400mを走った時に最後の直線は足がパンパンになって、ほとんど足を動かすことができない状態になります。そして、この原因は足に蓄積してしまった乳酸によるものであり、乳酸とは筋肉の疲労物質というのが今までの認識でした。
しかし、八田秀雄先生の著書により、乳酸を疲労物質としてみると、それはとうてい主役でも脇役でもなく、エキストラ程度でしかないということを知りました。「疲労」は健康にもスポーツにも重要な出来事であり、詳しく知りたいと思っています。
今回は、その切り口として乳酸を正しく理解したいと思います。なお、ブログの中身および添付された画像は八田先生の「乳酸」から引用させて頂いています。
乳酸とは
・牛乳が腐って酸っぱくなるときにできるのが乳酸です。
・乳酸は炭素と水素と酸素からできていて、肉やチーズや味噌などの発酵食品に含まれています。
・乳酸は赤血球や内臓の筋肉(平滑筋)などから作られています。
・乳酸は糖が分解される過程で作られ、最終的にエネルギー源として利用されます。
糖の分解量に対して、ミトコンドリアの処理量が間に合わない渋滞した時に、乳酸の生産量が増え蓄えられます。
乳酸ができる時にエネルギーが作られ(解糖系)、さらに本命のミトコンドリアでも乳酸は利用されエネルギーになります(酸化系)。
酸化系は解糖系の18倍のエネルギーが作られます。
・乳酸を作る菌が乳酸菌です。乳酸菌は腸の中で生きていて腸の働きを良くします。
・乳酸は運動後30分~1時間で元のレベルにまで戻りますから、運動数時間後以降の疲労には乳酸は関係していません。
・乳酸は運動後1時間すれば元のレベルに戻るので、運動翌日以降に起こる筋肉痛には無関係です。
疲労と乳酸
・乳酸は非常に強度の高い運動では疲労の原因の1つになります。
・激しい運動の最中には乳酸以外に多くのことが原因となって疲労を起こしています。リン酸の蓄積、カリウムが筋肉から漏れ出すこと、筋グリコーゲン濃度の低下、体温の上昇、活性酸素の発生、脱水症状、脳の疲労等々です。
上記の項目にある「脳の疲労」について、八田先生は次のように説明されています。
『私たちが生きていけるのは、脳からさまざまな指令が出ているからです。ですから脳のことを考えずして疲労を考えることはできません。特に「疲労」というものは、筋の力が出ないといった生理学的なことだけでなく、だるいというような感覚も含んでいます。だるさという感覚は、脳が「こんな運動をしていると、もう体に悪影響が出るから止めなさい」といった指令が生み出したものだとも考えられます。例えば長時間運動していると血糖値が下がってきます。血糖は脳への主要なエネルギーですから、それがなくなってくると困るので、「こんな運動は止めろ」という指令がきつさやだるさになると考えられます。さらに脳と疲労との関係ではセロトニンという物質が注目されています。セロトニンは神経の伝達に関与し、これが脳に十分あるかないかが鬱状態に関係しているともいわれます。運動もこのセロトニンの脳内のレベルを大きく変化させてしまうような場合には、疲労感が生まれるということが考えられています。この他、運動で筋に傷が付いて、その炎症のためにできる物質が脳に届いて、疲労感を起こすといったことも考えられています。このように運動の疲労において、脳の影響は重要ですが、脳と疲労に関する研究はまだまだこれからといえます。』
付記:筋肉痛
運動で筋に傷が付いて、それを修復する際に起こるのが筋肉痛です。特に下り坂で体重を受け止めるときのように、筋に大きな力がかかる場合に起きやすくなります。筋肉痛はその筋を使わなければ痛みは感じません。筋肉の小さな損傷を治す過程で、その筋をまた使ってしまうことが、痛みとなって現われるということが考えられます。
下り坂で使う筋肉は、「止まれる体をつくる」や「速さを鍛える」にも出てきたプライオメトリクス(伸展性筋収縮を伴うトレーニング)に通じるものです。