口腔内細菌との闘い2

著者:波多野尚樹

発行:2015年2月

出版:(株)小学館

目次は“口腔内細菌との闘い1”を参照ください。

 

 

第二章 健康長寿の決め手は歯を残すこと

17.脳と直結している歯のすごい働き

●歯の中心は歯髄という空間になっており、そこに動脈と静脈、三叉神経という脳への伝達神経が通っている。この血管から新鮮な血液と酸素が供給され、不要なものは外に運び出されている。歯根膜は歯髄からでた三叉神経の他の多くの神経が通っている。三叉神経は第Ⅴ脳神経で、眼神経、上顎神経、下顎神経の3つに分かれていることからこの名が付けられた。運動神経と知覚神経の混合神経で脳神経の中で最も太い。

三叉神経前頭部、顔面、鼻腔と口腔の粘膜や歯を担当し、温度の感覚も脳に伝えている。歯や歯根膜の歯根膜受容体というセンサーでキャッチした情報を脳に伝え、脳はこの情報を元に咀嚼筋、顎関節を動かす。

●口腔内で情報伝達の最前線で働いている歯がなくなり、噛むという行為が制限されると脳への刺激が極端に減ってしまい、脳の活性化にとって大きな問題となる。

22.奥歯がなくなると太るメカニズムとは

●奥歯がなくなるとしっかり噛むことができず、唾液の量も減る。特に6番の第一大臼歯が無いと食物のシグナルが脳に伝わりにくいため、副交感神経へのスイッチがうまく働かず唾液の量はさらに少なくなる。唾液の量が少なくなると心臓から脳への血流も滞りがちになるので脳の機能が活性化されない。また、奥歯がなくなると食べれる物も制限が出て、柔らかいもの中心の食事になるので、食事のスピードが上がり早食いになる。この早食いこそが肥満の原因となる

23.肩こり・腰痛の原因は嚙み合わせだった

●右の奥歯が抜けたままになっている人は、左の肩から背中にかけてこりが出る。このような人に奥歯を入れて全体のかみ合わせを調整すると、長年の肩こりが解消したケースは多い。

●イライラ、不安、頭痛、やる気の低下等の不定愁訴も、歯の嚙み合わせを調整しただけで解消することも少なくない。

●『顎関節は、頭蓋骨に近いところにあって、重い頭を支えており、頭頸部の筋肉と密接に関係しており可動域も広い。さらに全身を動かす際に、バランスをとるために顎関節は重要な役割を担っている。もしこれがずれてしまったら、頭頸部はもとより全身に影響がでることは推察できる。嚙み合わせを調整するといっても、薄い紙一枚あるかどうかというごくわずかな調整だけだ。この紙一枚分が違って、左右のバランスがずれていても、長い間にはどこか一本の歯に負担をかけ、咀嚼筋のアンバランスを引き起こす。それによって首の筋肉が引っ張られて筋肉が緊張する。これが頭痛や背中の張りやこりとなって表れる。肩の筋肉が硬くなるために腰部の筋肉も引っ張られ、腰痛の原因ともなる。歯のわずかなズレが他の関節や筋肉、リンパ系や体液系に影響を与え、多くの症状をもたらす。』

第三章 口腔内細菌との果てなき闘い

24.タバコは口腔内細菌を増やす

●タバコにはニコチンやタール以外に約4000種の様々な化学成分が含まれているとされ、人体への影響は完全には把握できていない。口臭、ニコチン性口内炎、口腔粘膜の白斑、口腔内のガンなども喫煙が関係している。

歯肉にとって大きな問題は毛細血管の収縮により血流が悪くなることである。血液には酸素を運ぶ赤血球の他、免疫細胞が流れる白血球がある。さらに血流低下は唾液の量も減るため口腔内細菌にとっては絶好の環境である。歯周ポケットの進行などもタバコにより速くなる。

25.年を取ると暴れ出す口腔内細菌

●加齢によって顔にしわができるのが、表情筋を使うことが少なくなり、同時に皮膚の再生能力が落ちるためであるが、口腔内では加齢の影響は細胞の新陳代謝の低下に現れ、歯周病に罹りやすくする。子供のように新陳代謝が活発であれば、歯周病菌によって炎症を起こしても新陳代謝により翌日には新しい細胞に入れ替わっている。

●日本では40歳以上では、約40%が発症していると言われている。

26.口腔内細菌に弱い女性の身体

●女性は男性に比べて歯肉炎、歯周炎を起こしやすい。これは、歯周病を起こす嫌気性グラム陰性菌は、女性ホルモンであるエストロゲンを餌に増殖するためである。

歯周病の妊婦さんは早産や低体重児が生まれる可能性が7倍高いという報告もある。

●更年期のホルモンバランスの乱れは自律神経の不調につながり、冷えや血流低下は免疫力の低下を招き、そして口腔内細菌の増殖から歯周病に進む。エストロゲンの減少はドライマウスにも注意が必要である。

27.いびきが口腔内細菌を増やす

●口呼吸は口腔内や喉を乾燥させ、細菌が侵入し粘膜に取りつく原因になる。

29.毎日できる口腔ケアの基本

●以前は、歯磨きは食後すぐが良いと言われていたが、細菌と闘う唾液の効能も見直されており、食後30分程度してから歯を磨く方が口腔内細菌の除去には効果的だとされている。

30.歯磨きの概念を変える

●歯磨きの目的は口腔内細菌を増殖させないためである。歯ブラシはペンを持つように優しく磨く。時間は約10分。歯と歯の間は歯間ブラシも積極的に使う。

●歯磨き粉は少なくて良い。歯磨き粉の中身は大半が糊であり、それに炭酸カルシウムやリン酸カルシウム、塩、アパタイトなどの研磨剤が混ぜてある。さらに界面活性剤、保湿剤、結合剤、発泡剤、香料や色素といったものが添加されている。歯ブラシはブラシ部分が少しでも開いたらすぐに取り換えるべきである。

32.悪化した歯周病の手術とは

歯肉からの出血があるということは、そこに大量の歯周病菌がいるということである。この歯周病菌を患部から取り出すために、柔らかい歯ブラシを用い、血が出なくなるまで歯垢をブラッシングで取り除く。出血自体は問題なく、数日すると出血しなくなる。血が出なくなるということは歯周病菌が減少したことを意味する。

●歯周病の進行度合いを調べる要素

-歯肉の色:暗赤色になって腫れがないかどうか。

-歯周ポケットの深さ:4mm以内が基準。4mm以内はブラッシングで治せる範囲だが、5mm以上になると歯科医や歯科衛生士の補助が必要になる。

●細菌や免疫細胞の死骸と唾液が固まった歯石を除去するが、頑固な歯石は歯科衛生士がハンドスケラーや超音波スケラーという専用の器具で掻き出す必要がある。

●歯周ポケットが5mmを超える場合は外科的治療が必要になる。ルートプレー二ングや外科手術によって歯周ポケットの深さを4mm以内にするための治療を行う。

画像出展:「ルートプレーニング

ルートプレー二ングはセメント質も削り取ってしまうという問題があり、ルートプレー二ングにかわるものとして、デブライドメントというものが出てきています。

 

 

 

●治療によって細菌の除去が完了すれば、歯肉は引き締まり健康を取り戻す。

33.波多野式で驚異のクリーニング効果

●PMTC(Professional Tooth Cleaning)はスウェーデンの歯科医、ペール・アクセルソンが提唱したもので、歯科医や歯科衛生士など訓練を受けた専門家による、プラークやバイオフィルムを徹底的に取り除く予防歯科の方法である。

第四章 医科歯科連携治療の重要性

39.失敗しないインプラント治療とは

●インプラントに適しているかどうかについては、歯の抜けた原因を考えることが重要である。事故による歯の欠損の場合は問題ない。虫歯も1本だけであれば問題ない。検討を要するのは歯周病によって歯を失った場合である。歯周病菌が除去されていない状態ではインプラントはやめた方が良い。遅かれ早かれインプラント歯周炎になって、インプラントが抜けてしまう。

第五章 口腔内細菌と闘い健康長寿を全うする

44.ドーソン咬合理論で歯を守る

●ドーソンの咬合の理論の基本は顎である。

●咬合はドアと同じである。上顎はドア枠、ドアは下顎である。これらは蝶番を軸につながっていて、うまく回転すればドアはどこにもぶつからず閉まる。つまり、咬合で最も重要なことは蝶番の軸と回転である。

●顎関節症の一番の原因は顎の軸の乱れである。乱れを補正するのは筋肉であり、下顎を何とか制御しようと体は反応する。これが日常的に続くと本来は休んでいるはずの筋肉は疲れてしまう。それを放置しておくと、人間は無意識に歯ぎしりや噛み締め、タッピングという異常行動が起きる。そして筋肉の異常は悪化する。

45.矯正は見た目を治すものではない

矯正治療とは歯並びのためではなく、嚙み合わせの理論を口腔内で作るためのものである。口腔内をみて顎を中心とした嚙み合わせを治さないと本当に治療したことにはならない。

●咬合という機能を根本的に治療するということである。

おわりに

●『全身の病気には原因がわからない難病が数多くあるが、近年口腔内細菌がなんらかの関与しているのではないかという報告がなされるようになった。口腔内科学にようやく光が当たってきたということだろうか。

私が26歳のころ、アメリカで最先端の歯周病治療を学んで帰国した先生のセミナーが開催されることになり参加した。6カ月のコースに参加したのは40から50歳代が中心の熱心な歯科医だった。歯周病の治療について話を聞けるものと思っていたが、講師を務めた歯科医が言ったのは、「アメリカでは歯を磨かないと治療してくれない」ということだった。歯を磨いていない患者は診察してくれないという話は衝撃的だった。何しろ当時は、どうやって歯周病になった患者を治し、失った歯の補綴をするかという治療が中心だったからだ。セミナーは「どうやったら患者に歯磨きの大切さを伝えられるか」というディスカッションに終始した。いくら歯周病の治療をしても細菌自体を排除しないと、再発する。歯周病の修復治療をする前に、病気になった原因の口腔内細菌を排除してからでなければ、治療は始まらないということを徹底的に教えられた。

その後開業して始めたのは、患者の教育だ。口の中にいる細菌の怖さを教え、この細菌を排除しなければ口の中は健康になれないことを徹底して話してきた。新患の患者は、必ず私の勉強会を受けなければならないことになっている。患者に口の中に細菌がいること、それを排除しないと虫歯も歯周病も治らないことを洗脳してきた。それと闘うために必要なことは、歯磨きしかない。

ばい菌のある場所を徹底して磨く。歯と歯肉の間に45度の角度でブラシを当てて、徹底的に細菌を落とすこと。食後3回トータルで30分程度かけてじっくり磨く。患者その人に合った歯磨きの仕方を教えてきたのだ。

それでも生活習慣が乱れると、口の中は一目瞭然、舌苔が生えるなど口の中の色が変わる。粘膜の色が悪化してしまう。どんなに口腔内をきれいにしていても、突然炎症を起こすことがあるのだ。口腔内細菌は確かに病気の原因の一つではあるが、そこに共犯者が加わることで一気に暴れだす。糖尿病や喫煙や間食などの生活習慣、唾液の減少などリスクファクターがあることで、口腔内の環境が悪化する。突然炎症を起こした患者に話を聞くと、大きな病気の治療中だったり、あるいは家族の介護で心身ともに疲れてしまっていたりする。口腔内細菌の増殖は、メンタルのリスク、生活習慣のリスク、口腔内のリスクが重なって炎症を起こす。

感想

1回約10分、1日2、3回、丁寧なブラッシングを心掛け、歯ブラシは「極細・柔らかい」タイプの安価なものを2週間程で交換しています。歯磨き粉は普通の物と薬用の物を両方使っています(薬用は朝と就寝前)。

出血、口臭などに改善がみられ、特に画期的だったことは食事中に誤って口腔内を傷つけてしまっても、潰瘍(口内炎)になることはほぼなくなったことです。

家族性高コレステロール血症以外は、特に持病はないものの、クレアチニン値が基準値をわずかですが、超えているのが気になっています。そこで口腔内細菌と腎臓病の関係性を調べてみたところ、以下の2つのサイトを見つけました。

~歯周病と慢性腎臓病(CKD)の関係~ 

『歯周病は、歯と歯肉の境目に細菌がたまり炎症が起きる病気です。P.gingivalis(ジンジバリス)という菌をはじめとした歯周病菌が歯茎の毛細血管から、血管に侵入して全身の血管を障害します。特に内皮細胞と呼ばれる細胞への障害は、動脈硬化を引き起こしたり、腎機能障害に関わる可能性があるといわれています。』

この情報だけでは何とも言えないのですが、今後、クレアチニン値が改善されるようであれば、歯周病と腎臓の関係性を実感できるかもしれません。

ご参考:東洋医学の“腎”と“歯”の関係

画像出展:「黄帝内経素問にみられるヒトの一生と歯牙との関連について(PDF4枚)

 東洋医学では、腎は精を蔵し、髄を生じ、骨を養い、歯は骨の余りで、骨髄はまた歯を養うとされています。