慢性炎症について

脂肪は冷えである。という認識でいたのですが、「脂肪は慢性炎症の原因」という記事をネットで見つけて以来、「どっちだろう?」と疑問に思っていました。そして先日、同じくネットで以下の記事を目にしました。

左をクリックすると、『脂肪慢性炎症の引き金となる分子を同定』という記事が確認できます。

こうして、1冊の本を購入して勉強を始めました。
拝読させて頂いたのは、生田 哲(いくた さとし)先生の『青魚を食べれば病気にならない 万病の元「慢性炎症」を防ぐ』です。その、まえがきとなる「万病の元 慢性炎症の発見」は、インパクトのある内容となっていますので、先生のプロフィールに続いて、その「まえがき」をご紹介させて頂きます。
ちなみに、冒頭の「脂肪は冷え」に関しての疑問ですが、【皮下脂肪】は冷え、慢性炎症に関係するのは【内臓脂肪】。ということになります。

なお、今回の内容は以下の通りです。

・まえがき
・炎症について(炎症の定義とプロセス)
・慢性炎症の原因と特徴

・炎症の局面「攻撃」と「治癒」
・慢性炎症と心筋梗塞
・慢性炎症と糖尿病
・慢性炎症とがん
・付記1:非ステロイド消炎鎮痛剤の問題点 
・付記2:東洋医学における「熱」

著者:生田哲
「青魚を食べれば病気にならない」

生田 哲:1955年 函館市生まれ。東京薬科大学卒業。

がん、糖尿病、遺伝子研究で有名なシティ・オブ・ホープ研究所、カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、カルフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)などの博士研究員を経て、イリノイ工科大学助教授(化学科)。

まえがき

『わたしたち日本人が苦しむ病気といえば、がん、心臓病、糖尿病、アルツハイマー病、アレルギー性疾患がその代表である。これらの病気の発生する原因は、個別に深く研究されてきた。研究者は、みずからの専門性の中だけで、すなわち、仲間うちで情報交換し、他の分野との交流はほとんどないに等しかった。
がん専門の研究、心臓病専門の研究、糖尿病専門の研究、アルツハイマー病専門の研究、アレルギー性疾患専門の研究…というふうに。
たとえば、がんの専門家は、がんは遺伝子のミススペリング(突然変異)で発生すると主張する。心臓発作は、血管の内部に蓄積したコレステロールでできたプラーク(塊)が大きくなり、血液の通りを悪くすることで発生すると理解されてきた。要するに、心臓病は「配管の問題」とされ、配管を詰まらせるとされたコレステロールを下げることが声高に叫ばれてきた。
糖尿病は、血糖が異常に高くなることで発生し、インスリンの効きが下がることが原因であることまではわかっていたが、この段階でとどまっていた。
アルツハイマー病は、脳の神経細胞が急速に死んでいくことで記憶を失うことがわかっていたが、神経細胞の死ぬ原因は諸説あって確定していなかった。
どの専門家も、彼らの専門性の範囲内で細分化された深い研究にいそしんできた。当然、論文が山のように発表されてきた。学問研究はミクロの世界で飛躍的に向上したが、人の健康の増進にはあまり役立たなかった。
しかし、1990年代半ばに心臓病の分野に画期的な発見があった。突破口を開いたのは、ハーバード大学のポール・リドカー教授である。彼は、それまで配管の問題とされてきた心臓発作は、じつは、血管の炎症によってプラークが破裂することで発生することを明らかにした。
これで、心臓発作の発症者の半数が正常なコレステロールレベルの人であるという矛盾も、プラークがそんなに大きくなくても心臓発作が起こるという不思議な現象も説明できる。血管の炎症によるプラークの破裂が問題であるからだ。
この発見を突破口に、各国の医学部でそれまでバラバラに研究を進めていた、心臓、慢性関節リウマチ、がん、アレルギー、神経を専門とする科学者たちは、はじめて互いに話し合うようになった。そして彼らは、自分たちが共通の原因を追跡していることを発見した。それが「炎症」だったのである
ケガをしたときや病原体に感染したときに発生する炎症は、傷を負った組織を修復した直後、あるいは、病原体をやっつけるとただちに止まる。しかしこれが止まらずに、知覚できない程度に低いレベルでいつまでもつづくのが、「慢性炎症」である。
慢性炎症は、健康な神経細胞や組織や血管に長期にわたって傷つける。脳の神経細胞を殺すとアルツハイマー病、血管の炎症が止まらないと心臓病を引き起こす。また、遺伝子にダメージを与えるとがん、インスリンの効きを悪くすると肥満や糖尿病が発生する
がんの152万人、糖尿病の237万人、虚血性心疾患の81万人、慢性関節リウマチの34万人、ぜんそくの89万人、高血圧の797万人、肥満の約2300万人、花粉症の約2000万人。これは、わたしたち日本人を苦しめる病気と患者数だ。そのうえ、慢性の病に苦しむ人は毎年のように増えつづけている。』

炎症について
炎症といえば、普通は急性炎症をさすと思います。「はれる」、「赤くなる」、「痛い」、「熱っぽい」などの特徴がありますが、「炎症の5主徴」として定義されています。

「痛みと鎮痛の基礎知識」より
炎症の5徴候

 「医学の父」、「医聖」などと呼ばれるヒポクラテス(BC460〜BC377)は、炎症のことを「phelegmone(燃えるもの)」としました。

4主徴から「機能喪失」が加わり、5主徴となったのは、紀元後2世紀の頃です。

画像出展:「痛みと鎮痛の基礎知識」(技術評論社)

炎症は、「生体組織に何らかの有害な刺激を起こす物質(起炎物質)が作用したときに、生体が示す局所の反応であり、生体防御反応の一過程である。」となるのですが、重要なポイントは、炎症には「攻撃」と「治癒」の二つの局面があるというところです。
攻撃

免疫系が体に侵入してきた病原体と戦います。痛み、腫れ、発熱し、赤みが発生します。
治癒

病原体と免疫との戦いで受けた損傷を治癒させます。健康を維持する鍵となります。

「青魚を食べれば病気にならない」より
免疫:体内で繰り広げられている戦い

3つの絵のうち、上段は外敵からの侵入を察知し、戦闘準備に入る様子。

中段は激しい戦い、下段は戦い後の様子で、きれいに掃除し元のように戻せれば健康を完全に取り戻すことができます。

家の中と同じで、後片付けがしっかりできていれば面倒な問題は発生しません。

画像出展:「青魚を食べれば病気にならない」(PHP新書)

ここで、炎症のプロセスを整理したいと思います。
病原体の侵入を防ぐ防衛網
病原体の侵入を防ぐ防衛網は1つではなく、何層にもわたって敷かれています。1層目は皮膚です。皮膚は抗菌性物質を放出してバクテリアの侵入を防ぎます。皮膚におおわれていない眼、口、鼻には粘膜が張りめぐらされ、バクテリアを捕らえて破壊し、血液の流れに入らないように阻止します。

侵略者をみつけ全身に知らせる監視部隊
病原体が第1線の防衛網をかいくぐり、血液の流れに入ったとすると、体の結合組織の中にあって敵の監視を担当する肥満細胞がヒスタミンを放出することで警報を鳴らし、侵略者の存在を全身に知らせます。さらに肥満細胞は多くの物質を全身に送り、侵略者との戦いのために援護を要請します。これに応えて免疫系は白血球を地上部隊として戦場に送り込みます。なお、ここでいう侵略者とはバクテリアやウィルスなどの病原体だけでなく、がん細胞など体内で発生した異物も対象となります

白血球が侵略者を僕滅する
地上部隊の白血球は、その役割ごとに主に4つの小隊に分かれています。
B細胞
 特殊なタンパク質から抗体とよばれる武器を使って、バクテリア、ウィルス、毒素を捕らえ悪行
を阻止します。
好中球
 寿命が3日しかない好中球は短期決戦になります。武器は強力な活性酸素で、あたかも
クラスター爆弾のように周囲に存在するすべてを抹殺します。
マクロファージ
 食細胞といわれるマクロファージは大蛇のように、侵略者に近づいて一気に飲みこみ、活性酸素
や酵素を使って分解してしまいます。
T細胞
 血液中に逃亡したり、組織の中に潜む侵略者を追跡し、容赦なく破壊します。まるでSWATのよ
うな働きですが、状況によっては、より適した白血球に援軍を要請することもあります。

慢性炎症の原因と特徴
・炎症をコントロールするエイコサノイドには、「炎症性エイコサノイド(燃やしのエイコ)」
と「抗炎症性エイコサノイド(火消しのエイコ)」が存在し、この2つのバランスが健康維持には非常に重要です。慢性炎症は病原体を撃退した後や、傷が治癒した後に炎症という爆撃が完全に停止されず、くすぶり続け、健康な細胞、組織、血管へのダメージが終結せず続いている状態です。
慢性炎症は穏やかであり、脳に痛みのシグナルを送る神経細胞の末端を刺激するほどの強さはあ
りませんが、最近の研究の積み重ねからさまざまな方法で体に深刻な障害を与えることが判明しています。長年にわたって深く進行し毒薬のように身体に忍び込み、細胞分裂、免疫系、心臓、脳などの主要な臓器に影響を与えます。

「青魚を食べれば病気にならない」より
炎症と抗炎症

「火消しのエイコ(抗炎症性エイコサノイド)」が過剰であれば、慢性炎症には罹りにくいものの、攻撃力が落ち、感染症を防いだり、回復させたりするパワーが低下し、そのリスクが高まります。

一方、「燃やしのエイコ(炎症性エイコサノイド)」が過剰になれば、慢性炎症が深く静かに進行に慢性の病気を招くことになります。

画像出展:「青魚を食べれば病気にならない」(PHP新書)

注)「エイコサノイド」は生理活性物質(動物体内で産生され微量で生理・薬理作用を示す物質)の、ホルモン・神経伝達物質・サイトカイン以外の総称である「オータコイド」の1つで、不飽和脂肪酸の代謝物の総称です。生田氏は著書の中で、エイコサノイドを「ホルモン」とされていますが、調べた範囲ではホルモンと定義しているものはなく、ホルモンと同じく生理活性物質の中の「オータコイド」としているケースが多く見られました。

また、オータコイドはホルモンのように血液を介して全身に影響を及ぼすことはなく、局所的に作用するものです。半減期もホルモンが数分~数十分と長いのに比べ、オータコイドは数秒~数分と考えられています。ちなみにドパミンやアドレナリンなどの神経伝達物質の半減期は1秒以内です。

炎症の第一の局面「攻撃」
・病原体が体に侵入してときに最初に反応するのは、免疫細胞である白血球の好中球やマクロファ
ージで、病原体を飲み込み猛毒の活性酸素を使って分解します。

「燃やしのエイコ(炎症性エイコサノイド)」は炎症プロセスを促進するアクセルの働きをし、好中球やマクロファージを戦場に速く送り込めるように血管から外へ出やすくします。さらに、免疫系に関わる細胞に炎症性物質を放出させるので炎症は激しさを増します。戦場に到着した免疫細胞は、病原体や病原体の攻撃で被害にあった組織を破壊します。
主な炎症性エイコサノイド(燃やしのエイコ) 
 ・プロスタグランジン

  傷口のそばの血管を拡張することによって、血管中の白血球が戦場にすばやく辿りつけるようにします。このとき、血管から漏れ出てくる血液によって、組織は腫れて赤くなり、痛みのシグナルを脳に送信する神経細胞の末端を刺激し、痛みを生じさせます。痛みは不快なものですが、それ自体が体を守るための強力なメッセージになっています。また、酸分泌を抑制したり、粘液の分泌を促して粘膜を保護するという働きもしています。消炎鎮痛剤の服用で胃腸症状が出てしまうのは、このプロスタグランジンに対して、一斉攻撃をえているためです。
 ・ロイコトリエン

  その役割は、白血球を援助することです。まず、白血球を呼び寄せ、駆けつけた彼らに戦場の位置、出陣すべき兵隊の人数を伝えます。これは攻撃によって発生する戦場周辺の問題ない細胞や組織の破壊を最小にするようにコントロールするためです。これをロイコトリエンが担当しています。また、白血球に敵を攻撃するための活性酸素の使用を許可し、そのうえ、白血球の寿命を格段に伸ばすという役割もしています。

 

炎症の第二の局面「治癒」
「治癒」こそが本当の意味での「抗炎症」ということになります。「抗炎症エイコサノイド(火
消しのエイコ)」はブレーキ役となり、第一の「攻撃」によってダメージを受けた組織などを元通りに戻します。
・治癒のプロセスはリコール、掃除、再生、修復という4段階から構成されています。
 ①リコールは、免疫系の戦いを止めることです。副腎皮質から抗炎症性物質であるコルチ
ゾール(ストロイド)が放出され、「炎症性エイコサノイド(燃やしのエイコ)」による攻を止めます。

  ②掃除は、まだ戦場に散乱してる攻撃で使用した武器を取り除き、戦場をきれいにするこで、担当するのはマクロファージで、飲み込んだ病原体の残骸や傷ついた組織、戦場に漏出た赤血球などは、すべて活性酸素で分解されます。マクロファージの働きが不十分で戦場に残骸が残ると、弱いながらも炎症は続いてしまいます

  ③再生は、損傷を元に戻す作業です。血管壁が再びつくられ、できた血管の中を流れる血が酸素と栄養素を運び込み、ダメージを受けた組織の再生が始まります。
 ④修復は、新しい組織が生まれる、治癒の最終段階です。傷跡は組織が正しく配列されす
修復された場合に見られますが、これは「抗炎症エイコサノイド(火消しのエイコ)」が十分に機能しなかったために起こります。
主な抗炎症性エイコサノイド(火消しのエイコ)
 ・リポキシン

  「炎症性エイコサノイド(燃やしのエイコ)」を調整する(減らす)パワーは、コルチゾールよりもずっと強力です。また、コルチゾールとは異なり、「抗炎症エイコサノイド(火消しのエイコ)」を停止しないという特筆すべき大きな利点を持っています。さらに、新しい組織を秩序立てて再構築するのに必要な成長ホルモンを放出させます。

ここからは、慢性炎症と「心臓病」、「糖尿病」、「がん」の関係を、本文からの引用にてご紹介させて頂きます。
慢性炎症と心臓病
『なぜ、心臓発作が起こるのか。多くの医師は、心臓発作を次のように理解してきた。年月がたつにつれて、脂肪が動脈の血管の内部にじわじわ蓄積していき、これが塊(プラーク)となって、血流を流れなくする心筋梗塞が起こり、その先の心筋の組織が壊死し、心臓発作が発生する、と。
プラークの大部分はコレステロールでできているから、血液中のコレステロールレベルが高くなれば、心臓病のリスクが高まるはずである。しかし、ここに問題がある。それは、すべての心臓発作の50%は、コレステロールが正常の人に発生すること、そして、心臓発作を防ぐことでは最高の薬であるアスピリンは、コレステロールレベルを少しも下げないことである。
さらに、最新の画像研究からわかったことは、心臓発作を発生させやすい、もっとも危険なプラークは、大きなものではなくて、破裂しやすいものである。これを「ソフトプラーク」と呼んでいる。そうなると、心臓発作にはコレステロール以外の別の因子がかかわっていることになる。それは、いったい何なのか。
今から150年以上も前の1848年、ドイツの著名な病理学者ルドルフ・ウィルショーは、心臓病で亡くなった患者の心臓を丹念に調べ、「心臓病は炎症である」と発表した。しかし、彼の鋭い洞察はまったく注目されることなく、埋もれてしまった。当時、炎症の有無や程度を測定する有効な手段が存在しなかったからである。
一方、血液中のコレステロールは、測定する方法があったので、たちまちのうちに心臓病の原因に祭りあげられた。
その後、炎症と心臓病を関連づける研究は、しばらくとだえていたが、1970年代に、ワシントン大学のラッセル・ロス教授が、心臓病は炎症が原因で起こると主張したことで、生物医学界で論争を呼んだ。しかし、このときすでに、高コレステロールが心臓病のおもな原因であると声高く叫ばれていたため、ロスの主張は聞き入れられなかった。このときもまた、炎症、とりわけ慢性炎症を測定する精密な手段がなかったため、コレステロール値の低下が心臓病を予防するための金科玉条とされたのである。
そしてついに1990年代になって、ハーバード大学のポール・リドカー教授は、CRPを慢性炎症の程度を測定する血液中の指標(これを血液マーカーと呼ぶ)として開発し、血液中のCRPが高まると心臓発作のリスクが4.5倍に跳ね上がる事を発見した。CRPは炎症のマーカーであるが、それと同時に炎症を発生させる炎症性物質でもある。そして、CRPは最強の炎症性物質であるIL-6(インターロイキン-IL6)から作られている。』

慢性炎症と糖尿病
『炎症、インスリン抵抗性、過剰な体脂肪の三者は切り離せない関係にある。
脂肪細胞は免疫細胞と同じように、炎症を強力に推進するIL-6とCRPを放出する。そして、放出されるIL-6とCRPは脂肪量に比例する。言い換えると、太れば太るほど、慢性炎症は激しさを増す。
細胞は、インスリンのはたらきによってブドウ糖をその内部に取り込んで利用することで生きている。しかしIL-6は、細胞がブドウ糖を取り込むのを妨げる。つまり、IL-6は、インスリンの効きめを弱めるのだ。これでは細胞は困る。この細胞のピンチを救うために、膵臓は、さらにインスリンをつくり、血液中に大量に放出する。こうしてインスリンが血液中に大量に存在するが、今ひとつ効きめが薄い状態となる。これがインスリン抵抗性で、長引くと、2型糖尿病が発生しやすくなる。
また、過剰のインスリンは、ブドウ糖を脂肪細胞に取り込ませ、体脂肪を増やす。上述したように、脂肪組織はIL-6やCRPを放出するから、炎症は悪化することになる。
では、炎症が先なのか、それとも増加したインスリンが先なのか。わたしは、炎症が原因であると信じている。』

「青魚を食べれば病気にならない」より
肥満、糖尿病、慢性炎症を結ぶインスリン抵抗性

画像出展:「青魚を食べれば病気にならない」(PHP新書)

慢性炎症とがん
『がんと炎症は密接に関係している。まさかと思われるだろう。第一線の科学者でさえこの事実をまだ理解していない人が多いくらいだから、無理もない。しかし、発がんの研究で著名なカリフォルニア大学のブルース・エームス教授は、約30%のがんが慢性炎症か慢性の感染症に関係していると語っている。
じつは130年くらい前から、がんは慢性炎症の起こっている箇所に多発することが知られている。そして多くの研究の積み重ねから、遺伝子の突然変異と慢性炎症が、がんの原因であることがわかってきている。
こういうことだ。感染や炎症によってマクロファージや好中球が活発化し、ロケット弾である活性酸素を敵めがけて発射する。しかし、この活性酸素が敵ばかりでなく、細胞の内部に存在するDNAにも損傷を与えてしまう。これは、戦場で味方の砲撃によって犠牲者が出てしまう“友軍放火”の生物版といえる
次に、DNAダメージが原因となってDNAの並びが変わってしまうミススペリング(突然変異)が起こり、成長と増殖に異常のみられる細胞、すなわち良性腫瘍となる。この良性腫瘍に炎症によって発生した成長因子というタンパク質が注がれることで、悪性腫瘍、すなわち、がん細胞ができる。
このようにがん細胞は、正常細胞が突然変異によって変身したものである。これで腸の慢性炎症から大腸がんが、肝臓の慢性炎症から肝臓がんが起こることが説明できる。
医学の分野で権威ある「実験医学雑誌」の編集者は、2001年3月号で、以下のように述べている。慢性炎症が起こることで、ヒトの肺、肝臓、大腸、膀胱、前立腺、胃粘膜、卵巣、皮膚にがんが発生しやすくなる。これまでの多くの研究から、アスピリンなどの抗炎症薬を服用することで、大腸がんのリスクを40~50%下げ、肺、食道、胃に発生するがんを予防できる可能性が高い、と。
それから、炎症がかかわるもう一つのがんに子宮頸がんがある。子宮頸がんは、ウィルスが子宮の入り口に感染することによって発生する。このがんでは、まず、子宮の入り口に炎症が発生することに注目したい。感染したウィルスを撃退しようと免疫系がはたらいて炎症が起こり、組織の損傷、DNAダメージ、ミススペリングとつづき、がんの引き金が引かれる。
正常細胞ががん細胞に変身するには、まず、遺伝子DNAにミススペリングが起こらねばならない。炎症の際の活性酸素がDNAにミススペリングを起こさせることは先に述べた。
DNAダメージは、通常、うまく修復されているから問題ないが、修復がうまくいかなくなると、ミススペリングが発生する。ミススペリングが細胞をコントロールする遺伝子に蓄積すると、最終的に、死ぬことなく分裂、成長をつづけるがん細胞に変身する。しかも燃やしのエイコは、がん細胞の発生を助長するだけでなく、できたがん細胞を他の箇所に移動させる転移能力も兼ね備えている。
研究者たちは、燃やしのエイコをつくるコックス2(サイクロキシゲナーゼ2)という酵素の性質を夢中になって調べている。この酵素は、炎症時や多くの癌が発生するときにも増える。だから、この酵素のはたらきを止めれば、炎症やがんの発生を抑えられるのでは、と期待されている。
いくつもの研究から、抗炎症薬のアスピリンを毎日飲んでいる人は、ポリープと呼ばれる前がん状態になりにくいことが確認されている。アスピリンは、コックス2のはたらきを阻害し、燃やしのエイコの生産を妨げるため、がんの発生を抑える。しかし、アスピリンには胃粘膜から出血を起こすという深刻な副作用がしばしば発生するため、理想のがん予防薬にはなりえないのである。』

付記1:非ステロイド消炎鎮痛剤の問題について
非ステロイド消炎鎮痛剤は一般的には鎮痛薬やNSAIDs(non-steroidal antiinflammatory drugs)と呼ばれ、アスピリン、インドメタシン、ボルタレン、フェルビナク、イブプロフェン、ロキソニンなど多くが製品化され市販されています。本の中にも、非ステロイド消炎鎮痛剤の問題点を詳細に指摘されてる個所がありましたので、引用させて頂きます。

 『すべての鎮痛薬が燃やしのエイコの生産を妨げるという共通のしくみによって、痛み止めの効果を発揮するからである。しかしこれらの薬には、火消しのエイコの生産をも妨げるという弱点がある。火消しのエイコは、免疫系と病原体の戦いの場で組織が受けた損傷を修復するだけでなく、筋肉運動をしたときに筋細胞に発生した傷の修復もしているから、健康の維持には欠かすことができない。つまり、非ステロイド系抗炎症薬は敵味方の区別なく無差別に殺傷する愚かな爆弾なのである。また、これらの抗炎症薬を長期間飲み続けると、胃潰瘍や消化管の内層が機能しない腸管浸漏症候群を起こしたり、心臓の不調から死にいたることさえある。アメリカでは30種類以上の非ステロイド系抗炎症薬が流通し、毎年、7000万件も処方され、300億個が薬局で大衆薬として販売されている。「ニューイングランド医学雑誌」によれば、抗炎症薬の処方によって毎年、出血性潰瘍が7,500件、入院が103,000件、死亡が16,500件、発生しているという。抗炎症薬の推奨された使用法と服用量を守っていながら、1年間に死亡するアメリカ人は、エイズによる年間の死者とほぼ同数の16,500人に達している。抗炎症薬の服用は、慢性炎症を抑えるための最適の手段でないことは明白である。』
  
付記2:東洋医学の「熱」について
・経絡治療の6.に「寒熱」について記した項目があります。「熱」については現代医学的な視点として、「代謝異常」の可能性を考えるようにしていますが、今回、新たに「慢性炎症」という病態も東洋医学の「熱」を考える際に外せないのではないかと思い、ネット検索で調べてみました。
 すると、以下のようなサイトを見つけることができました。ここにはまさに代謝異常と慢性炎症との関係性が書かれています。このことから、東洋医学の「熱」の病態を考える場合には、代謝異常と慢性炎症という2つの病態にも注目し、患者さまの病状把握の精度を高めたいと思います。

“メタボリックシンドロームを引き起こす鍵因子を発見”
“メタボリックシンドロームを引き起こす鍵因子を発見”

上記をクリックすると、「メタボリックシンドロームを引き起こす鍵因子を発見」という記事があり、この中に、『これまでの研究により肥満の際の脂肪組織では慢性炎症が生じており、そのことが糖尿病や全身の代謝異常などの原因となることが明らかになってきていますが、脂肪組織に慢性炎症が生じる機構については不明な点が多く残されていました。』との記述があります。また、この記事内に出ている「慢性炎症」に対する解説は次のようなものです。

注4)くすぶったような非常に低いレベルの慢性炎症

『「組織リモデリング」の前段階として、Para-Inflammation、Smoldering Inflammationといった概念として2008年にNatureで特集され、注目されている病態です。』

Angptl2(アンジオポエチン様たんぱく質2)
Angptl2(アンジオポエチン様たんぱく質2)

鍵因子とは、左の図中央に書かれている、Angptl2(アンジオポエチン様たんぱく質2)という分泌型タンパク質で、現在7種発見されています。

中には、Angptl3やAngptl4のように脂質代謝やAGF/Angptl6のようにエネルギー代謝に作用するものも存在します。