第2章 冷え症はこんな症状も引き起こす
1.みんなが知らない冷えの怖さ
●“冷え症”とはどういうものか?
・冷えとほてりの不思議な関係
-“冷え症”とは「体の一部が異常に冷えやすい症状、またその体質。手足下半身に冷えを感じること。自律神経の機能失調で、血行不良になるために生じる」とされている。
-冷え症が女性に多いのは、女性ホルモンなどの内分泌をコントロールする内分泌中枢と、血流をコントロールする自律神経中枢が男性に比べて近い位置にあるためである。女性ホルモンの変動期には、女性ホルモン分泌が失調すると、自律神経がその影響を受け、全身の血管の収縮は血行を悪化させ、冷えの原因となる。
-温めると改善する腰痛、体の痛み、頭痛などの症状をもつ人は冷えが関わっている。
-冷えが慢性化すると、むしろ火照るように感じることもあるが、これは冷え症の進行型であることが多い。
・冷え症と血瘀は、ニワトリと卵の関係
-冷え症は血管が収縮傾向にあるため、血流は悪化し鬱滞が起こりやすくなる。この血流鬱滞のことを中医学では血瘀という。
・36.5度の秘密
-冷え症の人の体温は36度以下の人が多い。
-諸臓器の代謝は酵素反応によって行われている。たとえば食物の消化は、いろいろな酵素によって分解代謝され、栄養分は胃腸から吸収され、さらに多種多様の酵素反応を経て、血となり肉となる。これらの酵素が最も働きやすい温度が36.5度付近のため、これ以下の体温になると、徐々に酵素の働きが落ちて代謝が悪くなる。そして、ますます冷え症は進み体調は悪化する。
●冷え症を放っておくと
・あらゆる病気の引き金にも
-冷え症を放置すると酵素活性が常に低い状態となり、各臓器の代謝も悪く全身の臓器の機能低下が起きる。
-血流障害や血瘀(血流鬱血)は炎症や各臓器の機能障害につながる。つまり、冷えは脳を含むあらゆる臓器の病気を起こす引き金になる可能性がある。
・ガンも冷えを好む
-冷えきった状態は代謝を低下させ、免疫機構も正常に働かないため、ガン細胞の成長を加速させ、ついには立派なガンになってしまう(わずかなガン細胞は成長し診断がつくまでに10年かかることもある)。冷えはガンにとって喜ばしい環境である。
注):”2.痛いつらいは冷えのせい” は省かれています。
3.女性のライフサイクルが冷えをまねく!?
●女性の体が冷えやすいワケ
・冷えが原因で起こる女性特有の病気には、月経異常、不妊症、妊娠中の異常(切迫流産、早産、習慣性流産、妊娠浮腫)、出産後の異常(産後腹痛、胎盤残留、産後膀胱炎、排尿障害)、子宮下垂、子宮内膜症、子宮筋腫などがある。
・女性は月経周期にしたがって、毎月一度、女性ホルモンの大きな変化を受ける。
画像出展:「家庭でできる漢方① 冷え症」
月経1週目は貧血気味、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌低下で体温は下がる。また、血行は悪くなり、生理痛や自律神経失調症状が続き、うつっぽく、肌は過敏、乾燥気味になる。
月経2週目は卵胞ホルモン(エストロゲン)の影響で副交感神経の活動が活発になり、血行が良くなるので低体温であっても体調は良く、肌もきれいになる。同時に卵胞ホルモンは卵子が着床しやすいように布団状に子宮内膜を厚くする。
月経3週目は子宮内膜を潤す黄体ホルモンの分泌が増えて高温期となり、肥厚した子宮内膜は更に潤い充血してくるため、下腹部に不快感やむくみ、便秘などが起こりやすくなる。卵子と精子が受精し受精卵になると、布団状に厚くなった子宮内膜に着床する。受精に至らなかった場合は4週目に進む。
月経4週目は黄体ホルモンの影響が最も顕著になり、高温期が続いて交感神経が活発になり、むくみ、便秘、肩こり、腰痛、肌トラブル、ヒステリー症状などの月経前症候群が出やすい時期となる。最後に肥厚した子宮内膜は不要となり、剥がれ落ちて月経となるが、この時、子宮内膜表面を排出するための子宮収縮が起こって、さらなる下腹部痛を伴うこともある。
特に、1週目と4週目は冷えや疲れに注意しなければならない時期である。
・自律神経中枢は、間脳(視床下部)のホルモン分泌中枢の近くにあり、ホルモン変動の著しい月経前後は自律神経も影響を受ける。その結果、冷え症の悪化、憂鬱感、イライラ、情緒不安定などの精神症状、頭痛、めまい、吐き気、消化器症状が起こりやすくなる。
・沖縄の激戦地で従軍した女学生たち(“ひめゆりの塔”)は、月経は停止したままだった。命に関わるような強いストレス状態では月経停止はすぐに起こる。日常的なストレスでも蓄積されていくと月経停止になる可能性はある。
●月経に現れる症状
・冷えが原因で悪化する月経の異常
■月経困難症
-月経中の子宮収縮に伴い、強い下腹部痛、腰痛を伴う。
-子宮内膜症や子宮筋腫などで子宮をささえる靭帯を正常な位置で支えることができなくなり、子宮収縮に異常が出る。
-構造に問題がない場合でも、子宮内膜がプロスタンディンを作りすぎると子宮収縮が強くなり、腹痛が起こる。
-冷えると子宮収縮はさらに強くなり、痛みが増強する。
・冷えが引き起こす月経の異常と症状
■月経の遅れ
-月経の正常周期は25日~38日。6日前後の変動は正常とされている。遅れるのは月経量が少ない人に多い傾向がある。貧血、冷え症により遅れる人もいる。
■月経周期がはやい
-月経周期が21日以下の場合。月経過多や月経期間延長を合併する場合が多い。
-原因は虚弱体質、過労、ノイローゼなどで、自律神経失調症から冷えて胃腸系統が弱った人、冷えて泌尿生殖器系統の働きが弱った人、ストレスで情緒不安定になり、血流鬱滞、阻滞のある人。普通は熱がりの人に多い傾向がある。
■過多月経
-レバー状の月経は、子宮腺筋症(子宮筋層内の内膜症)でも見られる。また、小さな凝血塊が時々見られる程度であればあまり心配しなくてもよい。
■その他
-生理不順、不正出血、無月経、月経前後の頭痛、下痢、めまいなど。
●不妊症は冷えも大きな要因
・冷えが治ると妊娠の確率も高くなる!?
-『“冷え症を治療すると、妊娠する確率が非常に高くなる”。そういう印象をもっています。』
-『1年前後にわたり漢方薬の服用をつづけて妊娠した数例は、すべてが冷え症でした。ですから不妊症の人は、現代医学的検査を受けて原因がわからないといわれたら、とにかく冷え症を治すことを最優先に考えるべきだと思います。それから、諦める前に、1日数回の足浴と、20分以上の半身浴、漢方薬治療をおすすめします。』
・冷えが原因で起こる妊娠・出産の異常
■妊娠中の異常
-切迫流産、早産、習慣性流産、妊娠浮腫などがある。妊娠中に冷えるとお腹が硬くなる人が多いので、冷えてお腹が硬いと感じたら、まず腰湯や入浴などでお腹を温めて、安静にして寝るのが良い。とにかく妊娠中は冷やさないようにする。また、適度な運動も必要である。
-3カ月頃から起こる辛い悪阻[ツワリ]は、ストレスから自律神経失調となって起きやすくなり、冷えにより更に悪化することもある。
-8カ月頃には妊娠浮腫が起こりやすくなる。冷えてお腹が脹ってきて、浮腫みが悪化するときは、体を横たえてお腹を温め寝ることにより改善する。
-流産はストレス、過労、冷えなどが原因であり、特に高齢出産や仕事が忙しい人は要注意である。
■出産時の冷えによる異常
-子宮収縮不良(残留胎盤で悪化)、胎盤残留、産後膀胱炎や排尿障害などがある。
・冷えが原因で起こる子宮に関する症状
■子宮下垂症
-子宮を上に固定しておく靭帯などの力が弱り、子宮が下降して発生する。冷えによって下垂は悪化する。
■子宮脱症
-子宮膣部がさらに下降して膣外に露出するものである。
■冷えで悪化する下腹部痛
-子宮内膜症、子宮筋腫をもっている人にみられる。冷えて瘀血が悪化するために起こると考えられる。
■子宮ガン
-漢方的には子宮ガンは瘀血と考える。血流阻滞、鬱滞があり、冷えによる疼痛が起こることもある。子宮ガンの人のお腹は芯が冷たい感じがする。
まとめ
”冷え症1・2”で、特に気になったことは次の9つです。
1.「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」といった、私たちが人生において追い求めるものに、私たちは「温かさ」を感じるはずである。「温かさ」は、熱や光や温かい水が放散するように、外に伸び拡がろうとする性質をもつ。「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」は生命力に熱を生み、心に拡がりを生む気持ちである。
2.東洋医学では、太陽のような働きを五臓の中の「心」に位置づけている。冷えの対策の目的は、単に熱の量を増やすことではなく、「温かさ」のやりとりを可能にすることにあるはずである。そして、その本質は単なる体温の問題ではなく、生活の中に太陽の存在を意識するということである。
3.冷え症の問題は熱の不足によって、体の中をめぐるものの「動きが悪くなる」ということにその重大さがある。
4.体がつくり出した熱を貯えておく場所が「腎」であると考えられている。腎に貯えられた熱は体の様々な働きの原動力となる。
5.腎の働き(腎気)が充実していないと、熱を貯えることができないだけでなく、脾によって熱をつくり出す働きも十分に発揮されなくなる。
6.腎の働きは足腰を使った運動をすることや、睡眠を十分とることで養われる。睡眠不足は腎の働きを圧迫して、冷え症の背景を強める。
7.熱のめぐりを目的に応じて先導するのは「気」であり、熱のめぐりを調節するのも気の役目である。そして、気の働きを調節しているのが「肝」であり、肝は「心」の指令に従って機能している。
8.心や肝は、感情や思考、気分の影響を受けやすいので、気分の状態によって、体の熱の様子は大きく変化する。楽しいことを考えているときは、じっとしていても熱の拡がりはよくなり、抑鬱的な気分や感情の起伏が少ない状態がつづくと、熱の拡がりは悪くなり体は冷えてくる。
注)五色という考えがあり、次のようになっています。[腎→黒、脾→黄、肝→青、心→赤]
9.酵素が最も働きやすい温度が36.5度付近のため、これ以下の体温になると、徐々に酵素の働きが落ちて代謝が悪くなる。そして、ますます冷え症は進み体調は悪化する。
今回の患者さまの下肢の本治穴は、“腎”・“肝”の土穴(力をつける:太渓・太衝)と金穴(めぐりをよくする:復溜・中封)です。これに三陰交と足三里を追加しています。これは上記に照らし合わせても妥当といえます。ただし、“心”はノータッチでした。
私が学んだ代々木の日本伝統医学研修センターでは、君火(明かり)の“心”に直接刺鍼することは推奨しておらず、施術対象とする場合は、相火(熱)の“心包”を推奨しています。なお、中医学では相火は「腎陽が発揮する各臓腑を温養し活動を推動する機能」と定義されています。
また、代々木時代のノートを丁寧に見返したところ、【腎の冷えに対し、腎の土穴+心包の土穴(大陵)を使う】との記述を見つけました。この発見は今回の1番の収穫でした。この大陵は次回の施術から使いたいと思います。