脳の治癒力4

著者:ノーマン・ドイジ

訳者:高橋 洋

初版発行:2016年7月

出版:(株)紀伊國屋書店

 損傷を受けた脳は、いかに自己回復するのか

東洋経済オンラインに本書の紹介が出ていました。

目次は“脳の治癒力1”を参照ください。

第4章 光で脳を再配線する

光を用いて休眠中の神経回路を目覚めさせる

小さな世界

・光の性質とは何だろうか。光線療法の治療への適用は、すでに確立されたもの(新生児黄疸、乾癬など)から、最近の流行(季節性情動障害への適用など)に至るまで広範囲にわたる。

光は私たちが気づかぬうちに身体に入ってくる

自然光でも脳の奥深くまで入ってくる。皮膚や頭蓋骨は光にとって絶対的な障壁にならない。太陽光のエネルギーは皮膚を通過して血液に影響を及ぼす。

・『医師は未熟児の救命には長けるようになったが、その代わり新生児黄疸が大きな問題になった。イギリスのエセックス州では、南側に面して日光が降り注ぐ中庭を持つ、第二次世界大戦の元戦時病院で、黄疸を抱えた新生児の治療が行われていた。子犬の飼育が得意な修道女のJ・ウィードがその任にあたっていた。彼女はよく、とりわけ繊細な新生児を保育器から出し、日光が降り注ぐ中庭に乳母車で運んだ。それを見た他のスタッフは不安を感じたのだが、その新生児たちの状態は改善し始めた。ある日彼女は、新生児の一人を裸にして、おずおずと担当医に見せた。日光にさらされた腹部はもはや黄色くなかったのだ。

黄疸にかかった新生児の血液サンプルが自然光のあたる窓際に置き忘れられるというできごとが起こるまで、彼女の言葉をまじめに受け取る者は誰もいなかった。回収された血液サンプルは正常だった。医師たちは何かの間違いであろうと考えたが、R・H・ドップス医師とR・J・クレーマー医師はさらに調査を進め、サンプル中の過剰なビリルビンがいつのまにか分解、つまり代謝され、血中のビリルビン濃度が正常なレベルを示していることを発見した。日光を浴びた新生児の黄疸が治ったのも、このためではないだろうか?

さらなる調査によって、皮膚と血管を通して、血液、およびおそらくは肝臓に達した光の青色の波長が、この驚嘆すべき治療効果を発揮したことが判明する。かくして光を用いた黄疸の治療が主流を占めるようになった。修道女ウォードによる偶然の発見は、私たち人間がそれまで考えられていたほど不透明ではないことを証明したのである。』

・現代の看護術の創始者であるフローレンス・ナイチンゲールは日光には治癒効果があると見抜いていたが、科学的な説明ができなかったため、病院の設計で自然光が重要視されることはなくなっていった。

1984年、アメリカ国立衛生研究所のノーマン・ローゼンタール博士は、太陽光への暴露によってある種の抑うつを治療できることを示した。

・人間は視覚を光と結びつけて考える傾向があるが、人間と光の関係はもっと根源的である。それは植物に限った話ではない。目をもたない単細胞生物は光に反応してエネルギーを供給する分子を外膜上に持つ。

好塩菌はオレンジ光を取り込み、感光性の分子がそれをエネルギーに変換する。感光性分子がオレンジ光を吸収すると、好塩菌はさらなる光のエネルギーを求めて光源に向かって泳いでいく。また、紫外線や緑色光を嫌う。好塩菌への影響が光の波長によって異なるという事実は、光の周波数がエネルギーのみならず、さまざまな種類の情報を伝達することを意味する。

色に対する極端な敏感さは、私たちの身体を構成する個々の細胞やタンパク質の内部にも存在する。

ビタミンCの発見によってノーベル生理学・医学賞を受賞したアルベルト・セント=ジェルジは、身体内で電子がある分子から別の分子に移ると(電荷移動と呼ばれる)、分子が色を変える、言い換えると、放射する光のタイプを変える場合があることを発見した。このように人間と光の遭遇は、皮膚に限られるものではない。

講演と偶然の出会い

・低強度レーザー療法は3000件を超える科学文献にその基礎を置き、200件以上の臨床試験で肯定的な結果が得られている。

こちらはPDF4枚の資料です(2009年12月)。

『結び:レーザー医学は、従来は不可能であった診断や治療を可能にするという点で意義がある。今後、レーザー技術の進歩とその医学への応用により、医学の研究や医療の

分野のみならず。医療経済の分野にも革命が起こる可能

性がある。』

レーザー光とはNPO法人日本臨床医療レーザー協会

 

レーザーはいかに生体組織を癒すのか

レーザー光はATP生産の引き金になる。したがって、軟骨細胞、骨細胞、結合組織(線維芽細胞)などの健康な新細胞の成長や修復を開始し、促進することができる。

レーザーは波長をわずかに変えることで、酸素消費の増大、血液循環の改善、新たな血管の成長の促進、組織への酸素や栄養の供給の増大をもたらすことができる。

・日光のエネルギーを細胞が利用できるエネルギー形態に変換するシトクロムは、レーザーがさまざまな症状を治癒する理由を説明する。

・光子のほとんどは細胞内のミトコンドリアに吸収される。薄い皮膜に覆われたミトコンドリアには、光感受性のシトクロムが詰まっており、日光の光子は皮膜を通過してシトクロムに接触すると吸収され、細胞内にエネルギーを蓄える分子の生成を促す。

・血管外科医のフレッド・カーンはシトクロム分子まで光を通すのに四つの手法を用いる。

『まず、封筒大の柔らかいプラスチック製の帯の上に、いくつかの列に並べられた、180個の発光ダイオード(LED)によって発せられる赤色光を用いる。臨床医は、通常およそ25分間、患者の体表面を赤色光で覆う。赤色光は1~2センチメートルほど身体を貫通する。この方法は、より深い位置にある組織の治癒を準備し、血液循環の改善を支援するために、つねに最初に用いられる。次にカーンは、およそ25分間、赤外線LEDの帯を使う。この光は、さらに5センチメートルくらい深く身体を貫通して、治癒効果を発揮する。LEDの光はレーザーに似た特性を持つが、レーザー光ではない。したがって、じかに見ても害はない。それからカーンは純粋なレーザー光を用いる。その際、まず赤色光レーザーのプローブを、そして赤外線レーザーのプローブを使う。レーザープローブはLEDよりもはるかに強力で、焦点を絞った光線を身体の奥深くまで貫通させることができる。レーザープローブを適用するまでには、表層の組織はすでに、赤色および赤外線LEDから発せられた光子で飽和しており、レーザーは組織の内部に光子のカスケードを形成し、身体内部22センチメートルの深さまで届く。レーザープローブはさまざまな箇所に短時間ずつ適用され、合わせておよそ7分間用いる。LEDとは異なり、レーザープローブの光をじかに見るのは危険なため、患者や医師は、使用中特殊なメガネをかける。光の「一服」のエネルギーは、光源が発する光子の量、および波長、すなわち光の色に依存する。アインシュタインが示したように、光の色は含まれるエネルギー量を表す基準となる。

レーザー光を用いれば、免疫系の必要な箇所に限定して、有益な炎症を引き起こすことができる。疾病により発生した炎症が停滞することで炎症は「慢性化」する。この場合、該当箇所にレーザー光を当て、行き詰まったプロセスの障害を取り除いて通常の消炎プロセスを発動させることにより、炎症、腫れ、痛みを減退させることができる。

心臓病、うつ病、ガン、アルツハイマー病、自己免疫疾患(たとえば関節リウマチ)などの現代病は、一つには身体の免疫系が慢性的な炎症を過剰に引き起こすことで発症する。

慢性炎症は免疫系が必要以上に長く機能し、場合によっては自己の身体組織を外的と見なして攻撃し始める。

慢性炎症の原因は、食物や身体に蓄積された種々の有害化学物質を含め多々ある。慢性炎症を抱えた身体は、痛みやさらなる炎症をもたらす炎症性サイトカインを生む。

・レーザー光は抗炎症性サイトカインを増大させて過剰な炎症に対抗し、炎症を鎮める。

・抗炎症サイトカインは、慢性炎症に寄与する「好中球」細胞を減らし、外敵や損なわれた細胞を除去する働きをもつ「マクロファージ」と呼ばれる免疫系の細胞を増やす。

レーザーは酸素によって組織に引き起こされたストレスを軽減する。身体は常時酸素を消費しており、非常に活動的で他の分子と作用し合うフリーラジカルと呼ばれる分子を生む。フリーラジカルが過剰になると、細胞が損なわれて、変性疾患が引き起こされる場合がある。

レーザーは慢性炎症の細胞や、血液や酸素の供給が低下した細胞など、機能のはたらきが困難になって多くのエネルギーを必要としている細胞に対し、優先的に影響を及ぼすという機能がある。つまり、レーザーはもっとも必要とされる箇所に効果を発揮する。

・治癒には新たな細胞を作り出す必要がある。細胞の再生はDNAの自己複製から始まる。レーザー光は細胞内(およびRNA)の合成を活性化する。

・レーザーは脳に対しいかに影響を及ぼすのか。日光はセロトニンを分泌させる。一方、レーザー光はセロトニンに加え、痛みを和らげるエンドルフィンや損なわれた脳が失われた心的能力を再学習する際に役立つアセチルコリンなどの重要な脳内化学物質の分泌を促す。

・『カーンとスタッフたちは、20年におよぶ治療の実践を通じて、ほぼ100万件に達するレーザー治療の効果を観察し、どのタイプの症状や患者にどのプロトコルがもっとも有効かについての知識を蓄積してきた。カーンは現在でも、クリニックにやって来る患者の95パーセントを自分で診て、経過観察を行っている。患者の皮膚の色、年齢、脂肪や筋肉の量はすべて、吸収される光の量に影響を及ぼす。患者の反応に従って、療法家は光の周波数、波形、エネルギー量(一定の時間、単位面積あたりの組織を通過する光子の数)を調整する。マイケル・ハンブリンが指摘するように、「どんな治療にも、最適な光量がある。それより多くても少なくても、治療効果は得られないであろう。しかしときに、「量が少ないほうが、多い場合より効果がある」ことが見出されている。』

レーザーは脳を癒す

・レーザーを使ったユニークな治療法には、オンタリオ州で製造された低強度鼻腔内レーザーを用いて、鼻の内部(血管が表面にも脳にも近い)に光を通し、ひどい不眠症をただちに治した例がある。

・『私はキムとカーンとともに、脳そのものを対象に治療が始められたわけではないのに脳の機能を回復したという、注目すべき現象を何度も見てきた。いくつか例をあげよう。私が会った高齢の男性アラン・ハンナフォードは、首の重度の骨関節炎のために治療を受けた。彼はまた、数年前に視覚皮質に卒中を起して視野の一部が破壊されたために、目が見えにくくなっていた。もちろん彼の首は治療によってよくなったが、驚いたことに、それと同時に視野も拡大した。というのも、首に向けられたレーザーの光が、脳の後方に位置する視覚皮質付近に当たったからだ。以降も、アランの改善された視力は維持されている。』

※ご参考

1)レーザー療法で痛みを緩和する(高崎健康福祉大学)

2)レーザー治療について(大城クリニック)

3)緑内障レーザー:選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)(東京逓信病院)

第7章 脳をリセットする装置

神経調節を導いて症状を逆転させる

Ⅰ.壁に立てかけた杖

奇妙な装置

・『ウィスコンシン大学の研究室を訪れたロンは、古い建物の内部にある、実験装置をいくつか備えた小さな部屋に入った。建物の入り口のすぐ隣にはトラックの搬出口があり、廊下は改築中だった。ある患者が言うように、「科学の奇跡が起こる場所にはとても見えない」雰囲気だった。ロンは「その装置が効くのかどうかはわからないが、どのみち失うものは何もない」と思っていた。ウィスコンシン大学の研究チームは病歴について質問し、歩行と平衡感覚を検査したあと、ロンを音声調査部門に連れていき、彼の声を調査した。彼の発する声はひどく割れていて理解不可能であり、モニター上では小さなドットとして表示された。基本的な検査が終わると、彼らはうわさに聞いていた装置を取り出した。

その装置はシャツのポケットに入るくらい小さく、紐がついていて、ペンダントのように首にかけている研究者もいた。口に含んで舌に乗せる部分は、平らなチューインガムのように見える。平坦な部分の下側には、144個の電極が装着されている。装置の下側全体に、流動する刺激のパターンを生成するこれらの電極は、できるだけ多くの舌の感覚ニューロンを活性化できるよう調整された周波数によって、三組の電気パルスを発する。電極は、マッチ箱大の電源ボックスに接続されている。電源ボックスは口の外に置かれ、いくつかのスイッチとランプがついている。ユーリ、ミッチ、カートは、この装置をPoNSと呼ぶ。PoNSとは、「ポータブル神経調整刺激器」の略だが(神経可塑的な脳を刺激し、ニューロンの発火の状態を矯正するのでそう呼ばれる)、この装置の主要な治療対象の一つである脳幹の組織、橋(pon)の名称にもちなんでいる。彼らはロンに、できるだけまっすぐ立って、装置を口に含むよう指示した。装置は、穏やかな信号の波によって、痛みを引き起こさずに舌とその感覚受容器を刺激する。刺激はちくちくした感触を与えるが、ときにはかろうじて気づく程度のこともある。その場合、チームメンバーはダイヤルを調整して出力を上げた。しばらく経つと、彼らはロンに目を閉じるように促した。20分のセッションを2回行うと、ロンはハミングで歌えるようになり、4回のセッションを経ると再び歌えるようになった。その週の終わりには、「オールド・マン・リバー」を大声で歌っていた。

もっとも注目すべきことは、ほぼ30年間にわたって症状が着実に悪化していったあとだというのに、驚くべき速さでロンの状態が改善したことだ。現在でも多発性硬化症を患っている事実に変わりはないが、彼の脳の神経回路は、以前よりもはるかに良好に機能している。彼は二週間、月曜日から金曜日まで研究室に滞在し、休憩をあいだにはさみながら装置を口に含んで試した。最初の週には、一日に研究室で4回、家で2回のセッションを実施した。電子機器による音声テストでは、着実な音の流れが示され、大幅な改善が見られた。また、多発性硬化症の他の症状も改善し始めた。最後に研究室をあとにするときには、当初は杖をついてよろめきながらやってきた男が、マディソンチームの前でタップダンスを踊って見せたのである。』

PoNSが米国食品医薬品局 (FDA)によって販売承認されました。という記事です。こちらは“Cambridge Consultant"さまのサイトからです。

 PoNSのメカニズムが動画で確認できます。

こちらは、“NEURO GROUPE"さまのサイトからです。

 

なぜ舌は脳への王道なのか

・『しかしなぜ舌なのか? なぜなら、彼らの発見によれば、舌は脳全体を活性化するための王道だからである。舌は身体の組織のなかでも、もっとも鋭敏な器官の一つだ。』

・『口唇期の乳児は、ものを口に含み、舌で感じることで外界を知ろうとする。舌の表面には、触覚、痛覚、味覚を感じるための48種類の感覚受容器が存在し、先端だけでも14種類ある。これらの感覚受容器は神経線維を介して脳に電気信号を送る。ユーリの分析によれば、舌先には15,000~50,000の神経線維が存在し、それらによって、巨大な情報ハイウェイが形成される。PoNSは舌の前方3分の2を占めるように置かれるが、その位置には、舌の受容器から感覚情報を受け取る二つの神経が走っている。一つは触覚刺激を受け取る舌神経で、もう一つは味覚刺激を受け取る、顔面神経の分枝である。

これらの神経は、舌の背後およそ5センチメートルの位置にある脳幹に直接接続する脳神経系の一部を構成している。脳幹は、脳に出入りする主要な神経が集まる場所で、動作、感覚、気分、認知、平衡を司る脳領域と密接に結びついており、脳幹に入った電気信号は、脳のさまざまな部位を同時に活性化することができる。PoNSを使っている最中に被験者の脳の活動を脳スキャンやEEGで記録したマディソンチームの研究は、400~600ミリ秒後に脳波が安定し、脳のあらゆる部位がともに反応して、発火し始めることを示した。脳の障害の多くは、脳のネットワークが同期して発火しないために、もしくは発火が低調なネットワークが存在するために生じる。しかし脳スキャンを用いてさえ、どの神経回路が低調なのかを正確に特定できない場合が多い、神経可塑性のゆえに、人の脳はそれぞれ、ミクロレベルではいくぶん異なった様態で配線されている。したがって、脳スキャンによってある患者の特定の脳領域に損傷が見つかっても、その脳領域で何が生じているかを100パーセントの正確さで予測することはできない。ユーリは次のように言う。「だが、PoNSを使った舌の刺激は脳全体を活性化する。だから、どこに損傷個所があるのかがわからなくても、装置が脳全体を活性化してくれるのだ」。』

Ⅳ.わずかな支援で脳はいかにバランスをとるのか

四種類の可塑的な変化

ユーリは、200人の被験者を対象にする実験と、可塑的な変化の時間経緯に関する知見に基づいて、PoNSによって4種類の可塑的な変化が得られると論じている。

第一のタイプ:声の改善(ロン)や平衡感覚の回復(ジェリ)に見られたようなただちに生じる反応である。装置使用開始後13分くらいで呼吸に変化が見られる。この迅速な変化は「機能的神経可塑性」と呼ばれている。PoNSは過剰に発火し続けるニューロンを抑制することで症状を改善する。

第二のタイプ:「シナプス神経可塑性」と呼ばれる。数日から数週間、PoNSを使いながら訓練を続けることで、ニューロン間に新しく持続的なシナプス結合を生成することができる。最初の数日間でよく見られる変化は、睡眠、発音、平衡感覚、歩き方の改善である。このタイプの可塑的変化は、基盤にあるネットワークの病理に働きかける。

第三のタイプ:シナプスだけでなくニューロン全体の変化が関与しており、「ニューロン神経可塑性」と呼ばれている。このタイプの変化は、神経回路を1ヵ月以上活性化する必要がある。研究ではニューロンは新たなタンパク質と内部組織の生成を開始する。

第四のタイプ:「システム神経可塑性」と呼ばれる。これには1年から数年を要する(推奨は2年)。この段階では、装置は使わない。このタイプの可塑性は、前述の三つの可塑性のすべてが安定化し、新たなネットワークの基盤が確立する。

必要とされる装置の使用期間は、疾病や症状によって変わる。進行性疾患(多発性硬化症やパーキンソン病など)では一生を通じて使用が求められる。これは、進行性疾患は毎日新たなダメージを引き起こすからである。

PoNSはノイズに満ちたネットワークをリセットすることで症状の緩和に役立つが、根本的な炎症の病理と病原性因子を排除できないと、脳は元のノイズに満ちた状態に戻る。そのため、神経配線に関する特定の問題とともに脳細胞の全般的な問題に対処することが必要になる。

PoNSによって改善できる症状とできない症状がある理由は、現在のところ明確になっていない。

・PoNSの価値は従来の薬物療法では効果がなかったさまざまな重い症状を、副作用なく改善することができることである。

新たなフロンティア

・PoNSは、西洋の科学の概念や方法論を導入しつつ、ホリスティックで東洋的なあり方で、すなわち治癒のプロセスの一部としてホメオスタシスに働きかけ、自己制御を促進することで、身体の自助を支援するのである。

※低強度レーザーとPoNSとの比較

『低強度レーザーとPoNSはともに脳にエネルギーを通すが、一般にそれぞれ異なる生物学的レベルで作用する。低強度レーザーに関して言えば、その光が頭蓋を通過する際、進路に位置するすべての個々の細胞がそれを浴びる。光は慢性的な炎症を取り除き、選択的に損傷した組織にエネルギーを付与する。したがってレーザー光はおもに、現在わかっている限りで言えば、一つの脳領域全体の細胞の全般的な健康に働きかける。それに対しPoNSは「一緒に配線され」、関連し合う既存の機能ネットワークに働きかける。したがってそれは、ニューロンの特定のネットワーク機能を改善する。

低強度レーザーとPoNSはそれぞれ異なる脳のレベルで作用するために、両方の恩恵を受けられる患者もいる。問題が炎症に関するものなら(脳損傷、手術後の炎症、脳卒中、髄膜炎、おそらくは多発性硬化症、そしてある種の抑うつ)、脳の細胞環境を正常化するために低強度レーザーを先に試してから、ネットワークを正常化するためにPoNSを使うのが妥当であろう。 

第8章 音の橋

音楽の脳の特別な結びつき

Ⅲ.ボトムアップで脳を再構築する

炎症を起こした脳のニューロンは結合しな

身体の慢性的な炎症は、脳を含むあらゆる組織に影響を及ぼす。

2005年にジョンズホプキンス大学医学部のチームによって行われた研究によれば、自閉症者の脳は炎症を起こしている場合が多い。検死解剖によって皮質と軸索に炎症が見出された。また、炎症は前庭系と強い結びつきを持つ小脳にとりわけ見られた。

・2008年以来5つの研究によって、かなりの数の自閉症の子どもは、子宮にいるあいだに脳細胞を標的とする母親由来の抗体を持つことが示されている。ある研究によれば、自閉症の子どもの母親の23パーセントはそのような抗体を持つ。それに対し、正常な子どもの母親に関して言えば、そのような抗体を持つ人はわずか1パーセントにすぎない。科学者は何が抗体を誘発するのかをまだつきとめていないが、おそらく自閉症の子どもの母親は、自身の免疫系を変えるような感染をしたか、あるいは毒素にさらされたのではないかと考えられている。

・自閉症の子ども自身も血中の抗体レベルが高い。

慢性的な炎症は神経回路の発達を阻害する。自閉症の子どもにおいては、多くの神経ネットワークが「過少結合」され、脳の前面のニューロンと背後のニューロンの結合が不十分であることが画像で示されている。また、他の脳領域は「過剰結合」され、これは自閉症の子どもによく見られる痙攣発作の原因となっている。過少結合と過剰結合が組み合わさると、脳領域間の同期をとることが困難になる。

・まとめると、自閉症は遺伝的な危険因子と、多くの環境的な誘発要因の産物であり、誕生前に子どもに影響を与えることもあれば、誕生後に与えることもある。そして、免疫反応と炎症が顕著に見られる。これらの要因の結びつきは発達中の脳に悪影響を及ぼし、ニューロンの適正な結合とニューロン同士のコミュニケーションを阻害する。

※ご参考

1)うつ病や自閉スペクトラム症では「脳で炎症が起きている」説が、じつに明快だった(講談社)

2)母体の炎症が子供の自閉症につながるメカニズム(AASJ)

※ハーバートの理論

『「栄養不足、毒素、ウィルス、ストレスの結合、そしておそらくは遺伝的脆弱性によって全身に負荷がかかると」、脳の支援システムが圧倒される。炎症は多量の老廃物を生産する。脳は身体の他の部分と同様、常に老廃物と死んだ細胞を除去し、ニューロンを再構築しつつ栄養を供給しなければならない。この作業は、脳グリア細胞によって行われる。グリア細胞に過負荷がかかると腫れを起し、正常にニューロンのサポートを行えなくなる。ニューロンへの血液の供給は減り、ニューロンのミトコンドリアはストレスを受ける。グリア細胞の適切なサポートを受けられなくなったニューロンは、やがて「アイドリング状態」に入り、正常に信号を発することができなくなる。すでに述べたように、ニューロンは損なわれても、あるいは機能不全に陥っても、発火を続けて「ノイズ」を生んだり、過剰に興奮したり、統制を失ったりする。ハーバートの指標によれば、グリア細胞とニューロンのシステムに過負荷がかかると、ニューロンを興奮させる脳の化学物質グルタミン酸が大量に放出される。それによってニューロンが非常に興奮しやすくなって過剰になり、私の用語を用いれば、「ノイズに満ちた脳」に至る可能性がある。』

感想

最も印象的だったのはパーキンソン病を抱えたままほぼ健常者と遜色のない日常生活を送っている人達です。この中にはグローブシステムによって動きが戻った方も含まれています。

Good vibrations Can Parkinson’s symptoms be stopped?"

『「まるで魔法のようでした」と、スタンフォード大学医学部の神経生物学者ビル・ニューサム博士は、手袋を使用する前と使用後のパーキンソン病患者の症状改善を示すビデオを初めて見たときのことを思い出しながら語った。』

 

 

パーキンソン病患者様への施術は決して多くはないのですが、来院された患者さまはすべて65歳以上で、若年性パーキンソン病の方に施術をしたことはありません。年齢的な要因が大きいのかもしれませんが、日本の患者さんに比べ動画に出てくる患者さんのポジティブさに驚きます。アプローチはそれぞれですが、いずれも動けるようになったという達成感があってのこととは思いますが、薬が当たり前の日本とのギャップが非常に大きく、もやもやとした残念な気持ちになります。