睡眠の問題というと、まず頭に浮かぶのは、睡眠時間や睡眠の質などの「眠れない問題」の睡眠障害です。一方、ナルコレプシーのような過眠症をお持ちの患者さまもおいでです。過眠症にはナルコレプシー以外に、特発性過眠症、反復性過眠症があります。
調べてみると、子どもの発達障害、特にADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉症スペクトラム)に、過眠傾向が多くみられることがわかりました。
画像出展:「子どもの発達障害がよくなる睡眠の教科書」
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また、睡眠の問題はホルモンである“メラトニン”と“体内時計”が最も重要なのではないかと思い、見つけたのが大塚邦明先生の著書である『眠りと体内時計を科学する』という本でした。「これだ!」と思い発注しました。
著者:大塚邦明
発行:2014年4月
出版:春秋社
目次
はじめに
1 眠りと体内時計
●眠りのリズムは90分と12時間
●自律神経は嵐のごとく
●体内時計が眠りを誘う
2 時計遺伝子とは何か―人間は宇宙とシンクロしている
●時計遺伝子とは何か
●生体リズムの発見は「地動説」
●宇宙のリズムをコピーする
●体内時計は25時間周期
●太陰暦は理にかなっている
●太陽活動の影響
●出産明け方に多いわけ
●オーロラは魔女
●人間も磁気を感じている
●時差ぼけの仕組み
●体内時計の老化
3 眠りと夢
●夢見る時間
●レム睡眠との関係
●夢は現実を再現している
●なぜ夢を見るのか
●スピリチュアルな存在との邂逅
4 現代人はなぜ眠るのに苦労するのか
●パソコン、携帯、ネオンが与える影響
●夜型人間は朝型人間になれない?
●現代人は不健康?
●女性の睡眠時間に異変あり
●若返りの泉メラトニン
●睡眠時無呼吸症
●不眠によるトラブル
●災害現場、避難所の報告から
5 眠りは変化する
●成長と共に変化する睡眠
●乳児の眠り
●幼児の眠り
●学童児の眠り
●思春期の青少年の眠り
●社会生活をしている人の眠り
●中高年の眠り
●認知症の人の眠り
6 よりよい休息のススメ
●サマータイムの導入は是か非か
●長生きする人の睡眠
●脂肪分のとりすぎは要注意
●タバコ、昼寝、寝酒は避けるべき?
●睡眠薬のメリット、デメリット
●子守歌の科学的効果
●腹時計を味方につける
●寝る時刻、睡眠時間をどう考える?
●朝が勝負
●それでも眠れないときは
おわりに―休息のプロフェッショナルになろう
はじめに
・日本人の5人に1人は不眠に悩んでいる。
・地球の過酷な環境のため眠りの仕組みを作った。
・1972年に体内時計が発見された。それは自律神経とホルモン調節の中枢である脳の視床下部に存在していた。
・大塚先生は睡眠の研究を「こころ」の研究として始めた。そして、近年はフィールド医学という新しい学問体系に取り組んでいる。
・脳と心臓とこころの関りの探求を極めるには、眠りの謎を解くことが近道だった。
1 眠りと体内時計
●眠りのリズムは90分と12時間
・人間のからだの時計は、朝起きて15時間経つと眠くなるようにセットされている。
・朝の太陽光を浴びることで、その日の眠りの時計のスイッチが入る。
・眠れない時間帯がある。それは朝の目覚めから12~15時間である。
・人間の眠りは90分がワンセットで、これを4、5回繰り返す。
・1回目の眠りの時に最も多くの成長ホルモンが出る。
・副腎皮質ホルモンは、4回か5回めの眠りの時にピークに達する。
・血管の健康を維持するエンドセリンは8時間のリズムが見られる。これは睡眠時間の周期と連携しつつ、血管の緊張のリズムを作りだしている。
・「人は血管とともに老いる」という古来の名言がある。
・最も強い眠気は午前2~3時、また午後2時にも強い眠気度がある。
・眠りの仕組みには生体リズム以外に、睡眠物質の働きもある。睡眠物質の代表は脳脊髄液のなかに増えてくるプロスタグランジンというホルモンである。
・病気になり発熱に伴って眠くなるのは炎症に関連して増えたサイトカインである。
・睡眠物質として明らかになっている物質は20余りあると考えられている。
●自律神経は嵐のごとく
・夜、眠り始めるとともに、副交感神経の活動が高まり、朝、目が覚めるとともに交感神経の活動が高まる。
・眠りの1回のサイクルのなかで、まずノンレム睡眠があらわれ、レム睡眠(急速眼球運動を伴う睡眠)が続く。
・ノンレム睡眠は脳波3~4Hzの遅い波で、麻酔で眠っているときの脳波とそっくりである。
・睡眠後半はレム睡眠が主体になる。なお、1日で最も体温が低くなった頃にレム睡眠が力強く、そして長く現れるようになる。
・『みなさんは眠っているときに、からだがピクッとびくつく経験はありませんか? これはトゥイッチとよばれる現象です。何が起きても目が覚めない状態では、地震が来たり、大火事になったりしたとき、逃げおおせることができません。そこで脳は、トゥイッチを起こす伝令を何度も発信しているのです。「このまま睡眠を続けても、外敵に襲われる心配はないのかな?」と気配りをしている証です。これもレム睡眠の特徴の一つです。』
・レム睡眠は覚醒しているときの脳波に似ている。これは古い脳の大脳辺縁系が目覚めているためである。また、新しい脳の中では視覚などを担う後頭葉が目覚めている。
・レム睡眠は、脳波は覚醒しているときに近いものの、筋肉は弛緩し音もほとんど入ってこない感覚遮断に近い状態である。また、もう一つの大きな特徴は自律神経が不安定になっており、交感神経が興奮したかと思うと、それに反発するように副交感神経の興奮が高まったりする。医師の言葉では、これを「自律神経の嵐」と呼んでいる。発作性の不整脈や夜間狭心症が誘発される危険もあるので、このタイミングは特に注意が必要である。
●体内時計が眠りを誘う
・脳にある体内時計は、主としてレム睡眠に働きかけている。
・レム睡眠の時に見られる、金縛り、トゥイッチ、特徴的な速い眼球の動き、そして自律神経の嵐には、いずれも明瞭なサーカディアンリズムがある。サーカディアンリズム(概日リズム)とは、一日周期のリズミカルな変動を指す医学用語である。
・眠りを誘うホルモンとして有名なメラトニンのリズムも体内時計が作りだしている。
2 時計遺伝子とは何か―人間は宇宙とシンクロしている
●時計遺伝子とは何か
・地球上の生物は、バクテリアから深海魚にいたるまでみな、時計を持っている。生物は地球の自転に精確に似た仕組みを未来を予測する手段として体内に作り出している。
・光合成に頼っている植物は最も多くの時計を持っている。青を感知する時計、緑を感知する時計、赤を感知する時計などを用いて、夜明けが近づくと少しの太陽光を逃すまいと、暗いうちにもかかわらす光合成の準備を開始する。
・生物が急激に多様化した約5億5000万年前のカンブリア紀以前に、すでに体内時計の仕組みを身につけていた。
・体内時計をつかさどるのが時計遺伝子である。
・生体リズムは、6個の時計遺伝子によって作られている。それらは、ピリオド遺伝子(パー1、パー2)、クリプトクロム遺伝子(クライ、クライ2)、クロック遺伝子、ビーマルワン遺伝子。
・時計遺伝子は、脳だけでなく、肝臓・腎臓・心臓・血管など、からだのほとんどの細胞に存在する。脳の時計が親時計で、臓器や皮膚や粘膜にいたる末梢組織に存在する時計を、子時計と呼んでいる。
・子時計は親時計に連動しつつも、独立して個々に時を刻んでいる。まるで親時計と子時計が一体となって、あたかも交響曲を奏でる一団のように見える。
・体内時計は、からだ全体から臓器へ、そして細胞に至るまで、一体となってサーカディアンリズムを構築している。
・時を刻む遺伝子とタンパクを一緒にして、時計分子と呼ぶ。
●生体リズムの発見は「地動説」
・生体リズムが遺伝子レベルで規定されていることは、1971年にショウジョウバエの羽化のリズムを元にした研究で明らかになった。そして1972年には、哺乳動物にも地球や月の自転そっくりのリズムがあることが発見された。なお、人での発見は1997年である。
・体内時計は視床下部の中に左右一対の米粒のような細胞の塊として存在している。そして、6個の遺伝子が互いに作用しあいながら、精確に時を刻んでおり、この場所を破壊するとサーカディアンリズムは消える。
●宇宙のリズムをコピーする
・体内時計で最も有名なのは24時間(サーカディアンリズム)だが、人は90分、12時間、3.5日、7日、30日、1年、1.3年、10.5年、21年などの多くのリズムを多重構造として獲得している。
・定義上、サーカディアンリズムは24時間プラスマイナス4時間のリズムを意味する。20時間より短い周期性はウルトラディアンリズム、28時間より長い周期はインフラディアンリズムと呼ばれている。
●体内時計は25時間周期
・太陽光が届かず、また時刻を知る手段の環境での実験では、1日を約25時間で認識していた(12日で昼夜逆転し24日で元に戻った)。
●太陰暦は理にかなっている
・生体リズムは天体と深い関係がある。
・暦は天文学を基礎として発達してきた。地球の公転周期は365.25日、自転周期は0.9973日である。
●太陽活動の影響
・生体リズムは種を越えて普遍的に共通である。これは生物が30億年をかけて生きのびるために最初に獲得した生理機能が生体リズムであったことを示している。大気やオゾン層の薄い今より過酷な地球環境の中で、太陽からの恵みと害の両方を強烈に受けつつ、様々な自然現象、宇宙現象の振動に応答し、過酷な風土に順応し、進化を繰り返した。その適応の所産として、体内に時計遺伝子を獲得したのである。
●出産が明け方に多いわけ
・人間の出産は夜から朝にかけて多く、昼間に少なくなる。答えは不明だが、恐竜時代に生き残る可能性が一番高かったからなのかもしれない。
●オーロラは魔女
・日中に浴びる光が少ないと、メラトニンが少なくなる。この点からも光を浴びる量と生体リズムには深い関係があることがわかる。
●人間も磁気を感じている
・渡り鳥やウミガメは、地磁気の磁場を頼りに渡りをする。これまで人には磁気を感じる能力はないとされてきたが、2011年に米国マサチューセッツ大学のスティーブン・レパート博士らによって人にも同じ能力があることが確認された。網膜にある時計遺伝子クライで、磁気を感じているのではないかと考えられている。誰もが正しく応答しているが、それを脳に伝えるシステムに問題があると考えられており、いわゆる第六感のようなものである。
●時差ぼけの仕組み
・『さて磁気変化の感知のほかにも、私たちのからだが地球と関わっている点があります。たとえば時差ボケ。生体リズムとは、睡眠・覚醒周期、体温調節、血圧周期、心拍周期、排便周期など、身体の様々なリズムがよせあつまったものです。飛行機で海外に行った場合、これらの働きのうち、睡眠と血圧のリズムは、すぐ現地の生活リズムに順応できます。心拍リズムも、比較的早く順応することができます。しかし、体温や排便のリズムは、順応に1週間から10日間を必要とします。そのため、旅行先の新しい環境下ではリズムがバラバラになってしまい、時差ぼけが起こります。』
・海外での生活リズムに順応する時間には個人差がある。早い人で1週間、遅い人では数ヶ月が必要である。
・時差ぼけの症状は多い順位に、①睡眠障害(67%)、②日中の眠気(17%)、③精神作業能力の低下(14%)、④疲労感(11%)、⑤食欲低下(10%)、ぼんやりする(9%)、頭が重い感じ(6%)、胃腸障害(4%)、目の疲れ(3%)、イライラ(3%)など。
●体内時計の老化
・時差ぼけは年齢とともに症状が強く出る傾向がある。これは体内時計も老化することを示している。
・医学用語では年を取ることを“加齢”、それがもたらすからだの変化を“老化”と呼んでいる。
・4つの特徴
1)生活にメリハリがなくなる
-メラトニンや性ホルモンなどの分泌が低下し、活動と休息、体温の変動、水分補給などの行動リズムが昼夜を通して不明瞭になってくる。
-メラトニンは睡眠と覚醒リズムと連関しつつサーカディアンリズムを調節するだけでなく、自律神経や免疫系にも作用するため、健康を保持する働きもある。さらに、骨粗鬆症改善やがん予防、老化を遅らせるなど様々な作用が注目されている。
2)早寝早起きになる
-サーカディアンリズムの位相が前身することで、体内時計が前に進みため早寝早起きになる。
3)1日が短く感じる
-75歳を過ぎると生体リズムが、約1時間短くなる。ただし、これは個人差が大きい。
4)生体リズムが太陽とうまく同調しなくなる
-体内時計には毎朝、太陽の光を利用して地球の針とのずれを調整する働き(光同調)があるが、この機能が衰える。
・脳の体内時計の老化は脳の機能、構造と関係している。70代に入ると、脳と細胞の時計とを連絡する神経線維の数が減ってくる。そして、80歳を超えると脳時計の中にある時計細胞の数も減ってくる。これがサーカディアンリズムに影響する。
3 眠りと夢
●夢見る時間
・夢を見る時刻にもリズムがある。
・夢を見る頻度は午前2時頃から増えるようになり、最大になるのは朝の8時頃である。これは入眠してメラトニンが出始めてから10時間位後に相当する。おおよそ習慣的な起床時刻にピークが来る。
●レム睡眠との関係
・調査によりレム睡眠中に夢を見ていたとする人は80%、一方、ノンレム睡眠中は20%である。
・レム睡眠のときの夢は睡眠深度が深い(4分類中4)ときに現れる。
・PETという画像検査で調べたところ、レム睡眠の時は喜怒哀楽を調節する大脳辺縁系と視覚野の活動が活発になっていることがわかった。また、海馬も活性化していた。
・体内時計のある視床下部には、オレキシンを産生する部位がある。オレキシンは食欲を増進させるホルモンだが、覚醒に欠かせないホルモンで、働きすぎると不眠症、低下すると過眠症を誘発する。
・オレキシンは2000年になって発見されたが、レム睡眠とノンレム睡眠にも深く関わっている。
●夢は現実を再現している
・夢の素材は体験の記憶なので、特に数日以内の体験が夢の内容にあらわれやすい。
・夢は成功より失敗、幸運より不幸が題材になりやすい。
・夢が健康に良いのか悪いのかは分かっていない。
●なぜ夢を見るのか
・今では神経生理学が発展し、夢で見る奇異な出来事の一部は説明できるようになった。
●スピリチュアルな存在との邂逅
・奇異な夢は脳のいろいろな領域が同時に興奮していて、矛盾する情報が交錯して構成されるからである。
・『死も夢も、どこか人間のうかがい知れない領域に存在しているように思えます。昨今、スピリチュアルという言葉をよく耳にしますが、私は神と魂との対話という意味だと理解しています。超高齢社会を迎える日本で老いと人生の終え方がクローズアップされるなか、これまで日本人には関わりが薄かったスピリチュアルの世界が必要になってくる日が来るに違いありません。』