4月末、業務委託の方の仕事でめまいの患者さまに施術を行いました。発症後3日目、まだ回転性めまいが止まらないということでした。耳鼻咽喉科、総合病院の内科を受診され、めまい止めと吐き気止めの薬を処方されたものの、めまいは改善されず、明確な病名も明らかになっていない状況でした。
気になる所見は2つです。1つは両眼の焦点が合わないということが3回程あったこと。もう1つは、めまい後に左肩と右肩甲骨付近に鈍痛が発生した。ということでした。
私の勉強不足によるのですが、「もしや耳ではなく、目が原因ということはないだろうか?」という疑問から、時々お世話になっているAskDoctoresという有償サイトに質問をしてみました。その結果、目が原因でめまいを起こすことはないということを確認できました。また、ご回答頂いた先生の中に(内科医)、「めまい外来を検討されると良いと思います」というご指摘がありました。
そこで、早速、さいたま市で検索してみると、岩槻区に目白大学耳科学研究所クリニックがあることを知りました。
『当院ではめまい診療のエキスパートが、チームを組んで診療にあたっております。最新のバランス機能検査機器や高度な診断技術により、めまいやふらつきの原因を的確に調べ、長引くめまいやふらつきの根本的な治療や緩和、予防に取り組んでいます。』
こちらのサイトでは、問診票がダウンロードできるのですが、その質問の中には、「焦点が合わない」、「首や肩の痛みがあった」という質問もありました。この問診票を見て、こちらのクリニックの存在を患者さまに情報提供できていればという思いが残りました。
なお、肝心の治療は30分ということもあり、後頚部と腰部(特に仙骨部)、そして耳周辺の“翳風”というツボに約20分間の置鍼をしましたが、残念ながら、その場で回転性めまいを止めることはできませんでした。その後、この患者さまから連絡が入ることはなかったため、改善されたのかどうかは分かっていません。
そして、今回の知識不足、情報不足を反省し、見つけたのが『めまいは自分で治せる』という本でした。この本は4章に分かれています。ブログで取り上げたのは「第1章 なぜ、めまいがリハビリで治せるのか?」と「第3章 病気別リハビリ&めまいを克服した体験手記」です。ポイントと思った箇所を要約し箇条書きにしています。
めまいで辛い思いをされている方には、「第2章 めまいのリハビリ実践編」と「第4章 めまいを起こさない生活術」、さらに第4章の後ろにある「めまい なんでもQ&A」に関心があるものと思いますが、ブログでは触れておりません。
著者:新井基洋
出版:マキノ出版
初版発行:2012年4月
目次は次の通りです。
はじめに
第1章 なぜ、めまいがリハビリで治せるのか?
「グルグル回る」「フワフワする」「体が揺れる」「立っていられない」
めまいが起こったときの対処法
めまいを治す医師の見きわめ方
めまいの検査は何をする?
めまいはなぜ起こるのか?
小脳はバランスをつかさどる「パイロット」
苦手なリハビリこそ積極的に行う
一時的にめまいが悪化しても大丈夫
第2章 めまいのリハビリ実践編
リハビリで8000人のめまいが改善した
効果的なリハビリのコツ
リハビリを行う際の注意点
【めまいに効く8つのリハビリ】
①「速い横」
②「ゆっくり横」
③「振り返る」
④「上下」
⑤「足踏み」
⑥「片足立ち」
⑦「ハーフターン」
⑧「寝返り」
症状別リハビリ索引
第3章 病気別リハビリ&めまいを克服した体験手記
めまいの原因がわかるフローチャート
良性発作性頭位めまい症
前庭神経炎
メニエール病
めまいを伴う突発性難聴
片頭痛性めまい
持続性平衡障害・加齢性平衡障害
ハント症候群
慢性中耳炎が原因のめまい
椎骨・脳底動脈循環不全症
脳梗塞・脳出血の治療後に残るめまい
心因性めまい・めまいをともなう「うつ」状態
第4章 めまいを起こさない生活術
めまいを起こしにくい体をつくる
①睡眠
②アルコール
③タバコ
④コーヒー
⑤食事
⑥自動車の運転
⑦外出
⑧入浴
⑨家事
⑩運動
⑪女性ホルモンの変化
コラム① めまいと骨密度の関係
「前兆」を知ってめまいを未然に防ぐ
①カゼなどの体調不良
②低気圧の接近
③過労・多忙
④精神的なダメージ
⑤その他の前兆
コラム② 「地震酔い」は気のせい?
めまい なんでもQ&A
おわりに
参考文献
新井先生が勤務されている病院のめまい平衡神経科のページをご紹介します。
『わたくしの所属する横浜市立みなと赤十字病院めまい平衡神経科には、北海道から沖縄まで、全国津々浦々のめまい患者さんが治療を受けにこられます。しかしさまざまな事情から、当院を受診されることが困難な患者さんも沢山いらっしゃいます。実際、わたくしの下にも、拙著をお読みになったり、当院のめまい体操を紹介するテレビ番組をご覧になったりして、日本中から連日多くのお問い合わせをいただきます。出来ることならば、すべてのみなさんに通院・入院加療を経験していただきたいのですが、それはなかなか難しいことです。そこで、通院・入院したいけれど出来ない患者さんたちのために、いくつかの拙著(めまいは寝てては治らない:中外医学社他)を書くことで、当院で行っているめまい体操を多くの患者さんに知っていただきたいのです。』
はじめに
薬物治療
●脳や内耳の血流を増やしてめまいを改善する薬。
●吐き気や嘔吐を抑える薬。
●内耳のむくみを軽減する薬。
第1章 なぜ、めまいがリハビリで治せるのか?
「グルグル回る」「フワフワする」「体が揺れる」「立っていられない」
●横浜市立みなと赤十字病院の救急外来の統計によると、交通事故やヤケドなどの外傷を除く15,563例のうち、約6%がめまいによるもので、2年間で884名だった。
●めまいの起こり方は、「回転性めまい」「浮動性めまい」「動揺性めまい」「立ちくらみ」の4つに分けられる。
●回転性めまい
・三半規管の障害で起こるのがほとんど。
・症状は数分間から数時間。
●浮動性めまい
・体がフワフワするなど。
・症状は回転性ほど激しくないが症状が長引く傾向がある。
・回転性めまいの慢性期、加齢、耳石の障害などが原因。
●動揺性めまい
・頭や体がグラグラ揺れている感じでまっすぐに歩けない。
・原因不明とされることが多いが、加齢、三半規管の機能低下、小脳の障害でみられる。
●立ちくらみ
・耳や脳の障害、低血圧、睡眠不足、疲労などが原因。
めまいが起こったときの対処法
●座れる場所、横になれる場所を移動し、ゆっくり深呼吸をして呼吸を整える(過呼吸[過換気症候群]にならないように注意する)。
●嘔吐の可能性を考え横向きが良い。
●原因が内耳の障害の場合は悪いほうの耳を上にする。
●同行者がいれば、「乗り物酔いの薬」を買ってきてもらい、それを飲んで様子をみる。
●嘔吐がひどくて薬が飲めないときは我慢せずに救急車を呼ぶ。
めまいを治す医師の見きわめ方
●めまいは疲労の蓄積、睡眠不足、カゼなどで体調をくずした時にも現れる。
●症状が長引いたり、悪化したり、くり返し起こる場合は専門医に相談する。
●基本は耳鼻咽喉科だが、最近は「めまい外来」「神経耳科」などもあり、より的確な治療が受けられる。
●めまい専門医の研究会である「日本めまい平衡学会」では、学会が認定した専門会員と、めまい相談医をホームページに掲載している。
【めまい相談医一覧】を調べたところ、さいたま市で相談医が在籍している病院は、岩槻区の「目白大学耳科学研究所クリニック」、西区の「おくクリニック」、南区の「たかまつ耳鼻咽喉科」の3つでした。
めまいの検査は何をする?
●必ず行う目の検査。眼球が無意識で動く「眼振」があればめまいを起こしていることがわかる。
●耳が原因の「末梢性めまい」か、脳による「中枢性めまい」かは、眼球の動きで診断する。
●末梢性めまいでは水平方向の眼振か、回旋が混合した眼振が見られる。
●中枢性めまいの垂直方向の眼振は脳の異常によるもので、CTなどの検査を行う必要がある。
●眼振の検査では「フレンツェル眼鏡」という特殊な眼鏡を使うのが一般的であるが、より精度の高い「赤外線CCDカメラ」を使った検査も徐々に普及してきている。
めまいはなぜ起こるのか?
●体のバランス(平衡機能)は、視覚(目)、深部感覚刺激(足の裏)、前庭器(耳)という3カ所から集まる「バランスに関する情報」を小脳が集約し、それを全身の中枢である大脳が統括することによって保たれている。
視覚は周囲の景色や動きを見ることで、体の位置や動きなどを感じ取り、深部感覚刺激は足の皮膚からの情報が脊髄を経て脳へ伝わり、同じく体の位置や動きなどを感じ取っている。これに加えて、なくてはならないのが前庭器の働きである。耳の奥の内耳にある前庭器では平衡機能を維持するために、最も重要な情報を感知している。
画像出展:「めまいは自分で治せる」
●内耳は聴覚をつかさどる「蝸牛」、平衡機能をつかさどる「三半規管」、「耳石器」の3つの器官から成り立っている。そして、三半規管と耳石器を合わせた部分が「前庭器」である。三半規管の中は内リンパ液(非常に粘性が高い特殊な細胞外液)で満たされており、頭が動くとリンパ液も動く。そのリンパ液の流れや速度、方向などを感覚細胞は認識し情報が電気刺激として前庭神経を伝わって脳へと送られていく。三半規管が頭や体の「動き・回転加速度」を感知するのに対し、耳石器は「傾き具合、直線加速度」を感知する。耳石器は2つあり、1つは水平方向、もう1つは上下(垂直)方向の動きや傾きを認識する。
画像出展:「めまいは自分で治せる」
●耳石器はわらび餅のような粘着性のある耳石膜に、小さな粒状の耳石が多数ついた状態になっている。頭を傾けると、耳石膜の上に耳石が働く。その刺激を耳石膜の下の感覚細胞が情報として脳に伝える。
画像出展:「めまいは自分で治せる」
●なにかの原因でどちらかの耳に障害が起こると、平衡機能が低下しバランスがくずれる。特に三半規管の機能に左右差が起こったときに、めまいが発現する。この左右差は薬や注射では根本的に治すことはできない。めまいにともなう諸症状の改善には薬物療法は必要だが、この左右差を改善しないとめまいは残る。この左右差を改善する方法は、リハビリにより小脳の働きを高めることである。
小脳はバランスをつかさどる「パイロット」
●めまいが徐々に軽減されていくのは体にもともと備わっている「中枢代償」という小脳の働きによる。これは小脳が左右差を軽減し、平衡機能を補おうとする作用である。
●体のバランスは耳だけでなく、目(視覚)や足の裏(深部感覚刺激)からの情報によっても大きな影響を受ける。これは耳の障害があっても情報取集部位の目と足の裏を鍛えることで、耳の障害をカバーすることができるということを意味する。
苦手なリハビリこそ積極的に行う
●フィギュアスケートの素晴らしい回転の演技は、練習によって獲得したもので、回転後の眼振を抑制できているからである。これは「RD(response decline)現象」といい、医学的には小脳が目の動きを止める指令を出し、眼振を抑制しているためと考えられている。これも「小脳の中枢代償」である。
●「めまいのリハビリ」とは、目と足の裏、そして耳(前庭器)を鍛えることで、「小脳の中枢代償作用」を最大限に生かし、めまいの改善と再発予防を目指すものであり、弱っている平衡機能を鍛えて高めるものである。
●リハビリは必ず医師の診断と治療を受け、急性期のめまいが治まってから開始する。
第3章はフローチャートに続き、めまいの原因となる各病気の説明が続きます。「体験談」自体は省略していますが、体験談の後に出てくる「新井先生のコメント」については一部ご紹介しています。
第3章 病気別リハビリ&めまいを克服した体験手記
めまいの原因がわかるフローチャート
1.良性発作性頭位めまい症
●めまいは「自発性」と「誘発性」に分けられる。前者のめまいは、椅子に座っているときや寝ているときなど、自分が動いていないときに生じるタイプである。後者は、寝返りを打ったり、急に起き上がったりしたときなど「ある動きに誘発されて」現れる。この自発性か誘発性かはめまいの原因となっている病気を確定するのに重要であり、受診時に医師に伝えるべきものである。
●誘発性のめまいの代表格が「良性発作性頭位めまい症」である。頭や体の位置を変えたり、ある特定の体勢を取ったときに激しいめまいが起こったり、めまいの程度が悪化したりする。めまいの発作は数十秒~数分で治まるのが普通。吐き気や嘔吐をともなうこともある。
●めまい発作とともに耳鳴りや難聴が現れたり、以前からあった耳鳴りや難聴が増悪したりすることはない。
●良性発作性頭位めまい症は、耳の奥にある耳石器にくっついている耳石がはがれて、三半規管の中に入り込むことで起こる。三半規管のリンパ液の中を本来なら存在しないはがれ落ちた耳石が移動することで、脳に異常な情報を伝えてしまうことでめまいが起きる。
●耳石がはがれる原因は、寝たきり、頭部打撲、交通事故、慢性中耳炎などの耳の病気、加齢などがかかわっているとされている。
●頭を動かすリハビリは、耳石が三半規管から出て、耳石器に戻って耳石膜に再びくっつくことを目的としている。一時的にめまいやふらつきが増悪するケースも多く見られ、1回のリハビリで元に戻すことは難しいが、軽いぶり返し程度であれば続ける。山を乗り越えることでめまいから解放される。
●【体験談1】に対する「新井先生のコメント」:『めまい発作が起こったときは、血圧が上がります。血糖値も上がります。体に異常が起こると、脳へ酸素や栄養を運ぶための血流を保とうとして、血圧や血糖値が上がるようになっているのです。つまり、菅原さんの場合も、急に血圧が上がったためめまいを起こしたのではなく、めまいが起こったことで血圧が上がったのです。原因と結果が正反対なので、降圧剤を飲んでもめまいは改善しません。』
●【体験談2】に対する「新井先生のコメント」:『本田さんの場合、耳石がはがれやすく、重い発作をくり返していました。通常、耳石がはがれるのは左右どちらかの場合が多いのですが、くり返すめまい発作の経過途中で、本田さんは両耳で耳石がはがれていることがわかりました。このように両耳の障害が原因でめまいをくり返す重篤な症状のかたは非常にまれで、良性発作性頭位めまい症の患者さんのうち、0.1%以下です。』
2.前庭神経炎
●前庭神経炎は、内耳から脳に情報を伝える前庭神経になんらかの原因で障害が起こり、突然、激しいめまいが現れる病気であり、激しい回転性のめまいが1週間くらい続く。この間、立ったり歩いたりすることはできず、「目を開けることもできない」という人もいる。吐き気や嘔吐も伴うため脳の病気と考え、救急搬送されるケースも多い。
●耳鳴りや難聴は発現せず、これがメニエール病との違いである。
●約1週間の激しいめまいの後、体を動かすとめまいやふらつきを感じる後遺症が残り、放置するとそれが数か月から数年間も続くケースも多い。
●炎症を示す「炎」という文字がついているが、前庭神経が炎症を起こしているわけではなく、「炎症のように激しい症状」ということで、この病名がつけられている。
●聴力検査、眼振検査などを行い、他の病気の疑いが消えたら、耳に水を注入して三半規管の機能を診る「カロリック検査」を行う。
『めまい・ふらつき・吐き気・頭痛・耳鳴り等の症状の情報サイト』
●【体験談】に対する「新井先生のコメント」:『前庭神経炎の症状は非常に強く、「大地震のようなめまい」と表現されるほどです。黒田さんが若いころくり返していた軽いめまいと、今回のめまいは、明らかに違います。前庭神経炎の場合は、立ったり歩いたりはもちろん、目を開けることもできなくなります。めまいを起こす病気の中でもきわめて症状が重いので、診察室に入ってきた患者さんは最初、私の顔を見て話すこともできません。』
画像出展:「めまいは自分で治せる」
3.メニエール病
●メニエール病は決して多い病気ではない。
●内耳に内リンパ液(非常に粘性の高い特殊な細胞外液)が異常に増え、「水ぶくれ(水腫)」の状態になって内耳の感覚器官に障害を起こす。これにより平衡機能と感覚に異常をきたす。
●特徴は耳鳴り、難聴、回転性の激しいめまい。生命に関わるようなことはないが、内臓や血管を調整する自律神経の機能が乱れるので、吐き気、嘔吐、顔面蒼白、冷や汗、頭重感など多くの症状が現れる。
●めまいの発作は数十分から数時間で治まるが、めまいと難聴の発作を何度もくり返すのが特徴である。発作をくり返すことで、聴力も平衡機能も低下しめまいやふらつきを起こしやすくなる。
●初回の発作から再発までの期間も数時間から数日後、数カ月後から数年後と、人によって大きく異なる。
●原因は不明。過剰なストレス、季節の変わり目や天候、気圧の変化にともなって発症することがある。また、寒冷前線が通過するときに、症状が悪化するというケースも多い。
●飲水が治療法の1つになっているのは、水をたくさん飲むと脳が「外から水がたくさん入ってきたから、ため込まなくても大丈夫」と判断し、抗利尿ホルモンの分泌が抑制され内耳の水腫が軽減されるためである。
●【体験談】に対する「新井先生のコメント」:『メニエール病の一般的な治療法としては、利尿薬の服用と、水を多めに飲むこと、そして生活習慣の改善です。働きすぎや睡眠不足、心身への過重なストレスが、メニエール病を誘発すると考えられるからです。そのため、投薬によって一時的に症状が改善しても、再発することがあります。
メニエール病のかたは、自分の生活を振り返って、働き方や生き方、考え方を少し緩やかにするといいでしょう。具体的には、仕事量や就労時間をへらし、睡眠時間や休日、休憩時間をしっかり取る、といったことです。働きざかりのかたには難しいかもしれませんが、自分の体を守るためです。ぜひ心がけてください。』
4.めまいを伴う突発性難聴
●突発性難聴はある日突然、片側の耳が聞こえにくくなる病気である。
●多くの場合、難聴だけでなく耳鳴りや耳が詰まった感じをともない、回転性のめまいが生じる。メニエール病の初期と症状が似ているが、突発性難聴は普通1回しか起こらない。ただし、めまいやふらつきの後遺症が残るケースは多く見られる。
●2/3の人に難聴が残るとされており、「耳の聞こえが突然悪くなった」というときは、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診すべきである。特に発病後3~4週放置すると聴力は戻らないまま固定されてしまう。
●原因は不明だが、ウィルス感染や内耳に血液を送る動脈の血流障害が考えられている。
画像出展:「めまいは自分で治せる」
5.片頭痛性めまい
●一般に片頭痛は、ストレスや性ホルモンの変動、セロトニンの欠乏、遺伝などが原因で起こることが多い病気である。
●片頭痛にめまいが伴うことは多くはない。また、片頭痛とめまいの関係は研究中の段階であるが、因果関係がある場合と、ない場合があるとされている。
●片頭痛性めまいは薬で改善するのは約6割、約4割は「片頭痛は改善したが、めまいは消えない」という状態が続く。このため薬だけでなく、めまいのリハビリにより平衡機能を鍛えることが重要になる。
6.持続性平衡障害・加齢性平衡障害
●この症状は診断が難しく、「年のせい」「気のせい」と言われてしまうことが多い。患者数は相当数にのぼり、原因がわからず家で寝たきりになっている人も少なくない。寝たきりになると、平衡機能を担う「耳」「目」「足の裏」が使われないため、どんどん弱っていく。これがめまいは寝ていても治らない理由である。
●【体験談】に対する「新井先生のコメント」:『五十嵐さんの場合、おそらく最初は、三半規管の障害によるめまいだったのだと考えられます。症状が長引き、安静にする時間も長くなったため平衡機能が衰えて、私が診察したときには、「持続性平衡障害」になっていました。
目と耳と足の裏からの有効な刺激で、小脳を鍛えるのが、めまいのリハビリです。弱っている部分を鍛えるのですから、最初はやはりつらいと思います。しかし、五十嵐さんの例を見えてもわかるように、めまいのリハビリは、短期間で効果を実感できる場合が少なくありません。ただし、入院中に平衡機能が回復してめまいが消えても、退院後にリハビリをやめてしまっては元の木阿弥です。五十嵐さんの場合、娘さんがいっしょにリハビリをやってくれているそうです。このように家族が協力することで、めまいの再発を防ぐことができます。』
7.ハント症候群
●正式には「ラムゼイ・ハント症候群」という。子どものころに水ぼうそう(水痘)にかかり、顔面神経に潜伏していた水痘ウィルスが再活性化し、顔面神経とその横に並ぶ内耳神経(聴覚と平衡の神経)にダメージを与えることで、めまい、耳鳴なり、難聴、顔面神経麻痺などが現れる病気である。
8.慢性中耳炎が原因のめまい
●慢性中耳炎に伴うめまいは、軽いものから激しい回転性めまいをくり返すものまで様々である。ただし、めまいによって耳鳴りや難聴が増悪することは多くない。めまいの原因は内耳の前庭器の働きに左右差が生じることで起こるのでリハビリは有効だが、まずは慢性中耳炎の治療を優先し原因を解決してからリハビリを行うようにする。
9.椎骨・脳底動脈循環不全
●首の後面を走る「椎骨動脈」とそれにつながる「脳底動脈」は小脳に血液を送っている。椎骨・脳底動脈循環不全とはこれらの動脈の血流が一時的に悪くなる病気で、めまいを起こすことがある。血流障害が起こる原因としては、動脈硬化や頸椎の変形などが挙げられる。
めまいとともに、手足のしびれ、嘔吐や吐き気、ときには物が二重に見えたり霧がかかったように見えたりする視覚障害をともなうことがある。めまいと同時にこうした症状が起こった場合、神経内科か脳神経外科、耳鼻咽喉科を受診するようにする。
10.脳梗塞・脳出血の治療後に残るめまい
●小脳は体のバランスを取る中枢のため、小脳で梗塞や出血が起こると急激なめまいや平衡機能の失調が生じる。また、脳出血や脳梗塞の治療後にめまいの後遺症で悩んでいる患者さまは多い。めまいのリハビリは有効だが、必ず主治医に確認しなければならない。
11.心因性めまい・めまいをともなう「うつ」状態
●精神的なことがきっかけで、めまいが起こることがまれにあるが、その多くはストレスが内耳の血流を障害してめまいを引き起こしている可能性がある。また、不安やうつ状態から家に引きこもり、運動量が減ることで平衡機能が低下して、ふらつきが起こることも考えられる。このように内耳の障害や平衡機能の低下が見られず、精神的なことだけが原因でめまいを発症する、真の心因性めまいは極めて少ない。(新井先生は『2人しか診ていません』と本に書いています)
以上が第3章で紹介されていた全ての病気ですが、ここにないもので気になるものがあります。それは「頸性めまい」です。“日経メディカルOnline”には『繰り返す難治性めまいでは「首」を疑え』という記事が掲載されています。
こちらの記事の閲覧には会員登録(無料)が必要となるため、冒頭に書かれている内容と表のみをご紹介します。
『頸部脊柱管狭窄症や頸椎ヘルニアなどの頸部疾患を持つ患者が長時間同じ姿勢を保持することで発症する「頸性めまい」をご存じだろうか。日常診療で遭遇するなかなか改善しないめまいの中に、「頸性めまい」が潜んでいる可能性がある。診断できれば頸部に負担を掛けない生活を心掛けたり、筋弛緩薬を投与したりすることで、めまい症状を改善できる。
「何度も再発する難治性めまいでは、首の疾患を疑った方がよい。頸部疾患を背景に発症する頸性めまいの可能性が高いからだ」――。こう指摘するのはたかはし脳外科皮フ科医院(新潟県新発田市)の高橋祥氏だ。頸性めまいとは、頸部以外にめまいの原因となる脳疾患や全身性疾患が認められない患者において、肩や頸部に負荷が掛かることで起こるめまいのことを指す。』
画像出展:「日経メディカルOnline」
新井先生が紹介されているめまいを伴う病気の6番目に「持続性平衡障害・加齢性平衡障害」があり、この病気の症状は診断が難しく、「年のせい」「気のせい」と言われてしまうことが多いとされています。また、9番目の「椎骨・脳底動脈循環不全」ではその原因として頸椎の変形が含まれています。これらの病気の中には頸の筋肉の問題が関係しているものもあるのではないかと思います。
新井先生は耳鼻咽喉科の先生なので筋肉との関係性に触れることはないのですが、鍼灸師としてめまいの施術を考える場合は、頸筋の状態に注目し痛みや硬結がある場合は、積極的に施術に入れるべきと思います。
首の筋肉
後頚部の筋肉は層になっており、多くの筋膜も存在しています。また、側頚部にある大きな胸鎖乳突筋の下には頚動脈と内頚静脈が走行しています。
画像出展:「トリガーポイントマニュアル」
ご参考
●”頚性めまいの重要性” 高橋 渉 日農医師65巻1号 2016.5 PDF10枚
●”頸性めまい” 田浦晶子、Cervical vertigo Equilibrium Res Vol.77(2) 2018 PDF資料11枚
●ブログ“頚筋症候群(頚筋性うつ)”
めまいの鍼治療
ポイントは以下の3つと考えます。
1.自律神経を調える。
2.耳周辺の血流を改善する。
3.深部感覚刺激(足底)が脳に届くように滞りがないようにする。
1.自律神経を調える
●後頚部の硬い部位に置鍼:百労、天元など
●仙骨部の硬い部位に置鍼:上髎、次髎、腰兪など
●後頭部―骨盤部の広い範囲を対象に置鍼:脊中、L2-L5など脊柱両側の硬い部位
※詳細はブログ“中高年女性の腰痛3”をご覧ください。
2.耳周辺の血流を改善する
ツボとり(取穴)の基本は触診で硬い部位などを見つけることですが、ここでは目安とする経穴を選択したいと思います。以下の2枚はいずれも『経絡マップ』から持ってきたものです。上は“経穴と動脈”、下は“経穴と静脈”です。これらの動静脈と耳の位置の両面から検討すると、“翳風”、“聴会”または“聴宮”、“完骨”が刺鍼したい候補にあげられます。
動脈
・椎骨動脈:翳風(手少陽三焦経)
・総頚動脈:聴会(手少陽三焦経)・聴宮(手太陽小腸経)、完骨(足少陽胆経)
補足:経脈で考えると“少陽経”でまとめることができます。また、骨盤部、腰背部とのつながりを考えると、これらの部位は足太陽膀胱経に属する経穴なので、耳の経穴を同じ“太陽経”の聴宮に取るという選択肢もあると思います。
画像出展:「経絡マップ」
静脈
・椎骨静脈/内頚静脈:翳風(手少陽三焦経)
・外頚静脈:聴会(手少陽三焦経)・聴宮(手太陽小腸経)
画像出展:「経絡マップ」
3.深部感覚刺激(足底)が脳に届くように滞りがないようにする
滞りが気になる箇所は、骨盤部と膝関節部です。骨盤部にある梨状筋という筋肉には“梨状筋症候群”という病名がついた疾患があります。また、15%は坐骨神経が梨状筋の下ではなく貫通しているという報告もあります(『トリガーポイントマニュアル 第7章 大殿筋』より)。
『股関節の動きのなかで特に複雑で、かつ微力なものに回旋(内外旋)運動があります。股関節を内旋すると痛む場合は外旋筋群が硬くなっており、その下にある坐骨神経が圧迫されている可能性があります。このような疾患を梨状筋症候群といいます。』
画像出展:「ZAMST」
このイラストと文章は「Therapist Circle」さまより拝借しました。
『背側の筋肉が主要姿勢筋と呼ばれる理由は、正常立位での重心線が身体のやや前方を通っているため、背側にある筋肉は全て持続的な筋緊張を保たなければならないからです。対して腹側にある筋肉は、持続的な緊張を必要とせず動揺する身体を調節する際に、断続的に収縮すれば立位を保つことができます。』
膝関節は立位では体重を支えると同時に頻繁に活動している部位です。背部の抗重力筋は特に主要姿勢筋とされ、姿勢保持の働きを担っています。
中央紫色の脛骨神経は近位では坐骨神経となり、遠位では足裏の内側足底神経と外側足底神経という運動を司る筋枝に加え、足底の触覚や痛覚などを司る皮枝にまで及びます。一方、脛骨神経の走行は下腿(ふくらはぎ)ではヒラメ筋の更に下、後脛骨筋に挟まれた深層に位置し、膝関節の背面でも腓腹筋と膝窩筋に挟まれています。これらの膝関節周辺の筋群は疲労し硬くなりやすく、血管や神経を圧迫する原因になる可能性があります。従いまして、これらの膝関節の筋肉も考慮すべき刺鍼ポイントと考えます。
以上のことから、骨盤部の梨状筋と膝関節部のヒラメ筋、後脛骨筋、腓腹筋、膝窩筋は押さえておきたい筋肉だと思います。