“慢性捻挫”や“捻挫ぐせ”と呼ばれるものは、現在「慢性足関節不安定症(CAI:Chronic Ankle Instability)」と呼ばれています。数知れない捻挫によって、ちょっと動かしただけでコキコキ音がする私の足首は慢性足関節不安定症だと思います。
定期購読は止めたものの、興味ある内容のときは「月刊スポーツメディスン」を購入しています。送られてきたメールから、No.215(2019年11月号)の特集が“足関節捻挫後遺症の課題を整理する”であることを知り、迷うことなく注文しました。
出版:ブックハウス・エイチディ
発行:2019年11月
寄稿は以下の4つです。
1.慢性足関節不安定症に対する治療の現状と課題
2.足関節捻挫が関節機能に及ぼす影響
3.足関節捻挫がスポーツパフォーマンスに及ぼす影響と課題
4.足関節捻挫における後遺症が将来的な健康に及ぼす影響と課題
ブログは1と2を取り上げていますが、“1”ではCAIの概要と2019年に更新された“CAIの業態モデル”をご紹介し、“2”では鍼治療の視点から、筋肉に注目しながら表形式にまとめ、そこで洗い出された筋群を遠隔治療の筋肉と位置づけてみました。また、局所治療については、『スポーツ鍼灸の実際』と『スポーツ鍼灸臨床マニュアル』という本に書かれていた足関節捻挫の治療法をご紹介しています。
1.慢性足関節不安定症に対する治療の現状と課題
北海道千歳リハビリテーション大学 健康科学部 リハビリテーション学科
理学療法士、博士(医療工学) 小林匠
足関節捻挫と慢性足関節不安定症
『CAIは足関節捻挫を繰り返すことで、慢性的に足関節に不安定感を抱いてしまう病態で、一般的には“捻挫ぐせ”と言われたりもします。CAIの原因となる足関節捻挫はさまざまなスポーツ種目において最も発生率の高い外傷の一つです。日常生活でも“ころぶ”・“つまずく”・“すべる”など、さまざまな場面に足関節捻挫のリスクは潜んでいます。前述のとおり、スポーツ現場において足関節捻挫は軽視されることが多く、ヨーロッパのサッカーリーグに所属する選手を対象とした研究では、足関節捻挫を受傷した選手が復帰するまでの平均期間は8日と報告されました。他の研究でも足関節捻挫を受傷した選手の95%が11日以内にスポーツ復帰できたとされています。一方、スポーツ復帰段階では足関節の背屈可動域制限や動的バランスの低下、自覚的機能低下、靭帯の緩みなどの関節機能の問題を抱えていることも示されています。言い換えると、足関節捻挫を受傷した選手の多くが、十分な関節機能の回復を待たずしてスポーツ復帰しているということになります。このような状況が足関節捻挫の再発率を高め、結果的に後遺症に悩まされる選手を生んでしまっている要因と推測されます。』
新たなCAIの病態モデル
『今年になって[2019年]HertelがCAIの新たな病態モデルをJournal of Athletic Trainingにて発表しました。このモデルは主に、
①一次組織損傷(primary tissue injury)
②病理機械的障害(pathomechanical impairments)
③感覚・知覚障害(sensory-perceptual impairments)
④運動行動障害(motor-behavioral impairments)
⑤個人要因(personal factors)
⑥環境要因(environmental factors)
⑦各コンポーネントの相互作用(component interactions)
⑧臨床結果のスペクトル(the spectrum of clinical outcomes)
の8つのコンポーネントから構成されており、2002年にHertel自身が公表したモデルからは、より複雑かつ詳細なものに改変されています(図3)。
画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」
このモデルの中心には、②病理機械的障害(pathomechanical impairments)、③感覚・知覚障害(sensory-perceptual impairments)、④運動行動障害(motor-behavioral impairments)の3つのコンポーネントが位置し、各コンポーネント内にあげられている障害には、これまでの研究によってCAI患者で特異的に認められるとされた要因が含まれます。
また、③感覚・知覚障害(sensory-perceptual impairments)と④運動行動障害(motor-behavioral impairments)は知覚(perception)と行動(action)を通じて互いにリンクしており、そこには神経系の記憶や痕跡・符号(neurosignature)が関与し、疼痛の発生に影響するとされています。すべてのCAI患者がこのモデルであげられるすべての障害を有しているわけでなく、各患者で障害は異なり、個人要因や環境要因が加わることで、臨床結果(Outcome)は、足関節捻挫の再発(recurrent ankle sprain)から完全復帰(full recovery)に向けたスペクトルで表現され、CAI患者は症状を有さないCoperに向けて段階的に復帰を目指すことになります。一見するとこのモデルは非常に複雑に感じますが、これまでのモデルと比較すると、より臨床に即したものになったと言えます。今後は、この病態モデルをベースにCAI患者の臨床・研究が発展していくと思われます。』
2.足関節捻挫が関節機能に及ぼす影響
NTT東日本札幌病院リハビリテーションセンター
北海道大学 大学院保健科学研究院 客員研究員
理学療法士、博士(保健科学) 越野裕太
足関節捻挫による関節障害の評価
図5:前方引き出しテスト
図6:スクィーズテスト
図10:Medial subtalar glide test
図11:Plantar flexion break test
図12:最終域底屈筋力評価
画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」
画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」
画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」
画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」
画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」
足部の機能障害の評価
図14:前足部アライメントの評価
図15:第1趾列の可動性評価
図16:short foot exercise
図17:toe spread out
画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」
画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」
画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」
画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」
膝および股関節の機能障害の評価
図なし:股関節の外転と外旋の筋力評価
図19:筋反応の評価
画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」
こちらは”ハンドヘルドダイナモメーター”とその使用例(下段)です。
画像はオージー技研さまより拝借しました。
足関節捻挫の遠隔治療の筋肉
1.大腿後面の筋(ハムストリングス:大腿二頭筋、半腱様筋・半膜様筋)
2.下腿の筋(腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋、長指(趾)屈筋、長母指(趾)屈筋、長腓骨筋)
3.足部内在筋(足裏への刺鍼は強い痛みを伴うため、基本的には施術対象外と考えています)
4.股関節外転筋・外旋筋(大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋、梨状筋など)
画像出展:「人体の正常構造と機能」
画像出展:「人体の正常構造と機能」
画像出展:「人体の正常構造と機能」
画像出展:「人体の正常構造と機能」
画像出展:「人体の正常構造と機能」
画像出展:「人体の正常構造と機能」
画像出展:「人体の正常構造と機能」
図中の右上の2つ並んだイラストですが、うすい灰色は、長指屈筋(左)、長母指屈筋(左)、長腓骨筋(右)の各筋肉です。これを見るとこれらの筋肉は下腿から足裏まで伸びていることが分かります。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
画像出展:「人体の正常構造と機能」
画像出展:「人体の正常構造と機能」
画像出展:「人体の正常構造と機能」
足関節捻挫の局所治療例
編集者:福林 徹、宮本俊和
出版:医道の日本社
発行:2009年7月
新鮮例
置鍼・雀啄術
刺激部位は腫脹部の周辺を取り囲むようにし、その円の中に数本切皮程度の深さ(2-3mm)にとどめ置鍼していく。
受傷部への雀啄術は圧痛点を中心に行う。ただし、熱感や腫脹がある程度引いてから行うようにする。それ以前に行うと増悪する場合もある。腫脹・熱感が強い場合は、遠隔部での刺激が無難である。前距腓靭帯は関節包内靭帯で、靭帯に直接鍼を刺入することは関節包内への刺鍼になるので刺入の深さには注意する。
陳旧例
基本的には“新鮮例”の治療法と同じと考えてよいが、新鮮例よりも刺鍼部位は多く、深度は深くなる場合が多い。圧痛が不明瞭であったり広範囲に及ぶことがあるので、よく確認する。
足根洞への刺鍼(深さのは目安は1~3cm程)
”足部と捻挫の関係性!?足根洞症候群の原因・症状、リハビリについて”
こちらは、北海道の理学療法士である佐藤てつや先生によるものですが、
「足根洞症候群」について分かりやすく説明されています。
特に次の点はとても重要なので列記させて頂きます。
・外反ではなく、足関節内反捻挫などに伴う内出血が足根洞に流れることが大きな要因である。
・足関節を背屈させた時に症状が強く自覚されることが特徴の1つである。
・足根洞症候群の患者では、腓骨筋群の運動で異常を示すと報告されている。
(筋トレの動画では”腓骨筋”に加え”後脛骨筋”も紹介されています)
著者:松本 勅
出版:医歯薬出版
発行:2003年7月
靭帯の損傷が大きく、疼痛、腫脹、機能障害などが顕著な場合は一般治療(整形外科治療)を優先させるが、軽度の場合は消炎、鎮痛、腫脹の軽減などを目的に腫脹の周辺への数本の刺鍼および損傷靭帯部への1靭帯1本の刺鍼を行い、可能であれば10~20分間置鍼する。後に円皮鍼を腫脹の周縁部に留置してもよい。
損傷靭帯部の刺鍼は、前距腓靭帯は外果の前下部(中封穴付近)に、踵腓靭帯は外果の下部(申脈穴付近)に、後距腓靭帯は外果の後下部に、外側距腓靭帯・二分靭帯(踵立方靭帯と踵舟靭帯)・背側踵立方靭帯は外果前下部よりもさらに前方にあるので、指先で腫脹・圧痛を調べて靭帯を確認して的確に刺入する。
ご参考
こちらは、『スポーツ鍼灸の実際』の編集をされた宮本俊和先生の記事です。以前から疑問に感じていたことで、今回、たまたま見つけたのでご紹介させて頂きます。(残念な点は、実験がマウスによるものというところです)
筋肉の萎縮を防ぐ鍼(はり)
『骨折後、ギプスで固定をしていると筋力が低下したり、ひざの靭帯損傷の手術後、動かさないでいると太ももの筋力が低下する、あるいは、寝たきりでいると筋肉が萎縮していく廃用性筋萎縮を起こします。それに対して鍼は何ができるか、という実験をしました。スポーツ選手ですと、低下した筋肉を回復させるためにアスレティックリハビリテーション(競技種目に必要な体力や技術を付けるための特別なリハビリテーション)を行いますが、鍼を使用することでこの期間を短縮できるか、あるいは筋肉の萎縮の速度を遅くできるか、を目的に置いた実験です。
マウスの後ろ足を宙吊りにして使えないようにして前足だけで自由に動けるようにし、鍼をする群と何もしない群に分けます。2週間後、何もしなかったマウスの後ろ足のヒラメ筋(ふくらはぎの筋肉)は萎縮を起こしていましたが、2日に1回30分間、筋肉に鍼通電刺激を与えていたマウスは、4足で走らせていたマウスと同程度の筋肉の量がありました。この実験で、筋肉を使わないことで起こる筋萎縮を鍼通電刺激が抑制している可能性がわかりました。』