ファシアと生体電気2

著者:高木健太郎

発行:健友館

出版:1978年8月

目次は“からだの中の電気1”を参照ください。

 

 

第二章 良導点の秘密を探る

皮膚の電気抵抗

病気により変わる皮膚の抵抗

・『人間の表皮は外側の表皮と、その内側の真皮に分けられる。さらにその下には皮下組織[浅筋膜]がある。

皮膚の電気抵抗は非常に高く、乾燥している時は数メガオームもある。このように抵抗が高いのは主として表皮の一番外側の角化層のせいである。ここの細胞は平たく、ひからびていて、これが何層も重なっている。水分がほとんどないから、電気を通しにくいというわけである。それで、電極糊をつけたり、食塩水をつけて、細胞をふやかしたり、細胞の間に水分がしみ通っていくと、急に数キロオームにもなる。もっと抵抗を下げようと思えば、少し強く皮膚をこすってこの角化層をはいでやればよい。それでも数百オームはある。

皮膚の抵抗というのは、鍼灸ではおそらく中谷さん[中谷義雄先生]あたりが、ツボに一致してというよりも、初めはいろいろの身体疾患において皮膚の抵抗が変わっていくことを見出され、それに良導絡という名称が付けられてから、一般の注目を引き始めたものだと思う。中谷さん以外にも、石川教授[石川太刀雄先生]の皮電点というものあり、これも皮膚抵抗の変化である。この良導絡を調べていくと、だんだん経絡上の経穴と一致することがわかってきて、現在では、あまり良導絡と経絡との間の区別がないように私には考えられる。

 ※この高木先生のお考えは、「経絡(機械的)≒良導絡(電気的)≒ファシア」につながるものと思います。

ただし、経絡であっても、疾患によっては何の変化も見られない経穴もあるが、ある疾患の場合にはある経穴の電気抵抗が特に低いというようなことから、これが診断の手引きになり、経穴はよくわからなくとも、この抵抗の低い点にハリ、灸を施すことが治療に直結するということで、現在では非常に重宝がられているのは周知の通りである。そのために、現在、日本には良導絡医学会という学会までがあるわけだ。この方法によると、古典的な経絡をたどるというよりも、電気抵抗を探って、それにより治療点を捜し当てるということであるから、私達、生理学や医学を学んだ者にとって入りやすいということで、多くの医師が参加している。また、現実にそのような器械を医師が治療に使っている。

 日本鍼灸医学会の創始者である石川日出鶴丸先生は、私と同じく生理学者であり、始めにちょっと述べた金沢大学病理学教授の故・石川太刀雄先生も中谷義雄さんと同じく、皮膚の電気抵抗―正確には皮膚のインピーダンスといって、電気が流れようとするのをじゃましようとする要素のこと―を計られた。それが特異な皮膚の部位であり、かつ、経穴と非常に関係が深いことを発見して、この点を皮電点と名付けた。この良導絡点にしろ、皮電点にしろ、皮膚の電気抵抗が変化することと経穴との関係を調べたものと思われる。

『良導絡は日本の医師が考案した

自律神経を調整する鍼灸治療です』

こちらは中谷先生が一般の人向けに書かれた本です。

『針灸は、今から約二千年前―漢の時代の中国に生まれた医術で、“漢方”と呼ばれ、日本でも江戸時代までは、ずっと正統な医学として認められてきました。それが、明治維新後は、西洋医学だけが法律的に認知され、長い歴史と伝統を誇る漢方=東洋医学は禁止されてしまいました。

改革期にはつきものの行きすぎの一つですが、私は医学生の頃から、この矛盾に気づき、針灸に興味を持ち続けて、刺激整理学を勉強してきました。そして、京都大学生理学教室に入り、笹川久吾教授のもとで、私にとっての第一の疑問点だった経穴(ツボ)の本態と経絡の本態についての研究を続けたのです。

その結果、ツボとは電気が通りやすく、経絡は、そうした電気の流れやすい点が、一定の形に並んでいるものだということが、わかったわけなのです。

次いで私は、人体に刺激を与えると、なぜ効くのか、どんな作用があるのかを追及し、刺激の強弱と感受性の問題なども、季節別、性別、年齢別、その他あらゆる角度から理論的な裏づけをさぐってゆきました。

こうした私の研究は、良導点、良導絡ということばを生み出しましたが、これは東洋医学を基礎にして、科学的な方法で発見したツボと考えて頂いて頂ければいいでしょう。

私の場合は、この経絡型を皮膚の電気抵抗で発見しました。京大医学部の生理学教室で研究していたときのことです。相手は、腎臓炎で全身に浮腫のある患者でした。この患者の体中の電気抵抗を計っていたところ、針灸の古典に書いてある腎経の型とよく似た、電気の通りやすい筋を発見したのです。

そこで、私はそのほか、いろいろな内臓疾患についても調べてみました。古典では、経絡は大別して12種類(人体は左右対称なので、合計24本)あるとされていますが、それと同じような電気の通りやすい筋が、次々と見いだされ、裏づけられていったのです。

これを私は良導絡と名づけたわけです。ですから、良導絡は経絡だと解釈されても間違いではないでしょう。

ただ、話が前後するようですが、私の考えるツボは、必ずしも、古典に書かれているような経穴と同じではないのです。科学的に測定して、刺激を与えると反応しやすい点、電気の通りやすい点を、反応良導点とし、この良導点が分布している経絡状の、電気を導きやすいつながりを、良導絡としたわけです。

が、いずれにせよ、私は、自分なりの研究を通じて、経穴(ツボ)と経絡というものが、現実にあることを知ったわけで、次の課題は当然のことながら、これらが一体、医学的には何を意味するのか―といった説明です。

結論から申せば、ツボは、皮膚に分布している“交感神経の興奮している場所”なのです。逆にいえば、交感神経の興奮によって、ツボが生じるのです。従って、良導絡とは、こうした交感神経の興奮点を結ぶ一連の系統だと説明できます。』

『話はまたツボ療法に戻るわけですが、これは要するに“経穴、経絡(良導点、良導絡)と呼ぶ治療点を刺鍼して、自律神経を調整し、あらゆる疾患を治療方法”と定義できるようです。

昔から、針灸で病気を治すと再発しないといわれているのも、そのためなのです。いずれにせよ、すべての病気が、自律神経の失調を第一の原因として起こっているにも関わらず、近代西洋医学では、この研究がまだまだ進まず、神経の調整というものも、あまり行われていません。そこに、西洋医学の欠点があるのではないかと、私は考えているのです。』

阿是穴というのは、体表を押さえてみて「あ、ここだ!」の意味なのです。しかし、これら圧痛点は人によってあらわれる場所が異なり、必ずしもツボの位置とは一致しません。

ですから、いってみれば、人間の体全部がツボと考えられなくもなく、古典に書かれているような経穴にこだわるのが、全く無意味だということに、かえってこれで気づくはずです。

事実、私は、電気現象で調べてみて反応する場所、刺激を与えると効果のあるところをツボだと思っているのです。いいかえれば、ツボと呼ばれるのは、とくによく使われる治療点だと定義してもいいでしょう。』

『ツボとは、皮膚のうえから押さえてみて感ぜられる凹み―ですが、問題はそのどれが効果的な治療点かの判断です。

たしかに、人さし指でさわってゆきますと、体中のいたるところに凹みを感じるところがあります。筋肉と筋肉が交差したり、並んでいたりしてできた一種の境い目の部分ですが、同じような凹みは、筋肉と腱、筋肉と骨などの境界点にも見つけ出されます。

ところで、筋肉には筋膜という膜があり、そこにたくさんの神経が走っています。従って、筋肉それ自体でなく、筋膜を刺激するほうが、より効果的なのは言を待ちません。

『皮膚の表面にも治療点(ツボ)がありますが、そのずっと奥のほう、筋肉の深部に分布している神経を直接刺激する意味でのツボもあるのです。

例えば、腹部の胃や膵臓疾患の場合、中脘というツボを皮膚の表面でだけ刺激しても、もちろん効果はあります。しかし、針で筋肉の部分を刺激すれば、なおよく、より深く腹膜まで突けば、さらに大きな治療効果が得られるのです。』 

皮膚上のツボと刺激点の関係

・『私は前から非常に不思議に思っていることがある。それは、ハリを刺す場合に、確かに皮膚の上にある経穴を通してハリが刺されるのだが、刺して刺激している部分は、皮膚はもちろんであるが、その下の部分の皮下組織、筋膜、あるいは筋肉を刺激している方がはるかに多いと思われる。そうなると、刺激している点と、経穴という点との関係はいったいどうなっているのだろうか。私にはいまだに理解できない。』

インピーダンスを計る

腎臓の形に出る皮膚抵抗

・『脊椎の棘突起に沿って皮膚のインピーダンスを計ってみる。頸椎の5番から7番(C5~C7)、胸椎の1番から12番(T1~T12)、腰椎の1番から5番(L1~L5)、仙椎の1番から2番(S1~S2)の値をみると、正常では、インピーダンスはほとんど変わらない。それが普通なのである。これが病気になると、図中の、脊椎カリエスの21歳になる女性(K)では、胸椎の6番と12番のインピーダンスが下がっている。もう一例、16歳になる脊椎過敏症の人(I)では、胸椎の5番が下がり、脊椎破裂症の例(B)では、腰椎の2番を中心にインピーダンスが下がっているところがある。いずれも、脊椎あるいは脊髄に病気があると、その相当部分のインピーダンスが下がっている。これがただちに鍼灸の経穴と関係があるとはいえないのだが、この実験をした三田さんによれば、腎臓の悪い人では、その人の腎臓の上の皮膚に、腎臓の形をしたインピーダンスの変化が現われると発表している。

何か病気があると、それをおおっている皮膚上に、内部の病気に相応したインピーダンスの変化が現われる。とどうもいえそうである。しかし、経穴との関係はここではわからない。

結局、皮膚の抵抗というものには、純抵抗成分と容量成分とがあるので、測定する電圧の周波数によって変化し、また、顔、足の裏、肩、前腕、足の背など場所によっても変わる。私達の体には経穴すなわちツボとの関係はわからぬが、電気抵抗からみると、皮膚の部分によって抵抗が違っているということがわかると思う。』

画像出展:「からだの中の電気のはなし」

(K)、(I)、(B)のグラフです。

以下は、昭和35年1月27日に行われた座談会からのものです。参加者は昭和の重鎮の皆さんです。

この座談会の中で、岡部先生も中谷先生と同様なことをお話しされています。

『ツボとりは単に指先でちょっとさわるよりも、例えば、手の三里なら三里を取る場合に、手掌あるいは四指で軽く撫でてみる。そうして二、三回撫でてみますと、その中にある一点を見出す。その一点を今度はもっと強く押してみる。それが圧痛なり硬結が出てくる。これを一つのツボの本体として探り当てる。他と違った状態にツボは現れていると考えている。例えば、絡穴にしても、原穴にしても、よく触っていると、自分で触っても響くとか、あるいはキョロキョロのものが出てくる。あるいは陥下しているか、何か普通のところよりも違った感覚として指先に感じられるものがツボだと思う。その意味でツボは生きているとみている。ツボは経絡の変動とみている。

抵抗の漸減がツボを証明?

・『石川さんは、終末血管の分かれるところを特殊な部分だと考えている。これは、ある経穴の存在部位に相当している。経穴と思われる所の下をよく見ると、頸動脈体に相当するような、一種の動脈腺というのが存在していて、そういう所は特殊な性質を持っているというのである。この動脈の分岐部は平滑筋が非常によく発達していて、収縮しやすく、それが収縮すると、その血管の支配を受けている皮膚部分が、一種のネクロージス(壊死)に陥り、そして皮膚の抵抗が下がり、それが皮電点(石川さんのいうツボ)なのだと石川さんは説明している。

繰り返すが、動脈の血管が分岐点で収縮すると、先の方の血液循環が悪くなり、この部分だけが壊死に陥る。そうなると、この部分に液体の浸潤が起こり、ここの抵抗がほとんどなくなり、ここが皮電点に相当するのだ、というのである。そして、皮電点というのは、こういう皮膚下の血管の収縮に起因するというのが石川さんの説である。

中谷さんや良導絡派の人々の唱える毛根説というのがあることは前にも述べた。交感神経が内臓の疾患を反映して、皮膚の分極や抵抗が変わり、その点が経穴であるという説である。もう一つの考え方は、最近、私達の教室で行われたものからのヒントによる。ご存じの通り、汗をかくと電気抵抗が下がるが、25℃ぐらいの気温では、あまり汗をかかなくなる。しかし、皮膚抵抗が変化する。これはなぜだろうか。石川さんの説くように、皮膚の細胞の分極の変化であるとか、毛髪の部分に対する交感神経の働きしか考えられないような気がするわけである。ここで注意すべきことは、汗をかいていなければ、汗腺は働いていないのか、という問題である。汗を全然かいていない時には、エクリン腺は一見働いていないように見える。ところが、ピロカルピンという汗腺を刺激する薬を、皮膚の局所に注射してみると、汗腺の興奮が高まって、たくさんの汗が出てくる。その時の分泌の頻度は分泌神経興奮を示唆するが、汗をかいていない時も一定のリズムを有している。このことから、かなり低い温度でも、汗腺はいつも働いているものであることがわかる。さらに、汗を全然かいていないように見える時でも、両手や体のあらゆる個所の発汗のリズムは同じである。これは、中枢性には交感神経の興奮の命令が、末梢の汗腺に絶えずきていることを意味している。

言い換えると、私達の目には外観上見えなくとも、中枢神経から交感神経への興奮の刺激が絶えず送られてきていることを意味する。汗が見えないのは、汗腺から出ていないということも考えられるが、汗腺から分泌されていても、その途中の汗管から吸収されて、外にまで出てこないのだ、ということも考えられる。そうなると、何もむずかしい皮膚の分極のことを考えなくとも、汗腺の仕組みだけで、私達は交感神経が興奮した場合に皮膚の抵抗が下がる、という解釈ができるのではないかと考えられるわけである。

ハリ効果の可能性を探る

神経とその器官への効果

・『ハリが神経痛やその他の痛みに効くというのはハリ麻酔もあることだし、一応納得ができる。肩こりや腰の痛みで形態的な異常がない場合は、多くは筋緊張の異常によるものであろうから、これもハリによってその異常が矯正されるものだとして説明は可能である。だが、糖尿病にも効くとか胃潰瘍にもいいとかいわれると、ちょっとついていけなかった。しかし、そんなことがあるものかと一顧も与えないというのは、初めから知ろうとしないことであって、初めに述べた小林さんのいわれたように[小林秀雄:「科学者の合理的な考え方がすべてではなく、いまだ科学者には知られない広い自然現象がある。信ずることなくして深く知ることはできないのだ」]、良い態度とはいないのではないか。しかも、今まで述べたことから、何かしら、可能性があるらしく思えるのであるから、他はこれといって有効な治療法がない場合には試みてもいいことではあるし、本当はまず、これから基本的な研究を進めるべきであろうといえるのである。』

画像出展:「やさしい自律神経生理学」

上記に出てくる、糖尿病や胃潰瘍への効果は、左側の全身性反射である、体性-自律神経反射が関わっていると思います。

体性-自律神経反射について詳しく説明されているサイトを見つけました。

「皮膚の刺激」だけで「内臓の動き」が変化する…ついに科学が解明した「東洋医学の秘密」』 

第五章 体の調節機能

重力の影響

体液も内臓も姿勢で移動

・『まず、本を読んでみようかということでいすに座ってみたとする。いすに腰掛けた姿勢をとると、皆さんの体には1Gという重力が加わっていることになる。Gというのは体のあらゆる部分に加わっているのだが、例えば、体重が60キロの人ならばその60キロのGの大部分が腰掛けている両方の尻に加わっていることになる。もし、いすの背もたれに寄りかかれば、背中へも5キロなり10キロなりのGが加わり、両方の尻へは50キロぐらいしか加わらなくなる。もちろん、その場合、足は床においているから、足の両裏へも若干のGが加わっていることになる。

今度はいすではなく、畳やベッドの上に体を横たえる姿勢をとるとどうであろう。すると今度は、背中あるいはわき腹の方へGが加わるようになる。また真直ぐに立てば、両足の裏へ全体重が加わる。こうした姿勢の変化で、体の中の水分、例えば血液はどうなるかというと、大変な違いが出てくる。立っている場合、血液は下へ下がろうとするので、頭の中からも血液が出ていこうとするわけである。逆立すればそれとは反対に、足の方へは血液がなかなかいかず、頭の方へ血液がたまろうとする。これを、頚部に刺し込んだ血圧計で計ってみると、立った場合と逆立ちした場合の差がハッキリわかる。頭は心臓より上位にあり、その間を10センチぐらいとすると、水銀柱では立っている場合、マイナス10ミリとなり、逆立ちすればプラスマイナスで20ミリの違いが出てくる。それほど局所の血圧というのは、立ったり、逆立ちしたり、座ったり、寝たりすると変化するものなのである。血液以外の体内の水分としては、組織の中にリンパ液というのがある。これも、長いこと座ったままの姿勢でいたりすると、足の方へたまりがちになる。また、床に長く寝ていると、足の方よりむしろ手や上体のほうへたまり加減になることは、皆さんがしばし経験するところであろう。つまり、体の中で動きうる流体あるいは液体は、体の姿勢によって上へ行ったり下へ行ったり、あるいは右下へ動いたり、左下へ動いたりしているということである。

内臓はどうかというと、これも動く。立っていれば、内臓はいつも下の方へずり落ちるような形になっている。その中で、腎臓、膵臓、肝臓、脾臓はわりとしっかり固定されている。腸間膜が短いものだから、なかなか下へ落ちないようになっている。ところが、腸は下へズルズルと落ちる。そこで、年配のおなかの筋肉がゆるんできている人のおなかは、立っていると腸が下へズリ落ちるため、ダラッと下腹がふくれてくるわけである。こんなにおなかが出てきて、いやだなぁと思っていても、お風呂に入ってあらためて腹のあたりをながめてみると、案外平たくて、何となく安心した気持ちになれる。ところが、お風呂から出た途端、またも下腹がたれ下がっていてがっかりするものだが、これはそもそもおなかの筋肉がゆるんで、腸がズリ落ちているからなのである。

腸がずり落ちることは、立っている時下腹をふくらますだけでなく、腸間膜を引っぱることになる。腸間膜には神経がきているから、当然その神経を刺激することになる。体を横にしても同じことで、腸は横へずり落ちようとするから、腸間膜も横下へ引っぱられる。

腸のように内臓のなかでも動きうるものは、体の姿勢により体の中でブラブラ動いているわけだし、前述したように体の中の体液も動くということになると、私達の体の中にそれらを調節する何らかの機構がなければ、恐らく非常に大きな障害が重力によって引き起こされることになると思う。

例えば、寝ていた姿勢から急に立ち上がれば、血液はいっせいに下へ下がり、もうそれだけで脳貧血を起こすはずである。しかし、私達が平生そのような動作をしても、めったにめまいなどしないし、ましてや、脳貧血で倒れるということはない。ただ、疲れがたまってきた晩などに寝ていたところを急に起こされて立ち上がった時など、めまいが少しして、フラフラとするか、ヨタヨタッと倒れかかったりして、「あれっ、少しおかしいぞ」と、自分でも不安に思ったりすることがある。特に動脈硬化があって血液循環がうまくいっていない人では、急に立つとフラフラする。これを「立ちくらみ」といっている。元気な人ならば、こうした立ちくらみはほとんどない。なぜならば、血管にも神経がきていて私達が急に立ち上がることで、頭部の血液が下へ下がろうとすると、延髄の血管運動中枢から神経信号で足の方の血管が収縮し、足の方へは余分の血液が行かないようになる。ちょうど、足の方を何か(例えば加速度服)でしめつけている時のように、血液が容易に下がってこないようになっている。すなわち、血液が下がりそうになれば、それが下がらないように持ち上げてくれる仕組みになっているわけである。だから、普段あまりやりなれていない逆立ちをたまにやってみると、目が真っ赤になり、顔も真っ赤になりがちである。これは体の中のそうした仕組み(反射系統と調節系統)がうまく働かなかったからで、こうした仕組みがいつもうまく働くよう、逆立ちなどを練習してみるのも、そうした障害を起こりにくくするのにはいいことである。

また、長時間いすに腰掛けていると、足がむくんでくることがある。足先は心臓から1メートルぐらい離れているから水銀柱では100ミリとなり、胸の方からみた足先は、100ミリくらい静脈の血圧が高いことになる。静脈は足先では毛細血管という大変に細い管となって各組織に達しているわけだが、もしそれほど血圧が高ければ、血管から組織へどんどん水(体液)が流れ込んでいって、足はむくむのを通りこし、風船のようにふくれ上がってしまうはずである。ところが、私達の足はほとんどふくれることはない。一つには組織に水が入って組織圧が高まると、血管がおされて、水が出ないようになる。またそうした体液、つまり体の中の水分の野放図な移動を抑える仕組み(血管反射)があるからである。この仕組みも病気になるとうまく働かない。

感想

経絡(機械的)≒良導絡・皮電点(電気的・自律神経的)≒ファシア」、このようなことも言えるように思います。また、岡部素道先生もご指摘されているように、生きた経穴とは病によっていつもとは異なる様相となったものであり、それは機械的、電気的、自律神経的など、複数の影響が関係していると思います。これはファシアと呼ばれている膜が血管、神経、リンパ、受容体などを含むものであり、構造が階層的、立体的であるため、より複雑化させているように思われます。

人間は臓器を内部に抱えながら動いています。一方、重力は肉体を常に下へ下へと引っ張ります。以上のことからファシアは常に力の影響を受けており、色々な変化を生じる原因になります。

この機械的な刺激に加えて、電気的、自律神経的な作用も考えられ、その頻度や強さ、時間の長さによっては、経穴(ツボ)は病的なものに変化し、身体の異常を警告しているのかもしれません。

追記

個人的には経絡≒ファシアに関しては自信があります。しかし、その一方で「=」ではないということに対しても確信があります。では、「この差分は何なのか」これはまさしく超難問です。

「何から手をつければ良いのか」と考えてみると、思いついたのは「鍼灸で劇的、奇跡的に改善された」というエピソードがキーワードになるように思いました。

私は専門学校時代に、いろいろなセミナーに行っていました。その中には入江正先生が創始された入江FT(フィンガー・テスト)もありました。入江先生は1953年に九州大学理学部数学科を卒業し、その後2年間は京都大学大学院で統計数学を研究されました。1955年には薬局を開業しつつ、湯液(漢方)の研究を始められました。

入江先生が鍼灸の道に入ったのは、7年後の1972年でしたが、鍼灸の世界では著名な間中善雄博士に師事され、近畿大学医学部では有池教授らの協力を得て、新しい鍼灸治療法の技術開発に取り組み、その後、入江フィンガー・テストを開発するとともに、五行論の診断的価値を実験で証明されました。

埼玉県立図書館に入江先生の著書である、『臨床 東洋医学原論』が所蔵されていたので貸出をお願いしました。

この入江FTを10年以上続けている鍼灸師の友人がいます。先日、数年ぶりに会ったのですが、そこで自分自身の脳梗塞に対する懸念を突然指摘されました(「左側の脳に軽度のスティッキーな感じがあります」)。具体的に何か異変を感じているということではなかったのですが、2カ月程前に、突然、目がチカチカやや歪むような見え方をしました。この現象は数分でしたが、今まで全く経験のなかった事象だったので、翌日、眼科に行きました。これは右眼に気になる所見があったことも眼科を選択した理由です。

診断の結果は、閃輝暗点だろうとのことでした。閃輝暗点は片頭痛で多くみられる前駆症状ですが、頭痛はまったくなかったため、脳に問題がある可能性もあるとのお話でした。しかし、あわてて検査する状況ではなく、今度、起きたら考えましょうとのことになりました。

一方、友人の話では、非常に軽度なのでMRIでは見つからないのではないかとのことです。また、友人は入江FTに精通されたベテランの先生の助手として時々お手伝いをしているそうで、その先生の凄さを聞きました。既に半年先まで予約が埋まり、遠方から来ている患者や著名人もいるそうですが、それらの人の多くは、病院、整体、鍼灸などあらゆる所に行って、よくならなかった症状が1回で劇的に改善したことにより、その瞬間に先生のファンになってしまうとのことでした。脳や内臓の深刻な病気をお持ちの患者さまも数多く来院されているとの話です。

このようなやり取りがあり、また、以前から知っていた入江FTに縁を感じ、「“差分”の研究は、まず入江FTから始めてみるのが良いのでは?」と思いました。