先日、ICD(植込み型除細動器)を装着されている患者さまが来院されました。主訴は左肩の強い肩こりです。心疾患がある場合、左の肩や腕(特に内側、小指側)に関連痛が出る場合もあります。最新のICDは100gもないようですが、ICDの重さが肩周辺のファシア(筋膜)を下方に引っぱり、緊張を高めているということも十分に考えられると思います。いずれにしても右肩に比べ左肩に重い症状が出ることは不思議ではありません。
画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』
左の写真を見ると左肩(向かって右)に寄ったところにあることがわかります。
また、患者さまは”心室頻拍”という不整脈のため、アミオダロンという強い不整脈の薬を服用されています。以前、“期外収縮”や“心房細動”については勉強したことがあったのですが[ブログ:“不整脈(心房細動)”]、心房細動に関しては、血栓塞栓症に注意する必要はあるものの、この2つの不整脈は一般的には深刻な不整脈ではないとされています。
一方、“心室頻拍”は特に注意しなければならない不整脈の一つです。そして、アミオダロンなど不整脈の薬についての知識は、ほぼゼロに等しい状態でした。そこで、今回あらためて不整脈とその薬について勉強することにしました。
購入した本は、村川裕二先生の『不整脈治療薬ファイル 抗不整脈治療のセンスを身につける』という本です。実は、この本は第2版が既に出版されているのですが、節約のため初版(2010年)を買いました。ということで、2020年に発行された最新の第2版ではないのでご注意ください。
なお、内容はとても高度で詳細なものでしたが、村川先生の独特な言い回しのおかげで、敷居が低くなり、何となく親しみを感じられたのは良かったと思います。
ブログは目次の黒字部分ですが、「Part2 基礎」、「Part3 抗不整脈薬のアウトライン」が中心です。勉強モードのため大変細かく長くなったため4つに分けました。なお、4つめのブログには『病気がみえる Vol.2 循環器』の内容を元に作った不整脈の一覧表を載せました。
著者:村川裕二
出版:メディカル・サイエンス・インターナショナル
初版発行:2010年9月
不整脈は脈拍の乱れ、それはポンプである心臓の拍動の乱れです。そこで、最初に心臓の拍動、収縮のメカニズムを調べました。
画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』
心臓の収縮は洞結節と呼ばれる特殊心筋細胞が、自発的に興奮(脱分極)し収縮することがスタートです。その興奮は固有心筋細胞を通じて心臓全体に伝わるのですが、その過程でNa⁺(ナトリウムイオン)とCa²⁺(カルシウムイオン)が深く関わります。また、興奮が鎮まるとき(再分極)には、K⁺(カリウムイオン)が関与します。
不整脈の薬は心臓の拍動を整えることになるので、構造と収縮のメカニズムから考えると、洞結節、房室結節の働きと、Na⁺、Ca²⁺、K⁺に注目することが重要だと思います。
Part1 総論
1 最初から「まとめ」
2 プラスアルファの知識とは何か?
Part2 基礎
3 心筋の活動電位を復習する
4 ちょっとイオンチャネルをかじる
5 いろいろあるK⁺チャネル
6 洞結節は自分で動く
7 房室結節は箱根の関所
8 房室結節を抑える薬
9 triggered activityとEADとDAD
10 リエントリー:興奮がまわるということ
Part3 抗不整脈薬のアウトライン
11 抗不整脈とはつまり何か?
12 抗不整脈の分類:Vaughan-Williams分類はまだ生きている
13 たくさんあるⅠ群薬:どこが
14 チャネルに統合するタイミング:活性化チャネルブロッカーと不活性チャネルブロッカー
15 さっぱり系としつこい系、粘り強さが違う:Na⁺チャネルとの結合・解離
16 ここから始まったⅠ群薬の古典派:Ⅰa群薬
17 Ⅰ群薬のマイルドタイプ:Ⅰb群薬
18 ホントは使いやすい:Ⅰc群薬
19 脇役なのに出番は多い:Ⅱ群薬(β遮断薬)
20 なんといっても最後はコレ:Ⅲ群薬
21 兄弟じゃないのに:Ⅳ群薬
22 何も起きないわけがない:副作用
23 torsades de pointes が起きたら
24 治療薬を選ぶ発想
Part4 心房期外収縮
25 変行伝導は大事か?
26 治療するかどうか、誰が決めるか
27 使いたい抗不整脈薬と、使ってもいい抗不整脈薬
28 Case1:訴えの多い中年女性
29 Case2:ちょっとした僧帽弁閉鎖不全がある
30 Case3:blocked PAC
31 いろいろなP派:多源性心房期外収縮
32 Case4:顕性WPW症候群でshort runを繰り返す
Part5 心室期外収縮
33 PVCが“治療対象でない”とはどういう意味か?
34 頻発するPVCは心不全を招くか?
35 子供のPVCはなぜ怖いか?
36 CAST studyは爆弾
37 Lownの分類を使うか?
38 どの抗不整脈薬を使うか?
39 Case:流出路起源のPVC
40 連発の多いPVC
41 急性心筋梗塞のリドカイン
Part6 発作性上室頻拍
42 頻拍の呼び方
43 PSVTは2種類と割り切る
44 AVNRTの速伝導路と遅伝導路
45 AVNRTはどう回るのか?
46 long RP’ tachycardiaがわかると何が得か?
47 WPW症候群とAVRT
48 WPW症候群につきものの頻拍
49 WPW症候群-偽性心室頻拍なのにカテーテルアブレーションを拒否されたら
50 すぐ止めたいとき
51 ATP製剤で止める
52 WPW症候群のPSVTをアミサリンで止める
53 WPW症候群のPSVTをリスモダンPやIc群で止める
54 顕性WPW症候群の慢性期
55 顕性WPW症候群以外はワンパターンですむ
Part7 心房粗動
56 通常型と非通常型
57 抗不整脈薬で心房細動を治療できるか?
58 ダメモトで抗不整脈薬による洞調律化を狙いたいとき
Part8 心房細動
59 忘れられていた肺静脈
60 AFはAFを招く(AF begets AF)
61 基礎疾患のある発作性心房細動(PAF)
62 急性心筋梗塞と心房細動
63 AFFIRM study:洞調律化群 vs. レートコントロール群
64 心不全の心房細動
65 なぜ抗凝固療法?
66 CHADS2スコアは使いやすい
67 どの薬剤を使うか?―具体的に
68 静注抗不整脈薬によるAFの停止は意味があるか?
69 レートコントロールは十分か?
70 レニン-アンジオテンシン系抑制薬の役割
71 Case1:持続の短いPAF
72 Case2:はじめての発作
73 Case3:半日近く続いている動悸
74 Case4:1日ほど続いているAFを静注抗不整脈薬で止めたいとき
75 顕性WPW症候群(偽性心室頻拍)の心房細動
76 Case5:経口サンリズムによる停止
77 Case6:弁膜症がある
78 Case7:夜間に好発する
79 Case8:心房粗動も認めるとき
80 Case9:倒れる心房細動
81 Case10:肥大型心筋症に血栓塞栓症を生じた
82 Case11:レートコントロールが難しい
Part9 wide QRS tachycardia
83 外見からは4種類
84 まず特発性VTを考える
85 ベラパミル感受性VTに出会ったとき
86 流出路起源VT(左脚ブロック右軸偏位型VT)
87 たいした根拠はないが、なんとなくVTのような気がするとき
88 「もしかしたら上室性頻拍かもしれない」と思ったとき
89 急性心筋梗塞や拡張型心筋症:ニフェカラントを使う
90 静注アミオダロンを使う
91 器質的心疾患を背景にしたVT
92 経口アミオダロンを陳旧性心筋梗塞や不整脈原性右室心筋症のVT/VFに使う
93 拡張型心筋症を基礎にもつVT
Part10 心室細動
94 総論
95 electrical stormとは?
96 electrical stormへの対策
97 特発性VF
98 心不全の不整脈とレニン-アンジオテンシン系抑制薬
Part11 洞不全症候群
99 徐脈と頻脈のウラに薬あり
100 薬物治療
101 経口薬での対処
Part1 総論
1 最初から「まとめ」
□以下のことを全部しっているのなら、この領域の概要はマスターしている。
1)まず、Vaughan-Williamsの分類を知っている。
2)Sicilian Gambitの分類という表があり、使われている用語がわかる。しかし、情報が多すぎて専門家も暗記はしていない。
3)CAST studyというメガトライアル……器質的心疾患のある心室不整脈をⅠ群薬で抑制しても予後は改善しない、あるいは予後を悪化させかねない。
4)健常心ではⅠc群薬でもリスクは少ないので、上室性の頻脈に有効なら使っても差し支えない。
5)催不整脈作用としてのQT延長症候群……Ⅰc群薬とⅠb群薬にはQT延長はまずない。
6)最もパワフルな抗不整脈薬はアミオダロン……副作用の点で使い方が面倒だが、重篤な心室不整脈にはほぼこれしか選択肢はない。使うべきときには積極的に使う。ハイリスクなら植込み型除細動器(ICD)が併用される。
7)房室結節や副伝導路、あるいはPurkinje線維を回路に含む頻拍では薬物治療の効果は確実。それ以外は、どういう運命が待っているか予想しがたい。どうして抗不整脈薬が効果をもつのかわかっていない頻拍もある。
8)薬物治療でしのぐよりも、カテーテルアブレーションで治療したほうがスッキリする頻拍は多い。発作性上室頻拍(PSVT)や心房粗動は根治率が高い。根治率では劣るが心房細動にもカテーテルアブレーションが行われている。考慮すべき治療選択肢。
□不整脈の薬物治療とは、ひとことで言えば……
Key Point
1)それなりのクスリはあるが、魔法のクスリはない。
2 プラスアルファの知識とは何か?
□知っておくべきこと
1)心臓の電気生理
2)不整脈が生じるメカニズム
3)薬物の作用機序
Key Point
1)不整脈の頻度、予後、関連すること⇒不整脈をとりまく情報。
2)各不整脈がどのくらい治療に反応するのか⇒勝ち目があるのかを知りたい。
□心房細動を静注抗不整脈薬で止めようとしてもなかなかうまくいかない。
□発作性上室頻拍ならベラパミルかATP製剤(アデホス)でほぼ100%停止できる。
□不整脈についての知識と経験が増すほど、意識的に治療しないという道を選ぶ。
□頑張りすぎると募穴を掘る。
□「慎重さと果敢さのバランス」も大事。
Part2 基礎
3 心筋の活動電位を復習する
□活動電位(action potential:AP)とは細胞の外側を基準にして、内側の電位を図示したもの。不整脈の発生や抗不整脈薬の作用を述べるとき、以下の3つの用語なしでは、薬剤が作用するメカニズムの話が始まらない。
●脱分極
●再分極
●不応期
□心筋細胞に限らず、興奮していない細胞の内側は細胞の外側よりも電位が低い。
□興奮していない細胞では、細胞膜を挟んで大きな電位差があるので“分極”している。分極とは、細胞内外にくっきりした電位の差ができていること。
□細胞が興奮するとは、Na⁺やCa²⁺というプラスに荷電したイオン[電子の過剰あるいは欠損により電荷を帯びた原子または原子団]が細胞内に流入すること。細胞内のマイナス成分が打ち消されるので、分極状態が解消される。
□”脱分極”した後しばらくは、電気的な刺激を受けても一呼吸入れないと興奮できない。その一呼吸にかかる時間の長さが“不応期”。
□活動電位の横幅は活動電位持続時間(action potential duration:APD)。この長さは、おおよそ不応期を決め、さらにQT時間[心室の興奮の始まりから消退するまでの時間]に反映される。
Key Point
1)心筋細胞が興奮性を失っている時間⇒不応期⇒APD[活動電位接続時間]やQT時間と関係あり。
□なぜ活動電位の形や薬剤の影響を知りたいかというと
●不整脈のメカニズムについてイメージをもつ⇒病態生理がわかった気分になる。
●活動電位が薬剤によってどう変わるかを知る⇒薬物治療にロジックがあるような気がする。
□厳密には、細胞が脱分極するにはNa⁺チャネルが不活性化状態から抜け出している必要がある。APDが同じでも、Na⁺チャネル遮断薬が投与されていると被刺激性をとり戻すのがワンテンポ遅くなり、不応期は少し長くなる。
□「QT[心室の興奮の始まりから消退するまでの時間]延長をきたす薬剤でなくても不応期は延びる」という知識は、実感としては分かりにくい。活動電位の終末より後ろの不応期はpost-repolarization refractorinessと呼ばれる。いつも存在するわけではない。
画像出展:『不整脈治療ファイル』
post-repolarization refractorinessは、相対不応期と呼ばれるものだと思います。
”看護roo!”というサイトに解説が出ていました。興奮の発生と伝導|生体機能の統御(1):『不応期には、絶対不応期と相対不応期の2つの相がある。どんなに強い刺激にも応じない時期を絶対不応期とよぶ。再分極の進行中に強い刺激を加えると、活動電位を発生する時期がある。この時期を相対不応期とよぶ。』
画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』
細胞の内と外には電位差がある(膜電位)。興奮していない時を静止電位(左)、興奮時の時間とともに変化する電位を活動電位(右)と呼ぶ。
画像出展:『人体の正常構造と機能』
青・0-Na⁺が関与
赤・2-Ca²⁺が関与
黄・1/3-K⁺が関与
灰-絶対不応期・相対不応期
黒・4-静止電位
画像出展:『人体の正常構造と機能』
青-Na⁺チャネル
赤-Ca²⁺チャネル
黄-K⁺チャネル
K⁺チャネルはKv、herg、KvLQT1などが存在する。
画像出展:『人体の正常構造と機能』
PQ時間:P波の始まりからQ波まで。すなわち心房筋の興奮の始まりから心室筋の興奮の始まりまでの時間で、房室伝導時間を表す。正常値は0.12~0.20秒。心拍数が少ない場合、PQ間隔は長くなる。
QRS時間:QRS波の始まりから終わりまで。心室筋の興奮している時間を表す。正常では0.08~0.1秒。
QT時間:心室筋の興奮の始まりのQ波から回復過程のT波の終りまで。心室筋の脱分極から再分極までを表す。
注)”時間”ではなく”間隔”と表記されることもあります。
画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』
①洞結節
②心房筋
③房室結節
④ヒス束
⑤左脚・右脚
⑥プルキンエ線維・心室筋
⇔:PQ間隔
⇔:QRS間隔
⇔:QT間隔
4 ちょっとイオンチャネルをかじる
□心筋細胞の活動電位はイオンチャネルによってコントロールされている。イオンチャネルとは心筋細胞膜においてイオンが出入りする経路
□イオンチャネル以外の経路でもイオンは移動する
●チャネル:電気化学ポテンシャルの面でそっち方向に自然と流れる孔ができる。川の流れにのってイオンを動かし、エネルギーは使わない。“受動的”な移動と表現される。
●ポンプ:Na-Kポンプが代表的。ATPなどを使ってイオンを移動させる。川の流れに逆らった“能動的”なイオンの移動。
●交換輸送系:Na-K交換輸送系はNa⁺とK⁺を一定の比率で交換するシステム。電荷として差し引き換算でゼロになるわけではない。
□脱分極と再分極の主役はイオンチャネル。イオンチャネルで動いたイオンを元に戻すとか、行き過ぎを調整するというたぐいの仕事をポンプや交換輸送系が担当する。これでバランスがとれている。
□不整脈の治療には、とりあえず、
●イオンチャネル
●それ以外
と単純に考えてよい。
□『「電気生理学について深い知識なしに不整脈の治療はできない」というのはおこがましい。しかし、「イオンチャネルについてささやかな知識がなくては、不明脈の治療はできない」というのは正しい。』
Key Point
1)Na⁺電流……伝導性
2)K⁺電流……不応期やQT時間
5 いろいろあるK⁺チャネル
□K⁺チャネルはおよそ10種類のサブタイプがある。なぜ、“およそ”でしか数えられないかというと、定義の仕方で数が変わってくるから。
□K⁺電流は細胞膜内外の電位差があるところに達すると活性化(チャネルの活動がactiveモードになる)するものと、特定の物質の濃度が上昇(例えばアセチルコリン)あるいは低下(例えばATP)することによって活性化するものがある。
Key Point
1)K⁺チャネルにはいろいろな種類がある。その活性化のモード(活躍するタイミングやひきがねの種類)はいろいろ。
2)K⁺チャネルは生理的にはすべて外向き(細胞の中から外へ)にK⁺イオンを流し、再分極に貢献。
□おもなK⁺電流のうち、話に出てくる頻度が高いのは以下の4つ。
●一過性外向きK⁺電流(Ito:transient outward current)
●遅延整流K⁺電流のうち遅い成分(Iks)
●遅延整流K⁺電流のうち速い成分(Ikr)
●内向き整流K⁺電流(Ikl:内向きと言っても、生きている人間の体の中ではこれも外向きに流れる)
□これらの分類と名称は古臭くなっているが、臨床の場ではまだ使われている。
K⁺チャネルとQT時間
□心筋障害に伴いK⁺チャネルの数や性質は変化する。また、器質的心疾患に伴ってQT時間は変化する。
Key Point
1)K⁺チャネルの機能低下や薬剤による抑制⇒QT延長
□抗不整脈薬のうち、Ⅲ群作用とはAPD(活動電位持続時間)の延長であり、K⁺チャネルの抑制による。他の機序でQTを延長させる薬剤もあるが、国内では使われていない。[2014年時点]
□薬剤ごとに作用するK⁺チャネルは異なる。
□実際にはIkrの遮断がⅢ群作用の主体であり、それ以外のK⁺チャネルを意識する機会はまずない。
Key Point
1)抗不整脈薬のQT延長はIkr遮断作用と割り切る。
□Iksは交感神経刺激により活性が増す。これには、外向きのK⁺電流増加⇒再分極の促進⇒APD短縮⇒QT時間短縮という流れが予想される。ところが、交感神経刺激はCa²⁺電流も増して、こちらは再分極とは拮抗する。つまり、交感神経活動1つとっても、いろいろな経路を介してAPDを延ばしたり、短縮したりするので、その加算したものがどっちに向かうかは簡単には知りえない。
6 洞結節は自分で動く
□slow response型と呼ばれるのは洞結節や房室結節の細胞であり、周期的に興奮する。これは自動能という機能である。
画像出展:『病気がみえる vol.2 循環器』
房室結節、プルキンエ線維も自動能を有するが、興奮頻度が最も多い、洞結節がリードしている。
□自動能はいろいろなメカニズムによって複合的に維持されているが、そのメカニズムは諸説ある。
Key Point:洞房結節の自動能
1)ある種のCa²⁺電流が関与している。
2)自律神経活動の影響を受けやすい
□洞結節のどの部分がペースメーカーとしてのリーダーシップをとるかは、主に自律神経活動レベルによって異なってくる。洞調律[洞結節で発生した興奮が刺激伝導系を介して心臓全体に正しく伝わっている状態]といっても、P波の形は一定ではない。
□小児によく見られる所見だが、ペースメーカーが洞結節とその近傍(右房)を移動していくことがあり、wandering pacemakerと呼ばれる。いろいろな形のP波が現れる。病気ではなく生理的な現象。
□洞結節は自律神経に大きく影響される。心拍数が100/分より少なければ主に副交感神経(迷走神経)でコントロールされる。それより多くなると交感神経やカテコラミンの役割が大きくなり、副交感神経の関与は小さくなる。
7 房室結節は箱根の関所
□房室結節もCa²⁺電流依存型のslow response型細胞によって作られている。
□房室結節の特徴
●伝導速度は遅い……Ca²⁺電流に依存した伝導
●上から来る興奮の頻度が高いと伝導性が低下する……減衰伝導特性
●自律神経による影響を受けやすい
□房室結節は伝導性が低い組織である。この伝導性の低さに味がある。心房と心室の収縮に時間差があるのは効率よく血液を輸送するために役立つ。踊りでもスポーツでも、ちょっとした間のおき方が大きな意味をもつ。
□例えば心房細動になったとき、600/分の心房興奮がそのまま心室に落ちてきては心室細動を生じてしまう。
Key Point:房室結節は心房と心室の連絡をコントロールする部位である。
1)心房と心室の興奮の時間差をつくる。
2)極端に心室レートが高くならないようにする安全弁。
□房室結節は箱根の関所。役に立つフィルターとして機能すれば価値は大きいが、加齢や薬物などで伝導性が落ちれば房室ブロックになる。
□自律神経の線維が豊富にあるため、自律神経活動によって房室結節の伝導性は大きく変動する。痛み刺激で迷走神経が亢進すると房室ブロックが生じることがある。
8 房室結節を抑える薬
□房室結節の伝導をよくするにはβ受容体を刺激すればよい。高度の房室ブロックで危険が迫れば、イソプロテレノールを用いる。
Key Point:房室伝導を抑制する薬剤
1)β遮断薬
2)カルシウム拮抗薬(心筋に親和性のあるベラパミルとジルチアゼム)
3)ジギタリス
4)Na⁺チャネル遮断薬(抗不整脈薬)
5)ATP製剤(アデホス)
□房室結節が自律神経の影響を受けやすく、かつCa²⁺電流に依存した伝導をするので、β遮断薬とカルシウム拮抗薬で房室伝導は抑制される。
□ジギタリスによる房室伝導抑制は、部分的には迷走神経活動の亢進によって説明されているが、それ以外の未知の要素もある。
□Na⁺チャネル遮断作用はⅠ群薬の特徴である。これに加えて他群の抗不整脈薬(べプリジルとアミオダロンなど)も、メインではないがNa⁺チャネル遮断作用をもつ。
□ATPが房室伝導を抑制するのは、代謝産物のアデノシンが抑制性G蛋白を経由してCa²⁺電流を抑えるからである。
□房室伝導に作用する薬剤はきちんと知っておく必要がある。その理由は2つ。
●房室ブロックの出現を避けることができる。
●房室結節を回路に含むリエントリー性頻拍の停止と予防、および上室性の頻拍のレートコントロール治療の裏づけとなる。
Key Point
1)房室伝導に作用する薬剤を記憶しておくことは、メカニズムを理解した不整脈治療と房室ブロックの回避に必要。
□不整脈の治療では房室伝導のコントロールが重要である。房室結節の制御が不整脈治療の入口であるが、結局これに尽きる。房室結節を押さえていれば日常の不整脈診療はできる。
9 triggered activityとEADとDAD
□頻拍の発生と維持のメカニズムとして主なものは3種類ある。
●異常自動能
●triggered activity(トリガードアクティビティ)
●リエントリー(興奮旋回)
□triggered activityは日本語では撃発活動というが、英語のまま使われている。focalなリズムの1つであり、周囲からの刺激によって生じる振動性興奮である。
□活動電位の後半部位あるいは終了直後に新たな活動電位(後脱分極 afterdepolarization:AD)と呼ばれるコブが現れるが、その出現するタイミングによって2つある。
●早期後脱分極(ealry afterdepolarization:EAD)
●遅延後脱分極(delayed afterdepolarization:DAD)
早期後脱分極(EAD)
□EADは家族性QT延長症候群や後天性QT延長症候群にみられる頻拍。つまりtorsades de pointesと呼ばれる多形性心室頻拍の原因となっている。
画像出展:『不整脈治療ファイル』
Key Point
1)QT延長が関与する不整脈は先天性か後天性かを問わず、早期後脱分極(EAD)がひきがねとなる。
遅延後脱分極(DAD)
□DADは細胞内のCa²⁺過負荷が背景となり、筋小胞体からのCa²⁺の振動性放出がその機序となっている。心筋細胞内のCa²⁺の貯蔵と出し入れにたずさわる筋小胞体からCa²⁺が漏れ出ることで脱分極が生じる。
□DADによる不整脈としては、ジギタリス中毒に伴うものが有名。ジギタリスによるNa-Kポンプの阻害が細胞内Naを増加させ、Na-Ca交換機構を細胞内Ca²⁺増加方向に働かせ、Ca²⁺過負荷にしているからである。
□Ca²⁺の負荷が多いことは心筋の収縮力を増すことに必要だが、同時に不整脈のもとになる。Ca²⁺過負荷は心不全においては非特異性に出現する現象。
Key Point
1)ジギタリス中毒や心不全に伴う不整脈の多くはDADをメカニズムとする。
□心不全のときの心室不整脈はCa²⁺過負荷を緩和することが本質的な対処。むやみと抗不整脈薬で攻めても期待できない。
□右室流出路(right ventricular outflow tract:RVOTと略される)起源の心室期外収縮(premature ventricular contraction:PVC)は健常者によく認められるが、そのなかに非持続性心室頻拍(3連以上のPVC)が頻発するケースがある。反復性単形性心室頻拍(repetitive monomorphic ventricular tachycardia)という言葉が使われる。これはtriggered activityによると考えられる。
10 リエントリー:興奮がまわるということ
□発作性上室頻拍や多くの心室頻拍はリエントリーをメカニズムとする。リエントリーとは興奮旋回を意味し、基本的には興奮伝達遅延部位と一方向性ブロックが必要。
□伝達遅延部位の例
●心筋梗塞後の心室頻拍における緩徐伝導路
●WPW症候群のリエントリーにおける房室結節
●房室結節リエントリー性頻拍の遅伝導路
●心房粗動の解剖学的狭窄
□リエントリーが開始して維持されるには、鍵となる経路の伝導速度と不応期に微妙なバランスが必要である。
□例えば、AVNRT(房室結束リエントリー頻拍:房室結節二重伝導路が原因)やAVRT(房室回帰頻拍:房室間の副伝導路が原因)がある年齢になってから出現し、発作頻度や持続が変わるということは、房室結節と副伝導路の加齢による変化が関与している可能性がある。引き金となる期外収縮が年齢に応じて増えるということも関係していると思う。