ファシアと生体電気1

今回のブログは“生体電気”が主題なのですが、これは経絡を現代医学的な見地から理解しようとした場合に、重要な要素の一つだと思っているからです。そして、もう一つが“ファシア”です。このファシアについて、まずご説明させて頂きます。長い前置きですが、ご容赦ください。

当院では経絡を重視した、日本古来の鍼灸をベ-スに施術を行なっています。特に、代々木にある日本伝統医学研修センターで学んだことを実践しています。

一方、私は日本整形内科学研究会の准会員として、主にウェビナーで勉強させて頂いています。ここではファシアが大きなテ-マですが、ファシアとは一言で言うならば、"膜"です。つまり、筋肉や靭帯などだけでなく腹膜や腸間膜などの内臓、さらに心臓の心膜や腎臓の腎筋膜などの各臓器も覆っています。共通する主成分の中にはコラーゲンがありますが、同一ではなくそれぞれの目的に応じて適した成分、構造を有しています。  

画像出展:「人体の正常構造と機能」

上、左の図の黄色の部分が“膜(ファシア)”になります。右上から、胃結腸間膜横行結腸間膜大網(4枚の腹膜が癒着したもの)、腸間膜(小腸をつり下げる)、S状結腸間膜となっています。右の図は上が上行結腸の横断面で、下が横行結腸の矢状断面となっていますが、グレーの部分はすべて膜です。また、この図には書かれていませんが、体壁を覆う腹膜を壁側腹膜といい、臓器を包む膜を臓側腹膜といいます。以上のことから臓器をおおい、そして臓器間をつないでいることが分かります。また、これらの“膜”には血液を運ぶ血管とその血管の太さを調整することもできる末梢神経なども含まれています。このことは極めて重要です。

腹膜に関して丁寧に説明されているサイトを見つけました。ご紹介させて頂きます。

1.『腹膜とはどのようなものなのか知りたい』 “レバウェル看護”さま

画像出展:「人体の正常構造と機能」

こちらは心臓を包む心膜の図です。外側から順に、線維性心膜漿膜性心膜(壁側側)漿膜性心膜(臓側側)心内膜となって4層の膜で守られています。

 

画像出展:「徹底的解剖学 人体を構成する4つの組織

こちらの「人体を構成する4つの組織」の中では、ファシアは“結合組織”に分類されます。

 

 

コラーゲンと電気の関係は以下の「閃く経絡」という本の中に興味深い記述がありました。

『電気を発生させるという特性を持つのは、骨ではなくコラーゲンで、ファッシア内の他のコラーゲンも同じ種類である。ファッシアのコラーゲンは機械的ストレスの線に沿って存在し、伸ばされたり動いたりする度に小さな電気を発生させる。この電気を西洋医学の医師は完全に無視した。どの医師に尋ねてもおそらくぽかんとするだけだろう。それにしても、身体の組織を連結させ、全身を包み結合しているファッシアが実際のところ、相互接続している、生きた電気の網であることには全く驚かされる。これは、古代中国における経絡や氣の記述と非常によく似ている。

コラーゲンは電気を生むだけでなく、伝導の特性も持つ。つまり、半導体なのだ。言い換えるなら、完全に絶縁体・伝導体のようにふるまうわけではない。コンピュータに「知性」を与えるものと同じ特性と言える。』

このコラーゲンの電気的性質によって、身体のすべてのものが電気的になるということは実に面白い。すべての細胞表面には肺と同じくらい生命に不可欠となるポンプが存在する。このポンプは、2つのカリウムイオンを取り込むことと引き換えに、3つのナトリウムイオンを放出する。これによって細胞内は負の電荷を帯びる。結果として、細胞全体にわずかな電荷が生じる。この帯電なしでは、細胞は機能しない。ポンプが数分間止まっただけでこの電荷はなくなり、細胞は膨らみ、死んでしまう!電気は生命に必要不可欠である。』 

ファシアを考える時、もう一つ重要な鍵はファシアという“膜”は血管や神経、リンパ管などの生命のライフラインというべきものを含んでいるという点です。つまり、ファシアに働きかけるということは、これらの生命を支えるシステムに影響を及ぼすということです。 

画像出展:「細胞と組織の地図帳」

真皮の下の皮下組織は浅筋膜と呼ばれており、図中では浅筋膜の中に動脈、静脈、神経、受容体が書かれています。また、この図には書かれていませんが、浅筋膜の下に深筋膜があります。ファシアは広範囲かつ複合的に広がっている結合組織であるといえます。

※リンパ管については下の図をご覧ください。

 

 

 

画像出展:「がん免疫療法コラム

細胞は組織液を通じて血管と物質のやりとりをしています。この組織液は動脈側の毛細血管から押し出された液体で間質リンパと呼びます。大部分は細胞に栄養などを供給するとともに老廃物を受け取った後、静脈側の毛細血管などに戻り心臓へと運ばれていきます。一部の組織液は毛細リンパ管に入り、これは管内リンパ液となります。

私は専門学校で、「経絡は内臓にも行っている」という教えを完全に信じることができませんでした。以下はウィキペディアに書かれた冒頭の部分です。

画像出展:「ウィキペディア

『経絡とは、古代中国の医学において、人体の中の気血栄衛(気や血や水などといった生きるために必要なもの、現代で言う代謝物質)の通り道として考え出されたものである。経は経脈を、絡は絡脈を表し、経脈の脈、絡脈の脈の意。』

イラストは正経十二脈の一つ、“足の陽明胃経”ですが、このような代表的な経脈は、「道」に例えれば「高速道路」のような、いわゆる重要な主要幹線に相当するのではないかと考えています。

※「気血栄衛の通り道血液[酸素/栄養素/生理活性物質]・神経・組織液[リンパ]を包み全身に存在する膜」を連想させます。 

 

 

経絡の経は縦、経絡の絡は横です。深さも考慮するならば経絡は3次元とも言え、立体である身体のあらゆる所に存在しています。私が経絡≒ファシアと考える1番の理由はここにあります。なお、=としていないのは、生まれも育ちも異なる両者にはそれぞれの歩みや独自性があり、=とするのは正確ではないと思うためです。

以上のことから、「現代版経絡はファシアではないか」ということなのですが、もう一つ注目しているのが"電気"です。

また、電気が気になるのは「思考のすごい力」という本の中で、ブルース・リプトン先生が語った以下の文章です。 

『東洋医学では、身体はエネルギーの経路(経絡)が複雑に列をなしたものと定義される。中国の鍼灸療法で用いられる人体の経絡図には、電気配線図にも似たエネルギーのネットワークが描かれている。中国医学の医師は、鍼などを用いて患者のエネルギー回路をテストするわけだが、これはまさに電気技師がプリント基板を「トラブルシュート」して電気的な「病変」を発見しようとするのと同じやり方だ。

 

"プリント基板(電気回路基板)"という発想は初めてでとても印象に残りました。

画像出展:Denjiha Clinic

 

 

心電図も筋電図もまさに電気ですが、中枢神経、末梢神経から電気を連想することはなかなかできません。本件に関しては、看護roo!というサイトの「興奮の発生と伝導|生体機能の統御(1)」に詳しくかつ分かりやすい解説がされていました。

ポイントは、次のようなものです。

脳から手足に向かう神経(遠心性)も、手足から脳に向かう神経(求心性)も、電気的な【伝導】化学的な【伝達】の共同作業で行われています。電気が関係するのは伝導ですが、流れは、[刺激]-[受容器]-[興奮]→活動電位となります。特に活動電位は細胞膜とイオンチャネルが重要です。

この活動電位に対する意識が低いことが、電気を軽視している原因ではないかと思いました。

画像出展:「看護roo! 興奮の発生と伝導|生体機能の統御(1)

細胞膜に発生する電位を膜電位といい、細胞が興奮していないとき(静止状態)の膜電位を静止電位といいます。

 

 

 

そして、(鍼・電気)で検索したところ興味深い資料が見つかりました。

今回、取り上げた、『からだの中の電気のはなし』は、「鍼治療に関する電気現象について」の参考文献の中に紹介されていました。

著者の高木健太郎先生は汗の研究、体温調節研究の世界的権威で、鍼灸にも精通されています。

専門学校の生理学の授業では、お爺さん先生に「高木先生を知らないのか!」と一喝されました。

今回の本はアマゾンでは39,260円だったため、あきらめかけていたのですが、「日本の古本屋」というサイトを覗いたところ、8,500円で販売されていたため少し迷いましたが購入しました。

著者:高木健太郎

発行:健友館

出版:1978年8月

 

 

ブログに取り上げたのは、目次の黒字個所になります。

第一章 生物電気

生体の電気現象

●電気はなぜ起こるのか

●生物電気の発見

細胞膜の電気生理

●なまずと人間

●水溶液中の塩の解離

●半透膜の巧妙な働き

●細胞膜の能動輸送

神経から神経へ

●シナプス伝導

●神経細胞を興奮はどう伝わるか

脳の電気現象

●興奮すると脳波も変わる

●脳波の種類

●壁にも電気がある?

●黙って座ればピタリ

●タヌキ寝入り

●いねむり発見ブザーめがね

心臓の電気現象

●心臓の働き

●拍動で体の電位も変わる

磁場の影響

●磁場に生体作用があるか

静電気と生体

●赤血球を電場におくと

第二章 良導点の秘密を探る

皮膚の電気抵抗

●病気により変わる皮膚の抵抗

●皮膚上のツボと刺激点の関係

●毛孔は電気抵抗が低い

インピーダンスを計る

●大部分の抵抗は角質層に

●子供は低く、老人は高い抵抗

●腎臓の形に出る皮膚抵抗

●金属とは異なる皮膚の抵抗

●繰り返し通電で抵抗が漸減

●抵抗の漸減がツボを証明?

第三章 ハリはなぜ効くのか

ハリ灸への誘い

●基礎医学からみたハリ灸

ハリ効果の可能性を探る

●ハリ麻酔の西洋医学的解明

●神経とその器官への効果

●中国のハリ麻酔を見て

ハリ・きゅう五話

●反対側に汗をかく

●鼻血と鼻詰まり

●こりと痛み

●耳のツボ

●むくみのツボ

第四章 生理学とその周辺

筋肉の疲れ

●疲労の回復に効果あるもの

心臓の働き

●心臓の刺激伝導系の存在

●心臓を冷やす

呼吸を考える

●呼吸のリズムの発生メカニズム

●低圧下の呼吸

●運動時激しくなる呼吸

皮膚圧の意外な作用

●奇妙な発汗

●生体の遠隔測定

ハリ麻酔

●ニクソン訪中で関心が広がる

環境生理学

●巧妙な反応システム

第五章 体の調節機能

重力の影響

●重力で地球に引きつけられる

●体液も内臓も姿勢で移動

●鼻の孔の通り具合

●発汗も姿勢で変化

●動物催眠―カエルの背中をはさむ

機能のバランス

●調節機能の主役

生理学的枕考

●枕は不用か

第六章 健康―その考え方

高まる健康への関心

●長寿への願望

●健康とは何か

健康㊙作戦

●健康を保つには

●いろいろな健康法

●頭を使って気を遣うな

●食事と運動

第一章 生物電気

細胞膜の電気生理

細胞膜の能動輸送

細胞の傷ついた部分と健全な部分との間には電位差がある。通常は健全部分が正で、負傷部分は負である。

・細胞の内部と外部の各点はすべて等電位であるから、結局、この負傷部分は細胞膜の両面に電位差が存在することを意味している。

能動輸送の輸送力の源泉はATPで、これが分解するエネルギーである。

・膜電位は膜の内外のイオンの濃度分布とイオンの膜透過性によって説明できる。

外から与える電位変動を電気刺激といい、これによって起こる膜の自発的電位変化を活動電位という。この発生の原因はNa⁺に対する膜の透過性が刺激によって、急に、一過性に高まったためである。