誤嚥性肺炎で最も問題となっているのは、高齢者に多くみられる睡眠中に起こる不顕性誤嚥を原因とするものです。
これは物を食べたり飲んだりする時に起こる嚥下反射と、誤って唾液などが気管に入りそうになった時に、それを防ぐために起こる咳反射が正しく機能しないことが大きな原因となります。
この2つの反射は脳の奥、中央部にある大脳基底核が関与するため、脳梗塞や脳血管障害などによりこの部位が障害されると、さらに誤嚥性肺炎のリスクは高まります。
誤嚥性肺炎には優れた薬が出ていますが、ここでは日常生活で可能な予防法として、嚥下・咳反射の向上を促す葉酸を含む食材を取ることと、口腔ケアを行うことについて、嚥下と咳の反射が起こるメカニズムに続き、ご紹介します。
1.2つの反射が起こるメカニズム
嚥下反射と咳反射は迷走神経知覚枝の頚部神経節で合成されるサブスタンスPという神経伝達物質が咽頭・喉頭や気管に放出されることにより起きます。そしてこのサブスタンスPの合成は大脳基底核に受容体を持つ上位のドーパミン神経系により調節されています。
※サブスタンスPのPはペプチド(2個以上のアミノ酸の結合によってできた化合物)を指します。
サブスタンスPが合成されるとする部位の頚部神経節は、左図ほぼ中央の淡いピンク色で膨らみがある部分、「交感神経上頚神経節」にあたります。
2.葉酸の摂取
葉酸はドーパミンを始めとする脳内の神経伝達物質の合成に重要な役割を果たしてます。一方、高齢者は消化吸収能の生理的低下や摂取量不足などにより、葉酸欠乏の傾向が多くみられます。これは葉酸は元々体内の貯蔵量が少ないことが原因の一つになっています。
このように重要でありながら、欠乏傾向が強い葉酸を意図的に摂取することは、日常的にできる効果的な予防になります。
3.口腔ケア
口腔ケアとは、機械的に口腔内の知覚神経を刺激するということを意味しています。毎食後に時間をかけて、丁寧にブラッシングするということです。
また、食事については、認知症予防として、よく噛んで食べることで感覚野の約3割が活性化され、さらに自分の手で口に運んで食べることより、運動野の約7割を使うということが報告されています。
こちらは【口腔ケア】というサイトです。同じく詳しく説明されています。
付記)
サブスタンスPという神経伝達物質が「軸索反射」に関わっているということは、鍼灸師の世界では一般的な知識ですが、そのサブスタンスPが嚥下反射・咳反射に深く関係しているということを知り驚きました。
さらに、アルツハイマー病の原因であるβアミロイド蛋白を分解する作用を持っているということも発見し、サブスタンスPの強者ぶりに本当に驚きました。
ちなみに「軸索反射」とは、置鍼した時にうっすらと赤みが出る現象でフレアと呼ばれています。これは刺鍼時の刺激によって分泌される、サブスタンスPの血管透過性亢進作用と、同じくペプチド系神経伝達物質のCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド) の血管拡張作用による働きで、刺鍼周辺部の血行が亢進していること示しています。血行改善、これは科学的に証明できる鍼灸治療の効果といえるものです。
「軸索反射」の説明は、こちらを参考にさせて頂きました。
http://physioapproach.com/blog-entry-92.html
SPがサブスタンスPになります。
画像出展:「ペインリハビリテーション」三輪書店
ご参考
提供元:ケアネット(全文は左のロゴをクリックしてください)公開日:2021/05/11
1日2杯以上コーヒーを飲む高齢者は肺炎が少ない―国内多施設共同研究