」は変わる:脳性マヒというのは肢体不自由の原因になるような脳の病変があることをさし、生理的または病理的学的な診断名のことです。そんな病変を脳にもちながら生をうけ、今ここに生きて生活している子ども、ないしその人は、脳に病変があるため肢体にそれなりに不自由なところはありますが、あくまでもほかの一般的な人と何ら変わるところはありません。』
これを補足するものとして、次のような興味深い事実も書かれていました。
『研究室へやって来る脳性マヒの子たちが疲れないようにと昼寝の時間を設けていました。そこで観察していて驚いたことは、突っ張ったり、引きつったりするため、両手共にうまく動かせないはずのC君やDさんたちが、寝返りをするときにはけっこううまく両腕を動かして寝返っているのです。からだをあちこちへ移動するのに手足を使っているのです。その子たちに目が覚めてから「同じようにやってごらん」といってもできないのがふつうです。』
さらに、次の一文で疑問が大きくなり、調べなければという思いになりました。
『動くが動かせない:脳性マヒの子は脳の病変のため、からだが動かないものと思われやすいのが現状です。しっかりした医学を修めた医師の中にもそう思っている人が少なくありません。しかし実際によく調べてみると、ふつうの脳性マヒだけが原因で、手足がまったく動かないという例はないといってよいでしょう。』
そこで、まずは専門学校で使っていた教科書(「臨床医学各論 第2版」)、図が豊富で分かりやすい「病気がみえるシリーズ」、「病気がみえる」と同じ出版会社(医療情報科学研究所)で、「病気がみえる」の簡易版のような「ビジュアルノート」の3つについて、脳性マヒについてどのような説明がされているのかを調べてみました。
「臨床医学各論 第2版」(医歯薬出版)
「神経疾患」の中の「基底核変性疾患」の中に、パーキンソン病、ハンチントン病が出てきます。そして、3番目には「脳性小児麻痺」が載っています。
書かれている主な内容は『受胎から新生児(生後4週間以内)までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく永続的な運動および姿勢の異常。運動障害は屈筋群と伸筋群の協調運動障害で、姿勢の異常、筋トーヌスの異常、反射の異常などの特徴がみられる。また、異常運動として、ジストニア、アテトーゼ様運動、舞踏様運動がみられる。生後6ヶ月以内に診断し、機能訓練をできるかぎり早く開始する。変形の矯正や拘縮の除去には整形外科的療法を要する。約500人の出生に1人の率で発生する。』
説明の中で「麻痺」という言葉は使われておらず、「運動障害」としての姿勢の異常、筋トーヌスの異常、反射の異常、そして異常運動についての説明となっていました。
「病気がみえる 脳・神経」(医療情報科学研究所)
「神経・筋の異常」の中の「群発頭痛」に続く2つめの「Supplement」として「脳性麻痺(CP)」が出ています。Supplementとは、この本の中では『主にその章の内容と直接的に関わらない情報で、補足的におさえておいてほしいものを示しました。』という位置づけです。ちなみに1つめのSupplementは「頭痛ダイアリー」というものです。
画像出展:「病気がみえる 脳・神経」(医療情報科学研究所)
『「脳性麻痺」とは発育期(受胎から生後4週間まで)に脳の運動系の形成異常や損傷により、運動や姿勢を制御する能力が損なわれた病態の総称である。症状は満2歳までに発症する。』という説明になっています。
個別の疾患ではなく「総称」として位置づけられたため、「Supplement」での登場となったのだろうと思います。従って、上段の「運動麻痺:四肢麻痺、対麻痺、片麻痺」の記述や、下段の錐体路や大脳基底核、小脳の問題についての記述も、「運動や姿勢を制御する能力が損なわれた病態の総称」の立場で考えれば、特に不自然とは言えないように思います。
「ビジュアルノート」(医療情報科学研究所)
こちらは、脳・神経や小児科などを含む計18の科、主要252疾患についての説明が図とともにされていますが、「脳性麻痺」の記述はありませんでした。
上記は「ビジュアルノート」にあった表です。下段の新生児疾患には「脳性マヒ」は入っていません。小児の成長と発達および疾患に関する情報が盛り込まれた見やすい表と思い載せました。
まとめ
この3冊から、「脳性麻痺」の位置付けは曖昧であり、明確に定義されていないということを確認できました。
私としては、「脳性マヒ」は「脳性麻痺」や「脳血管障害の後遺症などの四肢麻痺・対麻痺・片麻痺」とは似て非なるもの。「動くが、思いどおりに動かせない」運動障害で、アテトーゼやジストニアなどの異常運動を伴う場合もある、肢体不自由の病態」として定義したいと思います。
追記(2018年6月24日)
混乱させてしまうかも知れませんが「脳性麻痺」について詳しく紹介されていたサイト(「LITALICO発達なび」さま)がありましたのでご紹介させて頂きます。
この中に次のような説明箇所があります。
『脳性麻痺(のうせいまひ)は、妊娠中、出産前後もしくは生後4週間以内のあいだに、なんらかの原因で生じた脳の損傷が原因でおこる運動と姿勢の障害のことを指します。たとえば、脳性麻痺の赤ちゃんは、おすわりなどの姿勢、ハイハイ、もしくは立って歩くといった運動の発達への遅れや、これらのスキルを獲得できないことが起きてしまうことがあります。
それではなぜ、脳が損傷すると姿勢や運動に問題が起きてしまうのでしょうか。人が体を動かすときには「筋肉をこんな風に使って、腕をあげなさい」など、脳の神経が筋肉に向かって常に信号を出しています。ところが、脳の損傷によって神経システムが損傷してしまうと、送るべき信号がうまく筋肉に伝わらず、考えたとおりに動けなかったり正しい姿勢をしたりすることが難しくなってしまうのです。
脳の損傷部分や範囲は、一人ひとりまったく違います。したがって、子どもの発達過程にどの程度の影響があるのか、もしくはどんな症状が現れるのかも子どもによって異なります。』
さらに「脳性麻痺の検査・診断」では、次のように説明されています。
『明らかに麻痺があるなど重度の脳性麻痺をのぞき、特に早期に脳性麻痺を診断することは、一般的にとても難しいと考えられています。
おもな理由としては、発達は非常に複雑なものであることにくわえ、脳性麻痺ではない子どもでも、発達には個人差が大きいことが知られているからです。また、おすわりや立つなどの発達過程は、生後すぐにできるものではないことも早期診断を難しくする要因のひとつです。さらに、脳性麻痺の症状である痙性(筋肉の硬さ)は、通常生後数週間でみられるものではなく、7~9ヶ月たって気づくことも多いことで知られています。
このように、脳性麻痺の診断は非常に難しいものであるものの、診断には以下の3項目から総合的に判断されます。
〇出生歴:未熟児だったかどうか、分娩時に異常はなかったかなど
〇子どもの観察:年齢相応の発達をしているかなど
〇筋肉の緊張や反射異常をみる検査』
以上のことから、「脳性麻痺/脳性マヒ」の問題は、原因が梗塞や出血といった脳梗塞や脳血管障害によって生じる麻痺とは異なり、原因が非常に広範囲であり、そこに表れる症状も患者さま個々に特徴が異なるという多様性の問題なのではないかと感じました。
また、その意味ではその多様性を表す方法として、あらためて「麻痺」という言葉ではなく、「マヒ」とした方が良いと思いました。