分断するアメリカとZ世代1

組織において“分断”はマイナスです。社内で専務派と常務派に分かれたり、チーム内で監督派とコーチ派に分かれたりすれば、総力は削られ組織の目標に赤信号が灯ります。特別な事情がない限り「百害あって一利なし」それが組織における“分断”だと思います。

一方、今のアメリカに起きている分断は何なのか。それは「多様性」と「権利」のせめぎ合い、そして背景にあるのが「生活」であり、その直接的な大きな要因の一つは「移民問題」ではないかと思います。

世界が注目するアメリカの大統領選挙は2024年11月5日です。バイデン大統領とトランプ元大統領の討論会は、およそ4カ月半前の6月27日に行われました。バイデン氏は年齢の衰えを隠せず、リーダーとしての資質に疑問を呈する場となりました。

一方、7月13日ペンシルベニア州のバトラー市で行われた共和党の集会で、トランプ氏は命を狙った銃弾で耳を負傷するという、あってはならない事件が起きてしまいました。この事件後、共和党内の一体感は高まり、世論は一気にトランプ氏の勝利を織り込むようになってきました。

バイデン大統領に代わる新しい候補者擁立の動きが活発化する中、7月21日、バイデン大統領は選挙戦からの離脱を表明し、後任を現副大統領のカマラ・ハリス氏に委ねるという発表がありました。もし、ハリス氏が大統領に選ばれると米国初の女性大統領ということになります。

今回の『Z世代のアメリカ』という本は、「カマラ・ハリスは何故人気がないのか」とタイプして見つけたものです。

著者:三牧聖子

発行:2023年7月

出版:NHK出版

NHK出版デジタルマガジンというサイトに、『アメリカ「例外主義」の変化―トランプ大統領が国際秩序にもたらしたものとは』という記事がありました。

なお、この記事は三牧先生の『Z世代のアメリカ』からの抜粋とのことです。

はじめに

第一章 例外主義の終わり―「弱いアメリカ」を直視するZ世代

●戦争はもうこりごり

●ドナルド・トランプ―「例外主義」を放棄した大統領?

●「逆・例外国家」?―バーニー・サンダースの問い

●未完のサンダース革命

●バイデンに受け継がれた「アメリカ第一」

●アフガニスタンからの撤退

●「アメリカにウクライナ支援をする義務はない」

●例外主義の放棄は平和につながるのか

●「盟主」不在の国際秩序とどう向き合うか

●ポスト例外主義世代

第二章 広がる反リベラリズム―プーチンと接近する右派たち

●リベラリズムへの敵意が広がるアメリカ

●内向きになる保守

●「文化闘志」ロン・デサンティスの台頭

●アメリカ右派とプーチンの思想的共鳴

●「キャンセルカルチャー」批判を繰り返すプーチン

●「キャンセル」を超えて

第三章 米中対立はどう乗り越えられるか―Z世代の現実主義

●分断される世界―民主主義サミットが示した問題

●アメリカはもはや民主主義のお手本ではない?

●選挙がむしろ民主主義を動揺させる?

●「能力」が正当化してきた経済格差

●対中感情の歴史的悪化

●Z世代のTikTokブームは「地政学的リスク」か?

●国家安全保障は大事だが、すべてではない

●未来の協調に希望をつなぐ

第四章 終わらない「テロとの戦い」―Z世代にとっての9・11

●「テロとの戦い」への懐疑

●9・11を記憶する

●誰が忘れられてきたのか

●たった1人の反対

●命の値段

●「女性を解放するため」の戦争?

●中村哲医師がみた9・11

●アメリカ=女性の解放者言説の欺瞞

●Z世代フェミニストの問い

第五章 人道の普遍化を求めて―アメリカのダブル・スタンダードを批判するZ世代

●不可視された「テロとの戦い」

●「ドローン大統領」オバマ

●永久戦争?

●忘れられるアフガニスタン

●経済制裁が加速させる人道危機

●アメリカのダブル・スタンダードを批判する若者たち

●人道に潜むレイシズム

●日本、そして私たちにできること

第六章 ジェンダー平等への長い道のり―Z世代のフェミニズム

●カマラ・ハリスの不人気

●多様性を象徴する存在

●黒人コミュニティからの不信感

●寛容であることの困難

●「壁」問題―「トランプ化」する民主党?

●「アイデンティティ政治」の失敗事例?

●中道であることの難しさ

●#Me too運動へのダブル・スタンダード?

●ハリスを超えて―フェミニズムの未来

第七章 揺らぐ中絶の権利―Z世代の人権闘争

●「母親や祖母より権利を持たない世代」

●ロー判決破棄の背景―司法の保守化

●リベラルが中絶に反対した時代

●ギンズバーグ判事が見いだしていたロー判決の弱さ

●母性を否定しない「新しいフェミニズム」?

●プロ・ライフとプロ・チョイスの二分法を問い直す

●1人の女性の中にあるプロ・ライフとプロ・チョイス

●声をあげるZ世代

●社会運動では勝っても、権力闘争では負けるリベラル?

●アメリカは今、人権の旗手といえるのか

●権利を守る世代

●Z世代へ未来をつなぐ

おわりに

第一章 例外主義の終わり―「弱いアメリカ」を直視するZ世代

戦争はもうこりごり

・2000年代のアメリカは、対外的にはアフガニスタン・イラン戦争後の膠着、肥大化する戦争関連費用に苦しみ、対内的には2008年のリーマン・ショック後の長い不況に見舞われ、貧困の格差も極限まで広がった。

・Z世代が知っている戦争はアメリカから仕掛け、圧倒的な力の差によるものだったが、ロシアとウクライナの戦争は全く異なる。他国から侵略を受けた国に対し、アメリカは何をすべきか、何ができるのかという新しい問いを突き付けられている。

・アメリカが反戦の立場をとって、ウクライナへの武器支援をやめれば平和は訪れるのか。ウクライナの領土や主権が大幅に損なわれたうえで、停戦は実現されるかもしれない。しかし、それは本当に平和と呼べるのか。他方、際限ない武器支援のよって望ましい平和は訪れるのか。ロシアのような軍事大国を屈服させることは可能なのか。Z世代は今、こうした厳しい問いと現実に直面している。

ドナルド・トランプ―「例外主義」を放棄した大統領?

・2001年の9・11同時多発テロから始まった「テロとの戦い」は過去20年間でアメリカが軍事作戦を展開してきた国は80カ国に及び、その費用は計8兆ドル(約1200兆円)にのぼる。命を落とした米兵の人数は7000人を超え、敵対する兵士や民間人を含めた全世界の死者の総計は90万人前後に及ぶ。

・2017年、第45代アメリカ大統領に就任したトランプは、「世界に搾取され、弱くなったアメリカ」というネガティブな自国像であった。そこには盟主意識も世界の警察という意識も全くない。

・トランプにとって、自国の産業や自国の軍隊を犠牲にするような世界との関与を改め、国益を追求する「アメリカ第一主義」を宣言した。“Make America Great Again”である。

・トランプが放棄した「例外主義」とは、「アメリカは物質的・道義的に比類なき存在で、世界の安全や世界の人々の福利に対して特別な使命を負う」という考えである。トランプが目指すのは「普通の国」ということである。しかしながら、これはアメリカの「例外主義」的な意識に支えられてきた国際秩序が重大な転換点にあることを意味している。

アメリカ例外主義(Wikiより):アメリカ合衆国がその国是、歴史的進化あるいは特色ある政治制度と宗教制度の故に、他の先進国とは質的に異なっているという信条として歴史の中で使われてきた概念である。

「逆・例外国家」?―バーニー・サンダースの問い

・アメリカは新型コロナのパンデミックで、社会保障制度の脆弱性が露呈した。

社会主義の否定の裏には豊かさや自由への誇りがあった。しかし、貧富の差が拡大を続ける中で、状況は大きく変わり今日では多くのアメリカ国民が現状に疑問と不満を募らせている。

2019年5月のギャラップ社の調査では、43%の回答者が社会主義を「よいもの」だと回答している。これは1942年の25%からの劇的な上昇である。

・新自由主義グローバリズムと格差の拡大が現実的になりつつあるなかで、アメリカ国民はなぜ先進国でありながら、ここまで社会保障制度が未整備なのかと不満を募らせている。

サンダースが模範とみなすのは、デンマークなどの北欧諸国である。デンマークでは一握りの人々が莫大な富を保有することを可能にする制度を推進する代わりに、子どもや高齢者、障害者を含むあらゆる人が安心して生きられる最低限度の生活水準を保障する制度を作った。

・アメリカ的な「自由」は唯一のものではなく、もしかしたら最善のものでもないかもしれないという主張は、アメリカの「例外主義」を根本から問い直すものであった。

・アメリカの科学技術や文化・芸術に関しては、90%近くが「誇りに思える」と回答しているが、社会保障制度や政治システムに関しては、「誇りに思えない」が60%超えている。

・サンダースの問題定義に最も賛同している世代は若者である。Z世代は物心がついてからずっと、お金がものを言う政治を見せつけられ、政治に希望を見いだすことはできなかった。

未完のサンダース革命

・サンダースは、2016年はクリントンに、2020年はバイデンに敗北した。敗因はクリントン、バイデンといった中道の重鎮たちは面白みがないが選挙に勝てる可能性が高いと思われている。

・サンダースは「急進左派」と言われているが、その政策はヨーロッパの中道左派の主張に近いものである。

バイデンに受け継がれた「アメリカ第一」

・バイデン政権は大統領就任直後から、トランプ政権下で進められた排他主義的・単独行動主義的な政策を巻き戻し、世界に開かれ、他国と協調するアメリカを再び打ち出すものだった。しかしながら、アメリカが取り組むべき喫緊の課題は国内に山積しており、大々的な対外関与の余裕はないというのが実状である。

アフガニスタンからの撤退

・『2021年4月14日、バイデンは20年にわたる「テロとの戦い」において、一つの画期となる決断を表明した。この日バイデンは、2001年10月、ジョージ・W・ブッシュ大統領がアフガニスタンへの空爆開始を宣言したホワイトハウスの「条約調印の間」で演説を行い、「アメリカ史上最長の戦争を終えるときだ」と宣言。アメリカ同時テロから20年迎える9月11日までにアフガニスタンの駐留米軍を完全撤退させると表明した。

アフガニスタンの安定化の見通しがつかないままの完全撤退については共和党のみならず、政権内からも反対の声があがっていた。中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官は14日の上院公聴会で、米軍が撤退すれば、同地域の軍事力低下につながるとあらためて懸念を表明した。完全撤退は、こうした懸念の声をバイデンが押し切る形で決定された。

その後、撤退期限は8月末に早められ、撤退を完了させたバイデンは、アメリカの目的はアメリカ本土に対するテロ攻撃の再発を防止することにあったとし、その目的は実現されたと主張して、次のように宣言した。「アメリカが他国を作り変えるために大規模な軍事作戦を展開する時代を終わらせることだ」。もっともこれはオブラートに包まれた表現で、より率直にバイデンの心境を表現していたのは、首都カブールがタリバンの手に落ちた翌日の8月16日、それでも米軍の撤退を進める決意を国民に示した演説の中の次の中の言葉だろう。それはトランプと見間違えるような、赤裸々な「アメリカ第一」宣言だった。

[アフガニスタン軍が戦わないのに、アメリカ人の娘や息子をあと何世代、アフガニスタンの内戦に送り込めばいいのだろうか。アメリカ人の命をあと何人分、アーリントン国立墓地に延々と並ぶ墓石に変えたらいいのか? その価値があるのだろうかと。(中略)私の答えははっきりしている。私は、過去に起こした過ちを繰り返したくない。アメリカの国益にならない紛争にいつまでも留まり戦うこと、外国での内戦を激化させること、米軍を延々と派遣して国を作り変えようとすること。このような過ちを繰り返してはならないのだ。]

“Remarks by President Biden on Afghanistan ,”White House, August16,2021.

このバイデンの時代認識は、国民にも広く共有されていた。確かに米兵を含む人命の犠牲も出しながらのアフガニスタンからの撤退は、多くの国民の批判に晒されたが、国民の批判は、撤退時期や撤退方法に集中し、撤退というバイデンの判断自体は過半数に支持された。

アフガニスタンからの米軍撤退に関する世論の背景には、より大きな世論の潮流がある。昨今のアメリカでは、アメリカはこれまで過剰に世界に介入し、自国を疲弊させてきたという批判的な意識が高まり、アメリカの国際的な役割をより穏当なレベルに引き下げるべきだという考えが党派を超えたコンセンサスとなっている。各種の世論調査でも、「アメリカは世界の警察をやめるべき」「他国のことより国内問題、特に雇用の問題に取り組むべき」「同盟国に安全保障のコストをもっと負担させるべき」といった見解は、党派を超えて広く支持されてきた。

ポスト例外主義世代

・「テロとの戦い」による国家的消耗、コロナ禍の甚大な被害の経験から、若い世代ほど対外介入に否定的な意見を持っている。

・2020年6月にギャラップ社が行った調査で、世代別で最も低い値だったのは18歳から29歳までの世代で、アメリカ人であることを「非常に誇りに思う」と回答したのは20%だった。彼らの多くはリベラルな価値観の促進に未来への希望を見いだし、銃規制や気候変動対策を支持し、よき未来に向けて社会運動にも積極的に関与する。行き過ぎた資本主義と経済格差に不満を募らせ、より社会主義的な政策を支持する世代でもある。対外的にはグローバル化する世界におけるアメリカ一国の力の限界への冷静な認識から、アメリカは多少の妥協を伴ったとしても、共通の目的のために他国と協調しなければならないと考え、多国間協調を志向する。

・ロシアのウクライナ侵攻は、国際協調主義の限界を突きつけている。中国やグローバル・サウスとの間の不一致は続いているが対話を閉ざすことはしていない。アメリカ一国の力の限界を自覚している。

・『アメリカの圧倒的な力の優位が失われ、ロシアのように明らかな現状変更を試みる国も現れる中で、いかに平和を回復し、持続させていくのか。国際協調主義をDNAとして組み込んだアメリカのZ世代が、この難問にどう立ち向かっていくのか。私たちも他人事ではなく、自分事としてみていくべきだろう。』

第二章 広がる反リベラリズム―プーチンと接近する右派たち

リベラリズムへの敵意が広がるアメリカ

・プーチンの権威主義的な政治スタイルは、アメリカ右派の間に共感の輪を広げている。特にプーチンを「強い指導者」と称賛するトランプが大統領となって以降、共和党支持者の間にもプーチンへの好意的な意見が目立って増えてきた。

2017年には、共和党支持者の49%がロシアを同盟国あるいは友好国とみなし、32%がプーチンに好意的な意見を持っていた。

“Republicans Are Warning Up to Russia, Polls Show.” Morning Consult, May24, 2017.

・2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件が示したように、選挙制度への不信、政治的な目的のための暴力を容認する世論の傾向も顕著になってきている。

・ハーバード大学やシドニー大学が共同で行ってきた「選挙の公正さプロジェクト」の調査によると、アメリカの選挙の公正さは西洋の民主主義国家の中では最低レベルである。

Electoral Integrity Project Report, 2020.

・『昨今は、共和党が上下院の多数を占める州を中心に、「不正投票の防止」という一見もっともな名目で、低所得者やマイノリティの投票を実質的に阻む法律が多数成立している。有権者ID法などで投票時における身元確認が厳格化されたことにより、運転免許証を持たない人や、定まった住居を持たない人の投票が困難にされてきた。』

Brennan Center for Justice, State Voting Laws.

・『アメリカの共和党は過去20年間で非自由主義的な性質を顕著に示すようになっており、ヨーロッパの中道右派政党よりも、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン政権やハンガリーのオルバーン・ヴィクトル政権のような権威主義国家の与党に近いことが明らかになっている。特にトランプ政権下でその傾向は加速した。』

アメリカ右派とプーチンの思想的共鳴

共和党右派とプーチンとの間には反リベラリズムという共通の価値観がある。

・欧米諸国の右派が抱くリベラルな価値や政策への不満に巧妙に働きかけ、社会の分断を狙うプーチンの思惑通り、民主党政権のもとでジェンダーの多様性が進み、また移民や難民に寛容すぎるという不満を募らせているアメリカ右派たちはプーチンに対し、共感や親愛の情を抱いてきた。