●運動と神経変性疾患
・ヒトのハンチング病の遺伝子を移植した若いマウスによる実験では、走行輪で運動(早歩きに相当)するマウスと走行輪のない実験環境で飼育されたマウスとを比較した結果、運動したマウスは人間の寿命に換算して約10年間、発症を遅らせることができた。この実験は神経変性疾患が「歩行」に影響されることを示した最初の実例と考えられる。
●ヘビと鳥のあいだを歩く
・「生きるために走る会/歩く会」は南アフリカの多くに支部を持つ組織で、この組織の援助のおかげでペッパーは自分の問題を克服することができた。プログラムは減量や血圧、コレステロール、インシュリン依存度の低下、さらに投薬からの脱却を促進する。インストラクターは正しく歩いているかどうかをチェックし、負傷や消耗につながる過剰な熱意を抑える役割を担っている。
-妻のシャーリーが減量と健康増進のためこの組織に入会していた。
-この組織のモットーは「節度」であった。つまり、ケガをしないこと。最初はゆっくり歩き、少しずつ歩く量を増やす。筋肉を休める時間を十分に取るというのが会社の方針だった。
-初心者は週に3回、ケガ防止のためのストレッチを10分間行った後、学校の運動場を歩いて10分間周回する。そして2週間ごとに5分ずつ歩行時間が延ばされる。
-4㎞歩けるようになると、速く歩く試みが許される。
-運動場ではなく路上を歩くことが許される。可能なら2週間経過するごとに1㎞ずつ距離を伸ばせる。歩行距離が8㎞に達したら、今度は時間を短縮する。歩いた後はクールダウンを行う。目標は1セッションに8㎞を歩くことである。
-1ヵ月に一度、メンバーは4㎞歩くのに要する時間を計測する。
・ペッパーの歩く姿勢が前かがみになっていることに気づいたインストラクターが、歩く姿勢の修正を始めた。それは肩を引いて姿勢をまっすぐに保つことを再習得するプロセスだった。この歩き方は平坦でない野原などでは難しかったが、ゆっくりと時間をかけたアプローチを1日置きに行い、休養日を間にとることで、所要時間を大幅に短縮できた。このことがペッパーの転機となった。何年にもわたり悪化していった状況のなかで、何らかの動作に関して少しでも改善が見られたのはこのときが初めてだった。
・運動は1日おきに1時間。目標は週に3回、脈拍を1分間に100以上、その状態を1時間保つ。注意すべきは自分自身の性急さであった。
・変化は非常にゆっくり起こった。そして、いくつかのパーキンソン病の症状が軽くなったり消えたりしていることに気づいた。その変化は周りの人も気づくものだった。休養日をはさみながら1日おきに運動することで、回復の可能性を感じられるようになった。また、ストレスにも注意した。
・ペッパーにとって重要だったことは、歩行という複雑な様態で自動化された行為をさまざまな部分に分割し、あらゆる筋肉の動き、収縮、体重の移動、手足の位置を細かく分析することだった。
・ペッパーはゆっくり歩くことによって、ほぼすべてのパーキンソン病患者に認められる典型的な問題を発見することができた。左足が体重を支えられるようになるまでに3ヵ月を要した。左足で体重を支えることに意識を集中すれば、もはやコントロールを失って倒れることはなかった。右足の膝は、かかとが着地するまでに伸ばせるようになった。これらを達成するには、極端に焦点が絞られた、ほとんど瞑想的とも言えるほどの集中力を必要とする。あたかも乳児が始めて歩行を学ぶときや、太極拳の入門者がより完全な動きを会得するために、スローモーションのようにゆっくりとした歩行を学ぶときと同じようである。ペッパーは自分の足取り以外にもいくつか発見した。それは歩幅、腕振り、上体の前かがみ、頭の傾きなどだがこれらの変化を完全に内面化するには、1年の実践を必要とした。
・ペッパーは一歩一歩に集中していれば、普通に歩けるようになった。今日でも細かい動作の観察をしている。後方になった左足の上げ方、膝の曲げ方、つま先の使い方に気をつけながら、足が十分に体重を支え、右足が地面から離れてまっすぐに伸び、右足のかかとを地面につけ、そのあいだに反対側の腕が振られるよう、そして体全体が前かがみにならないように注意している。
●意識的コントロール
・ペッパーと一緒に歩いていると、彼がこれらの動作のすべてを頭の中に入れているというのは信じがたい。しかし、それは確かに可能であるとペッパーは明言する。
・ペッパーは同時に二つのことができる。つまり、健常者が無意識に行なっていたいる動作を意識的にコントロールしつつ、会話のための「心的空間」を残すことができる。しかし、彼の興味を惹くことや狼狽させるようなこと、あるいは会話の内容が著しく深まるといったことが起きると、足を引き摺り始める。これによってペッパーがパーキンソン病患者であることに気づくことができる。
・ペッパーは歩行がうまくできるようになると、次には震えの意識的コントロールに挑んだ。パーキンソン病に見られる「安静時振戦」は意識的に身体の該当部分を動かしていないときに起こる。また、意識的に何かに手を伸ばそうとする際には「動作時振戦」を引き起こすことがある。メガネを持つと手が震えていたが、メガネの持ち方をあれこれと変えているうちに、強く握っていれば震えを抑えられることに気づいた。このことにより、ペッパーはパーキンソン病患者が失ったものは、あらゆる動作を結び付けて自動化するという、無意識に機能する能力であると理解した。
・ペッパーが考案したテクニックは、「通常は無意識に制御されている動作のコントロールを、脳の別の領域を用いる」というものだった。
●意識を動員するテクニックの科学的根拠
・意識的歩行が機能する理由は、黒質と大脳基底核の解剖学的構造と機能に基づいて論理的に説明できる。大脳基底核は脳の奥深くに位置するニューロンのかたまりで、脳画像で確認すると、一連の複雑な動作や思考を結合する学習過程で活性化する。また、様々な研究によって大脳基底核は日常生活における複雑な行動の選択を実行に移すための自動化されたプログラムの形成に寄与し、さらにはそれらの複雑な行動の選択と始動を支援することが分かっている。パーキンソン病は黒質を含む大脳基底核がうまく機能しない病気である。従って、大脳基底核に頼ることはできない。これは例えばピアノの練習と同様、心的努力の集中を必要とする。ペッパーの意識的歩行とは、子どもが初めて歩行を学ぶときのように、前頭前野や皮質下の神経回路を活性化させ、意識的注意を払いながら一つ一つの動作を学んでいくというものである。ペッパーの動作の指令は大脳基底核を迂回しているかのようである。
・パーキンソン病患者が抱える最大の困難の一つは、新たな動作を開始することである。何かの障害物等により一度立ち止まると、再び歩き出すことが困難な場合がある。これは自動的な行動の流れを開始する役割は黒質が担っているためである。ただし、外部からの刺激があれば簡単に動作を始めることができる。パーキンソン病患者は話かけない限り黙り、動かさなければ動かないように見える。また、彼らは自分から会話を始められないので、相手がまず会話の口火を切らなければならない。
“レーザー歩行支援”
3分5秒の動画です。床に照らしたレーザーポインターの光を視覚情報として取り込むことで脳を活性化させているとのことです。
・パーキンソン病のあらゆる症候の核心的な問題は受動性であり、それらを治療する主要な手段は活動性である。そして、受動性の本質は、刺激に反応する能力ではなく、自己刺激と動作の開始に対する独特の困難にある。
・ペッパーは人の助けを借りずに動作を始められる。これは問題の黒質や大脳基底核の機能を脳の健康な部位に引き継がせて、開始する方法を体得しているからである。しかも、動作の開始だけでなく、十分な歩行によって常に成長因子に刺激を与えることで、動作を維持することもできる。これは脳の神経回路を改善する方法である。
●他の患者を援助する
・ペッパーが行っている持続的な心のコントロールは他の患者にもできるのだろうか。ペッパーの歩行は異常な集中力で登っていくロッククライマーのようである。あるいは不慣れな太極拳の関節の動き、呼吸、筋肉の収縮に向ける入門者のようである。
・ペッパーは神経可塑性に関する情報を他のパーキンソン病患者に広げ、地元のパーキンソン病患者支援グループに入り、やがてリーダーになった。
・パーキンソン病の治療における投薬の強調は、受け身になりがちな患者を一層、受動的な方向に向かわせるように思う。患者はより効果の高い新薬を待っている。ペッパーは投薬の有効性を認識しつつも、薬への依存が当たり前のようになっている患者にとって、それは問題だと考えていた。
・73歳の女性、ウィルナ・ジェフリーはペッパーと同じように意識的歩行を実践していた。これは、彼女は一人暮らしで支援をうけるのが困難だったためである。ウィルナはペッパーから三度のセッション受け、パーキンソン病に対する態度が変わり、より建設的に考えるようになった。
●歩行の科学的基盤
・強化環境のもとに置かれた動物の神経可塑性的な変化は相次いだ。その始まりは、カナダの心理学者ドナルド・ヘップがラットを檻から出して自宅の居間で飼育し始めた時だった。居間で飼育したラットは檻の中のラットより、問題解決テストが好成績だった。また、脳に多くの神経可塑性的変化が見られ、多量の神経伝達物質が産生され、脳の重量と体積が増大していた。走行輪で1カ月間、早歩きを続けたマウスは、海馬のニューロンは倍になった。
・1982年、MPTPおよび6-OHDAと呼ばれる二つの化学物質が、パーキンソン病に似た疾病を人間に引き起こすことが発見された。MPTPとは黒質のドーパミン作動性ニューロンを破壊する神経毒であり、パーキンソン病と同じダメージをもたらす。MPTPを与えられたマウスは、恒久的にパーキンソン病と同じ状態に陥ることがわかった。現在では、このようなマウスはパーキンソン病の「マウスモデル」として用いられ、新しい薬品や治療方法の効果や安全性をテストする目的で飼育されている。
・6-OHDAに関して言えば、この化学物質をラットの脳に注入すると、同様にドーパミンの喪失と、パーキンソン病に似た症状をきたす。その後の研究で、6-OHDAはパーキンソン病患者にも見出されている。
・今日では多くの人々が、1日中コンピュータの前で座りっぱなしの生活を送っている。座りがちの生活が心臓病だけでなく、ガン、糖尿病、神経変性疾患を導く重要な危険因子であることは、様々な研究によって示されている。万能薬が存在するなら、それは歩行である。
●「不使用の学習」
・脳卒中の発症は二つの大きな問題を引き起こす。一つは機能解離と呼ばれている徹底的なショック状態である。この原因はニューロンが死んだあとに特定の細胞から化学物質が流出し、他の細胞にダメージを与え激しい炎症を引き起こし、死んだ細胞の周囲で血流の断絶が生じるからである。これらの現象は卒中が発生した場所のみならず、脳全体に機能不全を引き起こす。さらには、卒中によって損傷した直後、脳は「エネルギー危機」に陥る。これは損傷に対処するために大量のグルコースを消費しなければならないからである(健康な脳であっても脳は膨大なエネルギーを必要とする。脳は身体全体の重量の2%にすぎないが、20%のエネルギーを消費する)。機能解離はおよそ6週間続き、損傷した脳はその間、さらなる危害に対処するためのエネルギーが枯渇することでさらに脆弱になる。
・ドーパミンはパーキンソン病に関連する少なくとも三つの特徴をもつ。第1に動こうとする動機を高める。第2にその動作を促進して迅速に行えるようにする。第3にその動作に関与する神経回路を神経可塑性的に強化し、次回はそれをより楽に行えるようにする。しかし動機がなければ動作は起こり得ない。
・コロンビア大学運動実行研究室のピエトロ・マッツォーニは、これから動こうとするとき、脳はその動作によって得られると期待される報酬の程度と比較して、努力がどの程度必要とされるのかをまず評価する。通常、この「見積」機能を実行するにはドーパミン系が必要になる。ドーパミンレベルが低いときに動くと、その人は報酬による快を感じない。
・パーキンソン病患者が動作を実行する速度は、期待される報酬の程度と動作に必要なエネルギーの比較評価に部分的に基づく。
●認知症を遅らせる
・パーキンソン病の症状を退かせハンチントン病の発症を遅らせることができるのであれば、アルツハイマー病にも歩行は有効なのだろうか?マーク・P・マットソン博士(米国立老化研究所の神経科学研究所主任)は、パーキンソン病で異常を引き起こす細胞プロセスの多くが、アルツハイマー病においても別の脳領域で生じることを示した。パーキンソン病では黒質が最初に機能不全をきたす。一方、アルツハイマー病においては、神経変性は(短期記憶を長期記憶に変換する)海馬で始まり、海馬は縮小し始め、短期記憶の能力が失われる。さらに脳は可塑性をニューロン間の結合を形成できなくなり、ニューロンの多くは死滅する。2013年、歩行とアルツハイマー病に関する回答が得られた。歩行は認知症のリスクを60%も低下させるものだった。この研究は、イギリスのカーディフ大学、コクラン・プライマリ・ケア公衆衛生研究所のピーター・エルウッド博士によって行われ、2013年12月に発表された。彼らは30年にわたり、ウェールズのケアフィリに住む45歳から59歳の男性2,235人を追跡し、5つの活動が彼らの健康状態に影響を及ぼすか否か、また、認知能力の低下、認知症、心臓病、ガンの発症、早期の死を引き起こすか否かについて調査を行った。
以下にあげる項目の4つまたは5つを実践した被験者は、認知(心的)能力の低下、認知症(アルツハイマー病を含む)のリスクが60%低下した。
①運動(活発な運動、もしくは1日に少なくとも3.2㎞の歩行、もしくは1日に16㎞の自転車走行)。運動は全般的な認知能力の低下と認知症のリスクを減らすもっとも強力な要因である。
②健康的なダイエット(1日に少なくとも3回から4回、果物と野菜を摂取する)。
③正常な体重(BMI18~25の維持)
④アルコール飲料の摂取を抑える(アルコールはときに神経毒として機能する)。
⑤禁煙(これも毒素回避の一つ)。
これら5つの活動のすべてが、ニューロンとグリア細胞の一般的な健康を増進する。
第3章 神経可塑的治癒の四段階
いかに、そしてなぜ有効に作用するのか
●ノイズに満ちた脳と脳の律動異常
・『毒素、卒中、感染、放射線治療、打撲、神経変性疾患など何が原因であろうと、脳が損傷すると一部のニューロンは死んで、信号を送らなくなる。しかしなかにはダメージを受けても、「黙らない」ニューロンもある。生きた脳組織は、その本性として興奮しやすい。神経回路が「オフ」になっているときでさえ、「オン」になり活性化された状態のときより発火率は低いながらも、ある程度は電気信号を送り続ける。この見方に従えば、脳は心臓にたとえられる。心臓は休息時でも停止せず、安静時の心拍数へと移行する。ところが、心臓の電気系統にダメージを受けると心拍数を調整する能力を失って、種々の異常な信号を送り始める。身体のペースメーカーの速度が異常に遅くなったり、危険なほど速くなったりするのだ。あるいは、不整脈や律動異常などの混乱した不規則な鼓動を生むかもしれない。
脳においては、損なわれたニューロンをシャットダウンしない限り、これらの不規則な信号は結合しているすべてのネットワークに影響を及ぼし、それらの機能を「攪乱」する。現在では、脳の多くの障害において、ニューロンが異常な速度で発火することがわかっている。この問題は、てんかん、アルツハイマー病、パーキンソン病、種々の睡眠障害、脳損傷などを生じるもので、無数の信号が同期しなくなるためにノイズに満ちた脳が形成されてしまう。高齢者や学習障害を持つ子どもの脳にも、あるいはニューロンが明確な信号を発する能力を失うと生じる感覚障害においても、類似の現象が見られる。病んだニューロンが健全なニューロンに不規則な信号を送り、その機能を損なうと、健全なニューロンは休眠状態に陥る可能性がある。
●治癒の諸段階
・脳の神経可塑的な能力によりニューロン間の結合を変化させ、その「配線」を変える。以下は4つの段階である。
①神経刺激
-脳への介入には何らかのエネルギーを用いて神経を刺激する。光、音、電気、振動、動作、思考(特定のネットワークを興奮させるもの)は神経刺激となる。
-神経刺激は損傷した脳の眠り込んだ神経回路を再生し、治療プロセスの第二フェーズへと導く。
-第二フェーズでは再生されて能力が向上したノイズに満ちた脳が、再び自身を調節、統制して恒常性(ホメオスタシス)を達成できるようにする。
-思考によって脳のネットワークは「オン」と「オフ」になる。思考によって適切な神経回路がオンになれば、それは発火し、そこから血液がその神経回路に流入してエネルギーを補給する(このプロセスは脳スキャンによって観察できる)。
-脳に新たな神経回路を構築するペッパーの意識的歩行は、思考を用いる内的な神経刺激の一例である。
-神経刺激は新たな神経回路の構築の準備、および既存の神経回路における「不使用の学習」の克服にも効果がある。
②神経調節
-神経調節は脳が自身の治療に寄与するもう一つの内的な方法である。この働きは神経ネットワークにおける興奮と抑制のバランスを迅速に回復し、ノイズに満ちた脳を鎮める。
-神経調節は敏感や無感覚のバランスをとる。
-神経刺激は神経調節を引起こし、一般に脳の自己調節を改善する。
-神経調節の機能には皮下質の二つの脳システムに働きかけることで、脳の全体的な覚醒度を再設定する。一つは網様体賦活系(RAS)のリセットで、このシステムは意識レベルと全体的な覚醒レベルの調節に関与する。RASは脳幹に位置し、皮質の最上位の部位に向かって広がる。そしてその他の部位を「増強」し、睡眠・覚醒サイクルを調節する。
-RASのリセットは脳へのエネルギー供給の回復と、それによる治癒を導く際の鍵になる。
-神経調節の機能には皮下質の二つの脳システムに働きかける二つ目の方法は、自律神経系への働きかけである。ヒトは進化の過程で危機対応のため無意識かつ自動的に反応できる神経系、自律神経系を有するようになった。
-闘争/逃走反応を示す交感神経系は非常時の生存のためにあり、エネルギーの放出と代謝活動を活性化させる。その一方で、成長と治癒のプロセスは抑制される。また、交感神経系が優位な状態では治癒や学習は後回しになるため、脳の変化は起こりにくい。
-交感神経系とシーソーのような役割をもつ神経系が副交感神経系である。副交感神経系は休息/消化/回復を担う。落ち着いた状態に保たれ、ゆっくり考えたり反省したりすることができる。
-副交感神経系が活性化すると、治癒のために不可欠な成長、エネルギーの保存、睡眠を助長するいくつかの化学反応が引き起こされる。また、細胞内のエネルギー源とミトコンドリアを再充電し活性化させる。
-副交感神経系を活性化することはノイズに満ちた脳を鎮める方法になると考えられる。
③神経リラクゼーション
-脳障害をもつ人の中には疲れているにも関わらずよく眠れない人が多いがこれは深刻な問題である。グリア細胞は睡眠中に、老廃物と蓄積された毒素(認知症によって形成されたタンパク質を含む)を、脳脊髄液を通じて放出する特殊な経路を開く。このシステムは睡眠中に10倍活発に働く。つまり睡眠は脳を守るために極めて重要であるといえる。
④神経差異化と学習
-最終フェーズでは神経回路が自己調節の能力を取り戻す。ノイズに満ちた脳は調整され「静かになる」。患者は注意に集中できるようになり、学習の準備が整う。
・①②③④の4つのすべてのフェーズが組み合わさることによって最適な量の神経可塑的変化が得られる。
・特に脳に損傷を負った人のほとんどは、これらの段階が必要となるが、本書で取り上げる問題の多くは脳の損傷に起因するわけではなく、患者はそもそも一度も発達したことのない神経回路を構築していかかなければならない。