思ったように施術の効果が上がらない患者さまがおいでです。腰痛に加え、お尻(殿筋)から太ももの裏(ハムストリングス、特に大腿二頭筋)の痛みも訴えられていました。
腰痛の場合、殿筋に関しては腰痛との関連が強いとされる“中殿筋(小殿筋)”や坐骨神経との関係が深い“梨状筋”に対しては、ほぼ定番のように刺鍼しています。しかしながら、今回は結果が出ていませんでした。
「これは、もしかして大殿筋なのかなぁ?」との思いから、ネット検索してみると、腰痛とお尻の筋肉に関するサイトが数多く出てきました。以下はその一部です。
画像出展:「TENTIAL」
画像出展:「腰痛トレーニング研究所」
画像の方をクリック頂くと、“サライ.jp”にある川口陽海先生の“腰痛改善教室”のページに移動します。
なお、川口先生のサイトに掲載されている“トリガーポイントの図”ですが、“The Trigger Point & Referred Pain Guide”というサイトには全部で 111の筋肉のトリガーポイントが紹介されています。(Googleの右上の“翻訳”が便利です)
こちらのイラストは、「トリガーポイントマニュアル」という本に掲載されてるものです。初版発行が1992年と古いため内容的には一部見直しが必要な個所もあるようですが、まさに“トリガーポイント”のバイブル的存在の本です。ちなみに、私が見たときは、ヤフーオークションで全巻4冊セットが“¥150,000即決”として出品されていました。
なお、これらの本は国会図書館や都立中央図書館で閲覧、コピーが可能です。実は、私も10年近く前に腰痛に関係しそうな筋を中心にせっせとコピーを取っていました。
そこで、今回はそのコピーを引っぱり出し、興味深い箇所をご紹介させて頂きます。
画像出展:「Amazon」
■症候
●ほとんどの大殿筋TrPs(トリガーポイントのことですが、イラストに合わせ“TrP?”を使っています)から放散した痛みは、特に前方屈曲姿勢で上り坂を歩くことにより悪化する。
●坐骨結節近位のTrP2をもつ患者は、座った時にしばしば不快と不安を感じる。
●TrP3(坐骨結節内下方)から放散した尾骨痛を訴える患者は、長時間座っている間に、局部圧痛およびTrPsの圧迫で生じた関連痛を避けようと、もじもじ身をくねらせることもある。
●坐骨結節を被う結合組織と皮膚は、長時間の直立位の後に不快な虚血状態となる。
●圧迫を回避するための動きに伴う荷重はTrP2を増加させる。
●大殿筋のTrPsは着座姿勢を避ける。椅子は快適なものではない。
●鑑別診断(大殿筋・中殿筋・小殿筋) 下図8.5参照
・大腿部への痛みの放散は、大殿筋のTrPsは大腿部近位の数cm程度である。一方、中殿筋のTrPsでは大腿中間部に痛みを放散することもある。また、小殿筋のTrPsは膝の下に痛みを放散する。
・大殿筋の緊張は股関節の屈曲を制限し、中殿筋、小殿筋は股関節の内転を制限する。
・大殿筋のTrPsによる放散する圧痛は、下層の中殿筋、小殿筋のTrPsの検出を難しくさせる場合がある。
・大殿筋は仙骨に付着する筋の一つで、通常、仙腸関節のずれがTrPsの活性化の原因になる。
■トリガーポイントの活性化と永続化
●転倒を防ごうと激しい筋収縮を維持するときにTrPsの活性化が起きやすい。
●片側の殿筋を直接強打する衝撃は大殿筋のTrPsを活性化するおそれがある。
●前屈みで長時間歩くことは大殿筋を過負荷にする。
●大腿を深く曲げ、横向き眠ることは上層の大殿筋を過度に伸展させ、TrPsを活性化する。
●大殿筋のTrPsを永続化する代表的な運動は股関節の伸展に加え、腰椎を過伸展させる水泳(クロール)である。
●頻繁に屈んだり、赤ちゃんを囲いから外に持ち上げるような反復動作は大殿筋のTrPsを永続させる。
●同じ姿勢で長時間座っていることは大殿筋のTrPsを永続させる。
■関連のトリガーポイント
●中殿筋後部は大殿筋TrPsと関連してTrPsが最も発生しやすい。また、小殿筋後部およびハムストリングス(膝屈曲筋群)は、中殿筋後部の次に影響を受けやすい筋である。
●大殿筋の拮抗筋である腸腰筋、大腿直筋にもTrPsが生じることもある。
画像出展:「トリガーポイントマニュアル」
図8.5になります。
そして、4回目の施術の時、大殿筋のトリガーポイントを意識して刺鍼してみました。すると、翌週ご来院頂いた時には、ピーク時の痛みを10とすると7ぐらいになったとのお話で、初めて確かな手応えを感じることができました。
大殿筋も腰痛にとって重要な筋肉ということが分かり、「勉強しないといけないなぁ」との思いから、見つけたのが今回の『強める! 殿筋 -殿筋から身体全体へアプローチ-』という本です。殿部の筋肉は骨盤を支え、身体のバランス維持に力を発揮するとのことです。そして、次の言葉が印象的でした。
『(第5章では)大殿筋に焦点を絞り、この筋肉がどのように患者やアスリートに多い問題、とりわけ腰痛とかかわってくるかについて話したい。大殿筋は、私がこれまで会ってきたほとんどの治療家に軽視されているように感じる。その理由は恐らく、大殿筋自身が痛みを発することが滅多にないからであり、それにより、このすばらしく機能的な筋肉は無視され続けてきたのである。』
著者:John Gibbons
監訳:木場克己
発行:2017年1月
出版:医道の日本社
ブログはまず目次をご紹介していますが、今回は目次に沿った内容にはなっておらず、全体的にもスッキリ感が乏しいため、最初に大殿筋を中心とした“まとめ”を書くことにしました。また、長くなったため3つに分けました。『 』は引用、少し小さい[ ]および〔 〕は私が追記したものです。
Contents
監訳者のことば
まえがき
謝辞
第1章 身体各部とつながる大殿筋
●ケーススタディ
・評価
・ホリスティック(全身的)なアプローチ
・大腿筋の機能
・つなぎ合わせる
・治療法
・予後と結論
第2章 筋不均衡と筋膜スリング
●姿勢
●姿勢筋と相動筋
・姿勢筋
・相動筋
●ストレッチ前後の筋活動
●筋不均衡の影響
●体幹筋との関係
・形態拘束
・力拘束
・仙腸関節の安定性
・仙骨のニューテーションとカウンターニューテーション
・力拘束靭帯
・フォースカップル(偶力)
●インナーユニット:体幹
・腹横筋
・多裂筋
・「油圧増幅器」
●アウターユニット:統合筋膜スリング機構
●悪い姿勢
・矢状面で見た姿勢変位
・痛みと攣縮のサイクル
第3章 殿筋と歩行周期
●歩行周期
●踵接地
●筋膜のつながり
●骨盤の動き
第4章 脚長差と過外反 ― 殿筋による影響
●脚長差のタイプ
●検査
●足と足首の位置
●構造性短下肢と骨盤の関連性
●構造的脚長差と体幹、頭部との関連性
●脚長差と歩行周期
・腸腰筋の補正のまとめ
・仙骨と腰椎の補正のまとめ
●過外反症候群
●脚長差と殿筋
●立位バランス検査
第5章 大殿筋の機能解剖学
●大殿筋の解剖
●大殿筋の機能
●大殿筋の検査
・股関節伸展時神経発火パターン検査
●ケーススタディ
・運動歴
・検査時において
・大殿筋神経発火パターン検査
・治療
●結論
第6章 中殿筋の機能解剖学
●中殿筋の解剖学
●中殿筋の機能
●中殿筋の検査
・股関節外転時神経発火パターン検査
・中殿筋前部、後部筋線維の筋力検査
・中殿筋後部筋線維の筋力検査
第7章 マッスルエナジーテクニック
●マッスルエナジーテクニックの有用性
・過緊張状態の筋肉の正常化
・筋力低下した筋肉の活性化
・筋肉が伸長するための準備
・関節可動域の改善
●生理学からみたマッスルエナジーテクニックの効果
●マッスルエナジーテクニックの適用方法
・「バインドの位置」または「制限バリア」
・手順
・急性期と慢性期
●PIR vs RI
・PIRの例
第8章 原因としての拮抗筋 ― 腸腰筋、大腿直筋、内転筋群の重要性
●腸腰筋の解剖学
・腸腰筋の検査
・腸腰筋へのマッスルエナジーテクニックを用いた治療
・腸腰筋への筋膜リリース
●大腿直筋の解剖学
・大腿直筋の検査
・大腿直筋へのマッスルエナジーテクニックを用いた治療
・大腿直筋への筋膜リリース
・大腿直筋へのマッスルエナジーテクニックを用いた異なる治療法
●内転筋群の解剖学
・内転筋群の検査
・内転筋群へのマッスルエナジーテクニックを用いた治療
第9章 膝や足首の痛みを引き起こす大殿筋や中殿筋の問題
●膝の解剖学
●膝の故障
●腸脛靭帯摩擦症候群を引き起こす中殿筋と大殿筋
・腸脛靭帯摩擦症候群とは
●膝蓋大腿疼痛症候群を引き起こす中殿筋
・膝蓋大腿疼痛症候群とは
●内側側副靭帯と半月板の痛みを引き起こす中殿筋
●中殿筋と大殿筋と足首の捻挫との関係性
第10章 腰痛を引き起こす大殿筋や中殿筋の問題
●腰椎の解剖学
●椎間板ヘルニア
●変形性椎間板疾患
●椎間関節症候群・疾患
●腰痛と殿筋群の関係性
●胸腰筋膜と大殿筋の関係性
第11章 殿筋群の抑制効果による筋力低下の鑑別
●デルマトームとミオトーム
・股関節関節包炎と腸骨大腿靭帯
第12章 大殿筋と中殿筋の安定性向上とエクササイズ
●文献レビュー
・中殿筋と側臥位股関節外転
・中殿筋と足底装具の使用
●リハビリの方法
・回数とセット数
●オープンキネティックチェーンエクササイズ
・オープンクラムエクササイズ
・サイドラインアブダクション
・サイドプランク
・四つん這いからのヒップエクステンション
・フロントプランク
●クローズドキネティックチェーンエクササイズ
・腹臥位での分離動作パターン
・グルテアルスクイーズ(腹臥位)
・スクイーズ&リフト
●バランススタビライゼーション
・Level1 立位での分離動作パターン ― グルテアルスクイーズ(立位)
・Level2 バランス ― 交互片足立ち
・Level3 バランスとコーディネーション
付録 大殿筋と中殿筋の安定性向上とエクササイズシート
参考文献一覧
索引
まとめ
■腰痛患者の50~60%は、腰痛の根本的な原因が大殿筋にあると考えられる。
■大殿筋の機能は股関節の外転、外旋、そして仙腸関節を安定させることである。
■大殿筋の一部は胸腰部の筋膜だけでなく、仙結節靭帯ともつながっており仙腸関節を安定させる。
■大殿筋を神経的に抑制させる主な筋肉は、股関節の屈筋に分類される腸腰筋、大腿直筋、内転筋群であり、これらの屈筋が緊張し短縮すると大殿筋の筋力は低下する。
■大殿筋の機能不全や筋力低下は、後部斜角スリングの有効性を低下させ仙腸関節障害につながる。
■大殿筋の機能不全や筋力低下は、仙腸関節の安定や骨盤の位置を維持するために、ハムストリングスを常に緊張状態する。この緊張状態が続き慢性化すると故障の原因となる。
■収縮して硬くなった姿勢筋は関連する相動筋の働きを阻害し、相動筋は弛緩し筋力が低下する。
画像出展:「強める!殿筋」
■仙腸関節は「形態拘束」と「力拘束」によって安定を図る。
■形態拘束は不完全なため関節面の安定を図る必要があるが、これを行うのが、靭帯、筋肉、筋膜といった組織である。
■姿勢筋と相動筋が構造的、機能的につながることで身体全体の安定性や動作を担っている。
■筋膜スリングによる力拘束で骨盤は安定する。これらに問題があると機能不全が起こり腰痛につながる。特に姿勢筋による関節の安定性が重要である。
画像出展:「強める!殿筋」
左:後縦スリング
右:側面スリング
画像出展:「強める!殿筋」
左:前斜スリング
右:後斜スリング
■大殿筋が抑制されると大腿筋膜張筋が優位となり、大腿骨外側上顆で前側に引っぱり、腸脛靭帯摩擦症候群につながる。
■大殿筋の筋力低下は胸腰筋膜の緊張を保つ機能の低下が起こり、それを補完するために反対側の広背筋や同側の多裂筋が過度に活発になるというメカニズムが存在する。
※コメント
今まで、腰痛の患者さまで改善がなかなか進まない症例がありました。これらは”大殿筋”を軽視していたことが大きな要因だったかもしれません。