超ひも理論はテレビで知りました。耳にした内容は「相対性理論」と「量子論」を結びつけるような画期的な理論だということでした。
過去に量子論という超難解なものに手を出しているのですが、これはブルース・リプトン先生の『思考のすごい力』という本がきっかけです(ブログ“がんと自然治癒力13”の最後[追記:“量子物理学が生物学・医学を変える日は近い”]にその経緯があります)。
著者:ブルース・リプトン
出版:PHP研究所
発行:2009年1月
ブルース・リプトン先生が感銘を受けた本が、こちらの『量子の世界』です。
著者:H.R. パージェル
出版:地人選書
発行:1983年11月
この中に“量子論の奇怪さ”について書かれた章があります。下記はその一部です。
『「量子的奇怪さ」とはいったい何なのか。それを見るため、新しい量子論の物理学を、それが取って代わった古いニュートン物理学と対比させてみよう。ニュートンの法則は、石の落下や惑星の運行とか、川や潮の流れなど、見慣れた物体やありふれた出来事からなる、目に見える世界の秩序をつかさどるものだ。このニュートン的世界像を第一義的に特色づけているのは、決定論的性格と客観性である。つまり、時計仕掛けとしての宇宙は時間の始まりから終わりに至るまで決定しているし、石や惑星などは我々が直接にそれらを観測しなくても客観的に実在しているのだ―背を向けていたってちゃんと存在している。
量子論になると、世界を(決定論や客観性のような)常識に基づいて解釈することはもはや許されなくなる。もちろん量子世界も理性によって理解しうるのだけれども、ニュートン的世界のように描写してみせることはできないのだ、これは原子やそれよりも小さい量子の世界の極微性だけが原因ではなくて、通常の物体の世界からそのまま借用した表現の手段が量子的対象には通用しないということによっている。たとえば、石などはそれが静止していて、しかもある定まった場所に置かれているという様子を我々は容易に心に描くことができる。だが電子のような量子的粒子に対して、それが空間のある一点に静止しているなどと言っても意味をなさないのだ。さらに、電子は、ニュートンの法則ではありえないような場所にも物質化して現われることができる。』
1965年に量子電磁力学の発展への貢献により、ノーベル物理学賞を受賞された物理学者のリチャード・フィリップス・ファインマン先生は次のようなユニークなアドバイスをしています。
『量子力学が本当に理解できている人はまずいないだろう、と言って私は間違っていないと思う。諸君はもしできるなら、「だが、どうしてそんなことがありうるのだろうか」と自分自身に問い続けるのはやめた方がよい。なぜならますます深みにはまって、袋小路をさまようのが落ちで、そこから出口を見つけて出てきた人はまだいないのだから。どうして量子力学ではそうなるのかは、誰もわかってはいないのだ。』
超ひも理論の「最小部品の“ひも”は1秒間に10の42乗回以上で振動している」とか、「それは9次元(もしくは10次元)で高速に振動している」などは、理解不能、イメージ困難な別世界です。ここは、ファインマン先生の教えに従い、これらの異次元のものへの追及は早々にあきらめ、超ひも理論が「相対性理論と量子論を統合する理論」と言われている理由は何なのか? これが分かれば良しとしたいと思います。
手に入れたのはNewtonの別冊“超ひも理論と宇宙のすべてを支配する数式”です。4章に分かれていますが、ブログは最も知りたかった【量子重力理論(相対性理論と量子論を統合する理論)】を最初にお伝えし、その後、1章について何となく分かったような気になった箇所をいくつか列挙します。
編集:木村直之
出版:ニュートンプレス
発行:2019年3月
目次
1.超ひも理論入門
プロローグ
●“究極の数式”を求めて①~②
●物質の“最小部品”
ひもの正体
●ひもの性質①~②
●ひもの振動
●ひもの振動と質量①~②
超ひも理論の世界
●超ひも理論の歴史①~②
●高次元空間①~②
●超対称性
●ブレーン①~②
究極の理論をめざして
●量子重力理論
●宇宙のはじまり
●ダークマター
●超ひも理論の証明
●広がる応用例①~②
2.もっとくわしく! 超ひも理論
特別インタビュー
●橋本幸二博士 超ひも理論の次の“革命”は明日にもおきる!?
●ブライアン・グリーン博士 超ひも理論の“伝道師”が語る、理論物理学の最前線
●大栗博司博士 「万物の理論」の探求物語
余剰次元の検証
●「見えない次元」をさがし出せ!
3.宇宙のすべてを支配する数式
宇宙のすべてを支配する数式①~②
第1項
●重力の作用①
第1項の前
●重力の作用③
第2項
●電磁気力・弱い力・強い力①~②
第3項
●粒子と反粒子①~②
第4項・第5項
●質量の起源①~②
第6項
●湯川相互作用①~②
未来の数式
●ダークマター①~②
●力の統一
●究極の理論
4.もっとくわしく! 宇宙のすべてを支配する数式
特別インタビュー
●村山斉博士 最終的には、一つだけの力、一つだけの基本法則ですべてを説明したい
●南部陽一郎博士 何もないところに種をまくのが楽しい
●梶田隆章博士 素粒子の「標準理論」を超える、新たな地平を開いた
●量子重力理論
・『相対論と量子論が“結婚”出来れば究極の理論になる』
-相対性理論は時間や空間、そして重力に関する物理学の理論である。
-量子論は原子や素粒子などのふるまいを説明する物理学の理論である。
-多くの超ひも理論研究者は、「量子重力理論」と「究極の理論」をほぼ同じ意味で使っている。
-相対論と量子論が統合したものは「量子重力理論」と呼ばれているが、ミクロな世界での重力の計算に「くりこみ理論」を適用できないことが統合できない理由である。
-ミクロな距離を伝わる重力を相対性理論に基づいて計算しようとすると、電磁気力には適用できた「くりこみ理論」が使えず、計算結果に無限大があらわれてしまい、計算が破たんする。
以上のことから、マクロの世界に加え、ミクロの世界でも重力計算ができるようになれば、究極の理論は完成するということです。そして”素粒子=点”ではなく、”素粒子=ひも(弦)”と捉えることにより、可能性が生まれるということが分かりました。
※くりこみ理論:場の量子論で使われる、計算結果が無限大に発散してしまうのを防ぐ数学的な技法。(ウィキペディアより)
1.超ひも理論入門
『超ひも理論によれば、あらゆるものは、分割していくと、最終的にきわめて小さな「ひも」にたどりつくと考えられています。超ひも理論は未完成の理論ですが、現代の物理学者たちが追い求める“究極の理論”になる可能性を秘めています。』
プロローグ
●物質の“最小部品”
・『「超ひも理論は、ひとことでいえば、物質の“最小部品”である素粒子が、大きさをもたない[点]ではなく、長さをもつ[ひも(弦)]でできていると考える理論です」。』
ひもの正体
●ひもの性質①~②
・ひもは伸び縮みして切れたりくっついたりする
・ひもは一つにつながったり、二つに分かれたりする
●ひもの振動
・ひもは、常に高速で振動している(ひもは1秒間に10の42乗回以上も振動すると考えられている)
●ひもの振動と質量①~②
・ひもは振動が激しいほど重い
・ひもは開いたひも(光子や電子など)と閉じたひも(重力子[未発見])がある
超ひも理論の世界
●超ひも理論の歴史①~②
・素粒子を点(大きさをもたない)だと考えたときの“限界”をひもは突破できる
・『現在、自然界には、「電磁気力」、「弱い力(原子核を構成する中性子が陽子に変わる反応[ベータ崩壊]などを引きおこす力)」、「強い力(原子核の中で陽子や中性子を結びつける源となっている力であり、ごく近距離ではたらく)」、そして「重力」という四つの力が存在することが明らかになっています。標準理論では、そのうち電磁気力、弱い力、強い力の三つについては、いっしょに計算することができるのですが、どうしても「重力」を合わせて計算することができないのです。
このような標準理論の限界は、「素粒子=点」だと考えたときの矛盾点をなくす理論である「くりこみ理論」の限界を意味します。この限界を突破する可能性を秘めたのが、「素粒子=ひも」だと考える「超ひも理論」です。』
●高次元空間①~②
・ひもの振動状態と現実の素粒子を矛盾なく対応づけるためには、ひもの振動方向(次元)は9個(9次元)必要になる。6次元は「コンパクト化」されており、小さすぎて私たちはその存在に気づけない
●超対称性
・素粒子のスピン(自転)が整数のボソンに、半整数のフェルミオンを加えたことにより、パートナー粒子(超対称性粒子)の存在を認められ、自然界に存在するすべての素粒子を扱えるようになった。
●ブレーン①~②
・超ひも理論には、1次元の“ひも”に加え、2次元の“膜”や“立体”もある。
究極の理論をめざして
●宇宙のはじまり
・宇宙のはじまりはミクロの世界で重力が非常に強くなる。これは、素粒子が狭い空間にぎゅうぎゅうに詰め込まれた、高温・高密度な状態と考えられるからである。
・空間さえもゆらぐミクロの世界での重力を、正しく計算できる可能性があるのは、超ひも理論だけである。
●ダークマター
・超ひも理論により、物質の素粒子と重力の関係が詳しく分かるようになると、ダークマターの正体と思われる未発見の素粒子についての発見も期待できる。
・ダークマターとは、そこには何かがあるようには見えないが、何らかの重力源が存在する謎の物質のこと。
●超ひも理論の証明
・『「超ひも理論では、ひもの振動がはげしくなると、そのひもに対応する素粒子のエネルギーが段階的にふえて、重くなります。たとえば、同じような性質だけれども、質量が2倍、3倍の重い素粒子が存在するということです。超ひも理論が予言するそのような重い粒子をみつけることができれば、理論の正しさを裏づける強力な証拠となります」』
・『「超ひも理論が予言する素粒子の多くは非常に重く、発見するにはLHC(ヨーロッパ原子核研究機構[CERN]が保有)の10兆倍ほどのエネルギーが出せる加速器が必要です。それらの重い粒子を加速器で発見するのは現実的ではありません。ただし、超ひも理論のモデルによっては、LHCや今後つくられるであろう次世代の加速器でも探索可能な、比較的軽い素粒子が存在する可能性もあり、それらの軽い素粒子であれば発見できるかもしれません」』
・『「理論の正しさという意味では、実験結果を説明できることのほかに、数学的に矛盾がないかどうかという点も重要です」』
加速器LHC
『左のイラストは、加速器LHCの全景を地上の風景に重ねてえがいたものです。LHCは1周約27キロメートルの環状の施設であり、地下100メートルのトンネル内に設置されています。巨大な実験装置が四つ設置されており、余剰次元の検証実験はATLASとCMSという実験装置で行われてきました。』
加速実験のイメージ
『LHCでは、陽子(水素原子核)を光速近くまで加速し、正面衝突させます。すると、さまざまな粒子が発生するので、これらの衝突地点の周囲に配置した検出器でとらえます。こうして得たデータをもとにして、どんな反応がおきたのかを調べるのです。』
●広がる応用例①~②
・『超ひも理論から生まれた計算手法による予言が、実験結果とぴたりと一致』
・『超ひも理論から生まれた計算手法で、ブラックホールの謎が解明された!?』
付記:宇宙はどうして進化してきたのか?
宇宙の進化に関するイラストが2つありました。昔からちょっと興味を持っていたことだったので拝借しました。
画像出展:「超ひも理論と宇宙のすべてを支配する数式」
劇的に進化していった誕生直後の宇宙
『私たちの宇宙は、今からおよそ138億年前に誕生したとされている。宇宙が誕生した原因は、いまだによくわかっていない。宇宙の誕生後のわずか10のマイナス36乗秒後から、10のマイナス33乗秒後というごく短時間の間に、1兆の1兆倍のさらに1000万倍(10の43乗倍)程度の大きさまで急膨張したと考えられている。この急膨張が「インフレーション」だ。このときに生じたとされる特徴的な重力波が「原始重力波」である。インフレーションのあと、宇宙には大量の素粒子が誕生し、宇宙は超高温・超高密度のまるで“火の玉”のような状態(ビッグバン宇宙)になったと考えられている。
高温・高密度の宇宙は、インフレーション期とくらべてゆっくり膨張しながら温度を下げていき、素粒子から陽子や中性子を、そして陽子や中性子から原子核を生みだした。ここまでにかかった時間は、たった3分程度だという。その後、電子と原子核が結びつき原子が誕生するのだが、それは宇宙誕生から約37万年もあとのことになる。』
宇宙誕生の瞬間は観測できない!?
『私たちは光(電磁波)を使い、地球から宇宙のようすを観察している。光の速度は有限なので、遠くから光が届くまでには時間がかかる。そのため遠くからきた光をみることは、宇宙の過去をみることと同じだ。しかし、原子が誕生する前までの宇宙は、不透明なプラズマ(ここでは電子と原子核がばらばらになった状態のガスを意味する)で満たされており、光で見通すことができない。そのため、私たちが観測できるのは、原子が誕生したあと(宇宙誕生から約37万年後以降)の時代がやってくる光だけだ。原子の誕生は、不透明なプラズマに満たされた宇宙の終わりを意味するので、これを「宇宙の晴れ上がり」という。
宇宙の晴れ上がり以前の宇宙のようすは、プラズマに邪魔されない原始重力波や、原始重力波によって「宇宙背景放射」に刻みこまれたインフレーションの痕跡(原子重力波)などから調べられようとしている。』