心臓と腎臓には密な関係があるとされています。それは心腎連関と呼ばれ、5つのタイプに分類することができます。なお、下記の説明は冊子『糖尿病における心腎連関』の内容(右上の表)を一部加筆したものです。
”糖尿病における心腎連関” を[クリック]すると、ネット上にあるPDF資料がダウンロードされますが、これは「医学出版」さまのサイトにあるものです。
なお、Roncoとは、Dr. Claudio Ronacoという人のことで、[クリック]すると“critical care Canada”というサイトに移ります。
心腎連関に関するRonco分類
1型:急性心疾患による急性腎障害(AKI)
急性心不全や急性冠症候群で心機能が低下することにより心拍出量が低下し、非代償性心不全に至ると急性腎障害(AKI)の状態となる。腎障害は腎血流の低下に伴う腎虚血およびGFR低下である。
2型:慢性心疾患による慢性腎臓病(CKD)
慢性心不全による左室リモデリングと機能低下、拡張不全、心筋症が原因となり慢性の腎虚血の状態となる。うっ血性心不全で入院する63%で心腎連関の状態を認めるという報告もある。
3型:急性腎障害(AKI)に伴う急性心疾患
AKI(急性腎障害)により急速に腎機能が低下することで、うっ血性急性心不全が起こる。腎機能の低下は水、ナトリウム貯留、高カリウム血症など電解質異常や尿毒素の蓄積をきたし、これらが急性冠症候群や不整脈などを引き起こす。
4型:慢性腎臓病(CKD)に併発する慢性・急性の心疾患
慢性的な腎機能低下は高血圧、動脈硬化、貧血、尿毒素の蓄積などをきたす。糖尿病、高血圧が慢性腎臓病(CKD)の原因である場合、血管の石灰化、左室肥大、左室拡張不全を合併しやすくなる。
5型:全身性疾患により同時進行的に生じる心臓、腎臓の障害
心臓、腎臓には主たる原因はなく、血症などの全身状態悪化にともない、心機能低下と腎機能低下が同時に起こる状態をいう。
1型と2型は心臓病を原因とする腎臓病。3型と4型はその逆、腎臓病を原因とする心臓病。最後の5型は全身性疾患を原因とする心臓および腎臓の機能低下というのが大まかな分類です。
こちらは、NHKスペシャル“人体 神秘のネットワーク”の書籍版第1集から一部を使ってスライドショー(10枚)にしたものです。心臓と腎臓とのやりとりをイメージして頂けると思います。
こちらのサイトは情報が満載です。
“心臓と腎臓の深い関係 ─ 心腎連関症候群 ─”に関する説明も掲載されています。
一方、中医学においても心と腎の関係性を重視しており、それを“心腎相交・心腎不交”と呼んでいます。
右の図はこちらの本の内容を基に作ったものです。
専門学校時代、「中医学は古くて新しい学問だ」と教わりました。そこであらためて中医学について調べてみると、ウキペディアには次のような説明が出ていました。
『中国地域に伝わる伝統医学は多様であるが、中華人民共和国の成立以降整理され、中医学の名で統一理論が確立された。そのため日本では、中華人民共和国で整理された医学体系を「中医学」とし、それ以前を「中国医学」として区別する場合もある。』
“心腎相交・心腎不交”という考え方は古い「中国医学」からあるものだと思いましたが、念のため、ネット検索してみると、“九峰の備忘録”という凄いブログに貴重な情報が出ていました。ここではその一部を引用させて頂きます。なお、※印は私の加筆です。
心腎不交-文献1目次・宋以前
『心腎不交および相交、そしてそれに類する表現の含まれる文献を集めた。水火不交、坎離不交、上下不交、水火既済(未済)などである。』
《宋以前》※宋時代は960年~1279年
『霊枢』寒熱病(21)
「陰蹻、陽蹻、陰陽相交、陽入陰、陰出陽、交于目鋭眦、陽気盛則瞋目、陰気盛則瞑目。」
※『霊枢』は中国最古の医書とされている『黄帝内経(コウテイダイケイ)』の一部、他に『素問』があります。『黄帝内経』は前漢時代末期(紀元前1世紀頃)に存在していたという説もありますが、詳しいことは明らかになっていません。「寒熱病(21)」とは『霊枢』の21番目の項目が「寒熱病」について記述してあるという意味です。なお、“霊枢原文(鍼経)”という本が出版されているのを知りました。
出版:三和書籍
校正:淺野 周
心腎不交-文献2両宋・金
『手元の文献 のなかで、一番古い心腎不交の表現は、厳用和『済生方』にある。宋以前の医書には今のところ見つからない。』
《両宋・金》
厳用和(南宋)※南宋は1127年~1279年
『済生方』1253年・・・(『厳用和医学全書』2006年 中医藥出版)
≪諸虚門≫
芡実丸
「治思慮傷心、疲労傷心、心腎不交、精元不固、面少顏色、驚悸健忘、夢寐不安、小便赤渋、遺精者白濁、足脛散痛、耳聾目昏、口干脚弱。(以下修治と薬量は省略)」
“心腎”という語を含むものが出てきたのは13世紀でした。このことから、“心腎相交・心腎不交”は「中国医学」の時から、間違いなく存在していたものであることが確認できました。
このように、心と腎、心臓と腎臓はそれぞれが非常に重要な臓器であり、かつその関係性も密であるという特別な存在です。
なお、以降は『閃く経絡』に書かれていた心・腎に関して、お伝えしたいと思った部分になります。
『心臓は大動脈を通じてすべての臓器につながるが、腎臓とも(中医学と西洋医学の両方で)非常に特別な関係がある。腎臓と大動脈は同じ空間(腹膜後腔)に位置する。ここは少陰経の合流点を表す。氣は最も大きな動脈に沿って心から移動し、上方へ向かい、腕と脳へと出る。下方で最初の大きな分岐は腎動脈である。腎動脈から2本の短くて太い腕と手指のような血管が出ている。これらの手指は、心から下がってきた氣を保持する腎の機能を表している。これらの腕の先に、2本の巨大な豆が位置する。それらは豆によく似ているので、「“キドニー”・ビーン」と呼ばれている。
ここで示すイラストは「かかし」のように描くことで、大動脈を解剖学的に驚くほど正しく描写している。』p185
●かかしの眼は横隔動脈(横隔膜の動脈)である。口ひげは腹腔動脈(胃の動脈)である。
●口は上腸間膜動脈である。
●乳頭は精巣動脈・卵巣動脈である。
●腕は腎臓の動脈(腎動脈)で、先にある5本の手指(分岐)で豆を保持する。
●おへそは下腸間膜動脈である。
●このかかしは男性であるため、陰茎―「仙骨動脈」を持つ。そして2本の脚は「腸管動脈」となる。
●その後ろ側では、かかしはロープ(腰動脈)で棒(脊柱)に括りつけられている。
『なぜ、私はこのイラストを見せたのか? 私がどれほど賢いかを示すためではない。「Clinical Anatomy Made Ridiculously」からアイデアを引用している。このイラストは非常に正確で、医学部の期末テストでも使うことができる……必要であればだが。このイラストはすべての位置が完璧であるだけでなく、血管の相対的サイズも正確なのだ。 -中略-
これを示したのは腎と心のつながりがどれほど強いか証明するためだ。ご覧の通り、腎動脈の動脈は2本の幅広い腕である。そして、これらの腕は幅広い必要がある。これらの2個の小さい豆は心臓から全血液の5分の1を取り入れているからだ!』p187
『腎は精を貯蔵し、心は神(または霊性)を宿す。腎水は心火を制御し、心火は腎陰に活力を与える。中国人は、腎臓がレニンと呼ばれるホルモンを産生することを知らなかったし、レニンが肺内部で作用して、別のホルモンを産生して、心臓にストレスをかけることも知らなかった。中国人はこれが副腎を介して腎臓にフィードバックされ、より多くの水分を保持するように伝えることも知らなかった。
代わりに、中国人は腎火について話した。それは上方へと燃え上がり、心臓に損傷を与える、そう命門のことである! この説明も西洋医学と同じように妥当である。違うのは、薬草や鍼灸を使用する場合、これらの用語をさらに正確に定義する必要がなかったということだ。薬草は腎を「調律」し、水で「うるおす」ように用いられた。
漢王朝の偉大な医師たちが現代医療に驚嘆することは疑いない。彼らが薬草や鍼と同様に、抗生物質やステロイド、外科手術や麻酔を使いこなしていたらどうだったであろうか。西洋医学が肺を介して腎火を心につなげる物質そのものを精密に同定したことに彼らはさらに驚くだろう。』p200
『腎臓はそのホルモンで心臓に大きく影響を及ぼすが、心臓も同じくらいの力で腎臓にフィードバックを返す。心臓は主にポンプの力を通してフィードバックするが、心臓が産生し、腎臓に影響するホルモンが少なくとも2つある。ANP(atrial natriuretic peptide、心房性ナトリウム利尿ペプチド)とBNP(brain natriuretic peptide、脳性ナトリウム利尿ペプチド)である。
大動脈が間に入ったこのつながりは特別である。血液を拍出する力は、他の臓器にはみられない形で、腎臓を刺激する。これらの2つの臓器の間で直接影響し合うホルモンは少なくとも7つある。それらはアルファベット順に、アドレナリン、アルドステロン、アンジオテンシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、脳性ナトリウム利尿ペプチド、ドーパミン、バゾプレシンである。鍼灸の理論は、動脈を介した腎と心の特別な関係こそが少陰経を形成することを教えている。』p201
『腎筋膜は、腎臓を包み、後腹膜を通じて心まで行き、肝臓の無漿膜野にまで続き、骨盤内臓器のほうに流れ落ちる……これは中医学が教えている腎経の流れと同じである。どうしてわかるのか?腎臓、副腎、血管は、腎筋膜が覆う腎周囲腔に含まれるのだ。肝臓の無漿膜野へと至る上方のつながりは、腎と肝が中医学で特別なつながりを持つ理由の1つである。』p217
出版:医道の日本社
著者:蠣崎 要・池田政一
以下の絵は「腎経の流れ」になります。説明文の太字にした箇所が上記の著者の説明に合致する部分です。ただし、肺から先(「気管をめぐって舌根をはさんで終わる」)については「閃く経絡」の方には書かれていません。
足の少陰腎経は、足の太陽膀胱経の脈気を受けて足の第5指の下に起こり、斜めに足底
中央[湧泉]に向かい、舟状骨粗面の下に出て内果の後ろ[太渓]をめぐり、分かれて
踵に入る。下腿後内側、膝窩内側、大腿後内側を上り、体幹では腹部の前正中線外方5分、胸部では前正中線外方2寸を上り、本経と合流する。
大腿後内側で分かれた本経は、脊柱を貫いて、腎に属し、膀胱を絡う。
さらに、腎より上がって、肝、横隔膜を貫いて、肺に入り、気管をめぐって舌根をはさんで終わる。
胸部で分かれた支脈は心をつらなり、胸中で手の厥陰心包経につながる。
コメント
経絡の流れを流注といいますが、流注が体表のみならず体内の内臓にまでおよんでいるという、鍼灸(東洋医学)の説に、正直、少し疑問を持っていました。
ところが、今回の『閃く経絡』が説く、「ファッシアを経絡と考える」に順ずると、内臓につながるルートが確かなものとして納得できます。個人的には「ファッシア=経絡」ではなく「ファッシア≒経絡」であると捉えていますが、体表⇔内臓というつながりを実感できたことは最大の収穫でした。