“氣”とは何だろう11(科学編)

著者:湯浅泰雄

初版発行:1991年1月

出版:日本放送出版協会

目次は“氣とは何だろう9”を参照ください。

『経絡における気の作用という現象は、この問題についてわれわれに新しい見方をとる必要を示唆している。戦後まもないころ、「経絡戦争」が起こったとき、間中喜雄氏は、「経絡という概念は将来、従来否定されてきたような意味で否定されるべきものでなく、また経絡肯定論者があると考えているような意味で存在するのでもないというような日が来るのではあるまいか」とのべたという。筆者[湯浅先生]には、この間中氏の予言は深い意味をもっているように思える。』

上記の間中先生のご指摘通りのことが起きているように思います。

今回は“氣とはなんだろう”の9、10のまとめです。とても重要なので以下の項目に分けて勉強したことを整理してみました。

1.病とはなにか

2.気とは何か

3.気血とは何か

4.経絡とは何か

5.情動とは何か

6.呼吸法とは何か

7.間人的同調とは何か

8.その他(生体の場)

1.病とは何か

1)全身をめぐる経絡内の「気血」の流れの異常に病因を求めるものである。

2)中国では脈診法が古代から現代まで受け継がれており、西洋医学とは全くことなる精緻なもので、病を判断する重要なものである。

2.気とは何か

1)気は「技」の体験と結びついて生まれてきた実践的経験知である。

2)気(気功師の発功)は物理的方法で捉えることができる。

3)気功師が発する赤外線はせいぜい数マイクロワットで、普通の赤外線発生装置(例えば、赤外線コタツ)の1億分の1か10億分の1程度にしかならない。

4)中国では人体内部だけでなく、人体の外部に発生するエネルギーにも注目している。それは人体と環境、つまり人間と自然が関わる。

5)人体の内外を流れているエネルギーは、電流や赤外線の他にも、磁気・超低周波(耳に聞こえない音)・光(生体の微量発光)などが知られている。

6)気の作用の特徴的なことは、心身の訓練に熟達した気功師は赤外線、磁場、超低周波、フォトンなどを意識集中(意念)によってその発現状態をコントロールできる。

7)人体に磁場が発生することが重要ではなく、人間の意識と磁場に相関関係があることが重要である。

8)気功師が気を発するときには、耳に聞こえない音が脈打ちながらその身体から出ていると考えられる。

9)生命体はすべて、微量ではあるが光を出している。これをバイオフォトン(biophoton)という。

10)気功師のフォトンの量は一般人と比べて大差はないが、気功師は気を出したり止めたりすることができる。それに伴ってフォトンの量が顕著に増減する。

11)気の作用が何らかの形で物質的エネルギーの作用と相関関係があるらしいという事実が認められたことは大変重要である。

12)明らかになった物理エネルギーは、生きた人体に備わっている作用なので、気とは人体を生きた状態に保っている基本的なはたらきである。

13)気は心理作用と生理作用に関わる。そして物質的エネルギーも伴っているので、心理-生理-物理(精神-生命-物質)という三つの次元を統合するエネルギーである。

14)治療に当たった気功師は、気を発したあと、非常に消耗した状態になるが、このことも心理作用と生理-物理作用の相関性を示している。

15)気は生命体に特有な未知のエネルギーである。

16)気の流れは生理的機能を活性化する。

17)気の流れは生体電流のような作用を介して間接的に推察されるものであり、直接的に気のエネルギーを認知することはできない。

18)気の流れは生理的側面だけでなく、主観的な心理的側面において感じられる働きである。

19)心理-生理的観点からみた場合、気の訓練は自律神経のはたらきと深い相関関係をもっている。

20)気は心(意識-無意識)と身体を媒介し、心理領域と生理領域の間の一種のエネルギー変換をつかさどっている作用である。

21)気とは心身の訓練を通じて感じられるようになるはたらきである。

3.気血とは何か

1)目に見える血の運動をコントロールしているのは、見えない気のエネルギーの流れである。

2)古書には「気行けばすなわち血行く」といわれ、気の流れが血液や体液の循環運動を支配していると考えられてきた。

3)気が超低周波を含んでいて血管の中を伝わって伝播しているということは、生理学的立場からみても一定の妥当性があるということを示している。

4)気功師が意念すると脳(11.8%)、上肢(24.1%)、下肢(26.9%)、下丹田(34.8%)の血流量はすべて増加した。逆に、意念しなかった部位で血流量はすべて下降した。

4.経絡とは何か

1)経絡は神経系と血管系の二つを統合する高次のネットワーク・システムともいうべき性質を与えられている。

2)本山博氏の研究は経絡を通る気の流れの運動は、神経系を介するものではなく、体液系によって起こっていることを明らかにした。そしてそれは皮下組織の部分である。

3)心理的からみればそれは無意識の領域に関連した人体のかくれた情報システムであり、生理面からみればみえない次元で栄養機能をコントロールしているシステムである。

4)潜在的な次元において「こころ」と「からだ」のはたらきを統合しているのが経絡のシステムであると考えられる。

5.情動とは何か

1)情動の作用は、外界感覚-運動回路(感覚器官・運動器官の活動)がスムーズに働くためのエネルギーか潤滑油の働きをしているといえる。

2)瞑想は情動の働き方の歪みを直し、それを自由にコントロールする訓練である。

3)情動をコントロールすれば、無意識の力を意識的に統合することができる。

4)心は情動作用を通じて自律神経の働きに影響を及ぼし、内臓器官の活動に影響を与える。

6.呼吸法とは何か

1)東洋の修行法にみられる瞑想や武術の訓練は呼吸法の練習から始まる。中国・日本の古武道でも、呼吸法の訓練は昔から非常に重視されてきた。

2)呼吸法による「気」の訓練は、心の訓練と身体の訓練を一つに結びつける位置におかれている。

3)呼吸法の訓練から始まる心身の訓練は、意志の自由が及ばないと考えられている自律系の生理的機能にまで影響し、その潜在能力を高める。

7.間人的同調(transpersonal synchronization)とは何か

1)気功師が発した外気を受けて、受け手の患者の血管内部に大きな振幅の超低周波が発生したことが確認された。これは間人的同調の現象である。

2)人間関係においては、感覚と意識の認知に関わらない深層レベルにおいて、情報=エネルギーの受発信が無自覚のうちに互いに行われているという可能性が考えられる。

3)気のはたらきは、心理-生理-物理のレベルでエネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに一定の影響を与えている。

8.その他(生体の場)

以下は、間中先生が紹介された、末広恭雄教授が提唱された「生体の場」という考えです。調べてみると『生体の場の特性』という末広先生の著書が1970年4月に発行されていました。「気の間人的同調」を考えるうえで非常に重要ではないかと思い、この本も今回の“氣とは何だろう”というブログの題材の一つとさせて頂きました。

 『気のはたらきはこのようにして、心理-生理-物理のレベルでエネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに一定の影響を与えている。われわれはそれを生体に固有な「エネルギー場」とよぶこともできるであろう。間中喜雄氏は、魚類学者の末広恭雄教授が提唱された「生体の場」という考え方が、東洋医学の身体観にとってきわめて有益であると説いている。それによると、ウィルスから細胞、細胞の集まりである生物体、さらに生物体の集まった集団に至るまで、生命体はそのまわりに「生体の場」をつくり出している。この場合、生体の場には、意識的であれ無意識的であれ、「場」の領域内部が自己に属し、領域外は非自己として区別される。そういう生体の場が自己のまわりに形成されると、「非自己」からたとえば刺戟のような外力がこの場に加わると、必ずこれに対する反作用が生じる。この反作用は刺戟に対する興奮といった形で現われる、という。気のはたらきは、このような意味の生体エネルギーの場をつくり出しており、そこには外部に対する同調と拮抗という関係が見られる。気功師の発する気が他人の心身の状況に一定の作用をひき起こすという現象は、広い意味で間人的同調transpersonal synchronizationとよぶことができるであろう。』

一通り整理した内容から、特に重要ではないかと思えるものを絵にしてみました。

ポイントは[呼吸系・循環系][消化系・代謝系]、それに自律神経[特に情動]が関与しており、さらに間人的同調として外部に影響を与えるエネルギーではないかというところです。

「気」を考える場合、まず“気血”に注目したら良いのではないかと思います。それは「気血の流れの異常に病因を求める」という考えがあるためです。やはり、最も重要なことは命(健康と病気)だと思います。

『古書には「気行けばすなわち血行く」といわれ、気の流れが血液や体液の循環運動を支配していると考えられてきた。』とされていますので、「気血」は一体であると考えられます。

「血(血液)」は酸素と栄養素に加え、生きるために必要な様々な生理活性物質を含んでおり、各組織に供給されます。現代でも血液検査は多くの病気の診断のために最も有効な検査となっており、血液は生命と健康のバロメータとも呼べるものです。

※ご参考:「血液検査の見方 国立病院機構兵庫中央病院 研究検査課」pdf3枚

◆さらに、付け加えるならば、1000年、2000年前の時代においても血は目に見えるものであり、血が大量に失われれば死に至るものだったので、極めて重要なものと考えられていたと思います。

科学に頼ることができなかった時代おいて、“神の経脈”と呼ばれた神経(中枢神経・末梢神経)の働きを深く理解することには限界がありました。しかし、現代において「気血の流れ」を考えた場合、自律神経系と脳の働きを無視することはできません。絵の中に“情動”(七情:怒・喜・憂・思・悲・恐・驚)と“自律神経系”を加えたのはそのためです。

◆一方、気功師の外気発功を計測器で測定すると、極めて微弱ですが、電気、磁気、磁場、超低周波、フォトンが人体から発せられていることが確認できます。また、これらの物理エネルギーは意念(意識集中)によってコントロールできることも明らかになっています。

湯浅先生が『気は心理-生理-物理(精神-生命-物質)という三つの次元を統合するエネルギーである。』とされるのはこのような実験結果からです。また、『エネルギーの変容を行いながら人体の外部にまで作用してまわりに影響を与えている。』という見解も見逃すことのできないもので、“間人的同調”という考えにつながります。外気功では送り手と受け手の同調が認められるように、気は体内に留まっているだけの存在ではなく、自己を取り巻く環境にも影響を与えるものだと思います。

◆この後の「ご参考」で紹介させて頂いている気療をみても、気の外部への影響を否定することはできません。少なくとも「影響する」という前提にたって、よくよく調べたいと思っています。先にお伝えした『生体の場の特性』という末広先生の著書に興味を持つのもこうした理由からです。

◆“個体の生存”と“種の保存(生体の場)”という表現が適切かどうかは分かりませんが、「気」は個々の命と種全体の命、時に種を超える地球上の生命体を守るために存在しているのではないのだろうかと思います。そこには遺伝子や量子エネルギーが関係しているのかもしれません。

中国において「気」が環境や宇宙といった外の世界にも広がるのはこのような考えからではないかと思います。

ご参考

私は2018年4月に“「気療」について考える”というブログをアップしているのですが、この本に書かれている内容が動画になっているのを知りました。いずれも大変興味深い映像なのでご紹介させて頂きます。

神沢先生の気療に対して、動物は人間より敏感に感じているのではないかと思います。人間は理性を司る大脳(新皮質)が発達し、文明社会の中で生きています。一方、動物は旧皮質の大脳辺縁系の働きに依存しています(魚類・両生類・爬虫類・鳥類は大脳辺縁系しかないそうです)。気の働きが情動などを司る旧皮質を中心に及ぶものだと仮定すれば、人間より動物の方が気の影響を受けやすいということは妥当なことのように思います。

今回、あらためて気療に興味をもったので、神沢先生の2023年1月に発行された最新の著書である、「気療の奥義 手を振るだけであなたも動物を癒せる!」も拝読させて頂こうと思います。




湯浅先生の本書の中にも気療を肯定するような説明がありました。

1.『青木はこれについて次のように語っている。「対立する世界をこえて、まず自分が無になることです。そうすれば融和して、限りなく相手と一体になる。自分は相手であり、相手は自分です。そういう状況では相手の気持ちの切れ目が分かるので、そこにスパーンと気合を打ち込んだら離れた相手をも倒すという、俗にいう遠当なるのです。

2.『人体の内部で電気的現象などが起こっているとすれば、それが人体の外部にまで何らかの作用を及ぼしているということも、理論的には予想できたことである。