7月に始めた「がんと自然治癒力1」のブログも、ついに「まとめ」にたどり着きました。もっと簡潔にできると思っていたのですが、予想以上に長くなってしまったため、目次を付けさせていただきます。
目次
1.「がん対策」の実態と課題
2.がんの治療と予防
1)米国の統合医療に見られる補完代替医療
2)がんとは何か
3.がんとタンパク質
1)遺伝子をコントロールするタンパク質
2)早すぎる老化を迎えた細胞は、健康な細胞と何がちがうのか?
3)細胞の早い老化の影響:肉体 ―インフラメイジング
4.自然治癒力について
1)代謝
2)恒常性(ホメオスタシス)
3)自然治癒力
4)ホメオスタシスを提唱した“キャノン”は自然治癒力について何と言っているか
5.ストレスの第一の標的は“脳”
1)チャレンジ反応を培う
6.がんと自然治癒力
7.鍼灸と自然治癒力
8.まとめ
1)自然治癒力とは
2)がんと自然治癒力
3)がんと鍼灸
“日本のがん医療への提言 救える「いのち」のために”
追記:“量子物理学が生物学・医学を変える日は近い”
1.「がん対策」の実態と課題
日米における「がん対策」の成果の差は、まさに下記のグラフ(左:米国、右:日本)に表れていると思います。
米国では1971年にニクソン大統領が ”がん戦争宣言(“war on cancer”)” を発表しました。
画像出展:「THOMAS HEALTH BLOG」
そして、1975年にはフォード大統領が立ち上げた「栄養問題特別委員会」を中心とした国家的な調査が大きな流れをつくり、上昇が続いていたがんによる死亡率は1990年頃から減少に転じ(男性:左上図青線)、今もその成果は続いています。
その主な成功要因は次の3つと考えます。(「がんと自然治癒力2」より)
①政治トップのリーダーシップ・コミットによる全米プロジェクト化
②適切な施策を導くための正確な情報を収集・蓄積・分析するためのシステム化
③病院単位でのがん医療に関する品質維持・改善のしくみの導入と継続
一方、日本のがんによる死亡率は残念ながら増え続けており、日本のがん対策は、数字の結果だけを評価するならば、全く成果は出ていないと言わざるを得ません。
国立がん研究センターの予防研究グループが発表した2015年時点における「がん罹患・死亡・有病数の長期予測」を見ると、男性は2024年、女性は2034年がピークです。また、罹患数においては男性2034年、女性2039年がピークとなっており、今後約20年間、がん罹患数は増え続けるという厳しい予想になっています。
これは、国民に対するがん予防の主な対策が「がん検診」中心となっており、基本的には国民任せという実態が関係していると思います。
『予防研究グループでは、地域住民、検診受診者、病院の患者さんなど人間集団を対象に、疫学研究の手法を用いて、発がん要因の究明(がん予防のために必要な科学的根拠を作る)がん予防法の開発(科学的根拠に基づいて具体的かつ有効ながん予防法を提示する)を目的とした研究を行っています。』
画像出展:「予防研究グループ」
罹患数:一定期間に発生した疾病者の数。
有病数:ある一時点において、疾病を有している人の数。
「国民任せ」や現場主導のボトムアップ的手法だけではその実行力に限界があります。
がん患者さま、そしてその団体を中核とし、政治・行政・医師会という組織が三位一体となったバックアップ体制をつくって、増え続けるがん死亡者数という現実と真剣に向き合わないかぎり、この深刻な問題を解決するのは難しいと思います。
「では、どうすればいいだろうか?」
この疑問について、がんにより2007年に他界された、山本孝史元参議院議員が遺した ”日本のがん医療への提言 救える「いのち」のために” という本の中にヒントともいうべきものがありました。
これについては、ブログの最後にご紹介したいと思います。
2.がんの治療と予防
これは「がんと自然治癒2」の中のスライドショーでご紹介した“米国の統合医療”を表したものです。
「がんの三大治療」は2つの図ではともに青い部分になります。
米国では現代医療に、補完代替医療(緑色)を積極的に加えていこう(統合医療)という動きがあります。一方、日本では情報提供の範囲に留まります。ここに一つ、日本と米国の違いがあります。
2018年10月17日:NHKの”クローズアップ現代”で
『世界が注目!アートの力 健康・長寿・社会が変わる』という番組が放送されました。これをみると「心」の重要さを痛感します。アートも補完代替医療に含まれるのではないかと思いました。
こちらの「統合医療情報発信サイト」には、“がんの補完代替医療 ガイドブック”だけでなく、多くの有用な資料が置いてあります。
国立がん研究センターの「科学的根拠に基づくがん予防」のページの右側にPDFの資料をダウンロードするボタンがあります。
1)米国の統合医療に見られる補完代替医療
下記も “米国の統合医療” のスライドの一部です。グラフは「PubMed」というサイトに掲載された論文数の推移となっており、これによると「サプリメント」、「ハーブ」、「TCM(伝統中国医学)」、「鍼灸」、「瞑想」、「ヨガ」の論文数が増えています。
現時点において、「がん予防(再発防止を含む)」には補完代替医療の選択的活用が良い方法だと思います。
がん予防の原点は、一人ひとりが自らの生活習慣を見直すことだと思いますが、それに加え、補完代替医療(たとえば、体操、ヨガ、鍼灸など)を病院側がメニューのように用意し、スタッフによる指導だけでなく、その補完代替医療による病状への効果を把握し、患者さま一人ひとりに適切なアドバイスがされるようになると素晴らしいと思います。
一方、「がん治療」は三大治療が主役ですが日本においては、知識やノウハウ、チーム医療、報酬制度、そして何といっても、抗がん剤の認可の遅さ等、課題は山積です。
しかし、抗がん剤においては、分子生物学の進歩による分子標的治療薬(「がんと自然治癒力4」を参照ください)、そして新しい免疫療法では、免疫チェックポイント阻害薬(PD-1阻害剤のオプジーボ、CTLA-4阻害剤のヤーボイ等)などの研究も盛んに行われており、多くの人が最新医療の進化を切望しています。
※オプジーボ開発の起点となった研究で、本庶佑先生がノーベル医学生理学賞を受賞されました。そこで、少しネット検索したところ、2016年10月に“オプジーボ「高いのは日本だけ」”という日本経済新聞の記事がヒットしました。
※免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ、ヤーボイ)については、制御性T細胞をテーマにした「がんと自然治癒力12」の中で少し触れています。
画像出展:「がん治療.com」
下記のイラストは「がんと自然治癒10」でご紹介したものです。このイラストでお伝えしたいことは、三大治療はがんを治すための優れた武器ですが、からだに優しいものではないということです。
画像出展:「がん治療の最前線」
ここで、再度「がんとは何か」の復習をざっとさせて頂きます(「がんと自然治癒11」より)。
2)がんとは何か
●がん細胞とは何か?
・がん細胞はアポトーシス(自然死)を免れるメカニズムをもっており、増殖しても死なないやっかいな細胞である。
●がんは遺伝子の異常で生まれる
・細胞分裂の際、遺伝子情報のコピーに問題が発生し、元の細胞とは異なる遺伝子情報の細胞ができる。
●がんの芽は毎日5000個生まれている
・体は24時間休みなく古い細胞を壊しては新しい細胞に置き換えるという「新陳代謝」を行なっている。その結果、毎日1兆個が死に、同じ1兆個が細胞分裂で新たに生まれている。日々生まれている1兆個の細胞のなかで、遺伝子の異変を持つものは5000個から6000個といわれている。これががん細胞の芽である。
●がんの芽は9年かけてがんになる
・がんとは、がん細胞が増殖して0.5~1cmの大きさになり、肉眼で見えるようになったもの。重さは1gほど。10億個ほど集まってこのサイズのがんになる。1個のがん細胞が10億個ほどに増えてがんになるまでは、平均9年かかる。
●発がんのプロセス①―イニシエーション(引き金)
・がんの芽が生まれるのは遺伝子異常によるミスコピーであり、発がんの第1段階。これをイニシエーションといい、ミスコピーを起こす引き金物質を「イニシエーター」と呼ぶ。
●発がんのプロセス②―プロモーション(促進)
・イニシエーションで生まれたがん細胞が増殖するのが、発がんプロセスの第2段階の「プロモーション」。プロモーションを起こす物質や要因を「プロモーター」と呼ぶ。
・イニシエーターによって遺伝情報が書き込まれたDNAは一部を損傷しただけではがんにならない。それはDNAには損傷した部分を修復する自然治癒力が備わっているからである。
・DNAの一部の損傷、その傷ついた細胞が繰り返しプロモーターに晒されると、自然治癒力による修復が追いつかなくなる。細胞のアポトーシスの機構が働かなくなると、そこからはタガが外れたように、がん細胞が猛烈なスピードで増殖し、9年ほどかけて、目に見えるガンに成長する。
・プロモーターは、イニシエーターと重なるものが少なくない。プロモーターの筆頭に挙げられるのも、やはりタバコである。タバコの煙に含まれる各種の化学物質はガンの増殖を促進する。活性酸素も同様である。
画像出展:「ガンにならない3つの習慣」
がん発見の研究が盛んに行われている現在において、かなり乱暴な言い方になりますが、「三大治療とは、がん細胞が0.5~1cm、重さ約1g、10億個ほどに増殖し、がん細胞の塊となって肉眼で見えるようになった時に始まる治療である」という見方も今はできるのではないでしょうか。
3.がんとタンパク質
発がんプロセスのプロモーション(促進)について興味深いデータがあります。
これは「がんと自然治癒6」でご紹介しているものです。この“チャイナ・スタディー”の原書の初版は2006年のため今から12年前となり、掲載されている内容の評価には難しい点もあるようですが、動物性タンパク質の過度な摂取は注意が必要(壮年期、中年期)、と考えますので、再度ご紹介させて頂きます。なお、ご紹介するグラフは中国大調査以前の、きっかけとなった実験であり、データはマウスのものになります。
出版:グスコー出版
このグラフは、発がん物質の投与量とタンパク質の摂取量による比較です。これを見ると発がん物質のアフラトキシンの投与量の大小よりも、高タンパクか低タンパクかという摂取タンパク質の違いの方が、がんの成長促進状況に与える影響ははるかに大きいことを示しています。
画像出展:「チャイナ・スタディー」
このグラフを見ると、総摂取カロリーに対するタンパク質の摂取は、10%が適切な量であり、特に14%を超えると、がんの成長促進状況が一気に高まることが確認できます。
また、下記の円グラフを見ても、がんの原因として喫煙と並び食事が大きく関与しているのが分かります。
画像出展:「名古屋市立大学 津田特認教授研究室」
『がんの発生原因をみると、喫煙習慣と食事(献立の内容)が70%近くを占め、残り30%に運動(不足)、職業、感染(ウィルス、細菌、原虫)、環境化学物質、放射線・紫外線等がある(Doll & Peto、国立がん研究センター等)。これらの原因のうち、喫煙と食事は各人が心がけることによって防止可能であり、感染症も予防でき得る。~以下省略』
タンパク質については、他にも気になる情報があります。その一つは「がんと自然治癒8」でご紹介したものです。
出版:PHP研究所
発行:2009年1月
この本の中に次のような記述があります。
1)遺伝子をコントロールするタンパク質
・エピジェネティクスの研究者たちは染色体を構成するタンパク質を研究し、それらがDNAと同じくらい遺伝において重要な役割を果たしていることを見いだした。
染色体では、DNAがいわば芯となっていて、タンパク質はそれにカバーとしてかぶさっている。カバーがかかったままでは、遺伝子の情報を読みとることができない。たとえばあなたの腕がDNAで、青い眼をつくる遺伝子の役割をもつとしてみよう。核内では、染色体タンパク質がこのDNA領域に結合してカバーしている。シャツの袖がおろしてあったら、腕に書いてある情報が読みとれないのと同じことだ。
では、どうすればこのカバーを取りはずせるだろうか? 環境から、ある信号がやってくれば、「カバー」タンパク質は形を変えてDNAの二重らせんからはずれ、遺伝子が読みとれるようになる。DNAのカバーがはずれて露出すれば、その遺伝子部分のコピーがつくられる。結局、遺伝子の活動はカバーとなるタンパク質が存在するかしないかによって「コントロール」され、タンパク質の存在は環境からの信号によってコントロールされる。
そして、もう一つは「がんと自然治癒9」でご紹介した内容です。
出版:NHK出版
発行:2017年2月
テロメアは染色体を保護するもので、靴紐をまとめる先端にあるキャップのようなもの。寿命に関係しています。
そして、この本の中に次のような記述があります。
2)「早すぎる老化を迎えた細胞は、健康な細胞と何がちがうのか?」
・古い細胞のDNAが細胞のほかの部分とうまくやりとりできなくなると、細胞はきれいな状態を保てなくなる。古くなった細胞の内部には、うまく機能しなくなったタンパク質の塊や茶色いごみのようなリポフスチンという物質がたまってくる。リポフスチンは眼球に加齢黄斑変性を引き起こしたり、いくつかの神経性疾患の原因になったりする。さらに悪いことに ―なぜか、樽の中の腐ったリンゴと同じように― 老化した細胞は誤った危険信号を炎症誘発物質という形で、体のほかの場所にも送ってしまう。
3)「細胞の早い老化の影響:肉体 ―インフラメイジング」
・テロメアの短い人々は、慢性的な炎症にも悩まされている可能性がある。年齢とともに炎症が増え、それが加齢にともなう病気の一因になるという観察報告はたいへん重要だ。そのため、科学者は「インフラメイジング(炎症加齢、または加齢炎症)」という名前を考案した。インフラメイジングとは慢性的な軽微の炎症であり、加齢とともに増加する可能性がある。なぜそれが起こるかについては、タンパク質の損傷などさまざまな理由が挙げられている。ほかにしばしば挙げられる原因の一つが、テロメアの損傷だ。
発がんの成長(プロモーション)を左右するタンパク質、遺伝子の活性・不活性をコントロールするタンパク質、寿命に関わるテロメアと関係が深いタンパク質、以上のことから、発がんと栄養について考えるとき、発がんの予防に効果があるファイトケミカルとともに、発がんの原因になる可能性をもつタンパク質は、功罪をあわせもつ極めて重要な栄養素であると思います。
※「ファイトケミカル」についてはブログ「がんと自然治癒力11」を参照ください。
4.自然治癒力について
医学の父、医学の祖ともいわれる古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、「自然は不調和を回復しようとする力を人体に与えており、これを自然治癒力という。これを助けるのが医術であり、治癒の根本方法である」との言葉を遺しています。
画像出展:「世界の食習慣を調査した・マクガバン・レポート」
※マクガバン・レポートについては、「がんと自然治癒力5」を参照ください。
“生物科学入門”の著者である白木先生は「生物とは何か」という問いに対して、『「代謝」、「遺伝」、「恒常性」の三つに集約できる。この三つの概念で説明できるものが生物である』と回答されています。
1)代謝
代謝には2つの代謝系があります。
・異化:複雑な物質を分解してエネルギー物質を合成する。
・同化:エネルギーを消費してより複雑な化合物を合成する。
これらの化学反応を劇的に促進するのは酵素の働きによりますが、その酵素を働かせるには望ましい環境が必要です。
・充分な水(水に囲まれていること)
・適切な温度(35~40℃)
・適切はpH(pH10付近)
このように、「酵素が働ける体内環境はからだの恒常性が維持されていること」が前提になります。
2)恒常性(ホメオスタシス)
恒常性はホメオスタシスと訳されています。このホメオスタシスは、三角形で表される場合が一般的ですが、その場合の3つの頂点は「神経系(自律神経系)―内分泌系―免疫系」となります。
以下の図は、中央に「脳幹」を配置し、「脊髄・筋肉系」を追加した図になっています。脳幹は延髄・橋・中脳・間脳を指します(解剖学などでは間脳を含まない場合もあり)。脳幹は体幹の脊髄神経と大脳皮質をつなぐとともに、自律神経系、内分泌系、脳神経系、免疫系(顆粒球とリンパ球の比率は自律神経のバランスで決まる)をコントロールしています。また、筋肉からもマイオカイン(筋肉から分泌されるサイトカインという意味)が出ており、ホメオスタシスの図に「筋肉」を加えることについて違和感はありません。ホメオスタシスを四角形で表すことは、より適切だと思います。
『ホメオスタシスとは、体の外部・内部の環境が変化しても体内環境を一定に保つ調整機能のこと。例えば四季によって気温や湿度が変化しても、一定の体温を保っていられるのはホメオスタシスのおかげです。ホメオスタシスには様々な機能があり、自律神経系、免疫系、内分泌系、脊髄・筋肉系の4つに分けられます。そしてこれら4つの関係を表したものが、ホメオスタシスの四角形(左図)。脳幹はこの四角形の中心となり、すべての機能に関係する司令塔の役割を担っています。脳幹が正常に機能すれば、ホメオスタシスもバランスよく機能して、自己治癒力も高まります。』
3)自然治癒力
私は「自然治癒力」を次のように考えます。
①「ホメオスタシスの四角形」が本来の働きをすること(からだの恒常性を維持すること)
②からだに栄養が補充され、酵素のパワーで代謝(異化・同化)を適切に行うこと
4)ホメオスタシスを提唱した“キャノン”は自然治癒力について何と言っているか
ウィキペディアを拝見すると、次のような解説が見られます。『生活体が生命を維持するために自律系や内分泌系の働きを介して体内平衡状態を維持するというホメオスタシスの考えを提唱した。』
画像出展:「ウキペディア」
このウォルター・B・キャノンは著書である“からだの知恵 この不思議な働き(原書の題名は“Wisdom of the Body”)の “はじめに” の中で “自然治癒力” という見出しをつけて説明しています。
『生物が、自身のからだをつねに一定の状態に保つ能力は、長いあいだ生物学者たちに強い印象を与えてきた。病気が、からだに備わる自然の力、「自然治癒力」でなおるのだという考えは、すでにヒポクラテス[紀元前400-377。ギリシアの哲人。医学・生物学の祖とされる]が抱いていたものだが、この考えのなかには生物の正常の状態がかき乱されたときに、ただちに作用してそれをもとの状態に戻すたくさんの力があることが示されている。このような生物学の自動的な仕組みについては、最近の生理学者たちが書いた本のなかに詳しく述べられている。
~中略~
さて、まあこのようなぐあいで、驚くべき現象があるということなのだ。このうえもなく不安定で、変わりやすいという特徴を持つ材料で作られている生物は、なんとかその恒常性を保ち、当然生物に深刻な悪影響を及ぼすと思われる状況のなかで不変性を維持し、安定を保つ方法を習得している。
~中略~
簡単にいえば、充分な備えを持った生物のからだ―たとえば哺乳動物―は、外界の危険な状況や体内の同じように危険な可能性に直面して、しかも生きつづけ、比較的わずかの障害に止めてその機能を継続しているのである。』
※メモ:「自然治癒力は何故あるのか」ということについて、今まで、有ることが当たり前のように思い、特に考えることもなかったのですが、それは、”危険”と対峙するためだと知りました。
5.ストレスの第一の標的は“脳”
ストレスは自律神経系、内分泌系を乱します。自律神経系のバランスの乱れは、免疫系と筋肉系(筋緊張の定常化など)に影響を及ぼします。
下記は自律神経失調症を説明したイラストです。ストレスの第一の標的は脳であり、脳の疲労が各種の神経症の原因となります。そして、自律神経系の機能が低下していると脳の疲労が体の臓器に伝わり、自律神経失調症を発症させます。
(下記のイラストは「自律神経失調症を知ろう」からの出展です。見方は左上-右上-左下-右下です。詳細はブログ「自律神経失調症」をご覧ください)
がんに限らずストレスが心身に悪影響を及ぼすことは今や常識となっています。つまり、脳を守るということが非常に重要です。それは昔から言われている「病は気から(気の持ちよう)」ということにつながるように思います。
脳が重要であるという意味では、先にご紹介した「ホメオスタシスの四角形」の中心に脳幹が置かれていることは的を得ていると思います。
※メモ:精神的ストレスは特に感情に影響を及ぼします。その「感情の中枢を担う大脳辺縁系」は「生命の中枢を担う脳幹」には含まれませんが、脳の進化において脳幹の次にできた古い脳で、脳幹と同じように脳の内部に位置します。その意味では、理性の中枢を担い外側に位置する新しい大脳皮質よりも、進化の時期と場所という2つの点から、大脳辺縁系は脳幹に近い存在と言えるのではないでしょうか。
※「東洋経済オンライン」さまに、精神的ストレスと感情に関する記事が出ていました。 ”心が強い人は「無感情」を習慣にしている”
脳とストレスについては、先にご紹介した本にも興味深いことが書かれています。
出版:NHK出版
発行:2017年2月
1)「チャレンジ反応を培う」
・チャレンジ反応は交感神経の活動を高めるので、かならずしもストレス感を減らしてはくれない。だがこれはポジティブな「落ち着きのなさ」であって、あなたをもっとパワフルで集中した状態に押し上げる原動力だ。ストレスをこんなふうにうまく転換して、イベントやパフォーマンスのときに良いエネルギーを得たければ、自分で自分に「ワクワクしているね!」「鼓動が速いしおなかはグルグルしてきたけど、大丈夫!これは、良いストレス反応が強く起きている証拠だ」と語りかけてみよう。もちろん、介護に従事する母親のようにストレスで心の減る思いをしている人には、軽すぎる言葉に聞こえるかもしれない。ならば、もっとやさしく自分に語りかけよう。「今の体の反応は、私を助けるために、そしてやるべきことに集中できるように、起きたことだ。そのサインは大事にしよう」。チャレンジ反応はけっして、まやかしの活力剤ではない。「ストレスの原因がこんなにたくさん起こるなんて、本当に幸せだ。」という過剰にポジティブな態度ともちがう。それは、たとえ今はつらくても、ストレスを自分の目的に合うように形づくれと理解することだ。
・リラックスできる能力は、ストレス管理の唯一の方法として過大に評価されてはいるが、やはり重要だ。あなたも何か、自分を深く回復させる活動を定期的に行ってみるといい。瞑想や詠唱、その他のマインドフルネスの技法がストレスを和らげ、テロメラーゼを刺激し、テロメアの伸長を助けるであろうことは、高い質の証拠から示されている。
6.がんと自然治癒力
繰り返しになりますが、自然治癒力を次のように考えます。
①「ホメオスタシスの四角形」が本来の働きをすること(からだの恒常性を維持すること)。
②からだに栄養が補充され、酵素のパワーで代謝(異化・同化)を適切に行うこと。
また、下記の図は「2.がんの治療と予防」でお見せした図、再登場です。
あえて、自然治癒力をその期待と重みで分けるとすれば、自然治癒力を重視しているのは上の図の緑色、代替医療の分野です。米国では代替医療を医療の一部と考え、日本では壁があり個人に委ねられている、というのが日米の違いです。
こうしてみると、代替医療には様々なものがありますが、共通している狙いは「その人が本来もっている自然治癒力を取り戻すこと」、いいかえれば、「ホメオスタシスの四角形」を整え、摂取した栄養を酵素の力で適切に代謝すること、といえるのではないでしょうか。
ディーン・オーニッシュ博士は代替医療(「心身の健康プログラム」)によって、前立腺がん患者の病状を改善させました。詳しくは「がんと自然治癒力10」を参照ください。
画像出展:「がん治療の最前線」
日本では素問八王子クリニックの院長で、医師でもある真柄俊一先生が、自律神経免疫療法を柱とするがん治療に2003年より取り組んでおり、多くの成果を発表されています。
しかしながら、代替治療に対する期待の中心は「予防(再発を含む)」にあると思います。肉眼で見える「がん細胞の塊」と化した悪性腫瘍を取り除くという目的で行われる治療の主役は三大治療(+オプジーボやヤーボイなどの免疫療法)です。
7.鍼灸と自然治癒力
ここでは、日本鍼灸師協会が発行した“科学も認めるはりのチカラ”の内容をご紹介します。
なお、こちらの冊子は「東京都鍼灸師会」の「はり灸の効果」というページからダウンロードできます。
ページの最下部に「PDF版はこちらをクリックしてください」とあります。
鍼刺激で何ができるのか
1980年代に「はり麻酔」などで注目された鍼刺激は当時、「血行改善、筋緊張緩和、心地よい刺激(脳が感じる)」などが実験で明らかにされました。しかし、その作用メカニズムについては、まだ分からないことが多い時期でした。今では鍼刺激の研究も進み、今回、現役の医師である永田勝太郎先生、南和友先生、高橋徳先生には「鍼刺激がどのようなシステムで生体機能の変調を矯正し、保健及び疾病の予防または治療」に関与してるかについて、また、公的研究機関の堀田晴美先生には「鍼刺激と自律神経のメカニズム」についてそれぞれ解説していただきました。さらに「世界的に鍼刺激がどのような立場にあるか」について、織田聡先生に紹介していただきました。
~以下省略
このブログでは、30年におよぶ研究の成果から導かれた “向ホメオスタシス” についてまとめられた永田勝太郎先生のパートをご紹介させて頂きます。
●鍼の効果の本質―向ホメオスタシス 千代田国際クリニック院長 永田 勝太郎先生
鍼灸師の先生方と鍼灸の臨床共同研究を始めてから、30年以上が経過しています。その間の各種実験(臨床研究)から明らかになったことは、鍼には、生体を最も望ましい状況に誘う力があるということです。これまでの臨床研究を俯瞰することで浮かび上がってくる、鍼の持つ向ホメオスタシス効果について概説してみたいと思います。
日本では腰痛や肩凝りなど鍼灸の対象は痛み(特に機能的な慢性疼痛)であることが多いのですが、欧米では積極的な健康づくりやアンチエイジングの方法として位置づけられています。今回お伝えする鍼の持つ向ホメオスタシス効果は、欧米での認識を裏付け、日本での認識を新たにするものです。
深部体温・血圧の正常化
代表的な経穴(ツボ)に刺鍼したときの深部体温の変化を、10年に及ぶ長期の研究で観てきました。その結果、高い体温は下がり、低い体温は上がることがわかりました(関野光男)。生体内部(臓器)の温度である深部体温は、低い人もいれば高い人もいます。鍼はそれを正常化させる働きを見せました。さらに、鍼が血圧にどのような影響を与えるかについて、被験者が5,000人を超える大規模な検証を行いました。(図1参照)。ここでも深部体温と同様に、代表的な経穴に刺激して前後の血圧を測定するとともに、その変化を測定しました。すると、高い血圧の被験者は下がり低い血圧の被験者は上昇、正常血圧の被験者は変化しないという結果が得られました(白畠庸)。同じような刺激を行っても、高血圧患者では鍼が降圧的に作用し、低血圧患者には昇圧的に作用しました。
画像出展:「科学も認めるはりのチカラ」
鍼が酸化ストレス防御系に与える影響
呼吸によって身体に入る酸素の5%は、活性酸素になってしまいます。それが細胞やDNAを傷つけ(酸化させ)、老化、病気を招くことで、死のリスクが高まります。これを避けるため、生体にはグルタチオンなど多くの抗酸化物質があり、また食事から抗酸化物質を摂取することで、酸化ストレス防御系のバランスをとっています。
こうした酸化ストレス防御系に鍼施行がどのような影響を与えるかについて検討した結果が、「鍼と酸化バランス防御系(図2参照)」です。代表的な経穴に刺鍼し、その前後の酸化ストレス(d-Romsテスト)、抗酸化力(BAPテスト)、潜在的抗酸化力(修正比)を評価したものになります。鍼施行後、酸化ストレスが低減しましたが、抗酸化力には有意な変化はなく、潜在的抗酸化力は上昇しました(広門靖正)。
画像出展:「科学も認めるはりのチカラ」
鍼とストレス防御系(コルチゾールとDHEA-S)
生体がストレスを受けると、下垂体前葉からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌されて副腎皮質を刺激します。これによって副腎からコルチゾールが分泌され、血糖値や血圧が上がり、ストレスに抵抗できるようになります。しかし、この状態が続くと、生体は摩耗、疲弊してしまいます。そこでACTHは、生体を修復させてバイタリティを与えるホルモンであるDHAS-S(dehydroepiandrosteron sulfate/デヒドロエピアンドロステロンサルフェート)を同時に副腎から分泌します。近年、DHAS-Sが、皮膚や脳からも分泌されることがわかってきました。
皮膚を直接刺激する方法である鍼の効果を測定するため、刺激とDHAS-S(代謝産物である17-KS-Sを測定)、コルチゾール(代謝産物である17-OHCSを測定)を検討してみました。その結果、鍼施行後、DHAS-S、コルチゾールともに上昇することがわかり、刺鍼が刺激療法であることが明確になりました。しかし、刺鍼の翌朝には、測定値は両者ともに下降したものの、両者の比は有意に高値を示しました。これは修復機能が、摩耗に優れていた証明と考えられます(図3参照)(広門靖正)。
画像出展:「科学も認めるはりのチカラ」
注)「両者の比」とは右端(S/OH)を指しています。”翌朝“の青の棒グラフが1番高くいます。これは”施行前”、”施行後”、”翌朝”を比較した場合、ストレスホルモンのコルチゾールより、バイタリティを与えるとされるDHAS-Sの比率が多いという意味です。
画像出展:「思考のすごい力」
注)このイラストにはDHAS-Sは出ていませんが、ストレスに対する副腎の働き(ストレス防御系)を把握するという目的で添付しました。
オムロンさまの「健康コラム」というサイトにDHEA及びDHAS-Sについて説明されている記事がありましたのでご紹介します。
鍼の効果を明らかにする
同じ鍼刺激でも、生体の条件によっては、全く正反対の効果を生じる―西洋医学の世界ではあり得ないことですが、すべて事実です。東洋医学の深さがそこにはあって、数千年の歴史を生き残ってきた医療には、しかるべき理由があったと言えるのではないでしょうか。私たちは、その神秘のベールを科学の力で明確にしてゆく責務があると考えています。
鍼の効果について、もう一つ、ブログに残しておきたいのが、「がんと自然治癒力9」でご紹介していたものです。
分子レベルの回復メカニズム、運動と鍼は同じか?
画像出展:「テロメア・エフェクト」
筋肉痛は運動によって筋線維が傷つくことによって起きるものとされています。一方、鍼の太さは0.16mm(1番鍼)、刺しても多くはほぼ無痛です。しかしながら、分子レベルで考えればたいへんな衝撃です。この、鍼によって生じる筋線維のダメージも、運動によって生じる筋線維のダメージも、その後のダメージを回復させるメカニズムは基本的に同じではないかと思われます。
つまり、鍼治療は運動と同じように、オートファジーやアポトーシスという重要な機能を呼び起こし、結果的に体内を掃除して、もっと健康に、もっと丈夫にしているものと思います。
8.まとめ
1)自然治癒力とは
「生きるための力」です。具体的には2つの働きがあります。
①「ホメオスタシスの四角形」が本来の働きをすること(からだの恒常性を維持すること)
②からだに栄養が補充され、酵素のパワーで代謝(異化・同化)を適切に行うこと
そして、一言でいうとすれば、「ストレス適応と栄養代謝」ということだと思います。
2)がんと自然治癒力
自然治癒力は「生きるための力」であり、発症前の段階からあらゆる局面で自然治癒力は関与しています。しかし、がん医療の中で自然治癒力が前面に出てくるのは、「がん予防(再発を含む)」だと思います。
3)がんと鍼灸
がん治療の中で鍼灸を考える場合、「代替医療」という位置づけで考えるのが良いと思います。期待できる鍼灸の効果については “7.鍼灸と自然治癒力” でご説明していますが、鍼灸ならではの特長としては、ピンポイントで問題個所をとらえ、作用(痛みの緩和や体調改善など)を及ぼすことができることだと思います。
そして、がんと闘うための働きとして、ストレス適応を高め、代謝を良くすること(酵素が働きやすい体にすること)がとても重要であると思います。
“日本のがん医療への提言 救える「いのち」のために”
“ご紹介するのは2つです。1つは “厚労大臣と患者の協働” 、もう1つは “座談会「がん対策基本法」成立から5年” の中から、その冒頭部分と “次の5年間の課題は?” という最後の部分です。
厚労大臣と患者の協働
ガン患者(団体)が、未承認薬の早期承認などを求めて、街頭署名活動や国会への働きかけなどの表立った活動を始めたのは、2001年の初頭からです。しかし、活動を引っ張ったリーダー患者とともに、その受け手となった厚労大臣や国会議員の存在も大きかったと感じます。
特に坂口力厚生大臣(後に厚労大臣。公明党。2000年12月6日から2004年9月27日まで在任)と、後任の尾辻秀久厚労大臣(自民党。2004年9月28日から2005年10月31日まで在任)の二人とがん患者は(団体)は、「協働体制」にあったといっても過言ではないでしょう。
日本では大臣の在任期間が短く、がん対策の問題点を理解してがん患者(団体)が求める効果的な対応策を講じるまでに、たいていの厚労大臣は退任されます。ですから理解ある大臣の在任中に積極的に働きかけることが重要なポイントだと思います。
厚労大臣とともに、国会議員への働きかけも重要です。がん医療の向上は、国会議員の全員が賛意をあらわす政策課題ですが、がん患者の思いを汲んで熱心に動く議員が少ないのは当然です。それぞれの議員には、専門分野や受け持ち分野があるからです。
がん患者(団体)の側で、政治とは距離をおきたいと考えるのも理解できます。しかし、最初は身近な問題として取り組んだとしても、やがては政治や行政の動きがなければ解決されない局面を迎えることになるのです。
がん医療については、がん患者である仙石由人衆院議員と私(ともに民主党)の存在もありましたが、がん患者(団体)の働きかけに応じて、各党で「がん議連」や「プロジェクトチーム」などを立ち上げてくださった多くの国会議員がいます。超党派での「国会がん患者と家族の会」(代表世話人・尾辻秀久)も結成されました。この流れを大切にすることです。がん患者(団体)の側も、国会議員(政党)の側も、超党派で活動する良識が求められます。
座談会「がん対策基本法」成立から5年(実施2011年11月22日)
冒頭の「がん対策基本法」が成立した経緯、および最後の「次の5年間の課題は?」より
画像出展:「 救えるいのちのために」
がん患者であることを本会議で公にした山本孝史議員らの尽力で「がん対策基本法」が成立し、5年が経とうとしています。基本法に基づいてつくられた「がん対策推進基本計画」は間もなく第一期目の5年間が終わろうとしており、次の5年に向けた見直し作業が行われている真っ最中です。そんな時期に、山本議員の著書の新版が出されることになりました。これを機に、山本議員と一緒に基本法の成立に尽力した尾辻議員と、基本法に基づいて日本のがん対策を議論するために設置されているがん対策推進協議会の門田会長、行政の立場からがん対策に取り組む厚生労働省がん対策推進室(2018年9月現在、厚生労働省健康局総務課がん対策推進室の鷲見室長、そして山本議員の意志を継ぐと同時に、がん患者団体とも連携した活動を展開している山本ゆきさんに、この5年間で何が変わったのかを振り返り、同時に、次の5年間の課題や、もう少し先の中長期的にみた日本のがん対策の課題について議論を深めて頂ければと思います。
まずは、がん対策基本法ができた当時の原点に戻り、基本法成立の背景を改めて確認したいと思います。
尾辻
日本は3人に1人ががんで亡くなる時代を迎えています。それに対して対策が十分に取られているかというと、「がん難民」という言葉もあるくらいです。がんにかかったのに、どの病院にかかったらいいかまったくわからず、がん患者さんがさまよい歩くという、そういう深刻な状況にあります。一方、国の対策はどうかと言えば、当時、厚生労働省は生活習慣病対策室ががん対策担当で、がん独自の対策室すらありませんでした。そういうお寒い状況だったので、何とかしなければならないと思う人は大勢いた。ただ、思うだけで、一向に具体的な対策にはつながりませんでした。
そんなところに、山本議員が参議院本会議で質問に立ちました。自分もがん患者だと公表し、がん対策基本法の早期成立を訴えました。あの衝撃的な質問は、いまだに忘れられません。山本議員の壮絶な質問をきっかけに、みんなが一つになり、山本さんの気持ちを大切にして、急いで基本法を成立させようと、超党派で意見を統一したのです。もともと、がん対策を何とかしなければいけない、という思いを持つ議員は大勢いた。そういった土壌のあるところに山本さんが登場し、一気に法案成立に向かって大きく動いたのです。
山本
夫にがんが見つかったのは2005年12月22日のことでした。翌2006年4月に、山本の所属する民主党は、がん対策基本法案を国会に提出しました。衆議院の話ではありますが、山本は、自分もがん患者の国会議員として、がん対策に取り組まなければならないと思うようになります。
そのころ、他の政党でもそれぞれ独自に、がん対策に関する法案をつくっておられたと思います。そういう時期に治らない胸腺がんになったという巡り合わせを考え、自分のがん患者としての生きる意義は「がん対策基本法」を成立させることではないか、それが自分の使命ではないか、と考えるようになり、その実現に向けて行動しました。
2006年はちょうど医療制度改革の議論の年で、5月22日に健康保険法の改正をめぐり、参議院で本会議が開催されることになりました。医療・年金・介護などの社会保障制度は、山本が議員として長年、取り組んできた課題です。自分自身の仕事の総仕上げという意味を込め、質問に立ちました。冒頭、自分はがん患者であることを告白し、質問演説の最後で、がん対策基本法の成立を訴えました。がんを患う自分にとって、これが最後の本会議質問、そういう悲愴感が漂っていました。
法案の成立には、タイミングの問題があります。あの時期を逃がすと、次の年は参議院選挙があるので、超党派での作業が難しくなるという読みがありました。しかも、山本が質問に立った日から会期末まで、25日しかありませんでした。自分ががんであることを告白して、議員の皆さんの気持ちが一つになれば、短期間での成立も可能だろう。そう考えてのがんの告白でした。
その後は、皆さんが党の垣根も、衆参の垣根も越えて一致団結、協力して、法案の成立に尽力して下さいました。
―各党の総意は、どんな点にあったのでしょうか?
尾辻
山本議員の本の題名にもなっているように、「救えるいのちを救おう」という思いで各党、結集しました。
―山本議員自身の原点もそこにあったんですね。
山本
標準治療で治る患者さんはもちろん治さなければいけないし、がん医療の均霑化も必要です。けれども、山本は、自分が難治性のがんだったということもあり、治らない患者さんにも、基本法でメッセージを送りたい、治らない患者さんも最期まで自分らしく生きられるような対策を基本にしたいと思っていました。
「日本のどこに住んでいても、同じ水準のがん治療が受けられるように、難治性のがん患者には、きめ細かな治療を可能にするように、日本の医療制度を改善していきたい。そして、一人でも多くの『いのち』を救いたいという気持ちが、どんどん膨らんでいきました」―この本の前書きからの引用ですが、ここが、山本のいちばんの思いでした。
次の5年間の課題は?
―この5年間で土台、枠組みができたということを踏まえ、次期5年間には、どういった点の強化が必要でしょうか?
山本
がん対策基本法が成立し、9カ月後に施行となりました。その後にできた、がん対策推進計画を見て、山本は「これでよかったのか」とずっと悩み続けました。というのは基本法の三つの理念はすばらしいのですが、基本計画の全体目標に、がん死亡者の20%減少と、緩和ケア、痛みの減少しか挙げられておらず、がん治療が重視されていなかったからです。死亡者の減少の中に、個別のいろいろな目標はあるのですが、治療は目立ちませんでした。その点を気にして、最後まで苦しんでいました。
今回、基本計画を読み直してみましたが、大変いいことが書いてあるんですね。「安心、納得できるがん医療を受けられるようにする」と。ここは、すばらしい目標だと思うんです。ところが、そのために、死亡率を20%減らす、と続く。そして、死亡率を20%減らすために、やりやすい予防、検診に重点がいってしまう。
いま、死亡率が下ってきていると言われていますが、山本は、「死亡率を下げるという目標だけでいいんだろうか」といっていました。余命宣告を受けた難治性のがん患者さんにとって、「死亡率減少」とか「5年生存率」という言葉を聞くのはつらいことです。治らないがん患者さんは納得して死んでいきたい、ということを、山本は言いたかったんだと思います。そういう思いも、ぜひ、次の計画には反映して頂きたいと思います。
数字で示す目標がなければいけないということで、死亡率20%減少と書かれたのだと思いますが、同じ数字を使うなら、たとえば、患者さんの納得度、満足度調査をやって頂きたい。先日、私たちの患者会で、大阪府指定のあるがん拠点病院を訪問しましたが、その病院では、たまたまその日に、年1回の外来患者さんの満足度調査をやっていました。入院患者さんの満足度調査も別の日に行なうそうです。各病院でこういった調査をすると同時に、前年と比較して、満足度が上がったり下がったりした項目について、なぜなのかを分析してもらい、それを全国的に集計して、情報提供するのも、一案ではないかと思います。
尾辻
山本さんもおっしゃったように、基本計画の最初の文章はよくできているなと思います。たとえば、国民の視点に立つ、というのは当たり前のことです。そういった前提に立った上で、どうするか、ということですね。
基本法をつくる段階から、ずいぶんと大議論をした問題の一つが、がん登録です。次期計画では思い切って、法制化も含めて掲げてほしい。そして、議論してほしいですね。個人情報保護法の特別委員会を務めたので、がん登録は、議論をはじめたら難しいだろうなと思う。ただ、今こそ議論を始める必要があるのではないかと思います。
門田
協議会では集中審した時には、法制化が必要だという意見が大勢を占めました。我々協議会としては、計画に法制化を掲げ、あとは国会で議論をお願いする、ということになりますね。
尾辻
そうですね。正面から掲げれば国会での議論も始まります。難しいだろうからと、いつまでも正面から掲げなければ、いつまでも議論は始まりません。
―難しいという意味では、たばこ対策も難しいですね。次期計画は、削減目標の数値を入れることができるでしょうか?
門田
第一期の基本計画の時には、成人の喫煙率半減について、協議会議員は全員、賛成したんですね。それでも、成人の喫煙対策は最終的に残らず、未成年の喫煙のみになってしまいました。がん対策を銘打っている基本計画ですから、今回は、やはりたばこ対策ははずせないですね。
―がん対策予算関連ではどんな課題がありますか?
尾辻
がん対策費が足りない足りない、と言っているので一生懸命つけていますが、半額が自治体の負担になっていて、それを自治体が出せないために、せっかくの予算が全額は執行されず残ってしまう、という現状があります。ここは何とか工夫してほしい。せっかくの予算を全額執行できるような方法を考えてほしいですね。
また、小児がん対策については、我々もみんなでがんばって、対策費を獲得したいと思っています。そんなに患者の数が多くないのに対し、病院の数が多く、すべての病院の患者数は年1~2例というのでは、経験を積んだ治療にならない。少数の拠点病院をつくり、そこでしっかり診るようにしてほしいと思います。
―山本議員をはじめ多くの方が尽力され、実現したがん対策基本法で、日本のがん対策基本法で、日本のがん対策が大きく動き始めました。基本計画の改定など、ちょうど節目に来ています。そんな時期にこのような座談会を持つことができ、時宣を得た議論をして頂けました。最後に、皆さんから、次のステップに向けての抱負、期待などを語って頂いて、座談会を締めくくりたいと思います。
山本
命を切り捨てない、安心して納得のいく治療という、基本法の基本理念がいかされるようにして頂きたいと思います。がん患者さんがどう生きるかを最後まで尊重してもらえるような、そういうがん対策を目指して頂けたらと思います。
門田
繰り返しになりますが、中長期的なビジョンを持って、目の前の問題、課題に当たる、という基本方針を続けていきたい。
また、我々、命に限りがあることをみんな知っている。そこまで到達すると、万人平等。そうすれば、難しい問題も解決できると思う。そこまで認識してもらうと、難しいことも解決可能だと信じてやりたいと思っています。
尾辻
これまでやってきたことは決して間違ってはいません。ただ、もう少しスピードを上げることが大切なので、そういう意味で、ギアを変えてやっていきたいと思います。
鷲見
基本法の理念に基づき、患者さんの意見をきちんと聴き、がん政策に反映させていきたいと考えています。また、国としてやるべきこと、国でしかできないことをきちんと判断し、進めたいと思っています。
「朝日新聞DIGITAL」の「apital」にご紹介したい記事が載っていました。
”患者の思いに寄り添うがん医療を” 2017年5月23日
追記:“量子物理学が生物学・医学を変える日は近い”
『右側の図は印刷ミスではない。原子は目に見えないエネルギーでできていて、実体のある物質ではないのだから!』
『一つの原子はさらに小さな粒子から構成されていることがわかった。これだけでも驚天動地の大発見だが、さらに、原子がX線や放射線など、さまざまな「奇妙なエネルギー」を放出していることが明らかになり、大騒ぎになった。 ~中略~
量子物理学者が発見したのはこういうことだ。原子は物質だが、原子自体は絶え間なく回転しながら振動するエネルギーの渦巻きだ。よろめきつつ回り続けるコマのようなもので、それがエネルギーを放射している。』
画像出展:「思考のすごい力」
上記は “思考のすごい力” の “第四章 量子物理学が生物学・医学を変える日は近い” に出ています。
また、次のようなことも指摘されています。
ニュートン力学では超常現象を解明できない
『医学は日々進歩していくが、生きている身体は頑固なまでに定量化を拒んでいる。ホルモンやサイトカイン、成長因子や腫瘍抑制因子など、シグナルとなる化学物質の働くメカニズムが次から次へと発見されている。
だがそういったメカニズムでは超常現象は説明できない。自然治癒、心霊現象、驚くほどの筋力や耐久性、灼熱の石炭の上を火傷一つ負わずに素足で渡る能力、“気”を移動させて痛みを消し去る鍼灸師の力など、そのほかさまざまな超常現象が、ニュートン的世界観に立脚した生物学では説明不能だ。
医学部にいたときには、もちろん、これらの現象については全然考えてもみなかった。わたしも他の教官たちも学生たちに鍼灸療法やカイロプラクティック、マッサージ療法、祈祷などで病気が治るという主張は無視するように教え込んでいた。いや、それ以上だ。医者を名乗るペテン師の口上だといって弾劾さえしたのだ。それほど古典的なニュートン物理学を信じ込み、他の考え方はできなくなっていた。
いま挙げた療法はいずれも、エネルギー場が人間の身体の生理機能や健康に影響を及ぼしているという信念に基づくものだ。』
人間の生体内システムは重複的
『東洋医学では、身体はエネルギーの経路(経絡)が複雑に列をなしたものと定義される。中国の鍼灸療法で用いられる人体の経絡図には、電気配線図にも似たエネルギーのネットワークが描かれている。中国医学の医師は、鍼などを用いて患者のエネルギー回路をテストするわけだが、これはまさに電気技師がプリント基板を「トラブルシュート」して電気的な「病変」を発見しようとするのと同じやり方だ。』
私は「当院の治療」の4つの基本方針の2番目に『エネルギー素の気血津液を調えること』をあげていますが、「エネルギー素」とは私が勝手に作った言葉です。一方、全くの無縁だった「量子論」とはエネルギーを柱としたものであるということを知りました。また、ブルース・リプトン先生は ”思考のすごい力” の中で「エネルギー場」という言葉を使っていました。
直感的に「鍼灸(東洋医学)と量子論」をモヤッと比較してみたいと思い、3冊の本を手に入れました(※印は“思考のすごい力”で紹介されていた本)。今後の宿題、がんばろうと思います。
●量子の世界 ※
●分子生物学入門 ※
●13歳からの量子論のきほん
追記:AMED News Letter 2019年07月10日号
情報収集の目的で、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構さまの”メールマガジン”に登録をしています。7月10日号の中に大変興味深いニュースが含まれていましたので、ブログに追記させて頂きます。
”がんに自律神経が影響することを発見!がんの神経医療の開発へ”
●自律神経が、乳がん組織内に入り込み、がんの進展や予後に強く影響することを発見しました。
●ストレスなどによる交感神経の緊張が、がんを進展させ得ることを明らかにしました。
●自律神経を操作する神経医療(遺伝子治療など)が、がんの新規治療戦略になる可能性があることが示唆されました。
『大学や研究機関などが行う研究を支援し、研究開発やそのための環境の整備に取り組んでいきます。』