今回も科学編になります。町 好雄先生は出版当時、東京電機大学の教授で『思い掛けない出会いから気功の「気」と科学的なつき合いをするようになって、十年が過ぎました。』とのことです。そして、町先生は1993年5月にパートⅠに相当する『「気」を科学する』をまとめられていました。
パートⅡになる本書は、冒頭にカラー写真が26ページにわたり紹介されており、測定結果を目で正しく確認することができます。時系列的にも品川嘉也先生の『気功の科学(1990年1月)』、湯浅泰雄先生の『気とは何か(1991年1月)』に続いて発行された本であり、勉強させて頂く順番としては良かったと思います。「気について」の理解はさらに進んだように思います。
目次
プロローグ 「気」と科学
●「気」の科学入門
●気は脳の科学
●サーモ・グラフィーで探る「気」
●「気」はシグナルか
●脳に伝わる「気」
第一章 「気」の全体像を見る
●何を測るのか
●点から線へ
●何で測るのか
●ベテラン気功師S氏の場合
●スポーツウーマンRさんの場合
●千日回峰者M氏の場合
●サーモが真贋を見分ける
●静功と瞑想
●気功は自律神経のコントロール
●「気」は右脳の世界
●アルファ波と脳内麻薬の関係
●「気」とリモコン
コーヒー・ブレーク
●気功法あれこれ
第二章 脳波は語る
●劇的に変化するアルファ1波
●脳のネットワークづくりを見る
●「気」の研究は21世紀の科学を開く
●診断も透視の一種
●脳を使い分ける
●特異能力は洋の東西を問わず
●患部をズバリ指摘
●右前頭葉が働くと患部が消える
●同調するアルファ波
●自在に脳を操るお坊さん
●喜びを感じる脳
●幽体離脱をすると
●第三の目が光る
●非科学を科学するハイテク
●神のいるところ
●超能力者は超敏感人?
コーヒー・ブレーク
●子供と超能力
●メルティングチーズになった私
第三章 「気」のスイッチとコントロール
●韓国のお坊さんがくれたヒント
●「気」のスイッチは呼吸だった
●呼吸と自律神経系の関係
●血圧波形にも異常が
●「気」をコントロールする呼吸
●緊張型とリラックス型
●流儀の違い?
●呼吸の不思議
コーヒー・ブレーク
●地震おばさんとしゃっくり
第四章 「気」の能力が測定できる
●「気」の能力は測定できるか
●L氏と站とう功
●ハイテクが明かす「気」の能力
●「気」のレベルをコントロールするもの
●血圧波形に見える「気」のレベル
●心拍数も自由自在
●血のめぐりが決めて?
●心臓で何が起きているのか?
●脳では何が起きているのか?
●L氏の外気功、念力とは
コーヒー・ブレーク
●心臓に関するミニ知識
●アッと驚く電気の利用法 電気気功その1
●電気気功体験記 電気気功その2
●交流の縞模様を見た! 電気気功その3
●気功師は可変抵抗 電気気功その4
第五章 ハイテクで「透視」を透視する
●透視の何を測定するのか
●Wさんの透視
●透視時の全体像をみる
●踊る心拍数
●見えたのはココだ!!
●タイミングをはかる
●やはり呼吸がポイント
●透視実験は?
コーヒー・ブレーク
●仏像に似た女性
●「気場」を考える
●「気」と意識
第六章 データが語る「気」のいろいろ
●気功麻酔シミュレーション
-気功麻酔ではシータ波がポイント
-気功師は脳波の同調を感知する
-心拍数も同調する
-気功麻酔の効果
●サーモが語る「気」のいろいろ
-ヨーガと座禅
-電気人間O氏の座禅
-武術気功(硬気功)
-目的によって違う「気」
●心拍数が語る「気」
-武術・スポーツの「気」
-気功治療に科学的裏付けは可能
-成功も失敗も一目瞭然
-外気功では心拍数の変化も同調する?
-気功と針
コーヒー・ブレーク
●気功の脳科学が一歩前進
●足の裏は語る
エピローグ 非科学を科学する可能性
●偶然か情報の伝達か
●「第三の目」は本当に光る?
●超能力ということ
プロローグ「気」と科学
●気は脳の科学
・10年近く研究してきて、「気」の科学は人体科学であり、特に「脳の科学」ではないかと思うようになった。
・『専門分野であるエレクトロニクスについて思い起こしても、「不思議なもの」であった電気に関する現象が、科学的研究の対象となったのが1600年、それから300年を経てはじめて、電気の正体が原子の中の電子であることがつきとめられたのです。』
●サーモ・グラフィーで探る「気」
・人の体は波長が10ミクロン・メートル付近の電磁波の一種である遠赤外線を放射している。この目に見えない遠赤外線の熱エネルギー電気信号として検出し、画面に映し出す装置がサーモ・グラフィーである。
・体表面温度は、主として皮下の血管を流れる血液によるものである。
① 気功師が「気」を発すると、気功師の体表面温度は変化する。体表面温度が上昇する気功師が多く、温度上昇は3~5度ぐらいになる
②「気」を発して体表面温度が下降する例
③気功師と「気」の受け手は、体表面温度の変化という点で「同調」する
気功師が「気」を発した時の体表面温度の変化は全身に及ぶ。このことから、自分の意志でコントロールできないとされている自律神経を気功師は「気を発する」という自分の意志で、コントロールしているといえる。上記①②③の実験結果により、「気」が存在しそれが「相手に伝わっている」ことが明らかになった。
●「気」はシグナルか
・気が伝わることは明らかになったが、「何が伝わっているのか?」が問題である。人間の体から放射される遠赤外線のエネルギーは赤外線ストーブの1000万分の1に過ぎず、相手に影響を与えることはできない。そこで考えられるのが、ラジオやテレビの電波のように、人体から放射される遠赤外線にシグナル(情報)を乗せて相手に送っているのではないかという考えである。つまり、このシグナルが相手の脳に伝わって、「気」を受けた人にも気功師と同様の変化が現われるのではないか。そして、実験により気功師の気功中に放射する遠赤外線に1ヘルツ前後のシグナルが乗っていることが確認できた。
・普通の人が発する遠赤外線エネルギーは一定の値だが、気功師では約1秒に1回の割合で規則的に変化していた。ただし、この1ヘルツ前後の周波数のシグナルが何を意味するのかは分からない。おそらく何らかの生体信号として相手に伝わっているものと思われる。
・気功師の中には手掌から音波が検出されたケースもあった。これはヒトの耳では聞こえない極めて低い周波数の音波である。
●脳に伝わる「気」
・「気を出す」という意志は脳の働きによるものである
第一章 「気」の全体像を見る
●何を測るのか
・科学的研究の対象は外気功による「気」が中心になるが、気功の基本は内気功なので内気功も研究対象にすべきである。
●点から線へ
・外気功の「気」について、サーモ・グラフィー、遠赤外線強度測定器、IBVA脳波計を同時に測定することを行った。測定の対象は気功中の生理的変化に注目し、詳細なデータが得られる測定項目を選んだ。
●何で測るのか
・IBVA脳波計に加えて、医療用脳波計でも測定した。
●ベテラン気功師S氏の場合
・S氏は中国人で54歳、気功歴40年というベテラン気功師。
[静功]
[外気功]
写真10は外気功を行っているときのもので、左がS氏、右が「気」を受ける人でaは気功前、「気」の受け手は外気功を開始して30秒足らずで手の温度が上昇しはじめ、7分後にはbのように手全体が上昇した。
-血圧、心拍、呼吸の測定
『血圧、心拍数は自律神経系で制御されているので、気功師がどのようにそれを自分で制御できるのかが問題になります。私は、気功師が自律神経系の変化を引き起こす可能性のひとつで、最も簡単な方法は呼吸ではないかと考え、血圧、心拍数とともに呼吸数を測定してみました。その結果は、グラフ1・2に示します。外気功中の血圧、心拍数は静功時と同様に増加していますが、予想したように呼吸数も平静時に比べ、ほぼ倍近く増加していることが分かりました。この時の呼吸は浅い呼吸で、外見から変化はみとめられず鼻のそばにおいたセンサでしかとらえられないものでした。』
●スポーツウーマンRさんの場合
・Rさんはトレーニングに気功を利用した人で、アジア大会で数回の優勝歴をもっている。内気功を得意とし、測定時は閉眼で「站とう功」を行っている。
この動画は「かんたん気功体操 站椿功(たんとうこう)」さまからお借りしました。
[静功]
-血圧、心拍数の測定
『グラフ1・4がRさんの血圧・心拍数のデータです。気功をはじめると血圧・心拍数ともに増加しますが、S氏に比べると徐々に増加していくことが分かります。気功を中止すると血圧・心拍数ともに急激に低下します。従って、Rさんの場合は、徐々に「気」を高めていくように見受けられ、功法の違いによるものではないかと考えられます。』
●サーモが真贋を見分ける
・『私は、中国の学会などに参加した時、よく自薦、他薦の気功師や能力者といわれる人の測定をさせてもらいます。ところが、自分ではこういう能力があるという人でも、サーモ・グラフィーには何の変化も現れない人がいます。私達の目では本物かどうか分からなくとも、サーモ・グラフィーの目をごまかすことはできません。カメラの前に「黙って座れば、ピタリと当たる」ということではないでしょうか。』
●静功と瞑想
・静功と瞑想はいずれも“じっと無念無想”のように見えるが、サーモ・グラフィーによる測定結果は全く異なる。静功は体表面温度、血圧、心拍数は上がるが、瞑想はいずれも下がる。全く逆の測定結果となる。
●気功は自律神経のコントロール
・気功とは訓練によって自律神経を自分でコントロールできるようにするものであるといえる。
●「気」は右脳の世界
・気功を始めるとベータ波は弱くなる。
・気功によって右脳に特徴が現われる。「気は右脳の世界」と言える。
●アルファ波と脳内麻薬の関係
・『アルファ1波についてみると、特に電位の高い所は右脳の前頭部にあることが分かります。通常、アルファ波は後頭部にあることが知られているので、気功中に後頭部から前頭部に広がってきたアルファ波が、右脳前頭部で増強されたと考えるのが自然です。このように前頭部から前頭部でアルファ波が強くなるのは、何を意味するのでしょうか? 私は前頭部から放出されるホルモンと関係があるのではないかと考えています。前頭部から放出されるホルモンについては、いろいろ研究がされていますが、特にドーパミンというホルモンが多量に放出される所です。このドーパミンは脳内麻薬といわれるホルモンで、放出されると快感を感ずることが知られています。気功師が静功、外気功を問わず、気功を行うと心地よく感ずると言うのは、このドーパミンが放出されるためではないかと考えられます。明治鍼灸大学教授の森氏の研究によると、ツボを刺激したとき前頭部が活性化することをポジトロン断層撮影装置(PET)で確認し、これはドーパミンの働きであることが報告されています。』
※ご参考:ドーパミン(神経伝達物質)と前頭部に関して
●「気」とリモコン
・気功師から発さられる遠赤外線は5mm厚の段ボールでも遮断できた。このことより、遠赤外線のエネルギーは非常に小さいことが分かる。
・エネルギーの大小に関わらず何か伝えることは可能である。例えば、テレビのリモコンは非常に小さい赤外線に電源、チャネルの変更、ボリュームの調整などの情報を乗せてテレビ本体に送る。これと同様に遠赤外線で情報を伝えることは可能だと思う。
・1ヘルツ前後の周波数で変調された遠赤外線が有力な手段と考えられるが、他の可能性(例えば音波など)も検討する必要がある。
『経絡における気の作用という現象は、この問題についてわれわれに新しい見方をとる必要を示唆している。戦後まもないころ、「経絡戦争」が起こったとき、間中喜雄氏は、「経絡という概念は将来、従来否定されてきたような意味で否定されるべきものでなく、また経絡肯定論者があると考えているような意味で存在するのでもないというような日が来るのではあるまいか」とのべたという。筆者[湯浅先生]には、この間中氏の予言は深い意味をもっているように思える。』
上記の間中先生のご指摘通りのことが起きているように思います。
今回は“氣とはなんだろう”の9、10のまとめです。とても重要なので以下の項目に分けて勉強したことを整理してみました。
1.病とはなにか
2.気とは何か
3.気血とは何か
4.経絡とは何か
5.情動とは何か
6.呼吸法とは何か
7.間人的同調とは何か
8.その他(生体の場)
1.病とは何か
1)全身をめぐる経絡内の「気血」の流れの異常に病因を求めるものである。
2)中国では脈診法が古代から現代まで受け継がれており、西洋医学とは全くことなる精緻なもので、病を判断する重要なものである。
2.気とは何か
1)気は「技」の体験と結びついて生まれてきた実践的経験知である。
2)気(気功師の発功)は物理的方法で捉えることができる。
3)気功師が発する赤外線はせいぜい数マイクロワットで、普通の赤外線発生装置(例えば、赤外線コタツ)の1億分の1か10億分の1程度にしかならない。
4)中国では人体内部だけでなく、人体の外部に発生するエネルギーにも注目している。それは人体と環境、つまり人間と自然が関わる。
5)人体の内外を流れているエネルギーは、電流や赤外線の他にも、磁気・超低周波(耳に聞こえない音)・光(生体の微量発光)などが知られている。
6)気の作用の特徴的なことは、心身の訓練に熟達した気功師は赤外線、磁場、超低周波、フォトンなどを意識集中(意念)によってその発現状態をコントロールできる。
7)人体に磁場が発生することが重要ではなく、人間の意識と磁場に相関関係があることが重要である。
8)気功師が気を発するときには、耳に聞こえない音が脈打ちながらその身体から出ていると考えられる。
9)生命体はすべて、微量ではあるが光を出している。これをバイオフォトン(biophoton)という。
10)気功師のフォトンの量は一般人と比べて大差はないが、気功師は気を出したり止めたりすることができる。それに伴ってフォトンの量が顕著に増減する。
11)気の作用が何らかの形で物質的エネルギーの作用と相関関係があるらしいという事実が認められたことは大変重要である。
12)明らかになった物理エネルギーは、生きた人体に備わっている作用なので、気とは人体を生きた状態に保っている基本的なはたらきである。
13)気は心理作用と生理作用に関わる。そして物質的エネルギーも伴っているので、心理-生理-物理(精神-生命-物質)という三つの次元を統合するエネルギーである。
14)治療に当たった気功師は、気を発したあと、非常に消耗した状態になるが、このことも心理作用と生理-物理作用の相関性を示している。
15)気は生命体に特有な未知のエネルギーである。
16)気の流れは生理的機能を活性化する。
17)気の流れは生体電流のような作用を介して間接的に推察されるものであり、直接的に気のエネルギーを認知することはできない。
18)気の流れは生理的側面だけでなく、主観的な心理的側面において感じられる働きである。
19)心理-生理的観点からみた場合、気の訓練は自律神経のはたらきと深い相関関係をもっている。
20)気は心(意識-無意識)と身体を媒介し、心理領域と生理領域の間の一種のエネルギー変換をつかさどっている作用である。
21)気とは心身の訓練を通じて感じられるようになるはたらきである。
3.気血とは何か
1)目に見える血の運動をコントロールしているのは、見えない気のエネルギーの流れである。
2)古書には「気行けばすなわち血行く」といわれ、気の流れが血液や体液の循環運動を支配していると考えられてきた。
3)気が超低周波を含んでいて血管の中を伝わって伝播しているということは、生理学的立場からみても一定の妥当性があるということを示している。
4)気功師が意念すると脳(11.8%)、上肢(24.1%)、下肢(26.9%)、下丹田(34.8%)の血流量はすべて増加した。逆に、意念しなかった部位で血流量はすべて下降した。
4.経絡とは何か
1)経絡は神経系と血管系の二つを統合する高次のネットワーク・システムともいうべき性質を与えられている。
2)本山博氏の研究は経絡を通る気の流れの運動は、神経系を介するものではなく、体液系によって起こっていることを明らかにした。そしてそれは皮下組織の部分である。
3)心理的からみればそれは無意識の領域に関連した人体のかくれた情報システムであり、生理面からみればみえない次元で栄養機能をコントロールしているシステムである。
4)潜在的な次元において「こころ」と「からだ」のはたらきを統合しているのが経絡のシステムであると考えられる。
5.情動とは何か
1)情動の作用は、外界感覚-運動回路(感覚器官・運動器官の活動)がスムーズに働くためのエネルギーか潤滑油の働きをしているといえる。
2)瞑想は情動の働き方の歪みを直し、それを自由にコントロールする訓練である。
3)情動をコントロールすれば、無意識の力を意識的に統合することができる。
4)心は情動作用を通じて自律神経の働きに影響を及ぼし、内臓器官の活動に影響を与える。
6.呼吸法とは何か
1)東洋の修行法にみられる瞑想や武術の訓練は呼吸法の練習から始まる。中国・日本の古武道でも、呼吸法の訓練は昔から非常に重視されてきた。
2)呼吸法による「気」の訓練は、心の訓練と身体の訓練を一つに結びつける位置におかれている。
3)呼吸法の訓練から始まる心身の訓練は、意志の自由が及ばないと考えられている自律系の生理的機能にまで影響し、その潜在能力を高める。
7.間人的同調(transpersonal synchronization)とは何か
1)気功師が発した外気を受けて、受け手の患者の血管内部に大きな振幅の超低周波が発生したことが確認された。これは間人的同調の現象である。
2)人間関係においては、感覚と意識の認知に関わらない深層レベルにおいて、情報=エネルギーの受発信が無自覚のうちに互いに行われているという可能性が考えられる。
3)気のはたらきは、心理-生理-物理のレベルでエネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに一定の影響を与えている。
8.その他(生体の場)
以下は、間中先生が紹介された、末広恭雄教授が提唱された「生体の場」という考えです。調べてみると『生体の場の特性』という末広先生の著書が1970年4月に発行されていました。「気の間人的同調」を考えるうえで非常に重要ではないかと思い、この本も今回の“氣とは何だろう”というブログの題材の一つとさせて頂きました。
『気のはたらきはこのようにして、心理-生理-物理のレベルでエネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに一定の影響を与えている。われわれはそれを生体に固有な「エネルギー場」とよぶこともできるであろう。間中喜雄氏は、魚類学者の末広恭雄教授が提唱された「生体の場」という考え方が、東洋医学の身体観にとってきわめて有益であると説いている。それによると、ウィルスから細胞、細胞の集まりである生物体、さらに生物体の集まった集団に至るまで、生命体はそのまわりに「生体の場」をつくり出している。この場合、生体の場には、意識的であれ無意識的であれ、「場」の領域内部が自己に属し、領域外は非自己として区別される。そういう生体の場が自己のまわりに形成されると、「非自己」からたとえば刺戟のような外力がこの場に加わると、必ずこれに対する反作用が生じる。この反作用は刺戟に対する興奮といった形で現われる、という。気のはたらきは、このような意味の生体エネルギーの場をつくり出しており、そこには外部に対する同調と拮抗という関係が見られる。気功師の発する気が他人の心身の状況に一定の作用をひき起こすという現象は、広い意味で間人的同調transpersonal synchronizationとよぶことができるであろう。』
一通り整理した内容から、特に重要ではないかと思えるものを絵にしてみました。
ポイントは“気”[呼吸系・循環系]と“血”[消化系・代謝系]、それに”自律神経”と“脳”[特に情動]が関与しており、さらに“間人的同調”として“外部に影響を与えるエネルギー”ではないかというところです。
◆「気」を考える場合、まず“気血”に注目したら良いのではないかと思います。それは「気血の流れの異常に病因を求める」という考えがあるためです。やはり、最も重要なことは命(健康と病気)だと思います。
『古書には「気行けばすなわち血行く」といわれ、気の流れが血液や体液の循環運動を支配していると考えられてきた。』とされていますので、「気血」は一体であると考えられます。
「血(血液)」は酸素と栄養素に加え、生きるために必要な様々な生理活性物質を含んでおり、各組織に供給されます。現代でも血液検査は多くの病気の診断のために最も有効な検査となっており、血液は生命と健康のバロメータとも呼べるものです。
※ご参考:「血液検査の見方 国立病院機構兵庫中央病院 研究検査課」pdf3枚
◆さらに、付け加えるならば、1000年、2000年前の時代においても血は目に見えるものであり、血が大量に失われれば死に至るものだったので、極めて重要なものと考えられていたと思います。
科学に頼ることができなかった時代おいて、“神の経脈”と呼ばれた神経(中枢神経・末梢神経)の働きを深く理解することには限界がありました。しかし、現代において「気血の流れ」を考えた場合、自律神経系と脳の働きを無視することはできません。絵の中に“情動”(七情:怒・喜・憂・思・悲・恐・驚)と“自律神経系”を加えたのはそのためです。
◆一方、気功師の外気発功を計測器で測定すると、極めて微弱ですが、電気、磁気、磁場、超低周波、フォトンが人体から発せられていることが確認できます。また、これらの物理エネルギーは意念(意識集中)によってコントロールできることも明らかになっています。
湯浅先生が『気は心理-生理-物理(精神-生命-物質)という三つの次元を統合するエネルギーである。』とされるのはこのような実験結果からです。また、『エネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに影響を与えている。』という見解も見逃すことのできないもので、“間人的同調”という考えにつながります。外気功では送り手と受け手の同調が認められるように、気は体内に留まっているだけの存在ではなく、自己を取り巻く環境にも影響を与えるものだと思います。
◆この後の「ご参考」で紹介させて頂いている気療をみても、気の外部への影響を否定することはできません。少なくとも「影響する」という前提にたって、よくよく調べたいと思っています。先にお伝えした『生体の場の特性』という末広先生の著書に興味を持つのもこうした理由からです。
◆“個体の生存”と“種の保存(生体の場)”という表現が適切かどうかは分かりませんが、「気」は個々の命と種全体の命、時に種を超える地球上の生命体を守るために存在しているのではないのだろうかと思います。そこには遺伝子や量子エネルギーが関係しているのかもしれません。
中国において「気」が環境や宇宙といった外の世界にも広がるのはこのような考えからではないかと思います。
ご参考
私は2018年4月に“「気療」について考える”というブログをアップしているのですが、この本に書かれている内容が動画になっているのを知りました。いずれも大変興味深い映像なのでご紹介させて頂きます。
神沢先生の気療に対して、動物は人間より敏感に感じているのではないかと思います。人間は理性を司る大脳(新皮質)が発達し、文明社会の中で生きています。一方、動物は旧皮質の大脳辺縁系の働きに依存しています(魚類・両生類・爬虫類・鳥類は大脳辺縁系しかないそうです)。気の働きが情動などを司る旧皮質を中心に及ぶものだと仮定すれば、人間より動物の方が気の影響を受けやすいということは妥当なことのように思います。
今回、あらためて気療に興味をもったので、神沢先生の2023年1月に発行された最新の著書である、「気療の奥義 手を振るだけであなたも動物を癒せる!」も拝読させて頂こうと思います。
湯浅先生の本書の中にも気療を肯定するような説明がありました。
1.『青木はこれについて次のように語っている。「対立する世界をこえて、まず自分が無になることです。そうすれば融和して、限りなく相手と一体になる。自分は相手であり、相手は自分です。そういう状況では相手の気持ちの切れ目が分かるので、そこにスパーンと気合を打ち込んだら離れた相手をも倒すという、俗にいう遠当なるのです。』
2.『人体の内部で電気的現象などが起こっているとすれば、それが人体の外部にまで何らかの作用を及ぼしているということも、理論的には予想できたことである。』
Ⅲ 人体外部の「気」のエネルギー場
1 気のエネルギー計測
●気力とは何か
・気功とは「気のはたらき」や「気の訓練」という意味である。
・用語には導引の他、吐納・行気・布気・内舟といった言い方もある、導引・行気・布気は身体の各部に気を導くという意味である。吐納は古い気を吐いて新しい気を納れる(吐故納新)という意味である。内舟は気功の一部である瞑想法のことである。
・日本では平安時代には医者の間で導引に関する本が読まれていた。
・江戸時代には貝原益軒の「養生訓」をはじめ養生法についての著書が多く出ており、導引はその重要な一部を占めていた。
●気の三次元―心理・生理・物理
・人体(および生命体)に生物電流のようなエネルギー作用が備わっていることは、従来から良く知られていた事実である。広く言えば、脳波や心電図、皮膚電位の測定なども生物物理的計測の一種と言って良いし、バイオフィードバックの研究なども、人体のメカニズムについての生物物理的研究の範囲に入れることもできる。
・『人体の内部で電気的現象などが起こっているとすれば、それが人体の外部にまで何らかの作用を及ぼしているということも、理論的には予想できたことである。』
・『気の問題はこれによって、心理-生理-物理という三つの次元において生きた人体のはたらきを環境世界と交流しながら生きている存在である。気の研究は、この「こころ-からだ-もの」の全体にわたる統合的相関関係をとらえる企てになってくるわけである。』
●気功師が発する赤外線
・気功に関する科学的研究が中国で始まったのは、文化大革命が終わりかけた1977年のことだった。
・外気治療の測定
1)患者に布団をかぶせたが患者に反応が見られた。これは超音波や分子などの微粒子は布団を通らない。
2)患者を銅の金網で遮断しても患者に反応が見られたため、磁場でもない。
3)以上1)2)より、赤外線以下の短い波長をもった電磁波の一種と考えられる。
4)人体に害のある紫外線、X線は考えにくく赤外線ではないかと考え赤外線測定したところ予想通り赤外線の脈動波形が検出された。(この実験結果は『自然雑誌』創刊号[1978年5月]に発表された)
この場合、赤外線が検出されたこと自体が重要なわけではない(絶対零度以上の物体であれば何からでも出ている)。注目すべきは一般人と気功師との違いである。
『図22bは、林師が前記の患者に対して発功したときに、患者の膝の陽関のツボから検出された赤外線輻射である。林師と同じように起伏の大きい波が発生している。気の間人的同調transpersonal synchronizationとよぶことのできる現象である。つまり、Aから発射された気のエネルギーが空間をへだてたBの心身に一定の対応した効果をひき起こしたということである。
この実験報告は大きな反響をよび、これが契機になって、中国の多くの科学者たちが気のエネルギーの研究にとりくむようになった。イギリスの科学雑誌「ネイチャー」は、この年(1978)10月26日号でこの実験をとりあげ、パイオニア的性格をもつ研究であると評した。』
・気功師が発する赤外線は注目されたが、同時にいくつかの疑問も出てきた。赤外線は物理療法で使われるものであるが、それは数百ワットのエネルギーを用いる。ところが人間の手から出るエネルギーは、気功師の場合でもせいぜい数マイクロワットで、普通の赤外線発生装置(例えば、赤外線コタツ)の1億分の1か10億分の1程度にしかならない。こんな弱いエネルギーで果たして治療効果が得られるのか、という疑問がある。そこで懐疑派は、外気治療というのは心理的暗示効果によるものではないかと主張している。気功催眠説もこの部類に入る。
・患者側の心理的効果、人間と装置による治療はどこが違うのか等の問題を考える必要があるが、「気」の作用が何らかの形で物質的エネルギーの作用と相関関係があるらしいという事実が認められたことは大変重要である。それは、気の問題が心理-生理-物理(精神-生命-物質)という三つの次元にかかわっていることを示しているからである。
●人体と磁場
・人体の内外には様々なエネルギー現象が起こっている。特に中国で新しく起こった研究法は、日本とは異なり主として人体の外部に発生する様々なエネルギー場の作用に向けられている。これによって気の研究は人体内部に限ることなく、人体と環境、つまり人間と自然が関わる広い場面にまで広げられることになった。
・人体の内外を流れているエネルギーとしては、電流や赤外線の他にも、磁気・超低周波(耳に聞こえない音)・光(生体の微量発光)などが知られており、この外にも種々の作用が見出される可能性がある。
・磁場の測定も中国では1986年頃から始められた。電圧の出力と磁場は比例する(図24a)。
・図24bも図24cも気功師の発するエネルギーを測定したものだが、いずれも磁場は大きく動いている。
・電流が流れていれば磁場は発生する。生体電流は神経において最も活発であるが、内臓器官や筋肉などの活動も微弱な生物電気を発生させているから、それにともなって磁気も発生している。人体は一種の発電機の性質をもっているということもできる。
・重要なことは人体に磁場が発生するということではなく、人間の意識と磁場に相関関係があることである。
●人体から発する音
・人体は人間には聞こえない音を発している。中国の測定では、気功師が外気を発しているとき、手の表面からは9~10ヘルツ位と1~2ヘルツ位の機械的な超低周波が重なり合って、脈打ちながら出ているのが測定されている。
・電気通信大学の佐々木茂美教授のグループは、気功師を被検者にして、発功のときに大脳・皮膚・特に経穴(ツボ)などで発生する微細な機械的振動(マイクロ・ヴァイブレーション)について計測してみたところ、外気を発しているときは、皮膚の経絡に沿った部位につよい振動が起こっていることが分かった(大体、1~5ミクロン位の微細振動が起こっている)。このような測定はいわば、全身の皮膚から発する音を調べているわけである。気功師が気を発するときには、耳に聞こえない音が脈打ちながらその身体から出ていると考えられる。
・音波の振動は人体の内部でも起こっている。血液は血管を流れるときに超低周波を発生している。この場合、血管はメガホンのように音声導波管のような役割を果たして、その作用がずっと遠くまで及ぶことになる。
・『内部の状況は動脈の拍動部位の測定によって観察できる。外気を発射しているときの気功師の右腕の橈骨(手首の出っ張った骨)付近の動脈の拍動部位に聴診器の先端を固定して測ってみると、動脈の拍動は、外気を発する前は平均1.18ヘルツの振動だったのが、発射後は1.25ヘルツに増加し、振幅は約1.5倍になったという。さらに、脈管炎をわずらっている患者に外気治療を行なって、患者のツボである命門(背中、臍の裏)と互陽(背中、第七胸椎付近)に外気を送り込み、患者の左腕と右膝裏くぼみの動脈の拍動部位で振動を測ってみた。約30分間の治療で、膝裏の動脈の振幅は治療前にくらべて1.63~2.87倍に増加していた。このことは、気功師が発した外気を受けて、患者の血管内部に大きな振幅の超低周波が発生したことを示している。先に言った間人的同調の現象である。超低周波を利用した脈管炎の治療法は西洋医学でも既に行われているが、これは、音波の振幅が増すことによって、血管壁の老廃物を押し流し、ふつう音波が届かない内臓の深部や毛細血管にまで届かせる効果がある。気功の外気による超低周波は、こうして病巣部にまで深く作用することがわかったのである。』
・『古書には「気行けばすなわち血行く」といわれ、気の流れが血液や体液の循環運動を支配していると考えられてきたのである。「気」が超低周波を含んでいて血管の中を伝わって伝播しているということは、こういう昔からの説明が現代の生理学的立場からみても一定の妥当性があるということを示している。』
画像出展:「低出力パルス波超音波(LIPUS)を用いた低侵襲治療の開発」(東北大学病院 循環器内科)
『当科では、ある特定の条件を持った低出力のパルス波超音波が、血管内皮細胞における メカノトランスダクション機構を介して、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現を亢進させ、その組織血流を改善させることを種々の動物モデルと培養細胞実験で明らかにしてきました(図1)。これらの基礎的検討をもとに、大学倫理委員会の承認を得て、2013年12月から重症狭心症患者を対象に、東北大学病院を含む全国10施設で医師主導治験を開始し、2019年7月に新規症例登録が終了しました。今後、データ解析の結果が待たれます。』
●人体から発する光
・『人体からは光が出ている、といえば驚く人もいるかもしれない。しかし人間ばかりでなく、生命体はすべて、微量ではあるが光を出している。これを生物光子biophotonという。たとえば、植物の発芽のときなどは発光量がふえる。仙台にある新技術事業団の稲葉生物フォトンプロジェクトでは、生物フォトンの研究が進められているが、ここで気功師の人体計測を行ったことがある。』
※ご参考1:“資生堂、バイオフォトン測定により顔の酸化ストレスの部位差を発見 ―酸化ストレスレベルは加齢・シワと密接に関係―”
※ご参考2:“21世紀の医学 エネルギー医学の主流となるバイオフォトン療法の確立に向けて”
・実験により気功師のフォトンの量は一般人と比べて大差はなく、一番強かった女性の半分位であった。しかし独特なのは、気功師は実験者の指示に従って気を出したり止めたりすることができ、それに伴ってフォトンの量が顕著に増減することである。
・『治療時の気功師と被験者の身体の関係を双方の脳波を測って調べると共に、被験者の発光量がどのように変化するか調べる実験を行った。被験者の経穴から天目(額上部、印堂ともいう)及び左手の人差し指、中指、薬指をえらんで発光の強さを検出すると共に、両者の脳波測定を同時に行った。まず脳波であるが、気功師の方は治療中ずっと安定したアルファ波を出しつづけているが、被験者の方は治療を受ける前は不安定なベータ波が多い(図27a)。ところが気功師が気を送りつづけるにつれて、被験者の脳波も次第にアルファ波に変って安定し、両者の脳波が同調し始める(図27b)。このような同調現象は、日本医大の品川教授らの実験でも確認されている。』
画像出展:「気とは何か」
気功師の脳波は治療中ずっと安定したアルファ波を出し続けていますが、被験者は不安定なベータ波が多い。(a)
気功師が気を送りつづけにつれて被験者の脳波も次第にアルファ波に変って安定し、両者の脳波は同調し始めます。(b)
被験者の天目穴(B)と指先(A)のフォトンの発光強度。発気後10~16分にかけて両者は同調関係をしめしています。(c)
これに対して、このときの被験者のフォトンの状態はどうであったか(図27c)。気功師が気を出すと、被験者の指先の発光量(A)は徐々に減少し、これに対応して額の発光強度(B)が増してくる。図では発功後10分から16分のときに見られるように、指先(A)の発光量の減少と額(B)の発光量の増大との間にはっきりした対応関係が現われている。これは、気功師が発した外気の作用によって、被験者の身体の状態に変化が起こったことを示しているものと考えてよいであろう。
●バクテリアに対する気の効果
・『気功師が発功するときのエネルギー量は非常に小さい。たとえば赤外線輻射の量は数マイクロワット程度であって、人工的に造った赤外線発生装置(赤外線コタツなど)のエネルギーが数百ワットもあるのにくらべると、1億分の1以下の弱いものでしかない。このため、気功(特に外気)による治療効果は実はプラシーボ(偽薬)と同じ心理的効果によるものか、あるいは催眠と同じような現象ではないかという疑問が出されてきた。しかし、動物実験やバクテリアを使った実験などの結果をみると、そういう従来の考え方だけですべて説明することはどうもできにくい。問題はむしろ、検出される物理的エネルギーが意識的-無意識的な心理的情報の運搬者carrierと考えられる、というところにあるのではないだろうか。
私がこのようなことを考えたのは、ほかでもないが、前述の1984年に筑波大学で開いた「科学技術と精神世界」という日仏シンポジウムで、「気」について発表したときである。その討論のさい、フランスのユング心理学協会会長のアンベール博士がこんなことを言った。われわれ心理分析家はいわば自分の身体を道具にして患者を治療しているようなもので、狭い部屋の中で患者と顔をつき合わせて話し合っている。ところが、相手によって自分の身体の状態が非常にちがう。今日はどうしてこんなにくたびれるのか、と思うことがある。「気」のエネルギーというのはこういう作用をいうのではないか、とアンベール氏は言った。この話は、臨床家の実際的体験から出た言葉として印象に残っている。』
●エネルギーと情報の関係
・気の成分から赤外線のような電磁波、磁気、超低周波、静電気といった様々な物理的エネルギーが検出された。しかし、「気とは何か」が分かったわけではない。
・明らかになった物理エネルギーは、生きた人体に備わっている作用なので、「気」とは人体を生きた状態に保っている基本的なはたらきである、と定義することができる。
・気の作用の特徴的なことは、心身の訓練に熟達した気功師は赤外線、磁場、超低周波、フォトンなどを意識集中(意念)によってその発現状態をコントロールできる。また、脳波測定の結果をみれば、気功師は脳の活動を安定した状態に保つことができる。このことは、気と心理作用、生理作用との相関関係を考えさせる。そして身体の生理作用は物質的エネルギーをともなっているから、生きた人体には心理-生理-物理という三つの次元を統合するエネルギー作用が存在するということができる。
・気は「こころ-からだ-もの」という三つのレベルを一つにまとめる根本的なはたらきである。
・治療に当たった気功師は、気を発したあと、非常に消耗した状態になるが、このことも心理作用と生理-物理作用の相関性を示している。
・気功師が示すエネルギー作用は一般の人には見られないような波状の脈動として現われる。
●深層意識の情報伝達
・人間関係においては、感覚と意識の認知作用にかからない深層レベルにおいて、情報=エネルギーの発信と受信が無自覚のうちに互いに行われているという可能性が考えられる。
2 研究領域の広がり
●生理―物理の境界領域
・心理-生理的観点からみた場合、気の訓練が自律神経のはたらきと深い相関関係をもっているという点である。
・生理-心理的知見は、深層心理学における意識-無意識の関係とよく対応している。
・発功にともなう血流量の検査(航天医学工程[宇宙医学]研究所が行った研究[気功師31名、訓練中の者38名、対照グループ17名、計86名])は「気功功能態」(気の発射が起こった状態)での血流量を脳、上肢、下肢、下丹田で測る。まず安静時の量を測ってから、百会(頭頂)、左手の労宮(掌中央)、左の湧泉(足裏)と下丹田(臍下)に意識を集中(意念)して発功したときの変化を調べた。心拍と呼吸数も合わせて記録する。
結果は、気功師がこれらのツボに対応する脳、上肢、下肢、下丹田の血流量はすべて非常に増加した。その値は安静時に比べて、それぞれ11.8%、24.1%、26.9%、34.8%であった。逆に、意念しなかった部位では血流量はすべてはっきりと下降した。発功状態に入ると、まず呼吸数の低下と上肢の血流量増加がみられる。これは発功の初期段階に見られる特徴で、入静状態に入った指標である。それにつづいて、脳の血流量の変化と下肢の血流量増加が起こる。
・『医書には古くから「気は血を帥(ひきいる)するなり」「血は気の母なり」とか、「気至れば則ち血至る」などと説いている。清の唐容川は「気を載せるものは血なり、血を運らすものは気なり」と言っており、気の運動と血(血液・体液)の流れの間には密接な関係があるものとされてきた。これらの実験は、こういう古くからの考え方に裏づけを与えている。』
・『経絡系は、神経と血管というこの二つの代表的な統合システムをさらに一つに統合する高次のシステムという性格をもっているわけである。心理的からみればそれは無意識の領域に関連した人体のかくれた情報システムであり、生理面からみればみえない次元で栄養機能をコントロールしているシステムである、と考えられる。つまり潜在的な次元において「こころ」と「からだ」のはたらきを統合しているのが経絡のシステムであると考えられるのである。』
●経絡における気の活動状態
・本山博氏の研究は経絡を通る気の流れの運動は、神経系を介するものではなく、体液系によって起こっていることを明らかにした。
・本山氏のAMI(経絡-臓器機能測定装置)は、活動電位の伝播を神経細胞でなく体液細胞について測定する。手足の井穴(各経絡の気の流れが体外に出入りするツボ)と掌の間に回路を作って、神経による伝播が起こらない程度の弱い電流(3~5V)を通じて、経絡に沿って起こる電位変化を記録する。前に述べたように伝播速度は神経系のものに比べてずっと遅い。
●気の間人的同調
・『気のはたらきはこのようにして、心理-生理-物理のレベルでエネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに一定の影響を与えている。われわれはそれを生体に固有な「エネルギー場」とよぶこともできるであろう。間中喜雄氏は、魚類学者の末広恭雄教授が提唱された「生体の場」という考え方が、東洋医学の身体観にとってきわめて有益であると説いている。それによると、ウィルスから細胞、細胞の集まりである生物体、さらに生物体の集まった集団に至るまで、生命体はそのまわりに「生体の場」をつくり出している。この場合、生体の場には、意識的であれ無意識的であれ、「場」の領域内部が自己に属し、領域外は非自己として区別される。そういう生体の場が自己のまわりに形成されると、「非自己」からたとえば刺戟のような外力がこの場に加わると、必ずこれに対する反作用が生じる。この反作用は刺戟に対する興奮といった形で現われる、という。気のはたらきは、このような意味の生体エネルギーの場をつくり出しており、そこには外部に対する同調と拮抗という関係が見られる。
気功師の発する気が他人の心身の状況に一定の作用をひき起こすという現象は、広い意味で間人的同調transpersonal synchronizationとよぶことができるであろう。この言葉は品川嘉也教授が最初に用いたものであるが、気の研究の将来の方向をよく示しているように思う。』
Ⅳ 「気」と超常現象の問題―科学の時代をこえて
Ⅳはいわゆる超能力について書かれています。本書の中にも書かれているのですが、多くの人にとって超能力は懐疑的なものです。一方、「超能力そのものは非科学的なものではなく、現代の科学がそれを理解できる段階にまだまだ至っていない、と言った方が正しい。」という見方も存在します。私もその考えに従って考えたいと思います。
中国各地から集められた超能力を有する人は数十名、その大部分は8~15歳の児童で最も多い年齢層は12、3歳でした。中には成人の例もありました。集められた人達は各機関の予備調査でその能力の存在を確認されていました。予備調査の後、各研究機関のスタッフ、それぞれの省・市・県の科学委員会関係者、新聞出版関係者などが中心になって14名の超能力者が選ばれ、その家族と同伴で、上海市の科学・医務・教育等の分野の関係者200名以上の出席を得て、三日間にわたり討論と実験が行われたとされています。
1 超心理学をめぐる論争と問題点
●耳で字を読む
・『中国の気功研究の指導者とみなされている銭学森・陳信の両教授は、最近、次のようにのべている。「国家科学技術委員会は1987年5月3日、中国人体科学学会の設立を認めた。1979年、四川省唐雨において、“耳で字をよむ”少年が発見されて以来、実に八年たってのことである。今日に至るまでの苦難と曲折にみちたこの歳月は、人体科学研究所に関心をもって従事するわれわれにとって、誠に容易でないものがあった。中国人体科学学会が正式に設立されたことをわれわれが心から祝福しているのはこのためである。」1987年5月というと私がたまたま北京に滞在していたときである。このニュースは人民日報で知った。当時、この学会の理事長をしている張氏が訪ねてこられたことがあった。また陳信氏(航天医学研究所教授)とはその後、日本と中国でたびたび会うようになった。「耳で字をよむ」というのは、いわゆる超能力のことである。中国では「特異功能」と呼んでいる。「超能力」というのはジャーナリズムの造語であって学術用語ではないが、わかりやすいので使うことにしよう。』
[ここでは(1)、(8)、(9)、(10)をご紹介します。これはツボを見つけることに関係すると思うためです]
(1)身体で字を知る部位は一般に耳、腋下、手の指等が多いが、児童の中には頭頂、膝、背中、足の裏、臀部などで感じる例もある。
(8)現在のところ、二、三十名の児童に合宿させて指導したところ、全員が指先で字を識別できるようになった。このような例から考えると、超能力にはある程度の普遍性があるように思われる。
(9)この種の能力を有する者も識別のしかたは様々で、ある者は接触して感知するが、他の者は接触しなくても感知することができる。また腋下で文字や図形を感じる者もいる。
(10)この種の超能力は身体の健康状態、および精神状態と密接な関係がある。一般には、健康で精神が緊張し、壮快な気分のときは早く識別できる。反対の場合は識別がおそく、識別不可能なときもある。
科学編の2冊目は湯浅泰雄先生の『気とは何か 人体が発するエネルギー』です。湯浅先生は哲学者であり、気の思想、超心理学、ユング心理学等の研究をされました。本書の内容はとても高度で理解できたのは一部ですが、重要な発見がいくつもありました。
ストレスは多くの病気の原因とされています。しかしながら、この考えは1960年代に入ってからのものであり、それまでの近代科学は物質と精神(心)の間には関係はないという二元論の立場をとってきたようです。そのため、医学も心の存在は無視し身体だけを研究の対象にしてきました。東洋医学が廃れていった背景にはこのような実状もあったと思います。「気」について考えるとは、物質と精神(心)の関係性を考えるという側面も含んでいると思います。
目次
まえがき
Ⅰ 「気」の人間観と自然観
1 なぜ「気」を研究するか
●気と心身関係
●研究の学術性
●武道―脳波の間人的同調
●一瞬の気合によって相手を倒す
●日中交流と気のブーム
2 人体の見方と自然観
●二元論の克服
●還元主義をこえて
●みえる身体とみえない身体
●流体モデルの自然観と科学
●実践修行の問題
Ⅱ 人体内部の「気」のシステム
1 人体の情報回路
●局在的器官と統合的システム
●外界にかかわる感覚―運動回路
●身体の気づきとしての全身内部感覚
●生命を維持する情動―本能回路
●感情の重視
●身体の三つの回路
●自律系のコントロール
●呼吸法による「気」の訓練―調気
●自然治癒力を高める
2 東洋医学の身体観と人間観
●経絡のシステム
●体表医学と開放系の人間観
3 東洋医学の現代的研究
●第四の回路としての経絡系
●経絡敏感人の発見―気の心理面
●生理的観点からみた経絡
●経絡と神経の区別
●潜在的エネルギーとしての気
Ⅲ 人体外部の「気」のエネルギー場
1 気のエネルギー計測
●気力とは何か
●気の三次元―心理・生理・物理
●気功師が発する赤外線
●人体と磁場
●人体から発する音
●人体から発する光
●バクテリアに対する気の効果
●エネルギーと情報の関係
●深層意識の情報伝達
2 研究領域の広がり
●心理―生理の境界領域
●生理―物理の境界領域
●経絡における気の活動状態
●気の間人的同調
3 方法論的反省
●例外は本質を明らかにする
●事実と価値
Ⅳ「気」と超常現象の問題―科学の時代をこえて
1 超心理学をめぐる論争と問題点
●耳で字を読む
●超能力論争の問題点
●超能力研究の意義と可能性
●気と超能力は関係があるのか
●超心理学への一般的反応
●超心理学は科学か
●超常現象と認識批判の必要
●近代科学の基本前提
●超常現象は「気」で説明できるか
2 因果性の彼方
●ユングの超心理学批判
●因果性と共時性の重層
●目的論と科学
おわりに―心の科学と新しい人間観
まえがき
・「気」の考え方の基本は、心の働きと身体の働きを一つに結んでいるところにあると考えられる。
・心と身体、心理作用と生理作用を結んでいる生命体の未知のエネルギーなのではないか。
・「気」は実践的・体験的正確の強いもの。「気」の考え方が身体をもって行われる「わざ」の体験と結びついて生まれてきた実践的経験知である。特に気功はそのことをよく示している。
・四つの重要な問題点
1) 東洋の医学や修行法の歴史について一通り知っておくことが大事である。
2) ユングが指摘する無意識の問題は「気」の考え方の謎を解く鍵を握っているかもしれない。
3) 戦後、日本の東洋医学研究を進めてこられた先人の仕事である。これらの先駆者の仕事を無視すべきではない。
4) 気功の科学的研究、特に「気」のエネルギー計測にかかわる諸問題である。これは生物物理的研究技術の発達に伴って新しく生まれてきた研究テーマである。
Ⅰ「気」の人間観と自然観
1 なぜ「気」を研究するか
●気と心身関係
・近代科学は物質と精神(心)の間には何の関係ものない二元論の立場をとってきた。そのため、医学も心の存在は無視して身体だけを研究の対象にしてきた。
・1960年代に入ったころから、医学者からも心身問題が注目されるようになった。これは心身症と呼ばれるストレスによる問題が認識され始めたためである。一方、臨床面からだけでなく、基礎医学の方面からも心身論に対する動きが出てきた。その理由は1950年代以降、脳生理学の研究が急速に発展してきたためである。
●武道―脳波の間人的同調
・被験者Aは青木宏之師範:師範は若いころは空手の達人として知られ、新体道という新しい体術を創始した人。
・被験者Oは岡田満師範:青木師範の高弟
・「遠当」とは:相手の身体に触れることなく、一瞬の気合によって倒す技。
・テスト:演武時の二人(青木師範[被検者A]と岡田師範[被検者O])の脳波を計測する。
1)演武前:開眼安静状態に入った岡田(O)はすぐにα波が出始めた。青木(A)の脳波が岡田(O)より脳波が平坦なのは熟練度の差と考えられる。平坦波は脳死状態に見られる脳波だが、熟練した気功師や武術の達人は平坦脳波に近い脳波が見られる。
2)岡田(O)が青木(A)の背後から攻撃をかけようとした時の両者の脳波:青木(O)は背後に殺気を感じた。興味深いのは青木(A)の側頭前部(O₁O₂)と岡田(O)の側頭中央部(T₃T₄)の双方にβ波が出ている。この時のトポグラフ(図3b)を見ると、青木(A)の方は右脳でβ波が強く出ており、青木(A)は直観的に気を感じているようである。
3)岡田(O)が攻撃をかけ、青木(A)が体をかわした時の状態:このときの青木(A)のトポグラフ(図4b)をみると、β波は左側頭部に移っており青木(A)は左脳で意識しながら気を発しようとしている。
4)遠当の瞬間:青木(A)の脳波は比較的平坦であるが、気合を発した一瞬だけ烈しく動いている。この時のトポグラフ(図5b)を見ると、青木(A)の方は右側頭部からα波が頭全体に広がり、また脳の深部活動を示すβ₁波も全体に広がっている。岡田(O)の方は前頭部から右側頭部でα波が強く現われ、β₁波は全体にひろがっている。
瞑想状態についてのこれまでの脳波研究では、瞑想が深まるにつれてα波やΘ波が大脳皮質の広い範囲に現われることが知られている。この点から考えると、両者(特に青木)の頭部全体にα波が広がっていることは、遠当の瞬間、被験者が禅の瞑想の三昧(無我)に似た状態にあることを示している。
『青木はこれについて次のように語っている。「対立する世界をこえて、まず自分が無になることです。そうすれば融和して、限りなく相手と一体になる。自分は相手であり、相手は自分です。そういう状況では相手の気持ちの切れ目が分かるので、そこにスパーンと気合を打ち込んだら離れた相手をも倒すという、俗にいう遠当なるのです。さらに言えば、私がここに立っていて本当に無であれば、大我ともいうべきこの大きな宇宙の心は、私の心であると同時に彼の心でもあるわけです。ですから、彼が私を攻撃するということは、天の心を攻撃するということであり、また自分自身の心に攻撃をかけることでもあるわけです。自分が自分の心に対抗したら、彼は倒れるでしょう。これが本当の意味の遠当です。」
坐禅と瞑想とちがうところは、両名ともβ波の速い波は新皮質より下の古い皮質から起るといわれており、本能や直観のような心の深い部分が活動しているらしい。β波はふつう前頭部を中心に現われることが多く、後頭部まで広く分布することは少ない。ところがこの場合は、両者とも(特に岡田)β波が全体にひろがっている。インドからアメリカに伝わって普及した超越瞑想とよばれるヨガの瞑想では、瞑想がその第三段階にまで深まると、振幅のそろったリズミカルなβ波が頭部全体に現われる、とされている。これらの点を考え合せると、気のかけ手も受け手も、烈しい運動をしていながら、一種の深い瞑想に似た状態にあるものと考えられる。青木の技を受けた弟子たちの報告では、気を受けたときの状態は苦痛よりもむしろ爽快な一種のエクスタシー状態になるという。』
5)遠当後の脳波:青木(O)はすぐ平坦に戻っているが、倒れた岡田の方は高い活動レベルが続いている
「遠当」について質問してみましたが、明確な回答は得られませんでした。
2 人体の見方と自然観
●二元論の克服
・東洋の伝統では、「気」のはたらきは元々主観的に感じるものとされてきた。それは、普通の意識状態では認識できないが、瞑想とか武術・気功などの訓練をつんだ人は気の流れを感じとることができると説かれてきた。
・現代の心理学の立場からいうと、無意識の心理との関係を考える必要が出てくる。心身医学や精神医学では変性意識状態(ASC)という言葉を使うが、これは、瞑想・深い祈り・トランス・幻覚など、通常の意識とは違った心理状態を指す言葉である。それは無意識下の心の働きが表面まで現われてきた状態である。
・「気」の働きは、心理的な作用を示しているが、それは心理的なレベルに留まらず、身体の生理的レベルにおいて一定の客観的効果をあらわす。瞑想や気功などが健康法としての役割をもち、医療にも応用されているのはそのためである。
・今日では気功師がその身体から発する生体特有のエネルギーの性質を、物理的方法でとらえることも可能になってきた。このような観点もあり、「気」というエネルギーの作用は、通常の意識と感覚を超えた立場で心理-生理-物理という三つのレベルに変換してその効果をあらわすものだということになる。要するに、「気」とは主観的であると共に客観的であり、心理的であると共に生理-物理的でもあるような生命体に特有の未知のエネルギーである、ということになる。
●還元主義をこえて
・「気」とは心身の訓練を通じて感じられるようになるはたらきである。それは、通常の状態では感覚によって認識することはできないが、訓練によって心が日常普通の意識状態から変容するときに感受され、自覚され、認識されてくる。それと共に、気の働きは人体の生理的側面において一定の効果を現わす。気はさらに、人体と環境、つまり人間と自然をつなぐ物質的レベルにおいても一定の働きを示すのである。
●みえる身体とみえない身体
・三国時代の英雄・魏の曹操に殺された有名な医師・華陀は全身麻酔を用いた回復手術を行った医師として知られており、その手術記録は史書に詳しく残されている。一方、戦国時代の伝統的医師・扁鵲から始まる流れは、透視術によって体内の臓器の状態を知るものであった。ただし、本当に透視術を使ったのか「望診」だったのかは分からないが、扁鵲の医術は「黄帝内経」に代表される中国伝統医学の主流につながっていく。つまり、中国の古代では二つの傾向が並存していたと思われる。一つは解剖中心、そしてもう一つは、「液体(流体)病理説」ともいうべき考え方で、全身をめぐる経絡の中の「気血」の流れの異常に病因を求めるものである。
・経絡は「流注図」の他に、「環中図」や「明堂図とも呼ばれていた。
・解剖学的な「みえる身体」のシステムの底に、いわば「みえない身体」のシステムを考え、そこに流れている気のエネルギーに注目しつつ、「みえる身体」がもっている生理作用を説明してゆくことになる。
・気の流れの働きは「みえない身体」と「みえる身体」をつないで、身体の諸器官の作用を全体的に支配し活性化している。みえない身体の基本概念が「経絡」と「気血」であり、目にみえる「血」の運動をコントロールしているのはみえない「気」のエネルギーの流れであるという考え方である。
・中国の脈診法は古代から現代まで受け継がれており、西洋医学の脈の測り方よりはるかに精緻なものである。
●流体モデルの自然観と科学
・道教は自然の中に生きることを理想とするが、自然は客観的な観察の対象ではなく、人間の本性を表現するための舞台である。気功はそのための修行法である。仏教は生老病死の苦しみこえて「悟り」に至る実践の努力を重んじる。さまざまな仏教の修行法はここから生まれている。
Ⅱ 人体内部の「気」のシステム
1 人体の情報回路
●局在的器官と統合的システム
・東洋医学でいう経絡のシステムは、神経系と血管系の二つの主要システムを統合する高次のネットワーク・システムともいうべき性質を与えられている。そして経絡系は皮膚(および体液系)と関係が深い。
・『局在的器官である内臓や四肢ばかりでなく、神経系その他のネットワーク・システムをもさらに一つにまとめる高次の統合機能を果たしている。東洋の伝統医学が皮膚を最も重視してきたことは、そのホリスティックな考え方をよくあらわしているといえよう。』
補足)まず、本書の初版発行は1991年1月になります。そして2018年3月、以下のようなニュースがありました。この間質(ファシアの一部)は個人的には皮膚と同じくらいに重要な器官であると考えています。
ご参考:“ヒトの器官で最大の器官が新たに発見される” ニューズウィーク日本版 2018年3月29日
ご参考:“人体で最大の「新しい器官」は、なぜいまになって“発見”されたのか“ WIRED 2018年4月4日
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
これは間質とファシアについての表です。
この中で、『ファシアは間質を含む大きな構造として再定義され、間質はファシアの重要な要素として認識されるようになりました。』と説明がされています。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)が作成」
こちらは皮膚とファシアについての表です。
この中で、『皮膚の直下にある浅層ファシアは、皮膚と深部組織をつなぐ重要な役割を果たしており、両者の健康は相互に影響し合っています。』と説明されています。
●身体の三つの回路
・瞑想の訓練は無意識からわき出る情動的コンプレックスを解消し、心のままにコントロールできるようにすることである。
・情動の作用は、外界感覚-運動回路(感覚器官・運動器官の活動)がスムーズに働くためのエネルギーか潤滑油の働きをしているといえる。
・瞑想は情動の働き方の歪みを直し、それを自由にコントロールする訓練である。歪みがあっては冷静な判断はできない。
・東洋の修行法の基本的な特質は、身体の訓練を通じて心の働き方を訓練していくところにある。
・身体の技と同じように心の動きは、繰返し繰り返し訓練を重ねることによって向上し発達する。例えば、密教の修行法に、仏のイメージに心を集中させながら一定のマントラ(神聖な呪句)を何万回も繰り返し唱えるような方法がある。日本仏教の念仏や題目を唱える習慣は、ここからきたものである。これによって、情動をコントロールし、無意識の力を意識的に統合することが修行の目的ともいえる。
●自律系のコントロール
・心は情動作用を通じて自律神経の働きに影響を及ぼし、内臓器官の活動に影響を与える。
・意志の自由になる皮質(感覚-運動)系の機能と、意志から独立した自律系の機能は、まったく無関係というわけではなく、情動作用によって関連しているのである。
●呼吸法による「気」の訓練―調気
・東洋の修行法にみられる瞑想や武術の訓練が、必ず呼吸法の練習から始まるということである。中国・日本の古武道でも、呼吸法の訓練は昔から非常に重視されてきた。
・気功の基本である調身・調息・調心は、道教・仏教・儒教の哲学に共通している。
・調息は調身と調心を結ぶ中心的役割を果たすものとして重要視されている。
・調息は調気と言いかえられることからも明らかなように「気」の訓練を意味する。従って、呼吸法による「気」の訓練は、心の訓練と身体の訓練を一つに結びつける要の位置におかれている。
●自然治癒力を高める
・アメリカの生理学者キャノンは、人体に備わっている様々の生理的機能の全体をホメオスタシス(生体機能の恒常性)とよび、それを「自然治癒力」とも呼んでいる。
・近代医学では人体の各部分に局在した機能に注意するようになったので、自然治癒力は廃れた。
・ヨガや気功に代表される東洋の修行法は、医学的観点からいうと、自然治癒力を高め、発達させる訓練を意味している。
・呼吸法の訓練から始まる心身の訓練は、意志の自由が及ばないと考えられている自律系の生理的機能にまで影響し、その潜在能力を高める。
2 東洋医学の身体観と人間観
●経絡のシステム
・瞑想法では脊柱に沿った督脈と胸腹部の正中線に沿った任脈を重要視する。
●体表医学と開放系の人間観
・東洋医学ではホリスティックな観点から全身の機能を統合的に捉える見方に立っている。
・『気の流れは瞑想の訓練と結びついており、意識-無意識の心理作用と関連している。また、医学的治療の観点からみると、気の流れは生理的機能を活性化するはたらきである。そしてそのエネルギーの作用過程は、後に言うように、生物物理的測定法によって人体の外部でも何らかの形で検出できる。つまり、気は、心理-生理-物理(こころ-からだ-もの)という三つのレベルに変換してはたらくみえないエネルギーなのである。』
3 東洋医学の現代的研究
●経絡と神経の区別
・ある一つの経絡をとって、皮膚表面につくった回路に軽い痛みを感じる程度の比較的強い電流(個人差があるが20V位)を流すと、各経絡上の測定点に一過性の波が現われる(図20a)。これはGSR(皮膚電気反射)、つまり神経を通じて起こる反応である。一方、電気刺激を弱くすると、このような反応は起こらない。しかしながら、特定の測定点(経絡上の経穴)にだけ反応が確認できる(図20b)。デルマトームの分布から想定されるVCR(内臓帯壁反射)では図20bのような反応は考えられない。従って、図20bはGSRでもVCRでもない別の反応系が存在していることを示している。つまり、これは経絡によるものであると考えられる。
・『皮膚に現われた生理作用の中に、神経性のものとはちがったものがあることを明らかにしたという点で重要な意味がある。つまり、経絡系は神経系とは別の身体統合システムであるということが、現代的観点から確認されたわけである。このときの電気的反応の伝播速度を調べると、神経による反応は毎秒数十メートルに達するのに、経絡による反応の伝播速度は平均1メートル以下であった。この点は、先にのべた長浜氏[針灸の医学]らの測定結果と一致している。
本山氏[気の流れの測定・診断と治療]はさらに、経絡現象が起こる部位が皮膚の表皮ではなく、その下の真皮の層であるらしいことをつきとめている。つまり経絡は、体液系の中で作用しているシステムなのである。
画像出展:「陰ヨガと経絡①|石田麻子の陰ヨガコラム」(Yoga Body)
本山 博先生の経絡に対するお考えは、僭越ながら私の考えと極めて近かったため、思わず先生の著書『気の流れの測定・診断と治療』を探し、購入させて頂きました。
先にのべたように、身体各部の局在的器官のはたらきを一つにまとめる統合的システムとしては、神経系・血管系・内分泌系・免疫系・体液系などがあげられる。このうち神経系・内分泌系・免疫系などは、心身の相関関係を示すシステムとして従来から注目されてきた。体液系も全身の各部分に及んでいるが、これらの中では皮膚と最も直接に関係している。体液が最も多く貯えられている場所は皮下組織の部分なのである。』
●潜在的エネルギーとしての気
・経絡における気の流れという現象は、生理的側面からその作用の仕方について研究することはできるが、それは生体電流のような作用を介して間接的に推察されるものであって、直接に気のエネルギーを認知できるわけではない。
・気の流れは生理的側面だけでなく、主観的な心理的側面において感じられる働きである。つまり、心(意識-無意識)と身体を媒介し、心理領域と生理領域の間の一種のエネルギー変換をつかさどっている作用である、と考えられるのである。
・『経絡における気の作用という現象は、この問題についてわれわれに新しい見方をとる必要を示唆している。戦後まもないころ、「経絡戦争」が起こったとき、間中喜雄氏は、「経絡という概念は将来、従来否定されてきたような意味で否定されるべきものでなく、また経絡肯定論者があると考えているような意味で存在するのでもないというような日が来るのではあるまいか」とのべたという。筆者には、この間中氏の予言は深い意味をもっているように思える。』
※補足
私はこの「3 東洋医学の現代的研究」の「●経絡と神経の区別」と「●潜在的エネルギーとしての気」の章に書かれた内容から、「経絡≒ファシア」をあらためて確信しました。ただし、「氣」についてはまだまだ勉強を続けなければなりません。何とかして自分なりの結論にたどり着きたいと思います。
2.脳波から「気」を解明する
●ナポレオンが三時間しか眠らなかったのは、シータ波の作用か?
①ベータ波:眠りが深くなって熟睡の時に現われる。
②シータ波:ウトウトしてくると現われる。デルタ波の状態とは異なり、外界からの刺激にも普通に反応できるので、本人は自覚していない。一瞬の居眠りで事故を起こすのは、シータ波が出ているときである。
・シータ波に関しては解釈の難しい問題がある。瞑想中や荒行、断食などの宗教的修行を積んだ人にもこのシータ波が良く観察されるという事実である。これをどう解釈すべきか、精神を集中することによってシータ波が優勢になると考えて良いのか、それとも、特殊なトレーニングによって、いつでもどこでも一瞬に睡眠をとれるということなのか。この「精神集中」か「ウトウト睡眠」か、この見極めは非常に難しい。
●アルファ波についての基本的誤解
③アルファ波:目を閉じて安静にしている時に現われる脳波である。眠っていながら眼球が動き、脳の活動も活発な、いわゆるレム睡眠の際に現われる脳波である。
・アルファ波は8~10ヘルツのアルファ1波と10~13ヘルツのアルファ2波である。アルファ1波はアルファ波に近く、アルファ2波はベータ―波に近い。
・安静にしている状態ではアルファ波はよく出る。ところが、何かものを考えはじめると、アルファ1波波は、後頭部中心に抑制される一方、アルファ2波はむしろ亢進の傾向を示した。実は気功師の脳波でも同じような現象が観察された。
・『アルファ波の活用を解説したハウツー書のなかには、「アルファ波は安静時と集中時に現われる」として、両方のケースであたかも同じ脳波が出るように書いている本がある。これは二種類のアルファ波を区別しなかったために起きた混乱であり、誤った記述である。それを見きわめることが脳の活動を知るには大きな要件となってくるのである。』
④ベータ波:脳が活発に活動しているときに現われる脳波で、別名「精神活動脳波」とも呼ばれる。逆にいえば、目を閉じれば誰でもアルファ波を増やすことができるのである。
・ベータ波では脳のどの辺りを使っているのかがわかる。また、イメージ思考とも関連が深く、ひいては右脳左脳の役割分担とも密接に関係している。
●なぜ、ものを考えていても、眠っていても、同じ脳波が出るのか
・「気」を脳波学的に解明していくには、イメージ思考とベータ2波の関係が特に重要な問題となる。気功中に右脳優位にベータ2波が出ている。
●脳波学の知見を揺るがした暗算の名人
・ソロバンチャンピオンの女性は暗算時に左脳はまったく使わず、右脳、それも右脳の後部にある視覚野をつかさどる部分が活発に活動していた。彼女の話では、数字を見たり聞いたりすると、頭の中にソロバンが浮かぶそうである。そして、そのソロバンの球が勝手に動いて答えが出るということである。
●「気」の脳波は、こうして測定された
・実験は中国人気功師4人、日本人気功師4人、計20回の脳波測定を行った。気功師と「気」を受けた人の脳波も同時に測定した。「気」の受け手はすべて日本人、その中には練功歴2~3年以内の気功の初歩の体験者も含まれていたが、脳波は他の気功の未経験者と有意に差がないことを確かめていた。
・分析に用いた周波数帯域をアルファ1波、アルファ2波、ベータ2波の3つにした。これはアルファ1波がよく出るのは目をつぶって安静にしている状態である。そして、何かものを考え始めると、このアルファ1波は一瞬減少するが、やがてアルファ2波に変る。つまり、この変化を見れば脳波測定者が思考の状態にはいったかどうかがわかる。ベータ波のうちベータ2波を選んだのは、ベータ2波が頭のどこを使っているのかに密接に対応しており、脳の活動部位を調べるにはベータ2波の方が分析しやすいからである。
●なぜ、気功師に「脳死」や「ボケ」症状を示す脳波が出るのか
・子どもの頃から練功を積んできたベテラン気功師について、目を閉じてリラックスした安静状態で、「何も考えないでください」と指示して脳波を測定したところ、アルファ波の振幅が普通の人の1/2以下だった。
・極端な例ではアルファ波だけでなく、ベータ波も非常に小さい気功師もいた。これは脳死状態に見られる「平坦脳波」に近い脳波である。気功師の脳に問題はないのでまったく不思議としかいいようがない。
・安静時閉眼時のアルファ波は普通の人はほぼ左右対称で後頭部のみに強く出る。一方、気功師のアルファ1波は過半数の気功師が前頭部寄りに出現した。また、アルファ2波もアルファ1波ほど強くないが一般の人よりは頭の前の方に出ていた。なお、この脳波の出方はボケの指標となっている。これは明らかにされていない何かのメカニズムとしか考えられない。
●気功師はなにもイメージしていないのに、イメージを表わす脳波が出た
・気功の時の姿勢(入静状態)は「気」を発するまえの準備段階であるが、気功師の脳波はアルファ1波が減少しアルファ2波が脳全体に広がり、同じ波形となった。そしてアルファ波の強さを示す振幅は一般の人より小さいことも分かった。
これと同じ傾向は、瞑想、ヨガ、座禅のベテランの準備段階でも見られた。
・気功師の練功で、まずは気功師が体の動きをともなわない状態(静功)で、自分自身に「気」をめぐらせた場合の脳波は、アルファ波に混じってベータ2波が現われるが、特徴的なことは右脳優位のベータ2波が頻繁に現われることである。ときによってベータ2波が右前頭部から右後頭部、左前頭部から左後頭部へと激しく移動する。さらに、左脳のみにベータ波2が見られたり、左右の側頭部に分かれて出たり、ベータ波2とともにアルファ2波も移動する。
・このような脳波のパターンは一般の人ではまず見られない。体の動きを伴わない静功の状態であるのに脳の動きは激しく変化する「外静内動」の状態である。
・アルファ2波とベータ2波が同時に同じ場所に現われる脳波パターンは一般の人では強い集中力をもった人が、明確なイメージを強く描いたときだけに見られる。また、右脳のみにベータ2波が現われるのは、催眠状態で自発的にイメージが出現するときにかぎって観察される。
・静功時の気功師の脳波は、イメージの脳波によく似ている。しかも、ベータ2波がイメージ思考と密接に対応していることを考え合わせれば、気功師の頭の中には、さまざまなイメージが駆け巡っていると推測できる。ところが、気功師にそのときの状態をたずねてみると、すべての気功師が「なんのイメージも浮かんでいない」と答えた。
●気功師と瞑想家の脳波には、共通点がある。
・動功に入ると、アルファ1波、アルファ2波、ベータ1波、ベータ2波のすべてが後頭部に固定され移動しなくなった。静功時には激しく動いていた脳波が、動功にはいると体の動きとは対照的に、後頭部に集まって落ち着く。これを「外動内静」の状態になった。
・アルファ波とデータ波とが同じ場所に現われるのは、普通の人では精神を集中した場合である。
・脳波分析から判断するかぎり、気功は頭を高度に使っている状態である。ところが、気功師に「動功中は何を考えていますか」と質問しても、「何も考えていません」という答えが返ってくる。この返答からは、気功とは頭では何も考えているわけではないが、頭はフルに使っている状態と規定できる。
●「気」によって脳波が同調し、脳が活性化する
・実験では「脳波の同調現象」はすべてのケースで観察された。この「同調現象」は気功の脳波以外では観察したことがない。
・「気」の受け手は気功師の「気」を受けると、大多数の受け手の人の脳波に出るはずのない前頭部寄りのアルファ波が発生する。なお、この際、受け手の人は「気」受ける際に常に眼を閉じて何も考えていないリラックスした状態(安静閉眼)にいる。
・気功師が「気」を送ると、受け手側の半数は前頭よりのアルファ2波が観測され、アルファ1波の方は1名を除き、全ての被験者に前頭寄りに現われた。
3.「気」が身体を活性化する
●気功は、全脳のトレーニングになる
・ものを考えるとき右脳を活発に働かせているという状態は極めて少ないが、左脳優先の脳の使い方は心身の健康面からみて大きな問題を抱えている。
・日本では教育においても左脳偏重である。英語なども英会話はもちろん、ある程度長文の英語の読み書きには、右脳的なイメージ思考が必要不可欠である。
・右脳と左脳をバランよく使う方法を「全脳思考」という。
・気功師の脳波は明らかに右脳優位のベータ2波が見られる。これは気功には右脳の働きを活性させる効果があるということである。
●ユングの「共時性」と脳波の同調性
・『ユングのいう因果的世界は、分割脳理論でいえば左脳が捉えた世界に対応するものであろう。とすれば、共時性と呼ばれる非因果的世界は、右脳が活性化されることによって意識に捉えられる世界ということになる。ふたつの世界がふれ合うところに共時性の現象が出現するのなら、それは“宇宙との一体感”の体現であり、とりも直さず気功のつくり出す意識状態とべつのものではないということになる。
気功師の脳波と気の受け手の脳波のあいだのトランスパーソナルな同調には、偶然の一致以上のものがあるはずである。なんどもいうように、「気」は実体ではなく、情報である。その情報が「気」の送り手から受け手に伝わり、身体に作用を及ぼした結果が、脳波の同調現象として現われるのだ。
もちろん、いまのところそこに存在する物理化学的な因果関係は明らかでない。あくまでも意識状態の伝達なのである。その意味でも、脳波の同調現象は共時性というあいまい模糊とした不可思議な現象の実在性を示す、唯一の実証的な手がかりとなっている。
気功における脳波の同調現象のさらなる解明は、今後の研究に待たざるをえない。だが、それが「気功の科学」の中核となり、ひいては共時性をも含めた新たなパラダイム創出のための突破口となりうることだけはまちがいないであろう。』
まとめ:一般人と気功師の脳波の特徴は明らかにことなる
1.気功師の脳波の特徴
1)目を閉じて何も考えていないときの気功師の脳波は、α(アルファ)波のパワーが非常に小さく、平均すると一般人の半分以下しか出ていない。
2)子どもの頃から気功の訓練を積んできた気功師の脳波である。α波だけでなくβ波も小さく、平坦脳波に近いときさえあった。平坦脳波とは「脳死」のときに見られる脳波である。脳機能に何も異常も見られないにもかかわらず、このような異常な脳波が生じるのか不思議である。
3)α波は集中力が高いときに出るという一般的な理解とは異なり、気功師が集中した時の状態の脳波は違っていた。
4)体の動きを伴わない「静功」で「気」を発しているときに脳波の動きは激しく、大きな動作を伴う「動功」の時には脳波の動きが減少した。このようなことは常識では考えられないことだった。通常は動きが大きいほど、脳波の動きも大きい。
5)気功師の脳波に共通して、棘波(スパイク波)という振幅の大きなとがった波が観察されたことも不思議な現象であった。一般的に棘波はてんかん患者の発作時、それもかなり激しい発作の時に見られる脳波である。
6)静功時の気功師の脳波は、イメージの脳波によく似ている。しかも、ベータ2波がイメージ思考と密接に対応していることを考え合わせれば、気功師の頭の中には、さまざまなイメージが駆け巡っていると推測できる。ところが、気功師にそのときの状態をたずねてみると、すべての気功師が「なんのイメージも浮かんでいない」と答えた。
7)気功師の脳波は明らかに右脳優位のベータ2波が見られる。これは気功には右脳の働きを活性させる効果があるということである。
8)安静時閉眼時のアルファ波は普通の人はほぼ左右対称で後頭部のみに強く出る。一方、気功師のアルファ1波は過半数の気功師が前頭部寄りに出現した。また、アルファ2波もアルファ1波ほど強くないが一般の人よりは頭の前の方に出ていた。なお、この脳波の出方はボケの指標となっている。これは明らかにされていない何かのメカニズムとしか考えられない。
2.脳波の同調現象
1)気功師は一般人に比べてβ波が右脳に多く出現することが明らかになったが、この変化は受け手にも現れた。
2)実験では「脳波の同調現象」はすべてのケースで観察された。この「同調現象」は気功の脳波以外では観察したことがない。
3)「気」の受け手は気功師の「気」を受けると、大多数の受け手の人の脳波に出るはずのない前頭部寄りのアルファ波が発生する。なお、この際、受け手の人は「気」受ける際に常に眼を閉じて何も考えていないリラックスした状態(安静閉眼)にいる。
4)気功師が「気」を送ると、受け手側の半数は前頭よりのアルファ2波が観測され、アルファ1波の方は1名を除き、全ての被験者に前頭寄りに現われた。
感想
「気は実体ではなく情報である」ということ、そして、気功師の脳波には様々な特徴があり、気功師と受け手の脳波が同調するという実験結果を、品川先生は特に注目されていました。そして、“ユングの「共時性」と脳波の同調性”に触れていた箇所が特に印象に残りました。
『ユングのいう因果的世界は、分割脳理論でいえば左脳が捉えた世界に対応するものであろう。とすれば、共時性と呼ばれる非因果的世界は、右脳が活性化されることによって意識に捉えられる世界ということになる。ふたつの世界がふれ合うところに共時性の現象が出現するのなら、それは“宇宙との一体感”の体現であり、とりも直さず気功のつくり出す意識状態とべつのものではないということになる。
気功師の脳波と気の受け手の脳波のあいだのトランスパーソナルな同調には、偶然の一致以上のものがあるはずである。なんどもいうように、「気」は実体ではなく、情報である。その情報が「気」の送り手から受け手に伝わり、身体に作用を及ぼした結果が、脳波の同調現象として現われるのだ。
もちろん、いまのところそこに存在する物理化学的な因果関係は明らかでない。あくまでも意識状態の伝達なのである。その意味でも、脳波の同調現象は共時性というあいまい模糊とした不可思議な現象の実在性を示す、唯一の実証的な手がかりとなっている。
気功における脳波の同調現象のさらなる解明は、今後の研究に待たざるをえない。だが、それが「気功の科学」の中核となり、ひいては共時性をも含めた新たなパラダイム創出のための突破口となりうることだけはまちがいないであろう。』
「気功の科学」は今後の研究を待たざるをえないとされています。この本は1990年1月に発行されました。一方、ミラーニューロンの発見は1996年です。このミラーニューロンに関しても勉強する予定です。「気功における脳波の同調現象」のとの関係性に注目したいと思います。
また、「脳波の同調現象」では、気功師が「気」を送ると受け手側の半数は前頭寄りのアルファ2波が観測され、アルファ1波の方は1名を除き、全ての被験者に前頭寄りに現われたということです。これも注目すべきなのかなと思います。
“鍼灸師編”、“東洋医学概論編”、“エントロピー編”の次は“科学編”です。その最初の本は、医学博士の品川嘉也先生の『気功の科学』です。本書の最後のエピローグ(心身二元論を超えて)には次のようなことが書かれています。
『気功状態の脳波を測定してみると、すべての被験者に明らかに共通した脳波変化のパターンが観察できる。まさに「気」の一元論である。しかし、それでいていっぽうではまた、個々人の脳波はひじょうに個性的なのだ。脳波を見れば、それが誰のものであるかがひと目でわかるくらいである。
脳波だけを見て、それが誰のものであるかが明白にわかるということは、やはり脳が心身をまるごと映している証拠であろう。脳は心と身体をコントロールしているだけではなく、その「ひとつにしてふたつのもの」であり、かつ「ふたつのものにしてひとつのもの」を映す鏡なのである。脳において心と身体は互いに相映し合い、普遍的と同時に多様な個性をも開き示している。個々人には宇宙の見方にも個性があり、その個性が脳波に反映されているのである。
気功の脳波に、心身の一体感、ひいては宇宙と人間との一体感が反映されているという事実を、どう考えればいいのだろうか。脳とは、いわゆる無意識と意識とをあわせた拡張された意味での「意識」が発現する“場”である。その“場”の振動が―これはあくまでも比喩的な表現にすぎないが―、「気」の情報となって伝わり、脳波という目に見え、科学的に観測可能な形となって現われる。』
比喩的な表現との前置きはありますが、品川先生は、脳波は「気」の情報が目に見えたものとされています。今回の“科学編”では脳波を通じて「気」というものを考えてみたいと思います。
目次
まえがき
プロローグ―いま、なぜ「気」を問題にするのか
●「気」が知れないから研究する
●「気」を体で感じる方法
●世界最初の気功の科学的実験
●「気」を脳はで解明する
●なぜ、「気」がふたりの人間の脳波を同調させるのか
●「東洋」と「西洋」、「科学」と「非科学」のちがいはどこにあるのか
●「気」が新しい科学のパラダイムを創出する
●「気」がもたらす変性意識状態とは
●自らと宇宙との一体感を獲得するために
1.「気」の源流を探る
●中国気功紀行―はじまりは、あの天安門だった
●内気功―いかに「気」の流れを円滑にするか
●私たちが目撃した「気」の驚異
●「気」は物質か、それともエネルギーか
●もともと中国では、「気」はエネルギーと考えられていた
●「気」という「情報」が、経絡をめぐり、経穴(ツボ)に作用する
●「変性意識状態」をもたらす「意念」とイメージの関係
●日本の古武道や合気道に生かされている「気」の概念
●「気」と出会った西洋人の反応はいかに
●なにごとにつけ、「不能過勉強」
●「気」の解明に向けて、さらなる“知の旅”へ
2.脳波から「気」を解明する
●脳はから何がわかるのか
●カエルの足のケイレンが、脳波発見のきっかけ
●脳波で「頭のよしあし」はわからない
●ナポレオンが三時間しか眠らなかったのは、シータ波の作用か?
●アルファ波についての基本的誤解
●世界で最初の右脳理論提唱者は、湯川秀樹博士だった
●ことばで考えるか、それともイメージで考えるか
●右脳と左脳がべつべつに活動するとどうなるか
●なぜ、ものを考えていても、眠っていても、同じ脳波が出るのか
●脳波学の知見を揺るがした暗算の名人
●「気」の脳波は、こうして測定された
●なぜ、気功師に「脳死」や「ボケ」症状を示す脳波が出るのか
●気功師はなにもイメージしていないのに、イメージを表わす脳波が出た
●気功師と瞑想家の脳波には、共通点がある。
●「気」によって脳波が同調し、脳が活性化する
3.「気」が身体を活性化する
●特異功能と超能力
●気功は、全脳のトレーニングになる
●「気」が脳内神経伝達物質の働きを活性化させる
●「気」がもたらす、ストレスに対抗する心身一元のメカニズムとは
●気功と心身医学
●真のホリスティック(総合的な)医学とは
●「気」の概念は、人類に普遍的に存在していた
●「変性意識」とは何か―「気」が意識と意識下を一本化させる
●ユングの「共時性」と脳波の同調性
4.「気」を実践する
●この章の狙い―洋の東西を超えた「気」の実践法
●意識の集中が、脳を活性化する
●「意念=イメージをめぐらす法①―まずバスルームから
●「意念=イメージをめぐらす法②―自分と自然を一体化させる
●「意念=イメージをめぐらす法③―体のなかを「何か」が動いている
●「意念=イメージをめぐらす法④―「何か」になってしまう
●呼吸法①―呼吸だけに意識を集中する
●呼吸法②―体のなかを通る空気を意識する
●呼吸法③―空気が脳を活性化する
●「気」は「情報」となって体をめぐる
エピローグ―心身二元論を超えて
●いま、私たちは真の「パラダイム転換の時期」にさしかかっている
●たとえ、“超能力”でも「自然」ではないのか
●自分のなかに宇宙がある
●気功による右脳と左脳の響き合いが、私たちに宇宙意識をもたらす
まえがき
・『ひょんなことから気功の研究に首をつっこむことになった。本業の脳波分析を気功師に行ったところ、これが驚きの連続であった。これまでの西洋医学の常識では解釈できない現象がつぎつぎに現われたのである。
そこで、いろいろな分野の人びとに聞いてまわることになった。その結果わかったことは、中国以外の国に気功研究の専門家はいないこと、本場の中国でも西洋科学の方法を取り入れた気功研究は緒についたばかりであることなどである。
私たちの測定結果は、最初、一昨年11月の日中シンポジウム「気と人間科学」で発表された。また、NHKテレビで「気功の効果が、世界ではじめて証明された」とも報道された。同時に、昨年、中国を訪問したさいに北京中医学院や気功発祥の地として名高い北戴河気功康復医院などで日中交流セミナーを開き、中国側からも高い評価を受けて、中国人の留学申し込みが相次いだ。そのうちの何人かはすでに私たちの研究室で脳波学の研修と研究に従事している。
気功は中国で二千年以上の歴史を持ち、中医学(中国伝統医学)の理論に裏づけられている。だが、気功の中医学理論を西洋医学のことばに翻訳するのはきわめてむずかしいことだ。西洋医学の立場からいえば、気功を中国におけるその発生から研究し、同時に西洋医学の内実をも変革していかなければ、気功の理解は困難だと思われる。気功が、近代科学のパラダイムを変えるひとつの芽をはらんでいるといわれる所以でもある。
実際、私たちは気功を研究していて、「気」を発しているときの脳波の変化の大きさに驚かされ、脳波研究そのものにとっても大きなインパクトを受けた。というより、脳波そのものの理解に対しても、数多くの示唆を得たといっていいだろう。』
プロローグ―いま、なぜ「気」を問題にするのか
●「気」が知れないから研究する
・「気」も「イメージ」も、ともに高次の神経機能の働きの一つであり、「気」を発しているときの脳波の動きを分析することによって、その実体に迫ることができると思われる。
●「気」を体で感じる方法
①左手を胸のまえに垂直に立て、親指だけを離して他の4本の指はつけたままにする。
②右手は人差し指と中指をつけて立て、他の3本の指を握る。
③右手を左の手の掌の中央に近づけ、はじめは小さく、ゆっくりと円を描くように動かす。このとき、指先を掌にくっつけないこと。
④右手を動かしはじめるとすぐに、左の掌に右手の指先を回している感じが現れるはずだ。「何か」が動いている感じといってもいい。これが「気感」と呼ばれるものだ。
⑤回している右手をゆっくりと左手から離してみる。あるところまで離すと、「気感」が薄れるのがわかるはずである。
⑥「気感」がなくなったら、ふたたび右手を左の掌に近づけていく。この⑤と⑥の動作を繰り返すと、よりいっそう「気感」を体験することができる。
⑦ここまで「気感」を体得できた人は、もう一歩先に進んでみよう。右手と左手のあいだに遮蔽物をおいて、①から⑥までの動作をやってみるのだ。私たちが中国で教わったのは、頭をはさむ方法で、「気」をよく感じる人ならば、これでも「気感」を得ることができる。
以上が「気」を実体験する方法である。
●「気」を脳波で解明する
・目を閉じて何も考えていないときの気功師の脳波は、α(アルファ)波のパワーが非常に小さく、平均すると一般人の半分以下しか出ていない。
・特に驚いたのは、子どもの頃から気功の訓練を積んできた気功師の脳波である。α波だけでなくβ波も小さく、平坦脳波に近いときさえあった。平坦脳波とは「脳死」のときに見られる脳波である。脳機能に何も異常も見られないにもかかわらず、このような異常な脳波が生じるのか不思議である。
・α波は集中力が高いときに出るという一般的な理解とは異なり、気功師が集中した時の状態の脳波とは違っていた。
・体の動きを伴わない「静功」で「気」を発しているときに脳波の動きは激しく、大きな動作を伴う「動功」の時には脳波の動きが減少した。このようなことは常識では考えられないことだった。通常は動きが大きいほど、脳波の動きも大きい。
・気功師の脳波に共通して、棘波(スパイク波)という振幅の大きなとがった波が観察されたことも不思議な現象であった。一般的に棘波はてんかん患者の発作時、それもかなり激しい発作の時に見られる脳波である。
・棘波は気合だけで相手を倒す「遠当」という武術家の脳波に似ている。
●なぜ、「気」がふたりの人間の脳波を同調させるのか
・実験結果の中で、最も驚いたものは気功の時に、「気」の送り手(気功師)と受け手の脳波を同時に測定したところ、両者の脳波に強い同調性が認められたことだった。これを脳波の「同調現象(エントレインメントあるいはトランスパーソナル・シンクロニゼーション)」と呼び、最重要視している。
・気功師は一般人に比べてβ波が右脳に多く出現することが明らかになったが、この変化は受け手にも現れた。
・気功は生理活性物質、特にエンドルフィン(脳内麻薬物質)の分泌に深い関係をもつと考えられている。中国ではハリ麻酔において、脳内麻薬物質の分泌が促進され、麻酔効果をもたらすことが実証されている。
・『脳波の同調現象は、「気」の送り手である気功師から気功の手ほどきを受けたことのある人ばかりでなく、その気功師にはじめて会い、生まれてはじめて「気」を受けた人にも共通して見られた。これまで十数回の実験を繰り返し試みているが、どの実験でもかならずなんらかの同調現象が観察されたのである。したがって、この脳波の同調現象こそ、「気」の謎を解き、気功のメカニズムを解明するカギとなる概念にちがいないと私[品川嘉也先生]は考えている。』
●「東洋」と「西洋」、「科学」と「非科学」のちがいはどこにあるのか
・近代科学が誕生し隆盛をみたのは、近世に入ってデカルトが登場し、心と体を完全に切り離す心身二元論の立場から、精神と身体を別々に研究する方法を確立して以来のことである。それまでは、東洋も西洋も医学の方法や観点にかなり同質なものを抱えていた。
・古代ギリシャから中世ヨーロッパまで、人体にはプネウマという一種の生命エネルギーがあると考えられていたが、これは中医学が「気」を生命エネルギーとする考えと同質のものといえる。
●「気」が新しい科学のパラダイムを創出する
・『あえて近代科学の方法で「気」を研究することにより、西洋と東洋の接点を求められるのではないか―いやむしろ、東西の根本的な相違点が明らかになるのではないか―、そしてそこから新しい科学のパラダイムへ転換していくための視点が生まれるのではないか、という期待を密かに抱いているのである。』
・同調現象は「気」の送り手と受け手との間に何らかの形で、「情報」の伝達が行われていることを意味しているが、この事実は西洋科学のパラダイムの中だけでは理解できないことである。その情報は何によって、どのように伝達されるのか。それが分かれば、それこそ「気」そのものであるはずだ。
1.「気」の源流を探る
●中国気功紀行―はじまりは、あの天安門だった
・気功は中国で道士、医家、儒者、武術家などのさまざまな流派が、伝統的に培ってきた「気」を鍛錬する諸技術の総称である。したがってその内容は、例えば導引、座禅、養生など、実に多岐に渡っている。しかし大きく分類すると、「硬気功」と「軟気功」に大別することができる。
・硬気功は主に武術によって「気」を鍛錬し、超人的なパワーを発揮しようというもので、「武術気功」とも呼ばれる。
・主に医療や健康の維持促進のために行う「気」の鍛錬法が「医療気功」とも呼ばれる軟気功である。そして、軟気功はさらに「外気功」と「内気功」に分かれる。
・外気功による治療の方法には、気功師が患者の体に触れてマッサージのように行うケース、指先を患者に当て「気」を送り込むケース、患者から少し離れて直接体には触れないで「気」を照射するケース等など、様々なものがある。
●内気功―いかに「気」の流れを円滑にするか
・内気功には「按功」、「静功」、「動功」の三種類がある。
・「按功」は、按摩やマッサージによって「気」をコントロールしようとする方法だが、外気功に近い。したがって、内気功の中心は静功と動功になる。
●「気」は物質か、それともエネルギーか
・日本では「気」は人と人の「間」に「気」が感知され、「間」の取り方そのものが「気」を重くしたり、引いたり、許したり、悪くしたりすると考える。
・中国では「気」は物質的なもので、実在する何かだと考えられている。
・日中協力シンポジウム「気と人間科学」では、湯浅泰雄教授は「現代の見方に立っていうと、『気』とはさしあたり、心と身体をひとつに結びつけている生命体に特有なエネルギーである、ということができる」と述べている。
●もともと中国では、「気」はエネルギーと考えられていた
・古代中国では「真気」あるいは「動気」といわれ、人体の生命活動を推進させる動力とみなされていた。つまり、生命エネルギーである。
・中医学では死という現象を「気の離散」という。
・『中医学の血の考え方には独特のものがあり、血はつねに「気」と共にあって、「気」によってコントロールされている。つまり、「気は血の統帥」ということになる。
その反面、私がいうところの抽象的な情報である「気」は、それだけでは活動することができない。「気」の作用がじゅうぶんに発揮されるためには、血による栄養補給が不可欠なのである。すなわち、「血は気の母となる」わけである。
このように「気」の共同作業にアンバランスが生じて「血気不和」になってしまえば、たちまち健康を害し、病気になってしまう、と中医学では考えられている。』
●「気」という「情報」が、経絡をめぐり、経穴(ツボ)に作用する
・私たちの体内では生体を維持するためにさまざまな「情報」が生き交っている。血液中の二酸化炭素濃度が上昇すれば、呼吸中枢に喚起を促す情報が届き、強制呼吸をするように命令が下がる。その結果、呼吸筋が動いてあくびとなる。こうした生体維持システムは、ひとつの「情報」が体全体へ広がってさまざまな臓器に特有な働きを促すという「気」の概念に近い。つまり、二酸化炭素濃度の上昇という情報は、「気のめぐりが悪い」ということで、あくびなどの強制呼吸をすることによってあらたな情報を取り入れ、「気のめぐりをよくする」ことができると考えられる。
・「不能過勉強」とは、頑張り過ぎてはだめという意味で、気功は姿勢も呼吸も、そして「意念」の活動も自然の状態で行うのが大前提であり、自分にとって気持ちがよくないのに、それを無視してまでやってはいけない。
●「気」の解明に向けて、さらなる“知の旅”へ
・気功の理解は統合的な知識を持ったうえで気功師の動作をまねることからはじめなければならないということ。さらに、心理、呼吸、姿勢、意識、運動が一体となって気功が行われなければならず、これらのどれか一つが欠けても気功の真の理解にならない。
感想
まず考慮すべきは、日本人が考える「気」と中国人が考える「気」は同じではないというところです。日本人の「気」は精神的・情緒的なところも含めた心の面を重視しています。一方、中国人は一つのことに集中できる気持ちをつくることとされています。つまり、日本人と中国人では「気」に対する認識が大きく異なるため、同じ視点で考えることはできません。
「気」とは何か?と問えば、中国では、気というものは生命の根源物質であり、細胞の隅々まで行き渡って、身体の中で循環しているものという考えです。帯津先生もこれが全て、これ以上でもこれ以下でもなく、中国において「気」はシンプルで明確なものであるとのお話をされています。
また、「気」は「気血」と呼ばれることも多く、気と血は相互に依存しているものとされています。以下の図のように、血は気に栄養を与え、気は血を推動します。推動とは「推し動かす」ことです。
東洋医学においても、「血」は「血液」を指しています。血液は血球と血漿に分かれますが、科学が解明した血漿内の成分は非常に多岐に渡っています。「気は血を推動する」、具体的に何を推動しているのか、西洋医学に基づいて洗い出してみました。
血漿に含まれる主な生理活性物質について以下にまとめます。
1.タンパク質
血漿タンパク質は血漿の重要な構成要素で、様々な機能を果たします。
・アルブミン
- 血漿タンパク質の約60%を占める
- 浸透圧の維持に重要
- ホルモンや薬物などの運搬に関与
・グロブリン
- 抗体として機能し、免疫系で重要な役割を果たす
- 鉄、銅、脂質などの運搬にも関与
・フィブリノゲン
- 血液凝固に不可欠なタンパク質
- 出血時に活性化されてフィブリンとなり、血栓を形成
・その他のタンパク質
- プロトロンビン:血液凝固因子の一つ
- トランスフェリン:鉄の運搬に関与
- リポタンパク質:コレステロールなどの脂質の運搬に関与
2.成長因子
血漿には様々な成長因子が含まれており、組織の修復や再生に重要な役割を果たします。
- 上皮成長因子(EGF)
- 血小板由来成長因子(PDGF)
- 線維芽細胞成長因子(FGF)
- 血管内皮成長因子(VEGF)
- インスリン様成長因子(IGF)
3.電解質
血漿中の電解質は体液のバランスや神経・筋肉の機能に重要です。
- ナトリウム
- カリウム
- カルシウム
- マグネシウム
- 塩化物
- 重炭酸塩
4.ホルモン
血漿は様々なホルモンの運搬経路となっています。
- 甲状腺ホルモン
- 副腎皮質ホルモン
- 性ホルモン
- バソプレシン
5.その他の生理活性物質
- 補体:免疫系で重要な役割を果たすタンパク質群
- サイトカイン:免疫反応や炎症反応を調節する
- ケモカイン:白血球の遊走を制御する
- 抗酸化酵素:スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)など
これらの生理活性物質は、血漿の主要な機能である物質輸送、免疫防御、血液凝固、pH調整などに重要な役割を果たしています。血漿の組成は、健康状態や疾患によって変化する可能性があり、その分析は診断や治療に有用な情報を提供します。
画像出展:「血液には何が含まれており、どこで作られるのでしょうか?」
こちらの図は上記の内容を表したものではありません。血漿の中には様々な生理活性物質が含まれているというイメージを持って頂きたいと思い貼りました。
血漿にはタンパク質、成長因子、電解質、ホルモン、その他の生理活性物質など、多種多彩、極めて大切な物質が血漿(血液)には含まれており、「気血」は生命にとって必須のものであるということが理解できます。
中国の「気というものは生命の根源物質であり、細胞の隅々まで行き渡って、身体の中で循環しているもの」という考えにも合致しています。
「何を」推動しているのかはだいぶ分かってきたので、次に、「どうやって」推動しているのかを調べてみました。
主な機能は、①「臓腑・経絡の生理活動の促進」、②「血液循環の推進」、③「津液の輪布(全身の水分の分配)」となっています。先に調べた血漿内の物質(生理活性物質)の働きに照らし合わせれば、これらの3つの働きに関わっていると考えて問題ないと思います。
この中で特に注目したいのは、関係の深い臓器として“腎臓”が書かれていることです。そこで、気の推動作用と腎臓の関係を調べた結果が以下の表です。ここでは“腎臓”ではなく“腎”となっていますが、こちらの表の方が正しいように思います。なお、「腎臓と腎の違い」についても調べました)。
続いて、気の推動作用を妨げる主な要因は何かということを調べてみました。以下がその回答ですが、その答えはストレスでした。
帯津先生は、「気とは余分のエントロピーを上手に捨てる能力ではないか」とのお考えをもっておられます。槌田先生はエントロピーを分かりやすい言葉に置き換えると、「汚れの量」と説明されています。
かなり強引な解釈なのですが、「エントロピー≒汚れの量」とは、「過度なあるいは長く続くストレス」に起因していると考えると、「気とはストレスを軽減する能力を有するもの」と理解することも不自然ではないと思います。
そこでAI(Perplexity Pro)に2つの質問をしました。1つは「自律神経系のバランスを整える主な有効なものを教えてください」、もう一つは「長く続く心身の過度なストレス状態をリセットする有効な生理活性物質は何ですか」という質問です。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)で作成」
質問:「自律神経系のバランスを整える主な有効なものを教えてください」
回答:ほとんどは栄養素と生活習慣ですが、発酵食品をみると、腸内環境について触れています。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)で作成」
質問:「長く続く心身の過度なストレス状態をリセットする有効な生理活性物質は何ですか」
回答:有名な物質はセロトニンとオキシトシンですが、他にGABAとL-テアニンの組み合わせで睡眠の質を改善できそうです。
上記の2つの表を見ると、「気とは余分のエントロピーを上手に捨てる能力ではないか」という帯津先生のお考えを理解するキーワードは、①ストレス、②自律神経、③生理活性物質、ではないかと思います。
画像出展:「ストレスについて」
こちらはストレスに対して中枢神経と末梢神経(自律神経)の働きを示したものですが、複数の生理活性物質も出ており、確かに①ストレス、②自律神経、③生理活性物質、はキーワードといえると思います。
帯津先生のお話の中で、もう一つ強く印象に残ったことは以下のお話です。
『気という言葉を使わないで説明するとすれば、何か身体の中の潜在能力を掘り起こすような方法論が、気功なんじゃないかと。しかし、そうすると身体の中の潜在能力というのはどこにあるんだろうということになる。そして、やっぱり私はもともと外科医ですから、身体の中のすき間なんていうのを思いつきました。臓器と臓器のあいだ、どうもあそこにいろんな物理事情があって、一つの場をつくっているんじゃないか。そういう人体の中の場を「生命場」と呼んでもいいのじゃないか。その場のポテンシャルというか、エネルギーのようなものが、きっと自然治癒力と関係しているんじゃないか、そう思ったんですね。』
以下は既出の図ですが、肉眼で認識できるものとして、臓器と臓器の間にはファシア[膜]があります。そしてファシアは動脈、静脈、神経、リンパ管を覆っていますので、臓器と臓器の間には血管、神経、リンパ管を通じて様々な生理活性物質が存在していることになります。
様々な生理活性物質とは何か? どうすればそれらを活性化できるのか? AIに表にまとめてもらいました。
この表に先頭に出てきたのが“活性酸素”でした。活性酸素には以下の4種類があります。当然ではありますが、分子“0(酸素)”を含んでいます。なお、活性酸素はミトコンドリア内の電子伝達系で、酸素を消費する過程で発生するものです。
「“酸素”?ということは“気”に何か通じるのでは?」と思ってしまいました。そこで、またまたAIに活性酸素の生理活性物質としての働きについて質問することにしました。
1.活性酸素の二面性
活性酸素は、一般的に有害なものとして認識されがちですが、実際には生体内で重要な生理的役割を果たしています。
2.細胞内シグナル伝達への関与
1)レドックスシグナリング
- 活性酸素は、細胞内のタンパク質の特定のアミノ酸残基(主にシステイン)を酸化することで、タンパク質の機能を変化させます。 これにより、細胞内の情報伝達経路が活性化されます。
2)転写因子の活性化
- 活性酸素は、NF-κBやAP-1などの転写因子を活性化します。これらの転写因子は、炎症反応や細胞生存に関連する遺伝子の発現を制御します。
3.免疫系での役割
1)病原体の排除
- 白血球(特に好中球やマクロファージ)は、活性酸素を産生して病原体を攻撃します。この過程は「酸化バースト」と呼ばれ、感染防御に重要です。
2)炎症反応の調節
- 適度な量の活性酸素は、炎症性サイトカインの産生を促進し、適切な免疫応答を誘導します。
4.細胞の分化と増殖
- 活性酸素は、細胞の分化や増殖を制御する因子として機能します。特に幹細胞の分化過程において、活性酸素レベルの変動が重要な役割を果たします。
5.血管新生の促進
- 低酸素状態では、活性酸素の産生が増加し、血管内皮増殖因子(VEGF)の発現を促進します。これにより、新しい血管の形成(血管新生)が促進されます。
6.ストレス応答の誘導
- 活性酸素は、細胞にストレスを与える因子として認識され、ストレス応答遺伝子の発現を誘導します。これにより、細胞は環境の変化に適応するための機構を活性化します。
7.注意点
活性酸素の生理的役割は重要ですが、過剰な産生は細胞傷害を引き起こす可能性があります。そのため、生体内では活性酸素の産生と消去のバランスが厳密に制御されています。
以上のように、活性酸素は生体内で複雑かつ重要な生理活性物質として機能しており、適切な量と場所での産生が健康維持に不可欠です。
まとめ
帯津先生の「気とは余分のエントロピー(“汚れの量”)を上手に捨てる能力ではないか」、「臓器と臓器の間に“生命場”というエネルギーのようなものがあり、自然治癒力と関係しているのではないか」という二つのお話を中心に振り返ると、①ストレス、②自律神経、③生理活性物質、④ファシア(膜)に注目すべきではないかと思います。
そして、目には見えない生理活性化物質を促進させる要因において、特に酸素分子“O”(Oxygen)を含み、酸化ストレスという功罪を併せ持つ、⑤活性酸素と抗酸化、にも注目したいと思います。
生物と無生物の違いは何かと考えると、例えば自動車を動かすにはガソリンや電気が必要ですが、走行距離に比例して自動車は劣化していく一方です。それに比べ、生物は食べたものから栄養素を吸収し体を作ります。そして、不用になった物質は体外に捨てられます(左のスクリーンショットで、緑色は“餌”、オレンジ色は“ネズミ”です。粒々になっているのは分解すると分子レベルに分解されるためという意味だと思います)。これは自動車でいえば、ガソリンという燃料から自動車部品のハンドルやシートなどが作られるということです。しかしながら、そのようなことはありません。
また、動画の後半には「生命には、物質の下る坂を登ろうとする努力がある」というお話があるのですが、これは帯津先生の「気とは余分のエントロピーを上手に捨てる能力」言い換えれば「生命を維持しようとする能力」に通じるもののように思いました。
エントロピーという言葉は帯津先生の『ホリスティック医学入門』という本で知りました。その時に思ったことは、ブラウン管のテレビでした。なお、これは2020年6月のブログ“ガンとホリスティック医学3”から持ってきました。
画像出展:「テレビログ」
例えばテレビ内に埃が溜まり(エントロピーが増大)、バンバン叩くという行為(刺激)により埃が下に落ちて(エントロピーが減少)映った(治った)ということかなと勝手に解釈しました。
これは鍼の刺激により、体内に増大したストレス(エントロピー?)を減少させ、元気を取り戻したというメカニズムに似ていないだろうかと思いました。
槌田先生はエントロピーを説明する最も相応しい言葉は“汚れの量”であるとお話されています。
テロメラーゼという酵素を発見し、2009年のノーベル生理学・医学賞を受賞されたエリザベス・H・ブラックバーン博士の『テロメア・エフェクト』という本に書かれた運動後の回復のプロセスは、鍼治療による筋・筋膜への微細な損傷に対する、回復プロセスにも通じる部分があると思います。なお、ここでのキーワードは“体の掃除”です。
画像出展:「テロメア・エフェクト」
・運動後に回復反応が起きる。
・オートファジーにより、細胞内の損傷分子は食べられてしまうので炎症を防ぐことができる。
・オートファジーでは対応できない大量の損傷した分子がある場合は、細胞は死滅するが、これはアポトーシスと呼ばれ炎症や残骸を残さない綺麗な死に方である。
・運動は酸化ストレスを減少させている。
・運動後の回復反応により体内では細胞の残骸の掃除が続く。
今回の『気とエントロピー』は帯津良一先生[帯津三敬病院院長]と槌田敦先生[物理学者・環境経済学者]による対談になっています。帯津先生はエントロピーに関しては、槌田先生の著書『エントロピーとエコロジー「生命」と「生き方」を問う科学』が非常に参考となったとのお話をされています。そこで、私も最初に槌田先生のその著書を拝読させて頂くことにしました。
特に印象に残ったことは以下の7つです。
1.エントロピーとはあらゆる現象の基本法則である。
2.生命を論ずるとき、エントロピーの特性を一番よく表しいているのは「汚れ」である。さらに正確にいうと、「汚れの量」であり、エントロピー増大の法則とは、汚れ増大の法則といえる。
3.『生命体は、自己を復元することによって自らを維持している。復元のための活動にとって最も大切なことは、シュレディンガーが指摘したように、生命活動によって生じた余分のエントロピーを生命体外へ捨てることにより、自己のエントロピー水準を復元することである。この「余分の」というところが大切である。』
※ご参考 “エルヴィン・シュレディンガー 生命とは何か 松岡正剛の千夜千冊”
4.『エントロピーを捨てる方法は、二通りしかない。物にエントロピーをくっつけて捨てるか、熱にくっつけて捨てるか、である。つまり、物や熱は、エントロピーという「汚れ」を体外へ捨てる雑巾のようなものなのである。』
5.『血液の循環、リンパ液の循環、その他の物質代謝など、多数の循環がある。つまり、生命というのは、化学者のいうような機能をもった物質の集まりというよりは、むしろ、多数の循環の調和ある動的な集合なのである。』
6.『生命というのは、外から見れば流れの系、内を見れば多数の循環からなる系というところに特徴がある。この場合、ある循環と別の循環の間で、エントロピーの受け渡しが過不足なく行われているとき、生命は順調に維持されているといえる。つまり、健康状態である。しかし、調和がとれなくなって、エントロピーの受け渡しがうまく進行しなくなると、その波及の結果、いたるところで循環が回転しなくなる。つまり病気の状態である。そして、循環が多数の箇所で止まってしまい、もはや回復しなくなったときが死ということになる。』
7.『積極的・主体的に、循環を維持しようとして働くような系が、「生きている系」なのである。これが生命固有の本質といってよい。』
特に、エントロピーを「汚れの量」であると考えること。そして、生命のキーワードに「循環」があること、この2つを頭に入れて、帯津先生の著書を拝読させて頂くことにしました。
もくじ
ちょっと長い「はじめに」
1章 エントロピーと出会う
①日本の「気」と中国の「气」
■日本人は気が大好き
■エントロピーが気になっていた
■気とエントロピーの関係
■誤解のまま流布したエントロピー
②生命はエントロピーを捨てながら生きている
■高尚な理論だけが一人歩き
■地球も生命もエンジンの法則で動いている
2章 気とエントロピー
①中国医学はエントロピーの医学
■エントロピーは測定できる
■気とは「場」の情報?
■物理の場と生命場は異なる
■静的な秩序か、動的な秩序か
■中国医学の根底にあるもの
②余分のエントロピーを捨てる方法
■気功の意義
■吐く息でエントロピーを捨てる
■食物のエントロピー
■尿療法の意味
■発汗という最大のエントロピー廃棄能力を持つ人間
3章 健康とは、病気とは、自然治癒力とは
①環境も人体も物質循環が大切
■ベルタランフィの問題定義
■循環で復元し、また同じことをする
■環境破壊とは何か、病気とは何か
■廃棄物は他者の有用資源
②健康回復の条件
■自然治癒力―誰が命令しているのか
■生命力とは、元へ戻す修繕力
■細胞にも意思がある?
4章 がん治療と気力
①がん患者にとって最高の良薬とは
■気力が生命を左右する
■信頼すれば効き目もアップ
■気持ちのいいことを探す
■わずかな希望が心の平安をもたらす
■心がすべてを決める
②どんな治療を選ぶかは、どう生きるかということ
■治療法は患者が決める
■医者の指示は絶対か
■手術は過渡期の医学かもしれない
■ターミナル・ケアは西洋医学の発想
■現代人の健康至上主義
5章 人間を丸ごと見るということ
①人間全体とは何だろう
■ホリスティック医学は場の医学
■総体としてまとまる
■環境問題とホリスティック医療
■極端な食餌法はマイナス
②治療法の選び方
■固定観念を捨てよ
■ピタリと合えばグングンよくなる
■患者の死を枕元で見送る
■医者と患者ではなく、闘う仲間
6章 研究者の条件
①現役でいられる限界とは
■医者に必要な資質
■理系から文系へ
■長生きしなければならない時代
■「現場」を離れないことが大事
②真の学問を復活すべき
■学者の衰退
■学問の価値は仲間の数で決まる?
■学問の基本に戻るできとき
ちょっと長い「おわりに」
1章 エントロピーと出会う
①日本の「気」と中国の「气」
■日本人は気が大好き
・日本人は心の作用にも「気」を使う。これは心の問題を日本語では気の問題のように捉えることが少なくない。一方、中国では日本とは異なり心の問題で「气」を使うことは少なく、基本は、息に関係する言葉として使われている。
・日本語の「気」と、気功でいわれている「気」のどの辺りが同じで、どの辺りが違うのかを明確にしたい。
・気功の「功」は「習練あるいは習練の成果」という意味である。気功はもともと導引といって身体を揺り動かしたり、呼吸をしたりなどの、さまざまな養生法の総称である。
・1950年代には、養生法は約2400種あり、それを「気功」という言葉に統一した。その定義は「正気を養うことを主たる目的とする自己鍛錬法を気功と呼ぶ」となっている。
・『中国では、正気、気というものは生命の根源物質である、細胞の隅々まで行き渡って、身体の中で循環しているものという考えがありますから、それ以上あれこれと説明することはしません。自明の理なんです。』
・日本の気、例えば「病は気から」の気は気持ちのことである。つまり、日本の気は精神的・情緒的なところも含めた心の面を重視している。
・中国の気功では、心を調えるというのは気持ちや感情を調えるということではなく、一つのことに集中できる気持ちをつくることである。雑念を払って本当に集中できる気持ちをつくるということである。そのため、中国人が考える心と日本人が考える心とは違う。
・『中国の古典医書に「黄帝内経」という本がある。この三章(二)節「七情傷気」の中に「百病生於気也」という文章がある。これを日本語に直訳すると、「多くの病は気から生ずる」ということになる。しかし、ここでいう「気」は、日本語でいう病人個人の「気持ち」ではなく、宇宙や生命の根源要素を意味していると考えられる。
ただし、七情(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)が気を傷めるとあるから、日本語でいう気は中国語では「情」にあたり、情が気を傷めるから、結果的に病気になるということではないだろうか。』
■エントロピーが気になっていた
・『気というもの中国では、既成の事実というか、その存在を誰も不思議に思わないんですね。気というのは生命の根源物質である。宇宙にも人体にもあまねく存在している。したがってそれ以上何かしようとしないわけですよ。そういうふうに決めているんです。ところが日本の場合は、中国医学を説明するのに、気の問題になると、どうもそこで立ち往生してしまいました。何とかうまく説明する方法がないものかと、中国の本などをいろいろ読んでみましたけれど、「気は生命の根源物質である」「気功はその正気を養う」というところから一歩も出ていませんでした。びっくりするほど分厚い専門書にも、それ以上突っ込んだ説明はありませんでした。
ですから、私が、がん治療に中国医学を取り入れたとき、大方の西洋医学の先生たちは、中国医学は経験的な医学で、何の理論もないし、統計処理もできないものだと言っていました。しかし、私は違うと、そうじゃないと。科学が支えていなくても、やっぱり伝統がありますし、西洋医学とは違う立場から病というものをとらえているんだと思っていたものですから、そこを何とか西洋医学の仲間に説明しようと思っていろいろ苦労したんですよ。気というものが、何か物事に秩序を与える作用は間違いなくあると。そういう原理なのか情報なのか物質なのかは分かりません。でも何かあるはずだと。
そういうことをずっと考えていたものですから、あるときすっとエントロピー増大の法則というものに関係しているのではないかと思いついたんです。それからエントロピーに関する本を読み始めたんですが、このエントロピーがまた難しくて分からないんです。』
■誤解のまま流布したエントロピー
・有名なエントロピー増大の法則というのは、物体が活動したり変化したりすると、必ずエントロピー(汚れの量)が増えるという法則である。
②生命はエントロピーを捨てながら生きている
■高尚な理論だけが一人歩き
・生き物がなぜ簡単に死なないのかを分かるように説明したのがシュレディンガーであり、人間が死なないのはエントロピーを捨てるからだと説明した。
・動物は、食物を食べ、水を飲み、空気を吸っている。これらの物質は体内に入る。しかし、排泄し、排気し、放熱しているのでエントロピーを体外に捨てることができる。
・気とは余分のエントロピーを上手に捨てる能力ではないか。
2章 気とエントロピー
①中国医学はエントロピーの医学
■気とは「場」の情報?
・「場」とは清水博先生が提唱されているものである(参考:“NPO法人 場の研究所”)。
・『気という言葉を使わないで説明するとすれば、何か身体の中の潜在能力を掘り起こすような方法論が、気功なんじゃないかと。しかし、そうすると身体の中の潜在能力というのはどこにあるんだろうということになる。そして、やっぱり私はもともと外科医ですから、身体の中のすき間なんていうのを思いつきました。臓器と臓器のあいだ、どうもあそこにいろんな物理事情があって、一つの場をつくっているんじゃないか。そういう人体の中の場を「生命場」と呼んでもいいのじゃないか。その場のポテンシャルというか、エネルギーのようなものが、きっと自然治癒力と関係しているんじゃないか、そう思ったんですね。』(帯津先生の指摘される「身体の中のすき間」にはファシア[膜]があります。そしてファシアはライフラインともいえる動脈、静脈、神経、リンパを覆っています。帯津先生の指摘される「生命場」にもファシアは何かしらの関りを持っているのではないかと想像します)
・『身体のポテンシャルを上げる方法論が気功なんじゃないかと思って、いろいろ考えてきました。そうすると、気はまだはっきりとは分かりませんが、その場をつくっている物理量でもいいし、清水先生が言われるように何か場の情報みたいなものでもいいかなというふうに今は思っています。』
・『生命活動を含めたすべての活動では、活動の潜在能力を取り入れて、それを用いて活動すると、その潜在能力が減って、エントロピーになるとして説明できます。つまり、「気」と活動の潜在能力(=ポテンシャル)は、同じものということになります。分かりやすく言えば、「気」とは、パワーになる可能性のあるもの(=ポテンシャル)ということではないでしょうか。』
■静的な秩序か、動的な秩序か
・『この(各器官)配置図の中で、あちらの臓器からこちらの臓器へものが流れる、たとえば血液が流れたり、リンパ液が流れたり、その他いろんなかたちで、さまざまな物質が流れ、その流れが過不足なく循環している。それが滞りなく行われる。そういうのが健康な状態だと思うんです。循環が滞って一方から流れ出たものが、もう一方のところでどんどん溜まって肥大化してしまったら、その臓器はダメになってしまう。それが病的な状態です。だから、こういうふうに体内のすべての循環がスムーズに流れている状態を「気の巡りがいい」と言うのではないかと思うのです。これを気と表現しているのではないかと。少なくとも、科学的に言うなら、そこまでは間違っていないと思います。』
■中国医学の根底にあるもの
・中国医学では循環の問題を重視している。気滞、血瘀など。血を生き生きさせて循環をよくする。そういうものが、すべて中国医学の治療の中にある。しかも、中国医学ではエントロピーを捨てるための排泄を重視している。
・中国医学の考え方はすべてエントロピーで説明できる。
②余分のエントロピーを捨てる方法
■吐く息でエントロピーを捨てる
・東洋医学の呼吸法の場合は、吐く時つまりエントロピーを捨てるときに意識をしっかり持つ。
・呼気のときに副交感神経が優位になる。
■食物のエントロピー
・エントロピーで一番大きな値となって出てくるのは廃熱、熱のエントロピーだが、食べ物には左右されない。量については小食であれば消化する作業が少ないので、発生するエントロピーは小さいが、エントロピーをたくさん捨てることはできない。つまり、食物については大きな影響をうけない。
・エントロピーを捨てる方法は汗、皮膚、呼気など排熱を利用するのが多い。一方、尿からの排熱は少ない。
・人間や動物が食べたり飲んだりするのは、エントロピーを捨てるためである。生命活動すれば、必ずエントロピーが生ずる。このためこれを捨てなければならない。しかし、エントロピーだけを分離して捨てることはできない。
■発汗という最大のエントロピー廃棄能力を持つ人間
・動物の中で馬と人間は汗をかくので、熱エントロピーを上手に捨てることができる。長時間の労働ができるのはそのためである。
3章 健康とは、病気とは、自然治癒力とは
②健康回復の条件
■自然治癒力―誰が命令しているのか
・『自然治癒力といっても、それがあることはあると思うんですけれど、本体はまだ西洋医学も東洋医学もつかんでいません。内分泌とも循環とも神経の伝達とも免疫とも違う何かがあるんじゃないかと私たちは考えてるわけです。
これは一般の素人の方でも、自然治癒力というものがあると考えています。現に傷が自然に治る。私もそうですが、西洋医学の先生方というのは、創傷治癒といって、傷が治る時のメカニズムはちゃんと習うわけですね。素晴らしく治ってくると。これには循環も関係しているだろうし、神経もホルモンも免疫もみんな働いている。その総司令部みたいなものがきっとあるだろうと考えているわけです。
ところが、これは誰が指図しているのか問うと、今のところ誰にも分からない。誰が命令してやっているのかを誰も教えてくれないわけですよ。これは西洋医学でも一切解明されていません。ところが西洋医学の先生方に、自然治癒力というものの存在を信じますかと言うと、みんな信じるといいますよね。そこのところが面白いんで、これからの、研究に待たなきゃいけないんでしょうけどね。』
■生命力とは、元へ戻す修繕力
・自然治癒力と生命力は同じ意味だとは思うが、生命力の一つ手前にあるものが自然治癒力という思いもある。
・生命力は自然治癒力より広い概念で、生命の本質に沿ったものではないか。
・生命の原点は、生きようとする力、元へ戻そうとする力ではないか。
■細胞にも意思がある?
・『多田先生が自著[「免疫の意味論」]の中で、免疫というものをスーパーシステム、つまり自己組織化していくシステムと言っている。要するに一つの骨髄細胞から出て、いろんな細胞に分かれて、それぞれが役割分担して動く。その時に内外の状況に応じて、役割をひょいと変えたりすることを自分でやっている。これはやっぱり何か指令を出すところがあるはずだと。それは遺伝子かもしれないけど、もっと場の情報のようなものではないかと表現しておられるんですよ。
私もどうもそういう気がします。ですから先の指摘のような、生命場は静的なのか動的なのかと問われると、私も混乱してしまうんですけど、どちらにしても私が今まで言っている場というものの何か働きというものがあるだろうと思うんです。私はエネルギーのようなものがあるんじゃないかと考えています。』
4章 がん治療と気力
①がん患者にとって最高の良薬とは
■気力が生命を左右する
・気力は確かに生命と深くかかわっている。がん患者の最後を数多く見ているので、そういうことは何度も経験している。気力をぱっとなくしたとたん、みるみる衰弱していく。例えばホスピスに移るのを決めたとたん、移る前に息を引き取ってしまうことは少なくない。
■気持ちのいいことを探す
・治療には患者本人のその時の気持ち、希望をなるべく汲み取るという姿勢が非常に重要である。
■心がすべてを決める
・『私なんかも本当に心は大切だし、極端なことを言えば、将来のがん治療の中でいちばんの主力は心だろうと思っているんです。遺伝子レベルまで解明していったとしても心が肝心だと思っているんですね。この心が、もう少し客観的というか、数値化ということができるようになれば、その作用がもっと明確になってくるんじゃないかと考えています。』
5章 人間を丸ごと見るということ
①人間全体とは何だろう
■ホリスティック医学は場の医学
・1番大切で、西洋医学も東洋医学も不十分な領域は心の領域の問題である。
・ホリスティック、人間全体とは何だろうと思っている内に、隙間のことや場の問題を考えるようになった。そして、場は自分自身の中にもあるが、大きな場の中の一部でもあると考えるようになった。
②治療法の選び方
■ピタリと合えばグングンよくなる
・ホリスティックと言っても患者ごとにみんな異なる。
・『いろんな療法もピタッと合うと、これがまたよく効くんですよ。先ほども言いましたが、バケツの中に塩を入れて足を揉む。これでよくなっていく人が現にいるんです。気功をやったり、漢方薬をやったり、点滴もやったりして、いろんなことをやっているんだけど、あんまりよくならないなと思ってるときに、どこかからがバケツに塩を入れて届けてくれた人がいるんですね。その中で足を揉み始めたら、グングンよくなっていく。
六人部屋にいた人ですけど、その人がよくなったのを見て自分たちもやろうというので、バケツを買って来て、塩を分けてもらって他の五人もやり始めた。しかし、他の五人はあんまりよくならない。やっぱりこの人には気持ちも含めて何かがピタッと合ったんですね。こういうことが終始あるから、私は何でもやってみた方がいいと思うんです。費用がかかり過ぎることや、これはちょっと危ないぞというもの以外はね。』
2冊の本を読み終え、“氣”の理解を深めるためには、あらためて基礎的な勉強をし直す必要があると考え、鍼灸院の本棚から「東洋医学概論」という専門学校の教科書を引っぱり出してきました。当時は国家試験のために勉強していましたが、今回は“氣”という観点から目を通していこうと思います。当時、見過ごした大事なことを発見できるかもしれません。
編者:社団法人 東洋療法学校協会
著者:教科書執筆小委員会
発行(第1版第19刷):2011年3月
出版:医道の日本社
補足)”氣”について
「気」という漢字が、”氣”に代わって使われるようになったのは戦後のGHQによる漢字の改良が行われたときだそうです。
ご参考:“「氣」はなぜ「気」に変わった?そもそも「米」が入っていた意味は?!”
目次
第1章 基礎理論
1.東洋医学の起源と発展
1)東洋医学の特徴
(1)理論と実践
(2)東洋医学を生み出した思想的な特徴
(3)人と自然についての見方
(4)人体を小自然(小宇宙)と見る
2)東洋医学の起源
(1)原始的医術
(2)「気の思想」による生理・病理観
(3)鍼灸、湯液、気功、導引の起源
3)東洋医学の発展
(1)『黄帝内経』の成立
(2)中国医学の系譜について
2.陰陽五行論
1)陰陽学説
(1)気の思想
(2)陰陽概念の発生
(3)陰陽論の特徴
2)陰陽論の医学上の具体的な応用
(1)人体の組織構成
(2)生理機能の陰陽
(3)病理変化の陰陽
(4)診断と治療の陰陽
(5)三陰三陽について
3)五行学説
(1)五行の発想と限界
(2)初期の頃の素朴な五行説
(3)五行と気の思想
(4)五行の相互関係
(5)五行説の効用と限界
(6)五行学説の特徴
4)五行学説の医学への応用
(1)五臓の生理機能を説明する
(2)五臓間の相互関係を説明する
(3)疾病の伝変を説明する
(4)診断と治療に用いる
第2章 東洋医学の人体の考え方
1.気血津液
1)気の生成と種類
2)精と神
(1)精
(2)神(神気)
3)気
(1)原気(元気)
(2)宗気
(3)営気(栄気)
(4)衛気
(5)その他の気の概念
4)血
5)津液
2.五臓六腑(蔵象)
1)臓腑概説
(1)臓腑とは
(2)臓腑間の関係
(3)臓腑の位置
2)五臓
(1)心
(2)肝
(3)小腸
(4)大腸
(5)膀胱
(6)三焦
4)奇恒の腑
(1)骨・髄・脳
(2)脈
(3)女子胞
3.臓腑経絡論
1)経絡概説
(1)経絡説の成立ち
(2)経絡の構成
(3)経絡の機能
(4)十二経脈について
(5)奇経八脈
(6)その他の経絡系
第3章 東洋医学の疾病観
1.病因論
1)概要
2)外因(六淫)
(1)風
(2)寒
(3)暑(熱)
(4)湿
(5)燥
(6)火
(7)六淫以外の外邪
3)内因(七情)
(1)七情
(2)内因と気血
(3)内因と五臓
4)不内外因(飲食労倦)
(1)飲食
(2)労倦
(3)外傷
2.病理と病証
1)八綱病証
(1)病位の違いでとらえる
(2)病情によってとらえる
2)気・血・津液の病理と病証
(1)気の病理と病証
(2)血の病理と病証
(3)津液の病理と病証
3)臓腑病証
(1)五臓の病証
(2)六腑の病証
4)経絡の病証
(1)是動病と所生病
(2)十二経脈の病証
(3)奇経八脈病証
5)六経病証
(1)六経病
(2)三陰三陽病
6)代表的な疾病
第4章 診断論
1.四診
1)診断の一般
(1)診断の目標
(2)診断の心得
(3)診断の種類
2)望診
3)聞診
4)問診
5)切診
(1)脈診
(2)腹診(按腹)
(3)切経
2.証のたて方
1)証について
(1)湯液の証(漢方の証)
(2)鍼灸の証
(3)本証と標証
(4)主証と客証
(5)その他
2)証の決定
(1)証決定の手順
(2)証の総合決定
第5章 治療編
1.総論および原則
1)養生法
2.治療法
1)古代鍼灸法
(1)九鍼
(2)刺法
2)補瀉法
3)その他の選穴法
4)灸法
5)治療原則
(1)治療の前提条件
(2)治療原則
3.他の東洋医学療法
1)手技療法
(1)按摩
(2)導引
2)薬物療法
(1)薬物療法の概況と歴史
(2)薬物療法の考え方
(3)診断と治療原則
(4)薬物
(5)処方
ひと通り目を通して最も気になったことは、第2章の「東洋医学の人体の考え方」です。
・東洋医学では人体の仕組みは“気の類”と“形の類”と“経絡類”の三つから成り立っていると考えます。
‐気の類:生体の活力として働く。精・気・神があり、三宝と呼ぶ。
‐経絡類:気血の通路のことで、内に臓腑と結びつき、外に頭、体幹、四肢、体表部と連絡している。
‐形の類:身体の構造を形作る。体内の各器官や組織を指す。五臓を中心とした「蔵象」によって相互に関連づけられている。
以下は教科書にあった「東洋医学の人体の仕組み」の図をベースに、一部加筆(青字部分)したものですが、追記した内容はあくまで個人的な考えです。
図の3番目にあった、“形の類”とは五臓六腑を中心とする考えであり、西洋医学では臓器に相当します。例えば、肝と肝臓、腎と腎臓は、それぞれ似て非なるものです。
画像出展:「九州大学附属図書館企画展」
『西洋では身体(ギリシャ語 soma)と魂(ギリシャ語 psyche)はすでに古代から分離したものだった。このことは、一方では体内を観察することへの躊躇を少なくし、医学の発達を可能にしたが、他方、病気はますます純粋に身体的、物質的現象として捉えられるようになった。西洋では今世紀になって、心身医学のような新しい分野が誕生し、この溝を埋める試みがなされるようになっている。』
図の2番目の“経絡類”は、「内に臓腑と結びつき、外に頭、体幹、四肢、体表部と連絡している」。とされています。これに関し、私は「経絡≒ファシア」と考えています。MPS(筋膜性疼痛症候群)の筋膜もファシアです。ファシアの説明は一般社団法人日本整形内科学研究会さまのホームページよりご紹介させて頂きます。
ファシアとは:『全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の網目状組織構造。臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム。』
皮下組織の層は浅筋膜に相当します。この層には動脈、静脈、神経、リンパ、受容体など生命のライフラインやセンサーともいえる、神経脈管系が機能しています。ファシアが重要なのは膜という構造的(物理的)な役割に加え、そのファシア内の神経脈管系が相互的に生命維持の役割を担っているためです。
ファシアへの機械的な刺激は、これらの各機能に働きかけ、心身のバランスを整え、酸素や栄養素を提供し、また、からだの掃除をして健康にしてくれるものと考えています。
画像出展:「細胞と組織の地図帳」
真皮の下の皮下組織は浅筋膜と呼ばれており、図中では浅筋膜の中に動脈、静脈、神経、受容体が書かれています。また、この図には書かれていませんが、浅筋膜の下に深筋膜があります。ファシアは広範囲かつ複合的に広がっている結合組織であるといえます。
※リンパ管については下の図をご覧ください。
そして、図の1番目の“気の類”が特に西洋医学と大きく異なる部分であり、まさにこの“気の類”を明らかにすることが、『氣とは何だろう』のヒントになるのではないかと思います。
それは、「生体の活力として働く。精・気・神があり、三宝と呼ぶ」と説明されています。(「東洋医学の人体の仕組み」をベースにした冒頭の図)ここでは“気の類”を広義の“氣”とします。一方、「精・気・神」の中の「気」を狭義の“氣”とさせて頂きます。
そして、広義の気、つまり“気の類”を中心にして検討を進めます。少々強引ですが、「精≒消化系/代謝系」、「気≒呼吸系/循環系」、「神≒神経系」とイメージしたとすると、「精・気・神」は心身のすべてを包含していると考えても良いのではないかと思います。
余談になりますが、「神経系」という用語は江戸時代、『解体新書』を翻訳された杉田玄白が命名したもので、「神気の経脈」であるとされています。このことは、西洋医学が日本に伝来されてきた当時から、脳と神気との関係性が注目されていたということであり、大変興味深いものです。
画像出展:「語源から読み解く自律神経」
現代において精神活動は思考、認知、記憶、創造、感情などを指します。これらの精神活動は新皮質の大脳皮質の働きです。一方、東洋医学の脳は奇恒の腑の一つで、働きは運動を円滑に行い、耳目を聡明にし、長寿を保つとされています。
画像出展:「病気がみえるvol7.脳・神経」
脳(奇恒の腑)の働きを西洋医学の脳の働きに照らし合わせると、「運動を円滑に行う」は一次運動野、前頭眼野、高次運動野が該当します。「耳目を聡明にする」や「長寿を保つ」も大脳皮質が関係しますが、運動には小脳が、生命維持には大脳辺縁系や脳幹も必要です。
画像出展:「病気がみえるvol7.脳・神経」
この図の右側縦列は前頭連合野の機能が正常に働かない場合の状態(障害)です。これをみると五神(神・魂・魄・意・志[思・慮・智])の働きとほとんど合致するように思います。
※「五神」については下の表を参照ください。
これは「東洋医学概論」の内容を元に作った「五神」と「七情」の表です。これらの働きは五臓に割り振られています。
五神の中の神についての説明は、このブログの大元である『東洋医学概論』の記述をそのままご紹介させて頂きます。
『神を分類すれば、神、魂、魄、意、志などが挙げられる(『霊枢』:本神篇)。神は、このなかで最上位にあって、他の神気を支配している。ときにより、魂魄は神の支配を受けずに独自の働きをすることがある。魂・魄は、人体のかげの活動(無意識的、本能的活動)を支配するものである。』
例えば、3000年前のヒトの脳と現代のヒトの脳は、解剖学的・生理学的に劇的な違いはないと思います。つまり、東洋医学の脳(奇恒の腑)と西洋医学の脳に対する理解の違いは、解明された情報の質と量であり、それを可能にしたのが科学とテクノロジーの力だと思います。
東洋医学の脳(奇恒の腑)は骨、髄と共に腎が主っています。腎は先天の精、そして後天の精を受け入れ、発育・成熟および生殖という基本的な生命活動を担っています。そして、腎に納まる精が気に変化すると原気となり、臍下丹田に集まり人体の基礎活力として働きます。以上のことから、腎と脳(奇恒の腑)の関係は非常に重要だと思います。
関元という経穴(ツボ)は、小腸の募穴でおへそより指4本分下とされています。場所は臍下丹田になります。
西洋医学では下腹の臍下丹田は腸がある場所です。そして腸は第二の脳とされ、脳腸相関ともいわれています。東洋医学の腎と西洋医学の腸の違いはありますが、東洋医学の臍下丹田⇔脳(奇恒の腑)と西洋医学の脳腸相関(腸⇔脳)は東西医学の共通性を示すものと思います。
画像出展:「ブレインフォグの原因「腸内細菌の乱れ」と脳腸相関とは?」
こちらは国立・消化器内視鏡クリニックさまから拝借しました。
『脳腸相関とは、脳とおなか(腸)で両方向におこなう情報伝達のやり取りと相互に影響を及ぼしあう関係のことです。』
科学(テクノロジー)の力が及ばなかった東洋医学の時代においては、五神(神・魂・魄・意・志[思・慮・智])や五情(喜・怒・憂・思・恐に悲と驚を加えたものは七情という)を、脳(奇恒の腑)に関連付けて考えることは難しかったと思います。そのため、重要とされた五つの臓腑(“形の類”)に割り振ったということだったのではないかと想像します。
五神と七情は、現代では大脳新皮質と間脳(特に視床下部)そして大脳辺縁系による中枢神経の働きと考えられます。運動や感覚は中枢神経系と体性神経系(末梢神経系)でつながっており、内臓の働きは中枢神経系と自律神経系(末梢神経系)でつながっています。さらに視床下部は自律神経系に加え、内分泌系や飲水・摂食・性行動などの本能行動をコントロールしており、極めて重要な役割を担っています。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
大脳新皮質は判断、思考、計画、創造、注意、抑制など理性と社会性といえます。多くは神気(五神)に関係していると思います。一方、本能的、情動的なものは大脳辺縁系が担っていますが、特に大脳辺縁系の扁桃体につながる視床下部は内臓に関わる自律神経系や内分泌系を制御しています。また、運動器は中枢神経と末梢神経である体性神経系を介して脳と体躯・四肢をつなげています。
画像出展:「理性は本能に負けやすい!?脳の中には3つの機能があり、バランスが崩れると依存症になる?」
このサイトの他のスライドに『3つのバランスが崩れると依存症になる』という説明があります。これは東洋医学の“内因”(主に七情と呼ばれる7つの感情の過剰や不足によって引き起こされる病気の原因)に通じるものです。
画像出展:「漢方によるストレス・ケアのすすめ」
こちらは東洋医学の病気に対する分類です。内因は七情が関係するとされています。他に外因と不内外因があります。
画像出展:「病気がみえるvol7.脳・神経」
外側の大脳皮質は新しい脳ですが、内部の大脳辺縁系は古い脳です。脳波、CT、fMRI、PETなどの科学の力なしに解明は不可能です。有名な海馬は記憶に関係しています。一方、情動と本能行動の中枢とされ、主に「七情」に関わっているのが扁桃体です。
以下の2つの動画はストレスを軽減する方法を紹介しています。ポイントは大脳辺縁系の中の扁桃体と呼吸(酸素)です。“氣”には様々な解釈があります。その中には大気も含まれます。この動画を拝見すると、呼吸を重視する考え方は東洋医学も西洋医学も同じように思います。
「4ステップで扁桃体の過剰反応を落ち着かせる「心の持ち方、感情の持ち方について」11分52秒。
こちらは「Dr.ヤママンのYouTube Channel」さまからの拝借です。
「脳の扁桃体からの怒りを前頭前野がコントロールします!!」5分41秒。こちらは「精神科医マコマコちゃんねる」さまからの拝借です。
画像出展:「臍下丹田呼吸法」
「呼吸を重視する考え方は東洋医学も西洋医学も同じように思います」とお伝えしましたが、「西洋医学でも、最近では“木”ではなく“森”、つまり身体全体から病状や健康を診るということも出てきているな」と思って調べてみました。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)作成」
今では「総合診療」や「プライマリーケア」といった組織もでてきていますが、調べたところ、総合診療の先生の中には鍼治療を取り入れている先生もおいでのようです。
くり返しになりますが、“氣”とは“気の類”、つまり、「精・気・神」の三宝と定義したいと思います。「気を補う」とは「精」なのか「気」なのか「神」なのか、それともすべてなのか、鍼灸師は「精・気・神」を頭に入れておくべきではないかと思います。
「気・血・津液を調える」というのは経絡治療の基本ですが、これは手法でありその対象は三宝(精・気・神)ではないかと思います。
以前、「自然治癒とは何か」ということを検討し、『ストレス適応と栄養代謝』と定義してみたのですが、個人的には、鍼灸(経絡治療)とは三宝に対する施術を適切に行い、『ストレス適応と栄養代謝』を高めるということだと思います。(“栄養代謝”という言葉は、本来は“消化・代謝”の方が適切ですね)
画像出展:「寒い時期の健康管理(市報のだ11月15日号掲載)」
『暑さや寒さなどの外部環境、心理的なストレス、ウィルスや細菌など私たちの生命維持に対する外乱となる刺激が生体に加わると、自律神経系(交感神経・副交感神経)・内分泌系(ホルモン分泌)・免疫系の3つが働いて、身体の機能を平常に保たれます。』
「ホメオスタシス~私たちを守り続けるシステム~」6分14秒
こちらは「ネコかん 【ネコヲの解剖生理学】」さまからの拝借です。
“ストレス適応”はホメオスタシス(恒常性)に置き換えても良いのではないかと思います。
次に気・血・津液と三宝(精・気・神)との関係性を考えたいと思います。ここで出てくる気は狭義の気です。(「東洋医学概論」の図を基に作っています)
狭義の気は、機能別に複数存在しており(図内には真気を含め5つ)、それぞれの気の働きを理解する必要があります。この中で特に注目すべきは臍下丹田の原気だと思います。そして、三宝(「精・気・神」)にも目を向けたいと思います。さらに、西洋医学的な観点からの脳腸相関と臓器間のメッセージ物質のやり取りという考えにも注目したいと思います。
※メッセージ物質
NHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」シリーズでは、「臓器や細胞からのメッセージを伝える物質」を総称して「メッセージ物質」と呼んでいます。これは細胞間情報伝達物質であり以下のようなものとされています。
1.ホルモンやサイトカインを含む、体内で情報を伝達する物質の総称
2.血液や神経を通じて全身を巡る
3.数百種類にも及ぶとされる
脳・脊髄(中枢神経)と臓器をつなげているものに自律神経系がありますが、それに加えて脳や各臓器に様々なメッセージ物質を送って、臓器同士が会話しているとすれば、「神気は五臓に納まる」という東洋医学の発想に近いもののように思います。
まとめ
今回、勉強し直したのは「氣」とは何かを知りたいと思ったからです。そのヒントになるのではと思ったことは、「脳」の働きに関する東洋医学と西洋医学の違いです。東洋医学における「脳」は“五臓”でもなく“六腑”でもなく、”その他の腑”に含まれる“奇恒の腑”で、重要なものと考えられていたとは思えません。奇恒の腑は「脳」の他に「骨」と「髄」があり、いずれも“五臓”の一つである“腎”が主っています。そして「脳」は「髄」の大きなものとされていますが、これは「髄」が「骨」の中にあるものというのが理由です。確かに脳は頭骨の中にあるので髄であるといえます。言い方は良くないのですが、「脳(奇恒の腑)は腎ファミリーの一つ」という位置付けです。
この奇恒の腑である脳について、教科書では次のように説明されています。『脳は、頭骨の中にあり、髄の大きなもので、下は脊髄に連なる。脳は、肢体の運動を円滑にし、耳目を聡明にし、長寿を保つ。脳が充実していると、耐久力ばかりでなく、すべてにわたって一般の基準を超える。不足すると、目が回る、耳鳴り、めまい、すねがだるい、身体中だるくて寝ていると落ち着くなどの症状を呈する。』
ここで説明されている内容は、一つは運動と感覚に関わるものであり、西洋医学の中枢神経、遠心性神経(運動神経)、求心性神経(感覚神経)に相当すると思います。
もう一つは『耳目を聡明にし、長寿を保つ』というものですが、脳(奇恒の腑)の働きとしては細かく示されてはいません。西洋医学における理性などを司る大脳皮質や、本能や情動を司る大脳辺縁系が担っている役割、さらには内臓に働きかける末梢性の自律神経系や内分泌系の働きは、五臓に割り当てられた五神(神・魂・魄・意・志)や七情(怒・喜・思・憂・恐・悲・驚)によって説明されています。
一方、先にご紹介させて頂いたメッセージ物質の存在を考えるならば、脳と臓器、臓器と臓器でもコミュニケーションが発生しており、東洋医学の五臓・五神・七情などの考え方に通じる部分があるように思います。つまり、脳は絶対的な統括者・権威者というより、各臓器、器官、組織などの”つぶやき”に耳を傾けながら、全体をまとめるリーダーという存在ではないかと思います。
最後に、今回のブログでは以下の3点を最も重視したいと思います。
1.施術において、“氣”とは“気の類”、精・気・神の三宝であると考えたい。(現時点では)
2.狭義の気に関しては、先天の精と後天の精から派生する臍下丹田にある“原気”に注目したい。
3.『氣とは何だろう』を考えていくうえで、東洋医学の脳(奇恒の腑)・神気(五神)と西洋医学の脳(大脳・中脳・間脳・脳幹・小脳)に注目したい。
画像出展:「国内外における脳科学研究の現状と問題点について」
ウンザリするような細かい表ですが、ご紹介したのは「脳科学研究はこれから、奥が深いんだなぁ」ということをお伝えしたかったからです。
今後の予定
『氣とは何だろう』というテーマに関して、3冊消化しましたが、今後以下の本を拝読させて頂く予定です。大変なことになっています。ほぼ1年がかりのテーマです。
・気とエントロピー 医者と患者に役立つ医学
・「気」とは何か 人体が発するエネルギー
・「気」は脳の科学
・気功の科学 大脳生理学が解明した「東洋の神秘」
・気をひきだせ、無限の治癒力
・脳のなかの天使
・腸と脳 第二の脳がもたらすパラダイムシフト
・人体 神秘の巨大ネットワーク 臓器たちは語り合う
・「酵素」の謎―なぜ病気を防ぎ、寿命を延ばすのか
・酵素反応のしくみ―現代科学の最大の謎をさぐる
・リンパの科学 第二の体液循環のふしぎ
・中村天風と植芝盛平 気の確立
・気の発見 著者:五木寛之 対話者:望月 勇(気功家)
・なぜ気功は効くのか
・気療の奥儀 手を振るだけであなたも動物を癒せる
・生体の場の特性
・東洋医学気の流れの測定・診断と治療
鍼灸編の2冊目はアシル治療室という人気の鍼灸院を開院されている若林理沙先生の著書、『気のはなし 科学と神秘のはざまを解く』です。(新規受付はしていないようです。2025年1月時点)
若林先生は大学では思想宗教を専攻され、古武術を学びブラジリアン柔術にも精通された先生です。本書の“はじめに”には、「これから展開される「気」の世界を俯瞰してみましょう。おそらく、読者の方々は「気」がこれほど広大な領域に広がったもので、こんなにも多種多彩な意味を持っていたのかと驚かれるでしょう」と書かれていますが、まさに「気」の広さと多様さを学ぶことができました。
試しに類語辞典で「気」の類語・同義語を調べてみた所、以下のようなことが書かれていました。
1.その人特有の行動や反応を決定する感情的、知的特質の複合体
・気質、気性、気心など計50個。
2.ある種の傾向または性向
・気持ちなど計9個。
3.ある資質を示唆するもの
・気配など計5個
4.コミュニケーションの意図された意味
・意志、意図など計17個
5.目に見えない不思議なこと
・オーラ、神通力など計10個
全部足すと91個、「“氣”とは何だろう」という疑問の答えは謎のままですが、一歩一歩進めるしかないなと思います。
目次
はじめに
「気」の年表
第1章 気の起源
●気のおおもとの姿
●「気」という字の原型
●モヤモヤッと立ち昇る何か
●「気」に似た考えは世界中にあった
コラム 武術と気
第2章 孔子・老子・荘子の気
●血縁の愛を重視する中国で「仁」を説いた孔子
●『論語』では重視されなかった「気」
●古代、医者の地位はひどく低かった
●老子の思想のキーワード「道」
●老子の「気」は陰陽を引っ付ける糊!?
●人体に存在する「道」
●「気」の重要性がアップする荘子
コラム 風邪と気
第3章 孟子・道教の気
●孟子のでかくて強い気
●呼吸法から道教へ
●できるだけ長生きする技法
●「万物は気でできている」の始まり
●東洋医学の養生法の原点
●固形の玉になる気
●不死になるには1000呼吸止める!?
●気を練る修養法の落とし穴
コラム 気力・体力=消化力
第4章 易と風水の気
●気を語るのに外せないマジカルな分野
●トカゲを表す「易」の字
●六四卦で世界のすべてを表す
●時計の秒針のように動く気
●風水の特徴、龍脈と龍穴
●都や墓所に適した土地とは
●「水」から「気」へ
●教養としての易と風水
コラム 鬱を東洋医学の気から見ると
第5章 東洋医学の気
●最古の医学書
●気よりも血や水が重視されていた時代
●東洋医学はリアル+ファンタジー
●人体の気、いろいろ
●気・血・水が体内を流れるという身体観
●経絡の考え方の変遷
●経穴は絶対的なものではない
●ちょっとした抵抗を指先で探る
●自然の気、いろいろ
●現代に多いのは内因・不内外因の体調不良
●エネルギー120パーセント!?
●細かすぎる分類は気にしなくていい
●鍼灸や漢方はほぼすべての病気を改善できるのか?
コラム 「気が合う」「気が合わない」「気を合わす」
第6章 科学の気
●現代中国は気をどう説明するのか
●手から出る遠赤外線
●彼にすると情報がのせられる
●何かは伝わっているけれど
●生き物は全員「電気仕かけ」
●皮膚を流れる電気
●電気と言い切れない何か
コラム 臨床と気
第7章 養生と気
●気のオカルティックなイメージはどこからくるか?
●日本の気
●戦国の気
●韓国の気
●養生を気で説明する
●「寝る」と気
●「食う」と気
●「動く」と気
●体質を気で分ける
●人が生まれるときの気
●人が亡くなるときの気
おわりに
第1章 気の起源
「気」に似た考えは世界にあった
●ギリシャ哲学のプネウマ説は空気中のプネウマが呼吸により体内に取り込まれることで生きていられるとされている。
●プネウマは血液とともに体の各部位に供給されるエネルギーだと考えられており、気の考え方によく似ている。
●元々プネウマは「空気」、「呼吸」、「風」の意味で使われていた言葉で、そこに生命を維持する力という考えが導入された。
●プネウマはローマ帝国時代の医学者であり哲学者でもあるガレノスによって継承されて発展した。ガレノスは「三大臓器と脈管の生理学説」を唱え、肝臓から出る静脈は栄養豊富な静脈血、心臓から出る動脈は生命プネウマが豊富な動脈血、脳から出る神経は精神プネウマが豊富な神経液を全身に送っていると考えた。
●プネウマの考え方はアラビアまで伝わり、ルーフ(風という意味)の訳語でユナニ医学に取り込まれ、ユーラシア大陸における主要な医学のほとんどがプネウマ/ルーフの理論が成り立つようになる。そして、これらが西洋医学の源流になっていく。
画像出展:「ガレノスの「人格の気質的四類型」と「プネウマ」(カウンセリングしらいし)」
医学の対象は個物から場へ (帯津良一医学博士)
『ヒポクラテスの考えを継承したのが、ローマ時代の名医ガレノスである。ただし彼は人体を詳細に観察した上で、解剖学と生理学の基礎を築いた。それまでの直観の医学から分析の医学への移行である。ガレノスこそ近代西洋医学の祖とみなされている。それでもガレノスの医学でも、プネウマは重要な位置を保っていた。
また彼がヒポクラテスのネイチャーの概念を継承していたことも言うまでもない。彼が提唱したかどうかはわからないが「自然治癒力」は「vis medicatrix naturae」というが、これはラテン語である。ラテン語といえばローマ時代、彼の周囲からこの名称が起こったと考えてもさして無理ではないだろう。』
第2章 孔子・老子・荘子の気
「気」の重要性がアップする荘子
荘子 外篇 知北遊第ニ十二
●(現代語訳)『そもそも生は死の仲間であり、死は生の始まりである。一体誰がそのおおもとの仕組みを知っているだろうか。人間の生は、気の集まったものである。気が集まれば生となり、散じれば死となる。このように生と死とが仲間であることに、私はまた何を思い悩む必要があろうか。だから、万物は、一つであるというのだ。万物の中で美しいとされるものが珍しく重用されるものとなり、醜いとされるものが悪臭を放つものになるのであるが、悪臭がするものもやがて気が離散して変化し、珍しく重用されるものに変わったり、珍しく重用されるものもまた同じように、悪臭がするものに変化するからである。だから、「世界に本当にあるのはただ一つの気だけである」と言うのだ。だから、道に通じている聖人は「一」そのものである気を重んじる。』
第3章 孟子・道教の気
孟子のでかくて強い気
孟子 公孫丑上
●(現代語訳)『「あえておたずねしますが、先生は何がお得意であられますか」。孟子「私は人の言を知ることができ、自分自身の浩然の気を養うことができる」。「さらにあえておたずねいたしますが、いったい浩然の気とは、どういうものでしょうか」。孟子「言葉では説明しにくいが、その気というものは、とてつもなく大きく、とてつもなく剛く、そして真っ直ぐで、害することなく養っていけば、広大なる天地の間を塞ぐくらいになる。その気というものは、道と義の配下にあるもので、もし道義がなければ飢えて小さくなってしまう。つまりこの気は、自分の中の義が集まったところ生ずるものであって、外にある義が入り込んできて浩然の気ができるというものではないのだ。自分の行為に何か気持ちの良いものではないものが混じっていると、この気は飢えてしまう。』 (「癌から生還」。インドの女性、オーストラリアの男性。本来の自分を偽って生きるのはよくない)
第5章 東洋医学の気
経絡の考え方の変遷
黄帝内経 霊枢 経水篇第十二
●(現代語訳)『経水は水を受け取って巡らせる、五臓は神気魂魄(神気:その人をその人たらしめ、生かしている気。コンピュータのOSみたいなもの。魂:陽性のたましい。死ぬと天に昇る。夜中に体を抜けてそのへんをふらふらすることもある。魄:陰性のたましい。死ぬと骨とともに地面に還る。骨が消えないうちはそこにくっついているとされる)を合わせて内蔵する。六腑は食べ物を消化して巡らせ、そこから気を受け取って人体上部へ持ち上げる。経脈は血液を受け取ってこれで各所を栄養していく。』
経穴は絶対的なものではない
●経穴の場所は定義されているが、住所でいえば「何丁目何番」までで、何号とかマンション○号室」までは書いていないと考えるべきである。その最後の取穴の判断は施術者の指先の感覚によって特定する。その根拠は触ってみて、ざらざらするとか少し冷たいとか、押したら響いたとか、軽く押し込んで揉んでみると中に糸くずみたいな小さな硬さを感じるとか、そのような他とは異なる指先に伝わる感じや印象を大事にして取穴する。
現代に多いのは内因・不内外因の体調不良
●人体内では感情の動きが気を動かすとされている。(感情→神経伝達物質→自律神経) 気血とは
●ひどく偏った感情は気を損なうと考えられている。
●不摂生(飲食、睡眠、労働の不養生)も人体の気を損なう原因であり、不内外因という。
第6章 科学の気
現代中国は気をどう説明するのか
●『気はいったいなんなのかを科学的に検証する研究は、80年代にたくさん行われており、2000年代に入ってからの研究はほとんど見当たりません。おそらく、気を捉えられそうな計測機器による研究が出尽くしたのだろうと思います。そして、それらの研究はいくつかのエネルギーが体を流れている。もしくは体から放出されている様子を検出しました。
気を体の外に放出するイメージとしては、手から何かが発せられてそれが相手の体に空中を伝わって到達し、体に暖かさや涼しさ、電気的な刺激に似た感覚などが発生する、というものです。実際に、他人へ気を送る状態をサーモグラフィーで捉えると、受けて側の手や顔の温度が上昇していることがわかるのです。』
手から出る遠赤外線
●『この研究を主に行っていたのは、東京電機大学の教授でいらした町好雄氏です。彼はテレビ局の要請でまったく専門外だった気功をサーモグラフィーで計測し、実際に体表面の温度変化が観測されることを目の当たりにし、本格的に研究を始めるようになりました。
とくに温度の変化が著しいのが手の指先にある経穴の商陽・中衝と手のひらの中央付近にある労宮でした。経穴が気の出入り口とされていることが実際に計測されたということになります。
なんらかのエネルギーが空中を伝わって、それで相手の体温が変動する。これを可能とするには、いずれかの電磁波が関与しているにちがいないと町氏は考えました。町氏は、おそらくは遠赤外線がそれを狙っているだろうと考えたのでした。』
NPO法人 気功分化センター
『多くの人々が元気で幸せな日々を送ることができるよう、中国の歴史のなかで育まれてきた健康法である気功をさらに普及していこうと平成18年4月に設立したNPOです。
科学者や気功師、気功文化に興味のある仲間が、“気功を多くの人に知ってもらいたい”、“気功が人体へ働きかける仕組みを解明していきたい”という思いで発起人となって設立しました。』
波にすると情報がのせられる
●『測定してみると気功を行っている人体から放射されている遠赤外線自体の強さはそれほどではありませんでした。そこで町氏は計測機器に工夫をし、遠赤外線の波形を調べる方法を使ってみたところ、発生されている遠赤外線に一定の波形が現れていることを観測しました。遠赤外線そのものにシグナルがのせられていて、それを人体が受け取って読み解いて体の中に変化を起こしている可能性が示唆されたのです。
この、波にすると情報がのせられるというのは、ラジオやテレビの電波と同じ原理です。同じような実験を行った研究者は多数おり、追試の結果たしかにそうなっていることがわかりました。
これ以外の研究としては、上海中医学中医研究所で、先ほど顕著に温度が変わると紹介した経穴の労宮から数センチから1メートル離れた距離で、遠赤外線が検出されること、頭頂部の経穴である百会から数センチのところで微細な磁力信号が検出されることがわかっています。また、日本医科大学教授だった品川嘉也氏は、気功の送り手と受け手の脳波が同調することを突き止めています。』
皮膚を流れる電気
●傳田光洋氏は、末梢神経が通っていない表皮細胞そのものが情報を伝える仕組みを発見した。TRPと呼ばれる受容体が表皮細胞の膜表面に存在しており、これが外界から刺激を受け取ると細胞膜表面に電流を生じ、細胞から細胞に電気が流れてゆき、最終的に深部にある末梢神経へ刺激が伝わる仕組みになっている。
第7章 養生と気
人が生まれるときの気
●馬王堆の「胎児書」には人は生まれた瞬間が気の塊とされ、一番パンパンに気が詰まっている状態であるとされている。
●赤ん坊は陽気の塊とも言われている。
感想
鍼灸師編の2冊から学んだことは、“氣”の歴史は古く、また、“プネウマ”、“ルーフ”、“プラーナ”など世界各国に“氣”に似たものが存在していた点です。西洋医学につながっていくガレノスも“プネウマ”に注目していました。紀元前460年前頃とされる「医学の父」ヒポクラテスは“氣”については触れていないと思いますが、“自然治癒力”の重要性を説いています。
“氣”という言葉は色々な場面で使われています。宇宙や生命に関わるものであったり、呼吸であったり、気功のような特別なエネルギーを指す場合もあります。まだまだ、分からないところだらけですが、幸い勉強の材料はまだまだ出番を待っていますので、地道な勉強を続けていきます。
今回は、“氣”は時代を超え、国を超え、様々な状況の中で特別な“存在”として受け継がれてきた概念のようなものではないかと思いました。
ご参考:血液∈経脈
第5章の中の「経絡の考え方の変遷」でご紹介させて頂いた、黄帝内経 霊枢 経水篇第十二について詳しく解説されているサイトがありました。
【古医書】霊枢:経水篇 第十二
≪提要≫
十二経脈は、地上を流れる十二の経水が
地水を受けて各地を連絡するように、
五臓六腑に連絡し、交通しており
それぞれ大小・深浅・広狭・長短などが異なる。
五臓は神・気・魂・魄など機能活動を主り
六腑は水穀の精を全身に輸送し散布する。
十二経脈は血を受納し全身を運営している。
人体には一般的な標準があり、
各経気を調整する際にも一定の規律がある。』
また、東洋医学における“血”に関しては、「漢方の基礎知識」というサイトに、“血”は血液を含むものとされています。
暑ければ汗をかき、悲しければ涙をながし、食事をすれば唾液が助け、肌を切れば血が流れます。現代医学で説明される“血液”という理解(認識)は存在していませんが、その当時の人々が定義する“血”が現在の“血液”を含んでいると考えることは疑う余地はないように思います。
画像出展:「漢方の基礎知識」
『東洋医学で考える「血」はカラダの中を流れる赤い液体のことで、西洋医学でいう血液を含む栄養物質を指しています。「血」には精神活動を充実させ、全身に栄養を運んでカラダを潤す働きがあります。』