パウリとは量子力学の巨匠の一人、ヴォルフガング・パウリのことです。一方、ユングはフロイトと並び称される偉大な心理学者のカール・グスタフ・ユングのことです。
ユングが晩年、物理学に傾倒していた事実は、ブログ“ユングと共時性”の時に知っていたのですが、ユングと接点のあった物理学者がパウリであり、しかも「往復書簡集」として残っているほど、深いつながりがあったことに大変驚きました。
タイトルの“シンクロニシティ”ですが、お恥ずかしい話、当初、気づかなかったのですがこれは“共時性”のことです。内容は物理学の歴史の物語からマクロな宇宙やミクロの量子を中心に、偉大な科学者の足跡が書かれています。私が最も知りたかったことは、このパウリとユングの関係やどんな事に取り組んだのかということでした。
第9章、「量子の挙動の実用化へ」の中で、以下のようなことが書かれています。
『パウリとユングの2人による対話は、厳密な意味で科学的とは言えなかったが、二重性という自然界の中心的概念を導いた。因果的な相互作用と、非因果的な相関。両者を同時に説明する統一的理論が現れた時、人類は確かな英知を手にするだろう。』
ブログは何とか理解でき、印象に残った箇所をご紹介していますが、全体的にはつかみどころのない漠然としたものになっていると思います。
著者:ポール・ハルパーン
訳者:権田敦司
発行:2023年1月
出版:(株)あさ出版
目次
推薦の言葉
量子論の発展に寄せて 福岡伸一 (生物学者)
序章 自然界のつながりを描く
第1章 天空へ挑む ~古代の人々が描いた天界像~
●太陽への信仰
●神殿の谷の夜明け
●宇宙の構成要素
●自然界の隠された光
●遅々として進まない太陽の光
●運動の世界観
第2章 木星からの光が遅れる
●富と知
●天文学の復活
●禁断の惑星
第3章 輝きの源を辿る ~ニュートンとマクスウェルによる補完
●遠隔操作
●ラプラスの悪魔とスピノザの神
●疾走する波と探求心
●金科玉条を探す
●幻の終の棲み処
第4章 障壁と抜け道 ~相対性理論と量子力学による革命~
●光が持つ2つの顔
●相対的な真実
●OPERAの幻
●宇宙を織りなす
●原子の中を覗く
●デンマークからの光
●魔法の数字
第5章 不確定という世界 ~現実主義からの脱却~
●不思議の国のアルベルト
●苦難の道のり
●現実と行列式
●非公開の舞台
●物質波
●母なる光
第6章 対称性の力 ~因果律を超えて~
●対称に次ぐ対称
●保存則が表すもの
●超排他的な住人
●スピン:粒子の謎めいた性質
●姿を見せない粒子
●もつれた経緯
●超自然現象への抗い
第7章 シンクロニシティへの道 ~ユングとパウリの対話~
●もつれを繙く
●皮肉屋兼毒舌家
●精神の偽らざる姿
●シンクロニシティの登場
●パウリの受難
●超心理学と懐疑派
●ノーベル賞
●研究所での洪水
●すべては2と4のもとに
●非因果的連関の原理
●関係の終焉
第8章 ふぞろいの姿 ~異を映す鏡のなかへ~
●ウー夫人の情熱
●ニュートリノという名のサウスポー
●超絶の力
●統一を巡る課題
●相互作用のなす業
●統一への狂騒
第9章 現実へ挑む ~量子もつれと格闘し、量子飛躍をてなずけ、ワームホールに未来を見る~
●ジョン・ベルによる判定試験
●光子の逆相関やいかに
●コズミック・ベル・テスト
●量子の挙動の実用化へ
終章 宇宙のもつれを繙く
●因果律の限界
●光速の因果律を超えて
●パウリとユングが残したもの
●セレンディピティ v.s. 科学
●慎重に非因果性を受け入れる
謝辞
量子論の発展に寄せて 福岡伸一 (生物学者)
・「量子もつれ」は“entanglement”と表現されるが、科学的な言葉で表現すると、“離れて存在している2つの物体が、互いに他のことを認識しあっている”ということである。
序章 自然界のつながりを描く
・『量子もつれは、相互作用ではなく、粒子間の相関である。そのため、因果律に厳格に則った伝播(一般の相互作用が光速以下で連鎖する伝わり方)より速く結果を伝えることができる。つまりそれは、自然界に2種類の「伝達ルート」があることを意味する。光速を最高速度とする伝達経路と、人間の観察と同時に相関を示す量子相関という経路だ。』
・『近年、量子テレポーテーションや量子暗号の分野で革新的な成果を上げている。特筆すべきは、“量子もつれ”の現象を利用して、途方もない遠隔地へと光子の量子状態を転送した点だ。現在は中国の衛星「墨子(Micius)」へ量子状態を送り、解読不能とも言われる量子もつれを活用した量子暗号システムの構築に取り組んでいる。一連の研究が言わんとするところは、量子もつれなどの非因果的相関の重要性と実用性の高さである。』
※ご参考1:“中国の量子通信衛星チームが米科学賞受賞”
※ご参考2:“量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワーク”
第3章 輝きの源を辿る ~ニュートンとマクスウェルによる補完
●幻の終の棲み処
・19世紀の科学界では自然の振る舞いや人間の意志はすべて科学的に説明できると考えられた。
・いずれ非科学的な思想は淘汰され、予言や亡霊、悪霊、天啓などの余地はなくなるとの見方が大勢を占めた。
・自然現象は理論的に突き詰めれば、原因と結果の連鎖によって記述されると考えられた。
・因果関係を説明できないものは、その考察は希望的観測や迷信であるとされた。
・超自然現象を信じる反対勢力は、科学によって説明できる立場をとった。そして、超常現象の科学分析と精神世界を対象とした研究を図る団体が生まれた。
第4章 障壁と抜け道 ~相対性理論と量子力学による革命~
・19世紀末の科学は厳格な因果律に基づく決定論へと進んでいた。
・20世紀になると原子内部の不可思議な世界が量子力学で明らかになると摩訶不思議な不確定性原理などが登場した。
・相対性理論は因果的な作用の限界が明らかになると同時に、空間と時間の密接な関係が示され、物理学界に革命の波が押し寄せた。
●宇宙を織りなす [アルベルト・アインシュタイン]
・『自然は相対性理論を裏付ける形で、遠隔的ではなく局所的な重力の姿を露わにした。よってアインシュタインは、遠隔作用という概念に否定的な立場を生涯貫くことになる。彼は原因と結果の直接的な連鎖によって宇宙は構成されているとの見方を常に理論の柱とした。その見地に反する対象は彼にとって、偽りの現象か、もしくはまだ実証されていない因果的作用に過ぎなかったのである。』
●デンマークからの光 [ニールス・ボーア]
・『マンチェスター大学と、その後所属したコペンハーゲン大学での研究で、ボーアは太陽系を彷彿させる原子モデルをつくった。正に帯電する原子核が「太陽」のように中心に位置し、その周りを負に帯電する電子が「惑星」のごとく回るという原子像である。全体を結びつける源は、重力ではなく電磁気力だ。その上でボーアは、楕円軌道で運動する惑星とは異なり、電子の軌道は真円になるとした。』
・『ボーアは、当時実測されていた水素などの基本原子のスペクトル線[原子が放射または吸収する光の電磁波]が、原子モデルで再現される必要があるとも考えた。水素の吸収スペクトルと放出スペクトル(分光器で観測される吸収する光と放出する光の色)は、ヨハン・パルマーやセオドア・ラインマン、フリードリッヒ・パッシェンなどの分光学者たちによって測定され、水素原子固有の周波数がすでに判明していた。いずれのスペクトルも、色が飛び飛びの虹のように特定の周波数の色だけを残し、その他の色は消えていた。そして、原子固有の周波数には数学的な規則性が認められた。なぜ、特定の色を現して、他の色を現さないのだろうか?ボーアは直観的に、電子は普段、安定した軌道上に存在し、特定の振動数の光を吸収したりするのではないかと推測した。光を吸収すればすぐさまエネルギーの高い軌道へと遷移し、放出すればエネルギーの低い軌道へと遷移するのではないか、と。』
・『ボーアは、原子の不連続のスペクトルをモデル化するためには、電子の軌道が連続的ではなく、離散的でなければならないと考えた。したがって、1つの軌道から別の軌道への電子の遷移は、連続的な変化ではなく、一瞬の跳躍であるとみなした。』
・『電子がある状態から別の状態へと自発的かつ瞬間的に移動する、という量子跳躍の概念は、アインシュタインとミンコフスキーによって丹念に描かれた相対性理論の時空図と対極をなす考えだった。いわば、厳格に決められた因果関係に対して、電子の自由奔放が際立っていたのである。[「電子があたかも、どの軌道に移るべきあらかじめ知っているかのようだ」by アーネスト・ラザフォード]』
『アメリカの物理学者リチャード・ファインマンが粒子の経路の不確定さを時空に組み入れ、量子力学の世界と時空図を結びつけるのは1940年代に入ってからのことである。それまで、相対性理論における時空と、量子力学における相関は共通項のないそれぞれ独立した概念に過ぎなかった。』
●魔法の数字 [アルノルト・ゾンマーフェルト]
・『ゾンマーフェルトが熱心に研究したのは、主要な磁場(コイルを通電してつくる電磁石による磁場など)に原子を置いた時に現れる現象だった(1897年にオランダの物理学者ピーター・ゼーマンによって発見されたため、ゼーマン効果と呼ばれる)。磁場に原子を置くと、原子の放出スペクトル線が分裂するのである。本来であれば、特定の色を持つ1本の線であるべきところに、それぞれわずかに色の異なる複数の線が現れる。スペクトル線が虹の一部のごとく分光する理由は、まるで判然としなかった―その答えを導いたのがゾンマーフェルトだった。
「ゼーマン効果」は、ボーアの単純な「太陽系」電子モデルの一般化に大きく貢献した。その研究を契機に、原子核の周りを電子が円を描いて運動する原子像は、量子数などの物理量を持つ、特徴豊かな立体的な姿へと発展したのである(電子数が奇数の原子特有のスペクトル線分裂、つまり「異常ゼーマン効果」の研究が原子モデルの一般化を実現させた)。この原子モデルの進歩によって、ミクロの世界の現象に関して、より正確に予想できるようになった。ひいては、量子世界に潜む多様な現象を明らかにし、量子もつれなどの非因果的な作用の存在が判明する。それゆえ、ゾンマーフェルトの研究は、ボーアの初歩的概念から量子力学確立までの経緯において、貴重な橋渡し役を演じたといえるだろう。と同時に私たちを奇妙な世界へと導いたのである。』
第5章 不確定という世界 ~現実主義からの脱却~
●母なる光
・量子力学の哲学を疑問視する声はあるが、その有用性は広く認められており、長きに渡って未解決の問題さえも、量子力学を頼れば解決への道筋が見えてくる。加えて、理論の弾き出す数字は極めて正確である。
第6章 対称性の力 ~因果律を超えて~
●超排他的な住人 [ヴォルフガング・パウリ]
・論理的思考に長けたパウリは数字に秘められた謎の解明に傑出した才能をみせた。また、数秘術や対称性に深く魅了された横顔もパウリを語る上で見逃がせない点である。後年、哲学的考察に傾倒するようになってからは、ヨハネス・ケプラーの影響を受け、数字に隠された規則性から自然法則を導こうとした。
・パウリの提唱した「排他原理」の原型となる概念に初めて言及したのは1924年12月であった。その「排他原理」は1945年、ノーベル物理学賞を受賞した。
●スピン:粒子の謎めいた性質
・ドイツの物理学者のクローニッヒは自転によって電子が小さな電磁石のように働き、外部の電磁場と相互作用すると考えた。その後、1925年オランダ人物理学者のウーレンベックは、外部の磁場と相互作用するのは電子が自転するためだと推測した。発表された論文は完全とは言えなかったが、実際の現象を予測するため、スピンという概念は広く受け入れられた。
現在でいうスピンは、単なる自転とは異なる概念を指す。電子が光速を超える速度で回転するのは不可能である。これは外部の磁場との相互作用がコマの回転現象と似ているということで、電子が実際に自転しているわけではない。
●姿を見せない粒子
・パウリが予想したニュートリノは1956年、カワンとライネスという二人の物理学者によって観察された。発見されたのはベータ崩壊に関わる電子ニュートリノで、その数十年後には、ミューニュートリノとタウニュートリノという2つのニュートリノも発見された。
●もつれた経緯
・『重力の本質を見抜けなかった古典力学により、歴史の闇に葬られようとしていた。だがその後、量子力学によって救われた―力の作用を介さない相関として。遠く離れた2つの粒子間において、切っても切れない相関を存在するのである。
シュレーディンガーはそのような状態を「もつれ」と呼んだ。量子力学でいう「もつれ」とは、多粒子系―ヘリウム原子の基底状態にある対電子の系など―において、任意の粒子の物理量が自ら以外の粒子の物理量と相関する状態をいう。興味深いことに、この「量子のもつれ」は物理的な距離を意に介さない。実験を重ねれば重ねるほど、「量子もつれ」を認める2点間の距離は広がるばかりである。原子の世界に留まらず、一方が河川を飛び越え、宇宙空間に至っても、他方との相関は変わらないのだ。「量子もつれ」は、決して抽象的概念ではなく、現実において極めて有用性は高い。人間が目にすることのなかったであろう物質の状態を生み出すからだ。たとえば、いずれも超低温化で出現する。全く滑らかに流れる粘性のない超流体や、完全に電導する電気抵抗のない超伝導体がそうである。』