今回のブログは前回の“漢方(中医学)”の続きです。「混ぜるな危険」、その目的は漢方と鍼灸(経絡治療)の違いを理解することでした。自分なりにその違いを認識できたので、前に進みたいと思います。
“冷え”の問題が非常に重要ではないかと思う患者さまがおいでです。施術の効果は悪くはないのですが、なかなか冷え型の脈(沈細やや軟:沈み、細く、少し軟らかい脈)が変わらない点が気になるところです。
鍼灸に限らず、何か良い策はないだろうかという思いから、本棚にあった仙頭正四郎先生と土方康世先生の「家庭でできる漢方① 冷え症」をあらためて熟読することにしました。
ブログは2つに分けましたが、全4章のうち、第1章と第2章の多くをカバーしています。
著者:仙頭正四郎、土方康世
出版:農山漁村文化協会
発行:2007年1月
目次
はしがき
第1章 冷え症を東洋医学でとらえると
1.問題の本質は体の中の“めぐりの悪さ”
・複数のタイプに分かれる冷え症
・冷えの原因のあれこれ
2.体の中に熱をめぐらせるには?
●熱の量を維持する仕組みを知る
・熱をつくり出す「脾」
・熱を貯える「腎」
●熱を運ぶ仕組みを知る
・熱を運ぶ器としての血液
・熱のめぐりを調節する「肝」
・めぐりの邪魔をする存在
3.あなたはどのタイプか 《冷え症チェックシ+ト》
●各タイプの問題点と克服法
Ⓐ熱の量に問題がある冷え症
タイプ①熱の産生が不足する
タイプ②熱の無駄遣いは多い
Ⓑ熱を運ぶ仕組みに問題がある冷え症
・運ぶ器の問題
タイプ③運ぶ器が少ない(貧血)
・めぐりそのものの問題
タイプ④めぐりの障害物が多い
タイプ⑤熱を運ぶ器の流れが悪い
タイプ⑥めぐりを先導する「気」がとどこおる
●冷え症の予防策
・冷え症の攻略法
第2章 冷え症はこんな症状も引き起こす
1.みんなんが知らない冷えの怖さ
●“冷え症”とはどういうものか?
・冷えとほてりの不思議な関係
・冷え症と血瘀は、ニワトリと卵の関係
・36.5度の秘密
●冷え症を放っておくと
・あらゆる病気の引き金にも
・ガンも冷えを好む
2.痛いつらいは冷えのせい
●冷えがまねく体の
・上半身に現れる症状
+頭痛、肩こり
+疲れ目
+めまい
+動悸
+脱毛、薄毛
+鼻炎
・下半身に現れる症状
+骨粗鬆症
+肥満
+抑うつ感
+アトピ+性皮膚炎
3.女性のライフサイクルが冷えをまねく!?
●女性の体が冷えやすいワケ
●月経に現れる症状
・冷えが原因で悪化する月経の
・冷えが引き起こす月経の異常と症状
●不妊症は冷えも大きな要因
・冷えが治ると妊娠の確率も高くなる!?
・冷えが原因で起こる妊娠・出産の異常
・冷えが原因で起こる子宮に関する症状
●冷えの解消が乳ガン、乳腺症の改善に
・乳ガン
・乳腺症
第3章 東洋医学による冷え症の診断と治療
1.漢方治療の意味と姿勢
●治療が必要なくなる状態をめざす東洋医学
・混在し関連しあう冷えの原因
・対症療法よりも根本治療
・治療への近道は“冷え”を理解し、治療に参加すること
2.体を温めることは漢方治療の得意分野
●熱を増やすためにはどうしたらよいか
・生命力の土台の熱を増やす+タイプ①・②の解決策その1
・胃腸の力で熱を増やす+タイプ①・②の解決策その2
・精神作用の誘導で熱を増やす+タイプ①・②の解決策その3
●熱を運ぶ器を増やすためにはどうしたらよいか
・潜在力を強めて器を増やす+タイプ③の解決策その1
・増幅力を助けて器を増やす+タイプ③の解決策その2
3.じつはもっとも重要な“めぐり”の問題
・邪魔者を取り除く+タイプ④の解決策
・器のめぐりを助ける+タイプ⑤の解決策
・めぐりの仕組みを整える+タイプ⑥の解決策
4.熱の不足で弱った機能を助ける
第4章 きょうからできる冷え症改善法
1.冷えないため食事術
●毎日の食事から冷えを改善
・冷やさないお酒の飲み方
・食材の力を活かす
・温めることよりも冷やすものを避ける
[冷え症タイプ別 適性食材の表]
●冷えないために食事で心がけたいこと
・冷えるものは温めるものとの組み合わせで
・大事な一歩は朝食から
・体を温めるオリジナルメニュ+
・体質、体調に合わせて食べる
・誤った健康情報に惑わされない
2.冷えないためのくらし術
●冷えないために服装で心がけたいこと
・冷えないおしゃれに工夫をこらす
・薄着でもできるこんな工夫
●冷えないために生活で心がけたいこと
・冷える生活習慣に要注意
・体をはやく温めるには運動は必須
●きょうからできる「冷え取り入浴法」
・入浴には落とし穴も
・半身浴+体の芯の温かさを体感
・足浴法+じわ+っと芯から万遍なく温める
3.自分でできる冷えの気功療法
一.手掌でぬくぬく功
二.全身ぽかぽか功
三.腰ポカ功
四.太陽と友だち功
4.自分でできる冷えのツボ療法
・冷え症改善に効果のあるツボ
・自分でできるツボ療法
はしがき
『東洋医学を専門とする医療者として、治療や生命を考えるとき、何を大切にするかと問われるとすると、いくつかあげたいもののなかの一つに、「熱を大切にする」ということがあります。それは、生命力が豊かであるときの様子が熱であり、同時に、豊かな熱の存在によって、活き活きとした生命力が支えられてもいるからです。健やかに生きるということは、「熱」とは切っても切れない関係にあるのです。
「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」といった、私たちが人生において追い求めるものに、私たちは「温かさ」を感じるはずです。「温かさ」は、熱や光や温かい水が放散するように、外に伸び拡がろうとする性質をもちます。「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」は生命力に熱を生み、心に拡がりを生む気持ちなのです。「温かさ」は、豊かな生命力を意味し、同時に、豊かな心をも示すものなのです。それゆえ、「温かさ」の周りには人が集まり、その「温かさ」は周りに力を分け与えることができるのです。温かさの周りでは、互いが与え合え、すべての生命が活き活きとしています。
温かさと正反対の性質をもつ「冷え」は生命力を脅かし、機能の低下を意味するだけでなく、精神をも蝕みます。精神の状態は、表情に、目の輝きに現れます。「冷え」は容易に外に現れ、容貌、姿勢、立ち居振る舞いを変えます。冷えや温かさの状態は、どんなに強力なエステよりも、外見に影響力をもつものなのです。「苦悩、悲哀、狡猾、落胆、後悔」などの感情は、言葉にしなくても、その人の醸し出す空気から簡単に知ることができます。それは、これらが「冷え」を連想させる感情で、生命体として近寄りたくない空気だからです。「冷え」の性質は、「閉じこもり、固まり、沈み込み、内に向けて凝縮する」もので、周りから奪い、吸収して封じ込める性質をもっています。そのことが人を遠ざけ、人から「温かさ」を受ける機会をなくし、「冷え」の悪循環に陥いるのです。
人の生きる力は、周りの人から「温かさ」を受けて育まれ、また、周りの人に「温かさ」を与えることが生きる力を大きく膨らませます。こうした「温かい」存在によって生命力は支えられていて、それはあたかも太陽のようであり、東洋医学では、そのような働きを五臓の中の「心」に位置づけています。冷えの対策の目的は、単に熱の量を増やすことではなく、「温かさ」のやりとりを可能にすることにあるはずです。そしてその本質は、単なる体温の問題ではなく、生活の中に太陽の存在を意識するということです。自分を照らす太陽の存在を意識し、同時に、自分の中に、人を照らす太陽の存在を見い出すことでもあるのです。それは喜びになり、力になり、美しさにつながります。
本書で提供する冷え症対策で、冷えの世界から抜け出して温かさを手に入れ、その温かさを周りの人に分け与えてもらえれば、これに勝る喜びはありません。』
第1章 冷え症を東洋医学でとらえると
1.問題の本質は体の中の“めぐりの悪さ”
・複数のタイプに分かれる冷え症
-冷え症は単に冷えるということだけを問題にするのではなく、体の中で熱が果たしているいろいろな役割や仕組みを認識して、その熱が少なくなることで生じる様々な異常を冷え症の問題として捉える。
-物体も人も冷やされれば、同じように冷たくなるはずなのに多くの生き物が冷たくならないのは、物体として冷やされていながらも、体に貯えた熱を体表に絶えず運んでいるからである。
・冷えの原因のあれこれ
-血液や体の水が温められることで体中をめぐる。また、体の中に貯えられている熱はこうしためぐりに乗って、体中に配られる。熱はめぐりを良くし、めぐりの良さが体を温めるという“温め”の良いサイクルがつくられる。
-東洋医学では、どこが冷えているか、そして他の部分はどうかということに注目する。
-体全体が冷える人、足だけが冷える人、背中に冷えを感じる人、腰回りだけが冷える人、お腹に冷えを感じる人、手足は冷えても顔はほてる人まで、いろいろな特徴をもった冷え症がある。
画像出展:「家庭でできる漢方① 冷え症」
-めぐりの悪さで引き起こされる冷えの問題は、すべてが冷えることは少なく、冷える場所と反対に不自然に熱くなる場所が体の中に混在することが多い。
-冷え症の問題は熱の不足によって、体の中をめぐるものの「動きが悪くなる」ということにその重大さがある。
-冷えのために血液の流れが悪くなる、水の流れが悪くなってむくみを生じる、逆に水が届かないところには乾燥をつくる。そうしたことが、また、流れの悪さの原因になる。こうした悪循環が体の不調の連鎖の原因になる。
-めぐりに乗って全身に配られる熱は、ただ体を温めるだけではなく、その熱が胃腸の働き、心臓の働き、免疫力、脳の働き、筋肉の働きなど、全身の色々な機能の土台となって体の働きを支えているため、冷え症の状態では体の色々な機能低下を引き起こすことになる。
2.体の中に熱をめぐらせるには?
●熱の量を維持する仕組みを知る
・熱をつくり出す「脾」
-食事と関係する働きは、東洋医学では「脾」が分担すると考えていて、食べ物から必要なものを取り込んで、体に必要なものにつくりかえる働きをする。
-脾は後天的に生命力を補充する役目をすると考えられている。
・熱を貯える「腎」
-体がつくり出した熱を貯えておく場所が「腎」であると考えられている。腎に貯えられた熱は体の様々な働きの原動力となる。
-腎の働き(腎気)が充実していないと、熱を貯えることができないだけでなく、脾によって熱をつくり出す働きも十分に発揮されなくなる。
-腎は先天的な生命力を貯える場所であり、体の芯の部分にあると考えられている。
-腎の働きは足腰を使った運動をすることや、睡眠を十分とることで養われる。睡眠不足は腎の働きを圧迫して、冷え症の背景を強める。
●熱を運ぶ仕組みを知る
・熱のめぐりを調節する「肝」
-熱のめぐりを目的に応じて先導するのは「気」であり、熱のめぐりを調節するのも気の役目である。そして、気の働きを調節しているのが「肝」であり、肝は「心」の指令に従って機能している。
-心や肝は、感情や思考、気分の影響を受けやすいので、気分の状態によって、体の熱の様子は大きく変化する。楽しいことを考えているときは、じっとしていても熱の拡がりはよくなり、抑鬱的な気分や感情の起伏が少ない状態がつづくと、熱の拡がりは悪くなり体は冷えてくる。
-ストレスや抑鬱気分で気が滞ると熱の偏りが生じて、熱の多い所と少ない所がみられるようになる。中心には熱が過剰、末端では不足するといった状態になりやすく、こもって過剰になった熱は上の方に集まりやすくなるため、手足は冷えるが顔は火照るといった「冷えのぼせタイプ」の冷え症になる。
・めぐりの邪魔をする存在
-水分や栄養の摂りすぎなどで余分なものを貯えている状態が度を越えて多くなると、流れを邪魔する障害物となる。これを「痰飲」とよぶ。
-痰飲は熱の運行を邪魔して冷えの原因となると同時に痰飲自体が冷えを貯える保冷剤になり、暑い時期には熱を貯えることにもなる。これは肥満体型で、夏は暑がり冬は人一倍の寒がりタイプの冷え症である。
※ご参考:”五色”という考えがあり、次のようになっています。[腎→黒、脾→黄、肝→青、心→赤]
3.あなたはどのタイプか 《冷え症チェックシート》
画像出展:「家庭でできる漢方① 冷え症」
●各タイプの問題点と克服法
Ⓐ熱の量に問題がある冷え症
タイプ①熱の産生が不足する
・先天的な生命力を貯える「腎」の働きや、後天的に生命力を補充する「脾」の働きがもともと弱い、元気のない人ややせ型で疲れやすいタイプの人の冷え症である。
タイプ②熱の無駄遣いは多い
・熱に生産量は正常だが、過剰な冷房、薄着で不必要に熱を逃がしたり、冷たい飲食物で体を内側から冷やしてたりしまっているタイプの冷え症である。
Ⓑ熱を運ぶ仕組みに問題がある冷え症
タイプ③運ぶ器が少ない(貧血)
・熱を運ぶ器ともいえる血液が少なく、顔色が悪く、皮膚がかさつき、めまいや立ちくらみといった貧血症状を起こしやすいタイプの冷え症である。このタイプは手足などの末端部の冷えが目立つ。
タイプ④めぐりの障害物が多い
・水分や栄養を摂りすぎて体に余分なものが貯えられ、それが障害物となって、熱の流れを邪魔しているタイプの冷え症である。この障害物は「痰飲」と呼ばれる、冷えだけでなく熱も貯えるため、夏は暑がりなのに冬は人一倍寒がりというのが特徴である。余分な水が冷えをつくり、熱の不足が水の動きを悪くして痰飲を強めるという悪循環が生じやすい。
タイプ⑤熱を運ぶ器の流れが悪い
・血液の流れを悪くさせる第一の要因は、気の滞り。くよくよ、イライラ、余計な心配、考えすぎ、こういったことを避けること。そして、第二の要因は、冷やすこと。水分は少量ずつ飲むようにして、摂りすぎないように注意する。
・滞っている血液をめぐらせるには運動が良い。これは通勤や通学、買い物、家事など体を使う意識をもてば、生活の中に多くの機会があり、工夫によって運動量はぐっと増える。
タイプ⑥めぐりを先導する「気」がとどこおる
・手足は冷えるのに顔は火照るといった冷えのぼせタイプの冷え症である。
・気がストレスや抑圧気分で滞って中心にこもると、中心には熱が過剰となる一方、末端では不足する。熱の不足と過剰が同居する冷え症である。
・気を滞らせないためには、「気」が自由に色々な方向に動けるように道を開くことが重要。心配事や嫌なことも肯定的にとらえ、色々なものに関心を向け、一つのことにこだわらず明るい気分で過ごす。「いい気持ち」でいられる時間や方法を見つけることが大切である。
●冷え症の予防策
・運動を心がけ、過労や寝不足を避けて、明るい気分で過ごす。
・冷飲食や夏野菜、緑茶など体を冷やす飲食物に注意して、栄養過剰を避ける。
・厚着でなくても、頚周り、脇の下、臍周り、足の付け根、足首などの要所を覆って熱を逃がさない衣服を工夫する。袖のある服、袖口の閉じた下着やブラウスなどで効果は絶大。