社内規程立案2

社内規程立案の手引き
社内規程立案の手引き

著者:外山秀行

発行:2019年7月

出版:中央経済社

目次は“社内規程立案1”を参照ください。

第4章 社内規程の効力

・社内規程の効力は施行期日から生じる。

17 社内規程の効力はいつから生じるのか

1)施行という概念

・「施行」とは制定された規範の効力を一般的に発動し、作用させることである。

・特に「適用」とは極めて類似しているが、「適用」は個別具体の事象に対する効力の発動・作用であるという点が異なる。

2)施行期日に関する条文

(1)条文の表記

・施行期日を示す条文は、附則に置かれている。社内規程の場合、附則にこれ以外の条文を置くことはあまりない。

・施行期日が唯一の条文の場合、見出しも条名もなく、施行期日を定める文章だけが表記される。

(2)表記されている期日などの意味

・社内規程は、制定後に改定されることがある。例えば、改定があった場合、条文中の「この規則」とは制定当初の規則のことか、改定後の規則のことかに迷うことがある。これは、附則の条文が示している年月日は直近に改定された時の施行期日であるため、改定後の現在規則ということになる。

18 社内規程の効力は誰に対して生じるのか

・社内規程の効力は、会社とその構成員である役職員に対して生じる。つまり「適用」という語を使えば、社内規程は「会社とその構成員である役職員に適用される。」ということになる。

1)適用という概念

・「適用」とは、施行された規範の効力を個別具体の事象に対して発動し、作用させることである。

2)会社に適用されることの意味

・会社とは場所や社屋等ではなく、会社という属性を持つ法人に対する属人主義的な適用を意味する。

3)運用対象が限定的にみえる社内規程

(1)組織関係規程

・社内規程の中には、適用の対象が役職員の一部に限定されているかのようにみえるものがある。

4)適用対象に関する明文の規定

・全ての社内規程は、会社とその構成員である役職員に適用されるべきものであるが、規程等管理規程などに規定を置き、明文化しておくことも有益である。

19 社内規程の効力が否定される場合とは

1)効力が否定される場合

・社内規程の効力が否定される事態というのは、相異なる社内規程の条項が互いに抵触している場合、どちらかの効力が否定される事態のことである。特に新規の社内規程の制定や現行の社内規程の改定によって新設された条項は注意すべきである。

20 社内規程の効力は子会社にも及ぶのか

・子会社の経営を適切に管理することは、親会社の重要な経営課題である。会社法では、子会社について「会社が議決権の過半数を有する株式会社その他の経営を支配している法人として法務省令で定めるもの」であると定義している。

実践編

第1章 社内規程の運営

1 社内規程の整備・運用はどのように行うべきか

・社内規程の管理には、個々の社内規程の管理と社内規程の全体統括という二つの側面がある。

1)個別管理と全体統括の概念

個別管理と全体統治
個別管理と全体統治

画像出展:「社内規程立案の手引き」

2)担当者の具体像

・個別管理の担当者は個々の社内規程を所管する部門の担当者のことである。一方、全体統括の方は、法務部や総務部において社内法務を一元的に統括する者が担当者になる。

3)担当者の役割

(1)個別管理

①現行の運用

②制定・改定の要否の検討

③立案作業の遂行

(2)全体統括

①規程集の整備

・全ての規程を収録した規程集を作成し、保管する。規程集は、関係者が常時閲覧できるようにするとともに、規程の制定・改廃があった場合には、これを速やかに反映させる。

②立案時における案文の審査

③制定・改廃の社内通知

2 社内規程の実効的な運用のために必要なことは何か

・社内規程の実効的運用とは、社内に浸透し励行されていることをいう。

1)浸透の難易度による社内規程の分類

・浸透の問題は規程を立案したものと、適用の対象となる者との距離が重要である。

2)規程を浸透させる必要性

・規程立案担当者及び運用責任者には、適用対象者が規程の意義を十分に認識し、その内容を理解できるように工夫する必要がある。

3)浸透させる努力と工夫

分かりやすい資料(Q&Aも有効)を用意し、説明会を必要に応じて開催するなどの高い意識が必要である。

3 社内規程の立案について心掛けるべきことは何か

・社内規程の立案は、適時適切に行うよう心掛けなければならない。

1)「適時」について

・社内規程を立案すべき時期は、個々の規程の性格によって様々である。

2)「適切」について

立案が適切であるための要件は、①規程の内容が規範として妥当なものであること、②規程の表記が規範として的確であること、③立案から施行に至る過程で所要の手続きを履行すること、である。

(1)内容の妥当性

①規定する措置の内容が立案の目的に照らして合理的なものであるか。

②立案する規程のレベルが内容の重要性に見合ったものになっているか。

③立案の内容が上位の規程に反していないか。

(2)表記の的確性

規程の全体が適切に構成されているか(条文の配列など)。

各条文が適切に構成されているか(条項の区切り、号の活用など)。

条項の引用表現に誤りはないか。

条項中の用事と用語が法令のルールに準拠しているか。

(3)適正手続きの履行

①立案開始時に余裕を持った日程を立てているか。

②関係部門との調整を早期に開始しているか。

③統括管理者(法務部など)による十分な審査を受けているか。

④規程の浸透に配意しているか(前広な周知、趣旨の説明など)。

4 社内規程の審査について心掛けるべきことは何か

1)審査の観点

・社内審査の目的は、立案された規程が内容において妥当であり、かつ、表記において的確であるかどうかを吟味し、問題点が発見された場合にはこれを是正することである。

2)審査担当者の心掛け

・審査の事務において、問題点を適確に発見し、是正する役割を果たすためには、①知見の涵養、②審査時間の確保、③支援する姿勢、④審査項目の共有、が大切である。

5 内部統制システムの関係者は社内規程にどう向き合うべき

・会社の役職員は様々な立場から内部統制システムに関係している。他方、社内規程は、内部統制システムを構築し、運用するための法的な基盤となっており、組織、業務、人事、コンプライアンスという各分野の社内規程が、それぞれ内部統制システムの構成要素に対して定められている。

1)内部統制システムの概念

・内部統制システムという概念は、会社法の定めに由来するものである。具体的には、「会社の業務の適正を確保するために必要な体制の整備」を意味する概念である。

2)内部統制システムの構成要素

①情報の保存及び管理に関する体制

②損失の危険の管理に関する体制

③取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制

④監査役の監事が実効的に行われることを確保するための体制

第2章 立案の方式及び留意点

6 社内規程の制定、改定及び廃止はどのような方式で行なえばよいのか

・社内規程の制定、改定及び廃止を行う方式には、手続と様式の二つの側面がある。

1)手続き

社内規程を制定、改定又は廃止するためには、各規程のレベルに応じて、決議又は決裁という手続を経る必要がある。規程のレベルというのは、社内規程全体の階層構造の中で個々の社内規程が位置している階層のことであり、上から順に規程、規則、細則、要領というレベルがある。

・社内規程の制定・改廃権者は各レベルに対応しており、規程は取締役会、規則は経営会議、細則は社長、要領は本部長とされており、会議での決裁や社長、本部長の決裁の手続きが必要になる。

2)様式

・様式は社内規程のレベルを問わず、制定、改定又は廃止のいずれかによって異なっている。

(1)制定

・新規に規程を制定する場合は、決議又は決裁を求める際に、制定の経緯や目的、規程案の骨子などを説明した後に、「次の規程を制定することとしたい。」と記載し、当該規程案を添付した書面を提出する。

(2)改定

・現行規程を改定する場合には、改定の経緯や趣旨を説明した文章に加えて、改定の具体的な内容を示すため、新旧対照表を作成して添付する必要がある。

新旧対照法
新旧対照法

画像出展:「社内規程立案の手引き」

(3)廃止

・社内規程を廃止する場合は、廃止の理由を説明するとともに、「○○規程を廃止することとしたい。」と記載した書面に廃止する規程を添付して、決議又は決裁を求める。

7 新規の規程を制定する場合、特に留意すべきことは何か

・立案上の留意点は、内容の妥当性、表記の的確性及び適正手続きの履行以外に、新規と改定にはそれぞれ固有の留意点がある。

・新規の規程を立案する場合には、①主管部門の適切な決定、②規程のレベルの適切な選択、③現行規程との関係に対する考慮の三点である。

1)主管部門の適切な決定

・立案の主管部門は、制定しようとする事項を担当している部門とするのが原則である。

2)規程のレベルの適切な選択

・規程集の最上位に来る「規程等管理規程」が作成されていれば、各レベルの規程で定めるべき事項の性質が規定されているので、その趣旨を踏まえ、制定する事項の内容とその重要度に応じた適切なレベルを選択しなければならない。これが新規制定の際に最も留意すべき点である。

・不適切なレベル選択は、「規程等管理規程」の趣旨に反するばかりでなく、社内のガバナンスを阻害することにもなるので、十分な注意が必要である。

3)現行規程との関係に対する考慮

・社内規程は規程事項の内容によって、組織、業務、人事、コンプライアンスという四つの分野に大別される。

・新規の規程といっても、現行の規程と全く無縁の存在ではなく、何らかの関係を持つ場合が少なくない。

・上位にある規程との関係だけでなく、同列の規程との関係にも留意する必要がある。

8 規程のレベル選択を間違いやすいのはなぜか

・規程等管理規程では、「重要な事項は上位の機関が決める」という思想に基づき、各レベルの規程に置いて規定すべき事項を次のように定めている。

画像出展:「社内規程立案の手引き」

・レベルの選択を間違えるというのは、上記のような対応関係を考慮せずに不適切なレベルの規程を選択してしまうことである。その中でも最も起こりやすい間違いは規程又は規則で規定すべき事項を細則又は要領で想定してしまうことである。このような間違いが起こる原因としては、次の三つが考えられる。

1)特定を定める規程のレベルに関する誤解

・一般的に、特例、特則は一般則と同じレベルでなければならない。この原理は法令も同様である。

2)規程の主管と規程のレベルとの混同

・レベルの選択は規程の内容とその重要度によって判断すべきである。その内容が各部門に関係し、全社的な統制の下で実施すべきものであれば、重要性を鑑みて、上位のレベルを選択するのが適切である。

3)手続きの簡便性に惹かれる担当者の心理

・規程のレベルが上がるほど関係者が多く、制定手続にも時間がかかるので、担当者は下位のレベルを選択しようとする意識が働き、規定事項の重要性を軽視したレベルの選択が行われやすくなる。

9 規程のレベル選択の間違いを是正する方法とは

・規定事項が全ての役職員に対して一定の義務を課し、又は一定の権利を与えるようなものであれば、規程又は規則というレベルを選択すべきであるが、立案担当者が何らかの事情により、要領という形式を選択し、施行してしまった場合には、早急に是正する必要がある。

1)レベルの是正が必要な理由

①規程等管理規程の趣旨に反する。

②社内統治(ガバナンス)の実効性が損なわれてしまう。

2)レベルの是正に必要な手続き

・規程の題名を変更することはできず、一旦「○○要領」を廃止し、同内容の「○○規程」を制定するという二つの手続きを踏む必要がある。

3)レベルの適正を確保する方策

・レベル選択の誤りの発見と是正には、法務に精通したものに検証を依頼する必要がある。

・レベルの選択の誤りを防止するには、法務担当者の研修や啓蒙活動の他、審査する体制の構築が求められる。

10 現行の規程を改定する場合、特に留意すべきことは何か

・改定には、字句の変更、条項の追加、条項の削除という三つの類型がある。

・主な留意点には、目的規定との関係、題名、章名等との関係、追加する条項の単位がある。

1)改定の三類型

改定の三類型
改定の三類型

画像出展:「社内規程立案の手引き」

2)目的規定との関係

規程の第1条に目的規定がある。規程を改定する際には、改定した後の条項の内容と目的規定で定められている内容と整合していることを確認しなければならない。追加条項と整合するように現行規程の目的規定を改めるか、条項の追加ではなく、新規規程の制定という形式にする場合もある。

3)題名、章名等との関係

・目的の修正を要する追加改定を行う場合、題名が適切でなくなることもあるため相応しい題名に変更する。

・例えば、コンプライアンス組織規程に業務運営に関する条項を追加するような場合には、題名をコンプライアンス体制運営規程などと改正する必要がある。

4)追加する条項の単位

条項の追加する際には、条として追加するか、項として追加するかを検討する必要がある。密接な関係にある場合は項として追加し、やや独立した関係にある場合は、別の条を建てて規定するのが適切である。

11 規程の立案に際して手続面で履行すべきことは何か

・規程の立案には幾つかの段階がある。

①立案の開始を決定した段階:全行程の想定

②案文を作成するまでの間:関係先との協議

③案文を作成した段階:審査部への持ち込み

④機関決定後、施行までの間:社内における周知

1)全行程の想定

・案文の作成から機関決定を経て施行に至るまで、どのような手続をどの時点で履行するかを検討し、全工程の予定を想定しておく。

2)関係先との協議

・必要に応じて関係先との協議は早めに進めた方が良い。

3)審査部への持ち込み

・立案者の案文の審査は余裕をもって依頼するよう心掛けたい。

4)社内における周知

・規程成立後、施行されるまでに社内への周知を迅速かつ十分に行うことが重要である。特に制定・改定の背景や趣旨を詳しく説明したり、特に関係が深い者を対象に説明会を開催するなど周知のための工夫や配慮が必要である。

第3章 規程全体の書き方

12 社内規程の構成は法律とどこが違うのか

・社内規程の構成というのは、社内規程の全体にどのような規程をどのような順序で配列するかという問題である。

1)共通点

①冒頭に題名を付ける。

②本則、附則の順に条文を規定する。

③本則には規程の目的に直結する本体的な事項を規定し、附則には付属的な事項を規定する。

④本則の条文が多数に及ぶ場合には、「章」、「節」などの区分を設ける。

⑤本則に章などの区分を設ける場合には、第1章は「総則」とし、目的、定義など、規程全体に関連する事項を規定する。

⑥附則の冒頭に、施行期日を定める規定を置く。

2)相違点

(1)罰則の有無

・罰則は法律にしか存在しない。

・社内規程の場合には、罰則という制裁がないので、就業規則の中に通常、「社内規程に違反する行為が懲戒処分の対象となる」旨を定める規定をおく。これが違反行為を抑止する役割を果たしている。

(2)制定権者を示す条文の有無

・本則の最後に必ず、制定・改廃権者が誰であるかを示す条文が置かれる。

13 社内規程の題名を付ける際に留意すべきことは何か

1)社内規程における題名の例

・社内規程の題名は、概ね簡潔である。

2)法律における題名の例

・法律の題名は、簡潔なものと長文のものがある。

3)「規程等管理規程」という題名について

・社内規程の階層や効力関係など、社内規程全般に及ぶ重要事項を定める通則法的な規程である。

14 社内規程の本則には条文をどのように配列すべきか

・社内規程に共通する基本原則

条文配列の基本原則
条文配列の基本原則

画像出展:「社内規程立案の手引き」

1)総則的な条文の配列順

・目的規定は、原則として、全ての規程の第1条として置かれる条文である。

2)実体的な条文の配列順

・条文の配列順序はケースバイケースであるが、その内容を性質別に分類できる場合には、その性質を手掛かりに配列する。

・行為の準則を定める規程であれば、規定対象の行為に関する条文を時系列で並べるのが適切である。

3)雑則的な条文の配列順

・雑則的な条文の中には、本則の最後の条として、各規程の改廃の権限・手続を定める条文である。

15 章の区分について留意すべきことは何か

1)章に区別すべき場合

・本則の条文が多数あり、条文の見出しを追うのも大変な場合には、章に区分した上で、目次を付すのが一般的である。

2)条文のグループ分け

・重要なことは同じ章には同質の条文だけを置く。

3)章名の付け方

・章名は内容を端的に表示したものでなければならない。

・章名は「組織」「運営」など、できるだけ簡潔な方が良い。

・雑則的な条文は、「雑則」「改廃」という章名が相応しく、「第○章 その他」のような章名は不適切である。

16 目次について留意すべきことは何か

・目次は題名と本則の間に置く。

1)目次を置くべき場合

・規程の本則が章に区分されている場合には、必ず目次を置くようにすべきである。

2)目次の体裁

条文配列の基本原則
条文配列の基本原則

画像出展:「社内規程立案の手引き」

・上記にあるように、各章の章名と、各章に属する条文の範囲を示す括弧書きを表記する。

3)目次のメンテナンス

目次のある規程を改定する際には、改定による目次への影響に注意しなければならない。本則にある章名の変更や追加、削除を行う場合は、目次中の関係部分を全て改定しなければならない。

・条文の範囲が括弧書きで記載されているときは、改定後の本則の条名と整合するよう改定しなければならない。

17 社内規程の附則にはどのようなことを規定すればよいのか

・社内規程の附則は、通常、施行時期を規定する条文だけが記載されている。

画像出展:「社内規程立案の手引き」

1)「附則」という表記

・附則では、先ず、自らを「附則」と表記し、その後で次行から条文を書くことになっている。

2)制定・改定履歴の付記

・最終行に記載されている改定の年月日が、附則の条文に規定される施行時期となっている。

補足)“ひな型Rev1.0”のその後

”たたき台Rev0.1”を、何とか”ひな型Rev1.0”までブラッシュアップしましたが、その後、施行まで3つのアクションをとりました。

1.すでにお世話になっていた「埼玉県よろず支援拠点」の先生にご相談しご指摘を頂きました。

2.非営利型一般社団法人に精通されている、顧問税理士の先生にご確認頂きました。

3.浦和西高のOBでもある、顧問弁護士の先生に最終の確認をして頂きました。

以上、必要カ所の修正を行い、完成した正式版Rev1.0を一社UNSSの全メンバーに説明し、承認を受けめでたく施行となりました。(自分自身に「お疲れ様」といいたい)

埼玉県よろず支援拠点
埼玉県よろず支援拠点

『「埼玉県よろず支援拠点」は、経済産業省・中小企業庁が、全国47都道府県に設置する経営なんでも相談所です。

中小企業・小規模事業者、NPO法人・一般社団法人・社会福祉法人等の中小企業・小規模事業者に類する方の売上拡大、経営改善など経営上のあらゆるお悩みの相談に無料で対応します。』