12月9日のブログ「乳酸と疲労」の中で疲労の原因は複数あり、活性酸素もその1つであるということを知りました。今回は、その理由と活性酸素はどのようなものかについてまとめたいと思います。
ヒトは呼吸で得た酸素を使って、食物を燃やしエネルギーを作ります。そしてその時に活性酸素は作られます。激しい運動は多くのエネルギーを必要とするため、大量の活性酸素を生みだします。そしてその結果、細胞を酸化させます。鉄でいえば錆びることです。
この細胞の酸化がダメージとなり疲労として現れるわけですが、直接的な原因は活性酸素が細胞を酸化させる時、疲労因子の「ファティーグ・ファクター(FF:Fatigue
Factor)」というタンパク質の一種が発生し、脳へ「疲れた」という信号を送ると共に、筋肉や細胞の働きが低下して、実際の疲労が起きるという仕組みです。
これは、風邪をひくと体がだるくなり、時に発熱して心身を休めるためのサインが発せられますが、今回の、疲労因子FFが起こしている仕組みも、体を強制的に休ませるための指令であり、本質的には同じもののように思います。
疲労因子FFが疲労の原因であることは理解できましたが、やはり、その大元になる活性酸素がどのようなものか理解する必要があることを再認識しました。
今回、勉強させて頂いたのは「活性酸素の話」という本ですが、初版が1996年と古いためネット検索で調べた内容もかなり含まれています。
度々お世話になっている、講談社さまのBLUE BACKSシリーズです。
連敗と疲労の関係を考える
話は横道にそれますが、活性酸素の話は長くなるので、疲労因子FFが出たところで、疲労と連敗について少し触れさせて頂きます。(いつも「何で連敗は止まらないんだ?」と思っているためです)
サッカーに限った話ではないと思いますが、下位に低迷するチームが最後のロスタイムで失点し、勝利を逃してその悪い流れから抜けられないという状況を目にすることが度々あります。
これに関し、「結局、蓄積する疲れなのでは?」と考えたことがあったのですが、今回のブログを参考にすれば、「連敗→降格」という精神的ストレスが原因で活性酸素が活発に作られ、それに伴い、本来必要のない分の疲労因子FFが放出されることにより、自分自身が感じている以上に心身の疲れが蓄積しているのではないかと思います。そして、体のきれや、試合終盤の5分、10分の集中力が落ちて、失点シーンにつながっているのではないでしょうか。
スポーツの世界でよく使われる、「ひらきなおる」という行為は、精神的ストレスを緩和することで、疲労因子FFの発生量を減らすことができます。
また、ややもすると連敗している時は練習量が増える傾向にあるように思います。これ自体が疲労因子FFを増やすことになりますが、精神的プレッシャーを背負っての激しい練習は、想定を大きく超えた負荷が心身を消耗させているように感じます。
このような受身のハードワークは連敗脱出にはマイナスです。むしろ、完全休養、自主練習、更にチームの問題を共有し意識合わせをチーム全体で行うなど、心身をリフレッシュさせ、チームが同じ方向を向き、高いモチベーションのもと目の前の練習に100%集中することが、連敗脱出の可能性を高めるように思います。
「ひらきなおる」イメージです。
画像出展:GATAGフリー画像集
地球の酸素
活性酸素はその名前の通り、酸素と深い関係にありますので、まずは酸素の歴史と特徴についてご説明したいと思います。
地球の誕生は46億年前とされています。当時の地球は炭酸ガスでおおわれ空気はありません。広大な海は10億年かかってでき、そして、35億年前、その海に最古の微生物、酸素不要の嫌気性微生物が登場しました。
藍藻(シアノバクテリア)や植物プランクトンによって光合成が始まり、ついに酸素が地球上に現れました。20億年前の大気酸素濃度は現在の1/100程度のレベルと考えられています。
現在の大気は約20%の酸素を含んでいますが、この容量に一気に到達したのは、6億年前の地球の全球凍結が原因と考えられています。全球凍結の時代は平均気温は-50℃、氷の厚さが1000mにもなり、1000万年以上続いたとされています。
その長い凍結状態は、活発な火山活動によって大気中に蓄積された大量の二酸化炭素が、高温な温室効果を生み出し、藍藻などの活発な光合成が数百万年に渡って大量の酸素を放出し続けたことによると考えられています。
十分な酸素で満たされた地球には4億年前にオゾン層ができました。オゾン層は有害な紫外線をカットしたため、安全な環境となった陸上に海中の植物や生物の一部は移り住むようになったわけですが、酸素が持つ巨大なエネルギーは進化にとって画期的な出来事となり、高等生物への歴史の幕開けとなりました。
酸素毒とは何か
酸素が猛毒といわれる理由は、「強烈な酸化力」によるものです。例えばリンゴを摺ってそのまま置いておくとあっという間に茶色くなります。鉄でさえ年月はかかりますが、茶色く錆び最後はボロボロになります。
この酸化力は物質がもつ電子の移動に関係するのですが、それを代謝という観点からご説明します。
生き物は外界から取り入れた食物を酵素を用いた酸化還元によって、必要な物質を合成したり不用なものを捨てたりする、いわゆる物質代謝を営んでいます。そして同時に、食物からエネルギーを獲得するエネルギー代謝も営んでいます。
ここでいう酸化還元は電子の移動のことです。下図はA、Bという2つの物質があって、AからBに電子が移動した場合、Aは酸化され、Bは還元されたといいます。このように酸化と還元は同時に起こるので、2つをまとめて酸化還元と呼びます。
酸素は電子(e⁻)を奪い取ってしまいます。
奪い取る側、「強酸化力」と書かれた右側のBが「酸素」ということになります。
画像出展:「活性酸素の話」(講談社)
さらに下図の上段はミトコンドリアがエネルギーであるATPを作る過程を表わしたもので、下段は電子の流れ(電子伝達)に伴いエネルギーが生まれていることを説明する図です。
細かい解説ができず申し訳ないのですが、お伝えしたいことはエネルギー代謝では、電子が伝達されるプロセスそのものがエネルギー生成になっているという事実です。
酸素がもつ酸化力は電子の移動に影響を与え、生命の営みを左右するだけの力を備えており、正しく作用しないと非常に危険であり、まさに「猛毒」ということになります。
ミトコンドリアのクリステの内膜内を電子が移動しエネルギー(ATP)が作られる様子です。
画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本新報社)
電子の流れと自由エネルギーについて記述されたものです。
水力発電は水がダムの上から下へ落ちるエネルギーを利用し、電気を得ていますが、基本的にそれに近いものと思います。
画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本新報社)
活性酸素の発生
酸素が生物の体内で変化したのが活性酸素です。活性酸素は呼吸によって必ず作られるものですが、体外から入ってくるものもあり発生要因は複数存在します。
私たちは食物から栄養素を、空気から酸素を取り入れ、エネルギー生産工場ともいえるミトコンドリア内の電子伝達系(呼吸鎖)の流れにのって、エネルギー(ATP)と二酸化炭素、水を生みだしています。
「生き物」は下になります。ちなみに電池は化学エネルギーなので、どちらかと言えば、「生き物」の方にはいります。
画像出展:「活性酸素の話」(講談社)
この電子伝達系の流れの中で電子が受け渡されるときに活性酸素が生成されます。なお、活性酸素は呼吸で取り入れた酸素の1~3%と考えられています。
第1段階…スーパーオキシドアニオンラジカルと呼ばれています。
第2段階…過酸化水素と呼ばれています。
第3段階…ヒドロキシラジカルと呼ばれています。
過剰となり、害を及ぼすようになった活性酸素を消去あるいは無毒化するために、進化によってスーパーオキシドアニオンラジカルに対してはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、過酸化水素に対しては、カタラーゼやグルタチオンペルオキシターゼという酵素が作られました。しかし、ヒドロキシラジカルには消去する酵素が無いだけでなく、スーパーオキシドアニオンラジカルの数十倍の活性をもっており、最も危険で問題となる活性酸素です。
また、体内に細菌やウィルスなど異物が侵入した時、最初にしかも大量に発生するのが活性酸素のスーパーオキシドアニオンラジカルです。血液中の白血球などの食細胞がこれらの異物を食べ、食細胞の膜から活性酸素が出てきて溶かしてくれます。ただし、この外敵に対する攻撃の範囲を越え大量に発生すると、正常な細胞を傷つけ様々な障害を生じさせる事になります。
外部から体内にもたらされる活性酸素には以下のものなどがあります。
・食品添加物
・煙草のタール成分
・排気ガス
・化学肥料
・大気汚染物質
・紫外線
・放射線
仕事や人間関係などの強いストレスがあると活性酸素が活発に作られます。ストレスが原因で胃潰瘍や十二指腸潰瘍を発症することが多いのは、過剰な活性酸素が組織を傷つけるためです。
また、激しい運動によって筋肉が一時的に虚血状態になり、その後血流が再開した時も大量の活性酸素が発生します。活性酸素を消去するSODなどの酵素が低下する40歳以降に激しいスポーツを行うことは健康にとって良いものではありません。
活性酸素と病気
活性酸素は200以上の病気と関係があると言われ、老化に関る病気とはほとんど関係があると言えます。特に関係性が注目されているのは癌ですが、脳神経系の病気ではアルツハイマー病、パーキンソン病、脳虚血、脳梗塞、てんかん、ダウン症候群などがあります。脳は特に多くの酸素を消費する臓器のため活性酸素の生成量も多くなり、問題を発生しやすい状態にあります。