先日、クレアチニン(Cr)値が急速に悪化し、それに伴い強い痒みのため、夜、思うように眠れないとのお悩みを抱えた患者さまが来院されました。また、その強い痒みは、日によって変化するとのお話でした。
担当医の先生は「尿毒症によるものですね」とのことです。一般的な尿毒症の症状は多岐にわたります。一方、色々調べてみると透析患者の約70%の人が痒みで困っているという記事も見つけました。
これらのことから、尿毒症の痒みの特徴や、そもそも強い痒みとはどのようなものなのか詳しく知りたいと思い本を探しました。それが今回見つけた『世界に「かゆい」がなくなる日』というユニークなタイトルの本です。内容はとても充実しており、大変勉強になりました。良い本に出合ってよかったなと思います。
著者:高森健二、柿木隆介
発行:2017年11月
出版:ナツメ社
目次
はじめに
プロローグ 「かゆみ」は不思議な感覚
●「かゆみ」=「かきたい感覚」?―かゆみの不思議な定義
●「かく」ことは快楽だ!―脳の活動を探る
●見ているだけでかゆくなる……―かゆみの伝染
●かけばかくほどかゆくなる矛盾―イッチ・スクラッチ・サイクル
●「かゆい」の悪循環は夜も続く―かゆみの頻度と継続時間の計測
Part1 「かゆい」はつらい!
●川柳に込めた深い悩み―かゆみは他人にはわからない
●「かゆくて仕事ができない!」―かゆみ患者の数と経済損失
●ふらつきや判断力の低下も……―治療薬の副作用
Part2 人間の皮膚が担う大きな役割
●イヌは体温調節ができない―人間の皮膚の優れた特徴
●1カ月で総取り替え―人間の皮膚の構造
●皮膚はいつも水浸し―皮膚の保湿効果
●細菌・ウィルス・紫外線をはねのける!―皮膚のバリア機能
colunmn1 「肌年齢」ってどうやって測るの?
Part3 皮膚で起こるかゆみのメカニズム
●「末梢性のかゆみ」の原因―次々に発見されるかゆみ物質
●かゆみはゆっくり脳に届く―かゆみ信号が伝わる仕組み
Part4 ドライスキン(乾燥肌)のサイエンス
●伸び縮みする神経―乾燥肌がかゆいわけ
●アトピー性皮膚炎を悪化させる要因―新しい抗炎症剤の開発
●紫外線がかゆみを治療する?―紫外線療法の処方箋
●あなどれないスキンケア外用薬の効果―高齢者のドライスキン対策
Part5 花粉症によるかゆみ
●花粉で皮膚もかゆくなる―「花粉皮膚炎」への進行
●花粉症の季節、女性の9割が肌荒れで悩んでいる―花粉皮膚炎の心得
Part6 皮膚以外の原因でもかゆくなる
●疾患が引き起こすかゆみ―中枢性にかゆみとは?
●脳物質のバランスが変化―中枢性のかゆみの主原因
●腎臓病治療の副作用―血液透析によるかゆみ
●血液透析患者を救った「レミッチ」―日本発・世界初の内服薬
●広がるレミッチの効用―肝・胆道系疾患によるかゆみ
●「むずむず足症候群」と関連?―血液疾患によるかゆみの解明
●薬のせいでかゆくなるってホント?―薬剤によるかゆみ
colunmn2 妊婦さんのかゆみを軽くするには
Part7 かゆみの治療の基本とコツ
●かゆみの原因はわかりづらい―原疾患の治療が先決
●炎症や免疫反応を抑える―皮膚由来のかゆみに主原因
●かゆみ物質の働きを阻止―ヒスタミンが関与するかゆみと関与しないかゆみ
●中枢性のかゆみに対する内服薬も―オピオイドκ受容体作動薬への期待
●市販薬のさまざまな成分―外用薬に含まれるかゆみ止め成分
●ヒリヒリ感でかゆみを抑える―効用が不明なかゆみ止めも
●理想はオーダーメイド治療―止痒薬ではなく鎮痒薬
colunmn3 使いすぎるとかゆくなる石鹸や洗剤
Part8 かゆみ止め薬を使わない治療法
●脳への電気刺激がかゆみを止める!―経頭蓋直流電気刺激法
●「痛い」が「かゆい」を忘れさせる―他の皮膚刺激による抑制
●心頭滅却すればかゆさも忘れる?―心理療法
●見直されてきた「偽薬」の効用―プラセボ効果
●かゆみを自分でコントロールする―認知行動療法
●心療内科・精神科の医師との連携―リエゾン療法
●温めて抑える、冷やして抑える―温熱療法、冷罨療法
●古来の薬にも効果が?―民間薬と漢方薬
●鎮痛剤がかゆみにも効く?―最新研究による新たな可能性
column4 かゆみを測るのは難しい
Part9 かゆみ研究最前線(人間を対象とした研究)
●脳を傷つけずに検査する―機能的MRIと電気生理学的検査
●かゆみ刺激に対する脳活動の不思議―大脳辺縁系と前頭葉がともに活動
Part10 かゆみ研究最前線(動物実験)
●「かゆがるマウス」が残した足跡―世界初の動物モデルの作成
●「イギリスの蚊」なら、かゆくならない?―虫刺さされのメカニズム
●脊髄の神経が関係する慢性的なかゆみ―マスト細胞の分化・増殖機能の解明
●黄疸によるかゆみのメカニズム―かゆみ物質を分子レベルで調べる
●ドライスキンはなぜかゆい?―過敏症のメカニズムと新しい治療法
Part11 かゆみと痛みはどう違う?
●かゆみは痛みに隠れている?―痛みとかゆみの共通点
●我慢する感覚vs我慢できない感覚―目的が異なる生体警告信号
●かゆみ物質は痛み物質にもなる―物質の判断を変える生体の不思議
●かゆい時に活動する未知の領域―脳の活動部位の違いが明らかに
エピローグ 「かゆい」は本当に必要ないのか
おわりに
ブログで取り上げたものは、上記の目次のうち、黒字の部分だけです。
プロローグ 「かゆみ」は不思議な感覚
・「イッチ・スクラッチ・サイクル」とは
-「イッチ・スクラッチ・サイクル」とは痒みの悪循環のことで、かゆいところをかくと快感が得られる。それを脳が記憶すると、かくのをやめられなくなる。
画像出展:「世界にかゆいがなくなる日」
-何かの原因で皮膚を強くかくと、皮膚が傷つく、すると皮膚の中にサイトカインという物質が放出される。このサイトカインは皮膚の中にあるマスト細胞(肥満細胞)を刺激して、ヒスタミンというホルモンを放出する。このヒスタミンは非常に強いかゆみを誘発する。また、傷ついた皮膚は炎症を起こすが、それもかゆみを引き起こす。そのために、また強くかいてしまう。このように痒みは悪循環となることもあり、問題は大きくなる。
・このサイクルの実態、病的な悪循環と知っていれば、自制心が働き、かくことを我慢しようと思うことは大切なことである。
Part3 皮膚で起こるかゆみのメカニズム
●「末梢性のかゆみ」の原因―次々に発見されるかゆみ物質
・かゆみの原因の多くは皮膚の問題であり、皮膚の中で炎症・アレルギーなどが起きたときにかゆみが生じる。これを「末梢性のかゆみ」という。末梢性のかゆみが出る時には、かゆみを引き起こす原因物質が皮膚の中で作られている。
①ヒスタミン
-ヒスタミンは主に「マスト細胞」で作られる。マスト細胞は肥満細胞とも呼ばれている。また、顕微鏡で見ると、たくさんの細かい粒のようなものが見えるので顆粒細胞とも呼ばれる。マスト細胞は皮膚以外に鼻の粘膜、気管支など体の様々な組織に存在している。
-アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息のような代表的なアレルギー性疾患が起こる場所にマスト細胞は多くあり、このことはマスト細胞から分泌されるヒスタミンが、アレルギーの発生に重要な役割を果たしていることが分かる。
②ヒスタミン以外のかゆみ物質
-現在、発見されたかゆみ物質は、セロトニン(5-TH)、プロテアーゼ、神経ペプチド、脂質メディエーター、サイトカイン、胆汁酸、リゾホスファチジン酸、ケモカイン、硫化水素などがある。
●かゆみはゆっくり脳に届く―かゆみ信号が伝わる仕組み
・かゆみと鈍い痛みの信号は伝達スピードが遅いC線維から脊髄に至り、脊髄視床路という経路を通って脳に到達する。
画像出展:「世界にかゆいがなくなる日」
・関節位置覚、触覚、振動覚、圧覚などは脊髄後索という経路を通る。脊髄の中には他にも、脳からの運動指令を伝える皮質脊髄路など、たくさんの経路が詰まっている。
・皮膚、神経末端部、末梢神経、脊髄とかゆみと鈍い痛みは同じ経路を通るため、「かゆみは痛みの軽いもの」と言われていたこともあったが、最近の研究ではかゆみ独自の経路があることが分かってきた。
Part4 ドライスキン(乾燥肌)のサイエンス
●伸び縮みする神経―乾燥肌がかゆいわけ
・皮膚の水分がかゆみの予防の基本である。角質細胞の皮脂膜や細胞間脂質、天然保湿因子が減ると、角質細胞の集団が崩れて水分が減り、角質層に隙間ができやすくなる。このため外から異物が侵入しやすくなり、これが刺激となってかゆみが生じる。また、乾いたドライスキンの状態は皮膚が必要以上に敏感になっている。
画像出展:「世界にかゆいがなくなる日」
・皮膚には、神経を伸ばす「神経伸長因子」と、その逆の作用を持つ「神経反発因子」がある。通常は両者のバランスが保たれているため、健康な皮膚では神経線維の自由神経終末は、表皮と真皮の境界に分布している。ところが、皮膚が乾燥すると、神経伸長因子の力が強くなり、神経が伸びるため、その先端にある自由神経終末が表皮内に侵入し、表皮の中で最も皮膚表面に近い角質層の直下にまで伸長する。そのため、外部の刺激が伝わりやすくなり、知覚過敏の状態になり、かゆみを感じやすくなる。
●アトピー性皮膚炎を悪化させる要因―新しい抗炎症剤の開発
・アトピー性皮膚炎は、かゆみの強い慢性の湿疹で、多くはアトピー性素因(アトピー性皮膚炎になりやすい性質)を持つ人に生じる。
・アトピー性皮膚炎の皮膚はバリア機能の異常と、免疫機能の異常・アレルギー性炎症が相互に作用しながら、悪化していく。
・アトピー性皮膚炎の皮膚内で炎症が起こると、マスト細胞やT細胞からかゆみ物質が分泌されるが、これらは「炎症細胞」と呼ばれている。
・炎症が起こると皮膚の表面がアルカリ性に偏るため、細菌が侵入しやすくなる。かゆみのために激しくかくと、皮膚のバリアが壊れる。すると、さらに皮膚が乾燥して、異物が入りかゆみがより強くなり、そして、また、かいてしまう。つまり、「イッチ・スクラッチ・サイクル」という悪循環を起こす典型例がアトピー性皮膚炎である。
・アトピー性皮膚炎ではステロイド軟膏で炎症を抑え、保湿するのが効果的である。ステロイドは軟膏として使う程度では特に副作用の心配はない。
●紫外線がかゆみを治療する?―紫外線療法の処方箋
・近年、アトピー性皮膚炎に対する紫外線療法が話題になっているが、名古屋市立大学の森田明理教授が3つの要素をあげられている。
①T細胞のアポトーシスの誘導
-アトピー性皮膚炎では、アレルギー炎症の原因となるT細胞が増加するが、紫外線によってアポトーシスが誘導され、T細胞が減少し病態が改善する。
②免疫抑制
-紫外線によって免疫異常が改善される効果がある。治療後の改善期間が長く保てると考えられている。
③末梢神経(C線維)への影響
-紫外線はかゆみを伝達するC線維にも影響を与える。アトピー性皮膚炎の皮膚では、C線維の先端部分にある自由神経終末が、表皮の角質層まで伸長しており、皮膚のバリア機能の低下と相まって、かゆみ刺激に過敏に反応する。
●あなどれないスキンケア外用薬の効果―高齢者のドライスキン対策
・高齢者における皮膚乾燥の発生。
①脂質の減少
②天然保湿因子(NMF)の減少
③角質細胞のターンオーバー(細胞の発生と自然死のサイクル)の低下と角質層構造の変化
④環境因子の影響
・高齢者のかゆみの治療あるいは予防には保湿剤が一番有効である。
・保湿剤にはかゆみ神経(C線維)が表皮内に侵入するのを抑える作用がある。つまり、乾燥後すぐに保湿剤を外用すると、表皮内神経線維の増加を強く抑制する。
Part6 皮膚以外の原因でもかゆくなる
●疾患が引き起こすかゆみ―中枢性にかゆみとは?
・何らかの疾患が原因となって、病的に強いかゆみが持続するもの。中枢とは脳や脊髄のことである。
画像出展:「世界にかゆいがなくなる日」
●脳物質のバランスが変化―中枢性のかゆみの主原因
・麻薬として使われるモルヒネやアヘンの材料であるアルカロイドなどの物質を総称して「オピオイド」というが、このオピオイドが中枢性のかゆみを引き起こすことが分かってきた。
・受容体は細胞表面にあって、特定の物質だけに反応してその物質に対する細胞の反応の引き金を引く。オピオイドは複数の受容体を持っているが、2種類の受容体のアンバランスによってかゆみが誘発される。これが「中枢性のかゆみ」の原因である。
画像出展:「世界にかゆいがなくなる日」
κ受容体とμ受容体のバランスが崩れるとかゆみが出現する。
●腎臓病治療の副作用―血液透析によるかゆみ
・透析患者の7割が合併症のかゆみに苦しんでいる。
・透析によるかゆみの原因は、腎不全や透析、さらに乾燥によって皮膚のバリア機能が損なわれていることがある。
●血液透析患者を救った「レミッチ」―日本発・世界初の内服薬
・κ受容体を活性化させてμ受容体とのバランスを改善するのが、κ受容体作動薬のナルフラフィン塩酸塩(商品名:レミッチ)である。
●広がるレミッチの効用―肝・胆道系疾患によるかゆみ
・肝疾患によるかゆみにも、オピオイドシステムが関与しており、レミッチにかゆみを止めることが明らかになった。
●薬のせいでかゆくなるってホント?―薬剤によるかゆみ
・医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページで「薬とかゆみ」で検索すると7,000以上の薬がヒットする。どのような薬でもアレルギー反応が生じれば、発疹(薬疹)に伴ってかゆみが出現する。
・薬剤によるかゆみは大きく二つに分類できる。
1)明らかに皮膚症状を起こすもの。様々な皮疹が出現し、かゆみの程度も異なる。中には強いかゆみが現われる場合もある。
2)皮膚症状がないか少ないタイプ。頻度が多いものは、モルヒネ、クロロキン、バンコマイシンなど。
⚽日本 2-1 スペイン サッカーワールドカップ カタール大会予選リーグ最終戦 2022年12月2日
画像出展:「讀賣新聞オンライン」
信じられない勝利でした。選手全員が戦い方を理解し、共有していたことが最大の勝因だと思います。
その中で、傑出していたのは三笘選手の強く、果敢に攻める気持ちでした。それはディフェンス面にも出ていました。
1mmの攻防の明暗は、想像力と研ぎ澄まされた瞬時の決断にあったと思います。