口腔内細菌との闘い1

歯磨き中に出血があってもたいして気にしていなかったのですが、歯周病菌が全身に広がり深刻な病気の原因になるということを知り、「これは無視できない!」と思い、この本を見つけました。

予防はシンプルで、正しい歯磨きを1回約10分、1日3回、毎日続けるということです。

著者:波多野尚樹

発行:2015年2月

出版:(株)小学館

波多野先生の医院は、さいたま市浦和区にありました!私の自宅から自転車で10分程度です。

 

 

ブログで取り上げたのは黒字部分です。ほぼ歯周病に関するものです。

目次

はじめに

第一章 口腔内細菌は全身の病気を引き起こす

1.健康長寿は「何を食べるか」ではなく「何が食べられるか」だ

2.歯周病菌は心臓にも到達

3.口腔内細菌と腸内細菌のバランス

4.虫歯の集積地の実態

5.本当に性質の悪い歯周病

6.歯周ポケットは細菌の巣窟だ

7.口とは遠いところで起こる病気

8.糖尿病と歯周病の負のスパイラル

9.扁桃を切除して治る腎臓病がある

10.メタボは歯周病になりやすい

11.口腔内細菌が心臓病のリスクを高める

12.生活習慣病と口腔内細菌

13.唾液は細菌からガードする最初の関門だ

14.唾液は若さを保つ

15.ドライマウスは現代病だ

第二章 健康長寿の決め手は歯を残すこと

16.歯が抜けてしまった人はアルツハイマーになりやすい

17.脳と直結している歯のすごい働

18.生命維持を支える歯の役割

19.抜けた歯は代用がきかない

20.犬歯が抜けると奥歯がなくなる

21.奥歯が抜けると物忘れがひどくなる?

22.奥歯がなくなると太るメカニズムとは

23.肩こり・腰痛の原因は嚙み合わせだった

第三章 口腔内細菌との果てなき闘い

24.タバコは口腔内細菌を増やす

25.年を取ると暴れ出す口腔内細菌

26.口腔内細菌に弱い女性の身体

27.いびきが口腔内細菌を増やす

28.自分の口の中を見る習慣を

29.毎日できる口腔ケアの基本

30.歯磨きの概念を変える

31.虫歯菌を死滅させる最新治療

32.悪化した歯周病の手術とは

33.波多野式で驚異のクリーニング効果

第四章 医科歯科連携治療の重要性

34.修復歯科の時代は終わった

35.勘に頼らない「見える化」治療の今

36.歯科におけるデジタル化の挑戦

37.3Dプリンターを使ったデンタル最前線

38.スマホを利用したデジタル歯ブラシも

39.失敗しないインプラント治療とは

40.骨を作る四つの条件

41.最も進んだ骨再生治療とは

42.インプラントでも歯周病になる

第五章 口腔内細菌と闘い健康長寿を全うする

43.全身の健康を左右する嚙み合わせ

44.ドーソン咬合理論で歯を守る

45.矯正は見た目を治すものではない

46.歯を白く美しく維持するために

47.口の中をみれば寿命がわかる

おわりに

第一章 口腔内細菌は全身の病気を引き起こす

1.健康長寿は「何を食べるか」ではなく「何が食べられるか」だ

歯の数に対して美味しいと感じられる人の割合は、28本で100%、14~20本で75%、7~13本では30%に激減するという研究結果がある。

●歯が抜けるのは圧倒的に65歳以上である。

●歯を失う主な原因は歯周病である。現在、40歳以上の日本人の約40%が歯周病だといわれる。

歯周病は過労やストレスにより免疫機能が低下することでリスクが高まるので、生活習慣が重要である。

●食べるものが限定されるようになると栄養管理も難しくなり、体力、免疫力など健康の維持が難しくなる。

2.歯周病菌は心臓にも到達

●健康に重要だとされている腸内細菌は500種類以上、その数は500兆から1000兆個と考えられ、約1.5㎏にもなる。もはや、身体の一部となっている。一方、口の中の細菌、口腔内細菌も500種とも700種ともいわれる細菌が常在している。口腔内細菌の存在が確認されたのは1900年代初頭である。

●研究者が口腔内細菌の存在にこだわったのは、原因が分からない肺炎やリウマチを調査と関係していた。

●フィラデルフィアの細菌学者W・D・ミラー博士と、ロンドンの医師W・ハンター博士は、「感染源としてのヒトの口腔」という共同論文を発表した。

1989年、フィンランドのK・マイラ博士が「歯周病と急性心筋梗塞の関係」という研究論文を発表し、ついに口腔内細菌が口の中にとどまらず、全身に影響を与えていることが実証された。

3.口腔内細菌と腸内細菌のバランス

●細菌の増殖スピードは驚くほど速い。30分で1個が2個に分裂、その後累乗で増え、24時間後には281兆個にまで増えコロニーを作る。この細菌の集合体がバイオフィルムである。細菌はネバネバした物質でお互いをつないで増えていく。

●口腔内細菌もバイオフィルムを形成している。歯を磨かずに寝ると翌朝歯の表面がネバネバするのは口腔バイオフィルム(プラーク=歯垢)である。

●『口腔内細菌が付着するとリンパ球などの免疫細胞が、ただちに攻撃を開始する。細菌と接触したリンパ球は血液にのって全身に回る。研究では、口腔内細菌で腸管粘膜を刺激するとリンパ球が集結して攻撃を始め、それらの細菌はもともといた口腔粘膜に戻りそこで抗体を産生することがわかっている。その結果、腸管粘膜にいたにもかかわらず、唾液腺からIgA(免疫グロブリンA)抗体が検出させることもある。

口腔粘膜は常に細菌接触の刺激を受けているので、様々な抗菌因子を活発に作りだし、細菌を排除しようとしている。さらに、炎症を増悪させる炎症性サイトカイン(微量生理活性タンパク質)の産生を抑制して、粘膜の炎症を防ぐ働きも行っている。常に細菌が侵入している口腔粘膜は、軽い炎症が常に起こっている。

口腔内感染症を発症するということは、実は全身の免疫系の能力が低下していることを表している。例えばがんの治療として抗がん剤や放射線治療をすると、様々な口腔内疾患や感染症が起こることが知られている。治療後、口腔粘膜に潰瘍ができたり、口腔内が乾燥したりして、免疫が下がる。その結果、常在菌のカンジダ症や歯周疾患の増悪、口腔ヘルペスなどの感染症を発症する。これは口腔ケアで細菌を減らせば、炎症が治まり症状が緩和される。このように、全身の免疫低下と常在菌の相互の力関係が、口腔によってわかる。さらに口は消化器の始まりであり、健康状態と免疫機能の状況を的確に表している。「口の中をみれば、寿命がわかる」というのはこのことだ。』

4.虫歯の集積地の実態

●十分な唾液が歯の表面を覆っていればミュータンス菌は簡単に歯につくことはできない。唾液はpH7.0という中性で歯にとって最適な状態をつくる。ところが、砂糖が口の中に入ると口中が酸性に傾き、ミュータンス菌は元気になり、砂糖を餌にネバネバのグルカンを分泌し歯の表面に張りつくことができるようになる。

5.本当に性質の悪い歯周病

●『虫歯は、ミュータンス菌によって歯が破壊される感染症だ。一方歯周病は、歯周病菌によって歯肉や骨などが破壊される疾患で、歯の土台が破壊されるので歯自体が抜けてしまう。これもまた怖い感染症である。

ミュータンス菌は口の中をふわふわ漂っているが、歯周病菌は嫌気性グラム陰性菌という細菌の仲間で、空気が嫌いな菌だ。現在歯周病菌は、ポルフィロモナス・ジンジバリス、フゾバクテリウム・ヌクレアタムなど10種類ほどが確認されている。空気が嫌いな菌は口の中のどこにいるのか。歯と歯肉の間の奥の方にじっと潜んでいて、何らかのきっかけでバイオフィルムを形成し増殖を始める。これらのバイオフィルムは口の中のあちこちに発生すると、活動がより活発になる。口の中に歯周病菌のバイオフィルムが形成されると、唾液では流れず、洗口液や抗生物質なども容易に入り込めない。

しかも歯周病菌は菌の細胞そのものに毒があるため、歯周病菌が歯肉に触れただけでも炎症を起こす。蜂に刺されると腫れるが、それと同じような生体反応が起こり、歯肉が腫れる。通常細菌は菌体外に放出する外毒素しか持っていないが、嫌気性グラム陰性菌である歯周病菌は強力な内毒素も細胞膜に持っていて、細胞膜が歯肉に触れるだけで傷つける。

若いときは新陳代謝が激しいので、細胞が傷ついてもすぐに新しい細胞に生まれ変わり一晩すれば修復できる。ところが年を取ると、細胞の新陳代謝が悪くなり、修復が一晩では終わらない。そのうえ、ストレスやタバコ、睡眠不足、過労などが加わると免疫力が低下し、自然治癒力をもってしても歯肉や細胞の修復が間に合わなくなる。だから中高年以降に、歯周病が増えるのだ。

口腔内で歯周病菌が活動を開始すると、歯周病菌と闘うために血液が集まってくる。血液内のリンパ球や白血球といった免疫細胞が細菌と闘い、やっつけようとがんばる。歯肉に炎症が起こる歯肉炎になると、免疫細胞の一つであるマクロファージが体当たりで毒を壊し、白血球が細菌を食い殺し修復をサポートする。必死の防戦に敗れると、今度はTリンパ球やBリンパ球などの免疫細胞が出動してミサイル攻撃を開始する。

このように炎症が起こっている場所では、細菌と免疫システムの激しい闘いが行われているのだ。歯周病になると歯肉が赤黒くなるのは、歯肉で激しい戦闘が行われている証だ。健康な歯肉はピンク色なので、赤黒くなっていたら炎症が起こっているということだから早くメンテナンスに行くことを勧める。

それ以上に細菌の数が増えると、前述したサイトカインという強力な武器となる物質が登場し、炎症を抑えようとする。これによって細菌との戦闘はますます激しくなり、免疫細胞や細菌の死骸が大量にでて、これが膿となり流れ出してくる。歯肉を押すと赤黒い血膿がで、この膿が大量になると口臭がひどくなる。

免疫システムは細菌と激しく闘ってくれるのだが、サイトカインの働きがあまりに強すぎると、今度は細菌だけでなく自分の細胞である歯槽骨も傷つけてしまうこともある。なんと、自分の武器で自分を傷つけてしまうのだ。これこそが、歯周病による骨の破壊の原因だ。細菌をやっつけるために投入されたサイトカインが、顎の骨の破骨細胞を刺激するため、骨芽細胞の活動よりも活発になる。つまり骨が作られるより、骨が壊される方が上回ってしまうということが起こる。歯周病の末期になり、歯の土台である骨が破壊され吸収されてしまうのは、こうした骨芽細胞と破骨細胞のアンバランスによって起こる。もとをたどれば免疫システムのサイトカインの過剰な働きなのだが、これも、骨が細菌に侵されないように、自分から溶け出し体内に吸収されるように働く一種の生体反応でもある。

歯槽骨が溶けて歯肉が下がると、歯根はむき出しになる。下がった歯肉でむき出しになった歯根に、歯周病菌のバイオフィルム(プラーク)がついて、ますます歯槽骨が壊れる。やがて歯槽骨が一層弱くなり歯を支えていることができなくなり、歯がぐらぐらする。骨が終焉を迎えるとともに、歯も抜け落ちることになる。

こうして歯周組織全体がなくなってしまうので、歯周病菌も活躍場所を失う。これ以上細菌に感染されることがなくなるので、最終的には生体の勝利ともいえる。実態は、細菌に負けて骨が退却したもので、残るのは歯の痕跡もない、荒廃した口だ。

6.歯周ポケットは細菌の巣窟だ

●歯周ポケットは何百兆、何千兆個という歯周病菌の巣窟である。

●歯は歯肉、歯槽骨、セメント質、歯根膜という4つの組織でガードされている。

歯肉には無数の毛細血管が張り巡らされ、常に新鮮な血液が流れ免疫細胞の白血球が入り込んで細菌や毒素が体内に侵入するのを防いでいる。血液が流れているので綺麗なピンク色に見える。

●歯周病菌がバイオフィルムを形成し増殖を開始すると、ガードをかいくぐり活動するようになる。歯周病菌が歯肉に接触を起し赤く腫れる。歯周病菌と免疫細胞が闘い、歯周病菌の方が優勢になると炎症によって膿が出て口臭を伴うこともある。これが歯周病の第一段階で歯肉炎という。

●歯周ポケットの上部はプラークで蓋をされたような状態になっており、空気の嫌いな歯周病菌にとっては絶好の居住環境になっている。これらの細菌をやっつけるために大量の白血球やリンパ球が集まり、免疫システムが稼働すると戦闘は激しさを増し、さらに周囲の細胞を壊す。こうして歯周ポケットの深さが深くなっていく。

7.口とは遠いところで起こる病気

口の中には数多くの口腔内細菌が存在し、口内のあちこちで症状を起こしている。これが原因となって身体のあちこちで症状を起こしているということが分かった。

近年、病巣感染として注目されているのが「糖尿病と歯周病」の関係である。歯周病の炎症が糖尿病の血糖コントロールに影響している。歯周病の治療を行うことによって口腔内の炎症が治まり、血中サイトカインが減少する。これにより末端の細胞のブドウ糖を取り込む状況が改善するので、血中のヘモグロビンA1Cの数値が減少する。

9.扁桃を切除して治る腎臓病がある

●口腔内細菌が関与する腎臓病はIgA腎症である。これは腎臓にIgA(免疫グロブリンA)が付着して、腎臓の機能が徐々に低下し最終的に腎不全を起す慢性腎臓病の1つである。

●IgAは口腔内の扁桃や歯肉などの粘膜の表面に存在し、鼻や口から入る細菌やウィルスなどの抗原と結合して、体内への侵入を食い止める働きをしている。

●上咽頭部が菌を胃に流すため常に粘液が分泌しているが、菌が体内に侵入し始めると、免疫機能が活性化しマクロファージや好中球などの免疫細胞が集まり、菌の侵入を阻止しようと働く。それでもだめなら、Tリンパ球やサイトカイン、IgAやIgGがウィルスを排除しようとする。この時、大量に集まったTリンパ球やサイトカイン、IgAやIgGが上咽頭から血管に入り込んで、健康な細胞を傷つけながら進み腎臓に到達し、腎臓にこれらが溜まって腎炎を起す。

10.メタボは歯周病になりやすい

●BMI値が25~29.8(肥満度1)の人で3.4倍、BMI値が30以上(肥満度2)の人では8.6倍にもなる。

●体脂肪率が5%上がるごとに、歯周病に罹るリスクが1.3倍上がる。

●人間の体内には平均して300億から600億個の脂肪細胞があるといわれ、食べすぎや運動不足で余った脂肪が細胞の中に取り込まれる。すると細胞自体が大きく膨れていく。太って脂肪細胞が巨大化しただけで、炎症を起こさせる物質が体内に大量に排出される。メタボの人の血液検査をすると、炎症を示す高感度CRPマーカーの数値が高くなることで炎症が明らかになる。つまり太っていること自体、炎症が起こっているということであり、この炎症が歯周病を悪化させる。

11.口腔内細菌が心臓病のリスクを高める

●歯周病は0.5倍から2.8倍冠動脈性心疾患発症によるリスクが高いことが判明している。

●口腔内細菌は虫歯や歯周病などを起こすもの以外に、日和見菌といって普段は悪さをすることなく共存している菌も数多くいる。

12.生活習慣病と口腔内細菌

●口腔感染症は常在菌による感染症で、発症するかどうかは宿主である人間にかかわっている。当然生活習慣が原因の大きな部分を占めている。さらに、口腔内細菌が発症し暴れることで、生体防御反応が起き担当する免疫細胞が口腔内だけでなく血液にのって体中をめぐり、思わぬところで悪影響を及ぼす。

13.唾液は細菌からガードする最初の関門だ

●唾液には重炭酸ナトリウムが含まれており、この成分は細菌が作り出した酸を中和して、口腔内を中性に戻す働きを担っている。また、唾液にはカルシウムやリン酸、フッ素イオンなど歯の表面のエナメル質をサポートする成分があり、歯の再石灰化を促進している。

●ラクトフェリンは免疫機能を助けるタンパク質で、ストレスなどによる免疫低下防止や抗酸化作用もあるとされ、アンチエイジングの成分として近年注目されている。

●細菌の細胞膜を溶かす働きを持つ、リゾチームという抗菌酵素も含まれている。リゾチームは鼻水や涙にも入っている。この成分のおかげで口腔内細菌の働きは相当弱められている。唾液がなかったら口の中は細菌やカビ、バイオフィルムが繁殖して大変なことになる。

●唾液は耳下腺、顎下腺、舌下腺だけでなく口腔内のあちこちに小さな唾液腺が分散し、必要に応じて唾液が分泌される。

●唾液は副交感神経による「さらりとした唾液」と交感神経による「粘っこい唾液」がある。

14.唾液は若さを保つ

●唾液にはアミラーゼという炭水化物の消化酵素が含まれている。

唾液にはヒト成長ホルモンが含まれてており、若さを保つ源である。このヒト成長ホルモンは新陳代謝の15%を担っている。骨を成長させ筋肉を増強し、皮膚は瑞々しく保っている。

●加齢により唾液は減る。さらに耳下腺から出ていたパロチンという若返りホルモンも減少する。パロチンはリラックスして副交感神経が優位になった時に出る。

15.ドライマウスは現代病だ

ドライマウスは薬の副作用による場合が多い。降圧剤や抗うつ剤、抗ヒスタミン剤など生活習慣病の薬である。また、緊張や強いストレスがかかると唾液は出なくなる。

画像出展:「糸でんわ[PDF6枚]東京都健康長寿医療センター

『歯周病が進行すると歯を失ってしまうばかりでなく、誤嚥性肺炎、糖尿病、動脈硬化など全身の疾患のリスクとなる可能性が指

摘されています。』