1.3 浅筋膜
●序論
・表皮と真皮の下にある浅筋膜(皮下組織)は高密度に包まれた層と疎性結合組織、脂肪が存在する。
・皮膚と同一の広がりをもち、血管や神経を外皮へ、また外皮から運ぶという非常に重要な組織を構成する。
・浅筋膜(皮下組織)は皮膚とその下にある深筋膜とを結びつける。深筋膜は全身の筋と腱膜を覆う。
・皮膚と浅筋膜は骨格筋フレーム枠の上を滑り、保護するクッションになる。エラスチンと連結するコラーゲン線維シートはこの可動性を促進する。
・血管と神経は浅筋膜内で捻じれているため、伸長への適応が可能である。
画像出展:「細胞と組織の地図帳」
上から“表皮”→“真皮”→“皮下組織”になります。“浅筋膜”は皮下組織の部分です。
画像出展:「Tarzan」
深筋膜は浅筋膜(皮下組織)と筋(筋外膜)の間にあります。
●肉眼的構造と分布
・線維束(皮膚支帯)は、真皮から深筋膜までそれらの連結を強化しながら皮下層を横断する。
・健常成人男性で体重の約20%、女性で約25%が白色脂肪である。
・皮下脂肪は身体の全脂肪貯蔵の約50%を占めるが、貯蔵は動的で細胞内で2~3週間ごとに入れ替わっている。
・成人では脂肪細胞の数は一定であり、幼児期と思春期のあいだに遺伝によって確定する。
・成人では脂肪細胞の約10%が毎年入れ替わる。
●構成要素と機能の関係
間質液
・皮下組織にはリンパ管と毛細リンパ管の豊富な網状組織が存在する。
・間質液には毛細血管からの組織液の産生と皮下リンパ管への吸収の動的な釣り合いがあり、下に存在する筋の収縮によってドレナージ[血液・膿・滲出液・消化液などの感染原因の除去や、減圧目的で患者の体外に誘導、排泄すること]が助けられている。
力吸収
・“線維脂肪組織”の皮下への混合物は、身体表面への圧縮力と剪断力に耐える圧力吸収装置として機能する。
断熱
・皮下脂肪は身体を熱損失から断熱する。
エネルギー源
・皮下脂肪は貯蔵エネルギーの非常に重要な蓄えになる。
・エネルギー源はトリグリセリドである。
血管配列
・下肢の伏在静脈は筋膜下よりも筋膜間に存在している。
・静脈は深部の筋膜と表層の膜様の2つの筋膜で区切られた区画内に存在する。その区画の中で、静脈は結合組織によって固着される。
・皮下脂肪はすぐに使用できるエネルギー源であるため、非常に豊富な血液供給がある。また、体温調節の役割も果たす。
・小さな動脈は2つの網状組織を供給する。乳頭下血管叢が最も表層にあり、皮下組織の近くの真皮に存在している。第2の網状組織は皮膚網状組織であり皮下組織に存在する。2つの網状組織は自由に通じ合う。
・より小さな静脈は動脈に伴走し、2つの網状組織に同じように配列される。この配列は皮膚の中を流れる支配血液の吻合を可能にするので、豊富な動静脈吻合を提供する。
“乳頭下血管叢”をネットで調べていて見つけたものです。これは以下にご紹介した皮膚科医の清水宏先生のオフィシャルサイトにあったものです。著者である先生が本1冊、しかもとても分かりやすい見出しをつけてアップされています。
筋
・四足動物では皮下組織の深い部分に皮筋層という皮筋の広範囲なシートがあり、虫などの皮膚刺激物を取り除く保護機能を有するが、人ではこの層はただの痕跡にすぎない。
線維
・皮膚への張力特性と弾性特性を制御している。
・皮下には3種類の線維が存在する。主にコラーゲンとエラスチンだが、レクチン(一種のコラーゲン)も存在する。
・コラーゲンは皮膚が伸長されるときに抗張力を示す。種にⅠ型だがⅢ型とⅤ型も存在する。
・線維は脂肪細胞を取り囲み小葉にグループ化する。また、真皮と深筋膜を結びつける。
・エラスチンは真皮と表皮の伸長と弾性反跳に関係する。
細胞
・皮下組織にある線維芽細胞は、コラーゲン線維とエラスチン線維と他の基質蛋白質で形成される蛋白質を合成することに加え、それらはコラーゲン線維と他の線維の分解にも関与する。
・血液単球から生じるマクロファージは食細胞である。
・好中球は通常、炎症反応に関与することなく間質液を循環する。
・肥満細胞は血中好塩基球の特徴を有し、ヘパリン、セロトニン、ヒスタミンを産生し、毛細血管に作用して浸透性に影響を与える。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
左下に肥満細胞(マスト細胞)が出ています[肥満細胞は粘膜下組織や結合組織などに存在します]。
この図を見ると、”炎症”のプロセスにおいて、”肥満細胞”が非常に重要な役割を担っているのが分かります。そこで、細かいですがご紹介させて頂きます。
『感染症や外傷によって組織が傷害されたとき、細菌などの有害因子を排除し、組織を修復するために起こる治癒過程を炎症という。具体的には、①局所の血流が増加し、②血漿および白血球が血管外に移動し、③血漿成分と食細胞が協力して有害因子を除去し、④組織が再生される。
上記の経過中、主として血流量の増加や血漿の漏出のために組織に現れた変化を、肉眼的にあるいは自覚症状としてとらえられたものが「炎症の4徴候」すなわち発赤、腫脹、熱感、疼痛である。炎症反応は種々の化学伝達物質によって調節されている。血漿キニンや、細菌によって活性化された補体成分、炎症巣において白血球が放出する種々のサイトカインなどがこれに含まれる。これらを総称して炎症のメディエータという。
肥満細胞は補体やIgE抗体で刺激されると脱顆粒を起こし、ヒスタミンやセロトニンを放出する。これらのアミン類は、毛細血管の内皮細胞を収縮させ、細胞間隙を広げることにより血管透過性を亢進させる。肥満細胞は次いで、プロスタグランジンE₂(PGE₂)、ロイコトリエンB₄(LTB₄)、血小板活性化因子(PAF)といったアラキドン酸代謝物を産生・放出する。これらも血管透過性亢進作用を持つ。
血漿の漏出により組織間液が増加し、組織は腫脹する。また、組織圧の上昇により、あるいはブラジキニンによって痛覚受容体が刺激され疼痛を覚える。
ブラジキニン、プロスタグランジンE₂は細静脈を拡張させ、局所の血流を増加させる。血流によってより多くの酸素と栄養素が運ばれ、組織の代謝が亢進し再生修復を促進する。局所の血流増加と代謝亢進は、発熱と熱感として観察される。
炎症が始まって数分以内に、組織内のマクロファージが到着し貪食を開始するとともに、TNF-α、IL-1、IL-6を産生する。これらのサイトカインは炎症局所のみならず全身的に幅広い作用を持つ(①接着分子の発現 ②好中球の動員 ③急性期蛋白質(CRPは代表的な物質)の誘導 ④発熱)。』
細胞外マトリックス-基質
・基質は糖蛋白(エラスチンの伸張と反跳特性のために必要。また、コラーゲン線維の沈着と定位を制御している)、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、ヒアルロン酸、コンドロイチンとデルマタン硫酸を含む。
他の成分
・らせん状の汗腺の深部は皮下組織に広がる。毛包根もまた皮下組織にある。
●皮下組織の加齢変化
・皮膚と下に横たわる浅筋膜は弛緩して伸びる。そして、下垂軟部組織、偽性脂肪沈着変形、セルライトに帰着する。また、発汗と皮脂腺が衰退し、上にある皮膚を乾燥させるようになる。
1.4 肩と腕の深筋膜
●肩の深筋膜
・肩の深筋膜は体幹と四肢両方の筋膜に似た特性を有している。
・大胸筋、三角筋、僧帽筋、広背筋の筋膜は固有の層を形成し、これらすべての筋を包み込み前鋸筋の上を通過し、強い筋膜層を形成する。
・大胸筋、三角筋、僧帽筋、広背筋の筋膜は、比較的薄いコラーゲン線維層である。
・大胸筋、三角筋、僧帽筋、広背筋の筋膜は、筋膜内面から延びている一連の筋内中隔[筋肉と筋肉の間を隔てる厚い結合組織]により各筋にしっかりと付着しており、筋自体を多くの束に分けている。
・筋外膜(筋上膜)は深筋膜と下に横たわる筋の間で識別不能である。多くの筋線維はこれらの筋膜の内側や、直接に筋内中隔から起因する。
・胸筋筋膜は鎖骨から起こるが、胸筋筋膜深層だけは鎖骨骨膜に付着し、浅層は上方の深頚筋膜の浅層へと続き、胸鎖乳突筋と僧帽筋を取り囲む。
・胸筋筋膜深層は内側では、胸骨骨膜に入り込む。
・胸筋筋膜浅層は胸骨を越えて、反対側の胸筋筋膜へ延びる。
・胸筋筋膜は遠位では、腹直筋鞘や反対側の外腹斜筋筋膜から起こる若干の線維展開によって補強される。
・胸筋筋膜は平均151μmの厚さである。そして、頭尾側方向で厚さが増し、乳房部では平均578μmの厚さに達する。
・胸筋筋膜は剣状突起状上にて交差した線維パターンを形成する。
今度は“胸筋筋膜”で検索したところ、またまた凄いサイトを見つけました。
『13th NNACで私の仕事を紹介する機会を頂きました。脳神経外科(脳血管の機能解剖)がメインの研究会ですが、脳神経外科領域のみならず、内科、専門科を含めた領域で解剖学変異(破格、バリエーション)の知識を共有できるホームページがあれば、稀な疾患への治療方針が迅速に立てられるようになり、患者さんの命を救うのに少しでも役に立たつのではないかと考え、協力してくださる医師・研究者と日本を代表する医学教育サイトを目指すことにしました。私が慶應義塾大学医学部解剖学教室に勤務するようになって33年ほど経過しました。このホームページは、医学生のために役に立ちたいという思いでつくりましたが、医学生のみならず、医師、患者さんとの情報共有ができればと考えています。』
・三角筋筋膜はその下の筋肉の大きさに関係なく、人によって筋膜の厚さは様々である。筋膜は筋に強く付着し、三角筋の種々の部分と結合する。
・三角筋は3つの部分(前部、側部、後部)に区別できる。
・三角筋筋膜は僧帽筋を覆っている筋膜に続く。
・三角筋筋膜の表層筋膜層は連続している。
・三角筋筋膜の深層は肩甲棘や鎖骨に入り骨膜と連続する。
・三角筋と胸筋筋膜は波状コラーゲン(多数のエラスチン線維が不規則な網目を形成している)で、その下の筋に対して多少横断して配列している。
・鎖骨胸筋筋膜は浅層の筋層を剥離すると見える。
・鎖骨胸筋筋膜と大胸筋との間には疎性結合組織があり、そのため大きな分割面が存在する。それにより胸筋筋膜深層が鎖骨胸筋筋膜に対して独立して滑ることができる。
・鎖骨胸筋筋膜は鎖骨から生じて、鎖骨下筋と小胸筋を囲むために遠位に広がる強い結合層である。
・鎖骨胸筋筋膜は外側では腋窩筋膜と烏口腕筋筋膜へ続く。
・鎖骨胸筋筋膜は2部位に分かれる。1つは小胸筋を覆っている部分、もう一方は小胸筋の上縁と鎖骨間の三角形の形状層である。
・鎖骨胸筋筋膜は胸動脈、神経、橈骨皮静脈が通過する。
・肩甲下筋筋膜は肩甲骨周囲の種々の中で最も薄いが明確な層である。
・肩甲下筋筋膜は外側には腋窩筋膜と棘下筋筋膜、そして頭側は棘上筋筋膜へ続く。
・棘下筋筋膜は棘下筋と大円筋を覆う。
・棘下筋筋膜は一部を広背筋と三角筋に覆われる。一方、広背筋、僧帽筋、三角筋の接合する筋膜だけは浅層面にある部分を覆う。この部分において、2つの筋膜が各々に固着し、強い筋膜プレートを形成する。
・棘上筋筋膜は棘上筋を覆って肩甲挙筋の筋膜へ続く、厚さは様々で時に脂肪組織を含む。
・棘上筋筋膜と棘下筋筋膜の遠位1/3は肥厚が常に認められ、この肥厚が肩甲上神経の動的な圧迫となり、症例の15.6%に関与していると考えらえている。なお、肩甲上神経の症例の殆どは下肩甲靭帯に由来するものである。
・腋窩筋膜は、浅筋膜と深筋膜の結合によって形成される。
・腋窩筋膜は外側では腕の浅筋膜と上腕筋膜、内側では大胸筋筋膜と鎖骨胸筋筋膜、後方では広背筋筋膜と肩甲下筋筋膜へと続く。
・腋窩筋膜は多数のリンパ節を含んでおり、多数の神経と血管が通過し線維組織と脂肪の栓で満たされている。
●腕の深筋膜
・上腕筋膜と前腕筋膜は、腕の深筋膜を形成する。
・腕の浅筋膜は皮下脂肪組織の範囲内に存在し、容易に深筋膜から分離できる。
・上腕筋膜は強力であり、腕の筋を覆っている半透明の層状結合組織である。
・上腕筋膜の厚さは平均863μmであり、前部は後部より薄い。この筋膜内では様々な方向へのコラーゲン線維束を容易に確認できる。コラーゲン線維束は腕の長軸に対して横走するだけで、縦走あるいは斜走する。
・上腕筋膜は外側・内側筋間中隔と上顆に付着しているが、下の筋から容易に分離できる(プレート1.4.1)。
・上腕筋膜は近位では腋窩筋膜と大胸筋、三角筋、広背筋の筋膜に連続する。
画像出展:「膜・筋膜」
上腕前面の解剖、上腕二頭筋から上腕筋膜を剥離している。
・前腕筋膜は結合組織の厚い白っぽい層の外観を呈し、屈筋と伸筋区画を包み、その内側面からそれらの間の中隔へと延びる。
・前腕筋膜の厚さは平均0.75mmであり、手関節領域で増加し(平均1.19mm)、手関節の屈筋・伸筋支帯を形成する。
・前腕筋膜は様々な方向に走行している線維束より形成される。
・手関節では線維束は内外側方向と外内側方向へ多重層となって近位から遠位へ配列する。
・前腕筋膜は橈側手根屈筋と尺側手根伸筋の上にあるが、遠位では腱鞘が筋膜と融合し、手関節では筋膜は腱鞘を包み込んでいるように見える。
・前腕筋膜は尺骨動脈と尺骨神経が通過するギヨン管の屋根を形成する。
・前腕筋膜は外側と内側では母指球筋膜、小指球筋膜へと続き、隆起間に厚い横断的線維束が張る。
・3層の平行なコラーゲン線維束は、互いに疎性結合組織の薄い層で分けられ、腕の深筋膜を形成する。これらの束の配列は各線維内では平行であるが、層ごとに異なっている。
・多くの血管は浅筋膜(皮下組織)内の疎性結合組織層に存在し、線維束と混ざる。
●筋膜展開
・筋膜展開は腱付着部近くに集中するストレスを減少させると同時に動きも減少させる。
・上腕三頭筋内側頭は遠位で前腕筋膜へ、尺側手根伸筋は小指球筋群へ腱展開があり、最後に小指外転筋は腱展開を伸筋腱膜へもたらす。上肢全体の前方運動の間、大胸筋鎖骨部線維の収縮は、上腕筋膜前部を引っ張る。上腕二頭筋の同時収縮は、その上腕二頭筋腱膜によって前腕筋膜の前部を引っ張る。一方で、長掌筋が屈筋支帯、手掌腱膜、母指球筋筋膜を引っ張る。このように、これらの筋膜連結は上肢の屈曲に関与する様々な筋成分間に解剖学的連続性を形成する。
画像出展:「膜・筋膜」
上肢の深筋膜と下に横たわる筋のあいだの連結を示した略図。
・筋膜には神経分布が豊富であり、この神経支配は、ほとんどの場合、固有受容型(機械受容器、自由神経終末など)であるため、筋膜の特定の領域の伸張は固有受容の特定のパターンを活性化する。筋の骨への付着は機械的な動きに作用するが、筋膜の付着は固有感覚の役割を担い運動知覚に関与する。
●腕の深筋膜弾性
・筋力計を用いた腕の深筋膜弾性研究では、筋膜が筋収縮で発生した力を伝達することができることを示した。上腕二頭筋腱膜と上腕三頭筋の伸張は、それぞれ5.63㎏と6.72㎏の平均牽引力を示した。大胸筋と広背筋の伸張力は約4㎏であった。手の腱における伸長力は弱く、約2.5㎏の牽引力である。弾性は筋の量と力に関連があるように思われる。