第4章 透析療法の実際を知ろう―腹膜透析と血液透析
PD
●腹膜透析(PD)は、「拡散」と「浸透」により 老廃物や余分な体液を取り除きます
・腹膜は内臓の表面を覆っている袋状の膜で、広げると畳1畳分くらいの面積がある。厚みは0.5~1.5㎜程度で、無数の毛細血管が網の目状に走り、半透膜の性質を持っている。
・腹膜(腹腔)に透析液を入れておくと、毛細血管と腹膜の壁を通じて、血液の中の老廃物や余分な水分が腹腔に移動する。老廃物が腹腔に移動するのは、濃度の差による「拡散」という現象のためである。
・透析液は血液よりも高い濃度のブドウ糖が含まれているため、血液側から透析液側へ水が移動し、余分な水分が除去
・その人の腹膜機能に合う透析液を選ぶ必要がある。
●透析液の(注液と排液)はおなかに挿入した腹膜カテーテルで行います
・腹腔の中に、新しい透析液を入れることを「注液」といい、老廃物や余分な水分で汚れた透析液を、体の外に出すことを「排液」という。
・注液と排液は、お腹に入れた「腹膜カテーテル」という管を使って行う。
・透析液バッグを腹膜カテーテルにつなぎ、お腹よりも上に上げると、その高低差によって、自然に透析液が腹腔内に入る。排液するときは、排液バッグをお腹よりも下に下げることにより、やはり自然に排液される。
・腹腔内に一定時間(通常2~8時間)貯留したあとの透析液(排液)は、老廃物などの含んでいるため尿のような黄色い色をしている。
・バッグ交換は基本的に患者さん自身が行うが、高齢者など自分自身での交換ができない場合は、家族や訪問看護師にサポートを受ける。
著者:石橋由孝
発行:2020年1月
出版:主婦の友社
●バッグ交換を行うCAPDと夜間に機械で行うAPDがあります
・腹膜透析には1日1~4回バッグ交換を行う「持続携帯腹膜透析(CAPD)」と、1日1回、夜間に透析を行う「自動腹膜透析(APD)」がある。また、APDに日中1回のCAPDを組み合わせ、24時間持続的に腹膜透析を行う、「連続的腹膜透析(CCPD)」という方法もある。
・APDは自動腹膜還流装置(サイクラー)という機械を使って行う腹膜透析である。就寝前に、腹膜カテーテル、透析液バッグ、排液バッグをサイクラーの回路に接続し、8~10時間の間に、3~6回透析液の交換を自動的に行う。
著者:石橋由孝
発行:2020年1月
出版:主婦の友社
●腹膜カテーテルをおなかに入れる手術は腹膜透析導入入院で行います
・腹膜カテーテルは、お腹に小さな穴をあけ、カテーテルの片方の端を腹腔内に入れる。カテーテルの長い部分は皮膚の下にはわせ、抜けにくいようにして、もう片方の端を体の外に出す。
・手術翌日から、コンディショニングと呼ばれる調整を行い、透析液の貯留が問題なくできることを確認する。
・患者さんは、バッグ交換の手順や出口部のケア方法などに関する場合は、さらに1週間ほど入院してサイクラーの使い方などを覚える。
著者:石橋由孝
発行:2020年1月
出版:主婦の友社
●残っている腎機能を良好に保つための考え方「腹膜透析(PD)ファースト」とは
・腹膜透析は血液透析に比べ、残存腎機能を良好に保てるということがわかっている。特に透析導入から3年くらいがその傾向が強い。
・腹膜透析の方が腎機能を保ちやすい理由
-毎日連続的に行うゆるやかな透析のため、全身の循環に対する影響が少ない。
-食塩や水分を連続的に除去できるので、血圧のコントロールがしやすい。
-腎臓に与える負担が軽い。
・残存期間が保たれているとき、特に高齢者の場合は1日1~2回のバッグ交換で済む場合もある。
著者:石橋由孝
発行:2020年1月
出版:主婦の友社
●腹膜透析をトラブルなく続けるためには 体液管理と感染予防がとくに大切です
・体液管理は体液量を適切に保つこと、感染予防はおもに腹膜カテーテル出口部の細菌感染を予防することである。
・体液管理の目安は血圧と体重である。水分の摂取量と排泄量のバランスがとれていれば、血圧や体重は適切に保たれる。
著者:石橋由孝
発行:2020年1月
出版:主婦の友社
●腹膜透析と血液透析を併用する方法は腹膜の劣化を抑える効果が期待できます
・日本では腹膜透析の人の約20%が、PD+HD併用療法を行っている。
・血液透析からPD+HD併用療法に変更することできる。残存機能によっては、はじめからPD+HD併用療法を導入することもある。
著者:石橋由孝
発行:2020年1月
出版:主婦の友社
第5章 腎移植は末期腎不全治療の第一選択
●末期腎不全を根本的に治す腎移植は提供された腎臓をおなかに移植します
・移植手術では、臓器を提供する人をドナー、提供を受ける人をレシピエントという。
・腎移植の手術は、レシピエントの腎臓はそのまま残し、ドナーから提供された腎臓を骨盤の中(腸骨窩)に移植する。この場所は腎臓を入れるスペースがあり、移植腎の血管をつなぐ動静脈があり、移植腎の尿管と膀胱の距離が近いことである。
・手術は生体時腎移植の場合は3~4週間程度、献腎移植の場合は1カ月程度で退院できる。
著者:石橋由孝
発行:2020年1月
出版:主婦の友社
●腎移植の件数は徐々に増加し先行的腎移植も増えています
・2017年の腎移植手術は1742人で約90%は生体腎移植である。最新のデータでは5年生着率は94.6%である。
・献腎移植の場合は、患者さんの待機年数が長く、長期間透析を行ってから腎移植に至る人が多いことなどが影響し、5年生着率は87.5%である。
著者:石橋由孝
発行:2020年1月
出版:主婦の友社
●腎移植までの準備期間にメリットとデメリットを理解しましょう
・ドナーは基本的に20~70歳の健康な人だが、腎臓提供によって、手術そのものや腎臓を片方失うリスクを負うことになるため、健康面、経済面など考慮する必要がある。
・最も重要なことは、ドナーが主治医からの説明を理解し、完全に納得していることに加え、腎臓提供が自発的な、完全に自らの強い意志に基づくものでなければならいという点である。
・提供の意思をいつでも取り消せるということは、ドナーもレシピエントもよく理解しておくことも大切である。
・ドナーへの確認は、臨床心理士や精神科医など、心理の専門職が行うのが一般的である。ドナーの心理的、社会的な問題はないか、腎臓の摘出に耐えられるか、身体的なチェックを行う。
・腎移植のメリットは、①普通の生活ができる ②心血管合併症などの合併症が少ない ③妊娠・出産が透析療法に比べてしやすい などがある一方、生体腎移植の場合はドナー側のリスク、献腎移植の場合は待期期間が長いなどのデメリットもある。さらに、腎移植後、うまく生着しない可能性も考えておく必要がある。
・術後は拒絶反応を防ぐために免疫抑制薬を一生飲み続けるので、副作用に注意し定期的に受診する必要がある。
著者:石橋由孝
発行:2020年1月
出版:主婦の友社
・移植した腎臓を長持ちさせるための自己管理も大切である。
・腎移植を受けるには、①全身感染症(HIV感染など)がない ②活動性肝炎がない ③悪性腫瘍がない ことに加え、年齢(20歳以上70歳未満)、血圧、肥満などもチェックされる。
著者:石橋由孝
発行:2020年1月
出版:主婦の友社
●腎移植後は合併症の予防が大切です 免疫抑制薬は生涯飲み続けます
・全身麻酔の手術に伴う合併症には、出血、創部の離開(傷が開くこと)、肺炎などの感染症、肺塞栓症、痛み、切開による神経マヒなどが考えられる。
・腎移植に伴う合併症には、「拒絶反応」、「移植腎機能未発現」、「慢性移植腎症」などがある。
・拒絶反応には術後3カ月以内に起こる「急性拒絶反応」と、それ以降に起こる「慢性拒絶反応」があり、いずれも腎機能が低下する。免疫抑制薬の投与は必須であるが、リスクを完全に排除することはできないが、早期発見による免疫抑制療法の強化により対応する。
・「移植腎機能未発現」は献腎移植の合併症で、移植した腎臓が尿を作らないことである。この場合、腎性検によって問題が明らかになった場合は、移植腎を摘出することもある。
・免疫抑制薬は生涯飲み続け、退院後は、患者さん自身の服薬管理が大切である。それでも、副作用が出ることもあるので、毎月1~2回は受診し、必要に応じて検査を積極的に受ける。
著者:石橋由孝
発行:2020年1月
出版:主婦の友社
●移植した腎臓を長持ちさせ健康に長生きするためには自己管理が必須です
・腎移植後に太ったり、糖尿病を発症してしまう患者さんは少なくない。理由は食欲が増すことや、ステロイド薬の影響などさまざまである。
・腎移植後の患者さんの脂肪要因が多いので、感染症、心血管疾患、悪性新生物(がん)である。がんについては、特に、腎がんや膀胱がん、子宮体がん、皮膚がんの発症率が高いことがわかっており、禁煙などの予防対策とがん検診など、定期的に受けるべきである。
コラム 腎移植後に飲む免疫抑制薬
・拒絶反応を防ぐために腎移植後は2~3種類の免疫抑制薬を服用する。
・複数の免疫抑制薬を飲む理由は、薬のはたらきがそれぞれ異なるからである。
1)カルシニューリン阻害薬
・拒絶反応でもっとも中心的にはたらく、T細胞リンパ球という免疫細胞を抑える薬である。
2)代謝拮抗薬
・拒絶反応が起こるときにはたらく、免疫細胞の機能を抑える薬である。
3)副腎皮質ステロイド
・炎症を抑える強い力がある。
著者:石橋由孝
発行:2020年1月
出版:主婦の友社