人工知能と鍼灸

野村総合研究所が2015年12月に発表された、「人工知能やロボット等による代替可能性が低い100種の職業(クリック頂くと5ページのPDF資料がダウンロードされます)には柔道整復師とともにはり師・きゅう師が含まれています。

ロボットであれ、機器であれハードウェアが必要となれば、大規模な投資が必要となりますので、開発コストと回収できる規模のマーケットが必要になります。これらはいずれもすごい難問です。

それでも挑戦するとすれば、まずは鍼灸の効果が科学的に広く認められる必要があると思います。

下記の2つのグラフはいずれも学術論文の数を示すもので、急激に多くなっているのは中国発の論文が増えているためです。
ヒトの基礎研究においては「脳の機能画像解析に関する研究」(右図)が急増しています。また、下段の図は鍼刺激による脳の反応部位を示しています。棒グラフは淡いピンクが活性化、グレーが不活性化で、これを見ると体性感覚や運動領域では活性化が多く、情動に関する辺縁系や大脳基底核では不活性化の方が優位になっています。

このように、画像検査の著しい進歩により、今まで不明確だった事象が科学的に説明できるようになる可能性があります。

鍼灸臨床最新科学より
学術論文数
鍼灸臨床最新科学より
脳の機能画像解析に関する研究の推移

前頭葉、頭頂葉は活性化。辺縁系、大脳基底核は不活性化。
鍼刺激による反応部位
医歯薬出版
鍼灸臨床のメカニズムとエビデンス

上記の3つのグラフは「鍼灸臨床最新科学」からの引用です。

しかしながら、臨床現場ではその成果は鍼灸師の実力(現状と問題を把握する力、最適な治療方針を立てる力、プランに従って最適な手技を選択し実践する力など)に左右されますので、このような現実を加えると、21世紀中には鍼灸治療を行うペッパー君のようなロボットはもちろん、治療まで行う装置が現れることはないと思います。

 

しかし、少し見方を変えて、鍼灸治療を問診-触診(脈診を含む)-検討(治療方針など)-施術の4つの段階に分けて考えるならば「問診」と「検討」において、鍼灸師を支援するAIアプリケーションが出てくることは考えられます。

理由はハードウエアをPCやスマホと考え、 GooglのTensorFlowのようなオープンソースで開発すれば、人件費以外は費用を抑えられるためです。こう考えると、ソフトウェア開発に精通した優秀な鍼灸師であれば開発は難しくないように思いますが、大元の臨床データの質と量が適切かつ十分でないと、そのアプリケーションがデモバージョンの域を超え、商用になることは容易ではないと思います。ただし、実使用に関しては利用する鍼灸師が便利かつ有効と判断し、その鍼灸師が患者さまから十分に信頼されていれば、利用するうえで大きな問題はないように思います。

余談になりますが、AI(人工知能)とは厳密には「人間の知能そのものを持つ機械(ハードウェア)」であり、 GooglのTensorFlowやIBMのWatsonはAIではなく、 ディープラーニング(機械学習)というもので、人と同じように成長するコンピュータソフトだそうです。