2冊の本を読み終え、“氣”の理解を深めるためには、あらためて基礎的な勉強をし直す必要があると考え、鍼灸院の本棚から「東洋医学概論」という専門学校の教科書を引っぱり出してきました。当時は国家試験のために勉強していましたが、今回は“氣”という観点から目を通していこうと思います。当時、見過ごした大事なことを発見できるかもしれません。
編者:社団法人 東洋療法学校協会
著者:教科書執筆小委員会
発行(第1版第19刷):2011年3月
出版:医道の日本社
補足)”氣”について
「気」という漢字が、”氣”に代わって使われるようになったのは戦後のGHQによる漢字の改良が行われたときだそうです。
ご参考:“「氣」はなぜ「気」に変わった?そもそも「米」が入っていた意味は?!”
目次
第1章 基礎理論
1.東洋医学の起源と発展
1)東洋医学の特徴
(1)理論と実践
(2)東洋医学を生み出した思想的な特徴
(3)人と自然についての見方
(4)人体を小自然(小宇宙)と見る
2)東洋医学の起源
(1)原始的医術
(2)「気の思想」による生理・病理観
(3)鍼灸、湯液、気功、導引の起源
3)東洋医学の発展
(1)『黄帝内経』の成立
(2)中国医学の系譜について
2.陰陽五行論
1)陰陽学説
(1)気の思想
(2)陰陽概念の発生
(3)陰陽論の特徴
2)陰陽論の医学上の具体的な応用
(1)人体の組織構成
(2)生理機能の陰陽
(3)病理変化の陰陽
(4)診断と治療の陰陽
(5)三陰三陽について
3)五行学説
(1)五行の発想と限界
(2)初期の頃の素朴な五行説
(3)五行と気の思想
(4)五行の相互関係
(5)五行説の効用と限界
(6)五行学説の特徴
4)五行学説の医学への応用
(1)五臓の生理機能を説明する
(2)五臓間の相互関係を説明する
(3)疾病の伝変を説明する
(4)診断と治療に用いる
第2章 東洋医学の人体の考え方
1.気血津液
1)気の生成と種類
2)精と神
(1)精
(2)神(神気)
3)気
(1)原気(元気)
(2)宗気
(3)営気(栄気)
(4)衛気
(5)その他の気の概念
4)血
5)津液
2.五臓六腑(蔵象)
1)臓腑概説
(1)臓腑とは
(2)臓腑間の関係
(3)臓腑の位置
2)五臓
(1)心
(2)肝
(3)小腸
(4)大腸
(5)膀胱
(6)三焦
4)奇恒の腑
(1)骨・髄・脳
(2)脈
(3)女子胞
3.臓腑経絡論
1)経絡概説
(1)経絡説の成立ち
(2)経絡の構成
(3)経絡の機能
(4)十二経脈について
(5)奇経八脈
(6)その他の経絡系
第3章 東洋医学の疾病観
1.病因論
1)概要
2)外因(六淫)
(1)風
(2)寒
(3)暑(熱)
(4)湿
(5)燥
(6)火
(7)六淫以外の外邪
3)内因(七情)
(1)七情
(2)内因と気血
(3)内因と五臓
4)不内外因(飲食労倦)
(1)飲食
(2)労倦
(3)外傷
2.病理と病証
1)八綱病証
(1)病位の違いでとらえる
(2)病情によってとらえる
2)気・血・津液の病理と病証
(1)気の病理と病証
(2)血の病理と病証
(3)津液の病理と病証
3)臓腑病証
(1)五臓の病証
(2)六腑の病証
4)経絡の病証
(1)是動病と所生病
(2)十二経脈の病証
(3)奇経八脈病証
5)六経病証
(1)六経病
(2)三陰三陽病
6)代表的な疾病
第4章 診断論
1.四診
1)診断の一般
(1)診断の目標
(2)診断の心得
(3)診断の種類
2)望診
3)聞診
4)問診
5)切診
(1)脈診
(2)腹診(按腹)
(3)切経
2.証のたて方
1)証について
(1)湯液の証(漢方の証)
(2)鍼灸の証
(3)本証と標証
(4)主証と客証
(5)その他
2)証の決定
(1)証決定の手順
(2)証の総合決定
第5章 治療編
1.総論および原則
1)養生法
2.治療法
1)古代鍼灸法
(1)九鍼
(2)刺法
2)補瀉法
3)その他の選穴法
4)灸法
5)治療原則
(1)治療の前提条件
(2)治療原則
3.他の東洋医学療法
1)手技療法
(1)按摩
(2)導引
2)薬物療法
(1)薬物療法の概況と歴史
(2)薬物療法の考え方
(3)診断と治療原則
(4)薬物
(5)処方
ひと通り目を通して最も気になったことは、第2章の「東洋医学の人体の考え方」です。
・東洋医学では人体の仕組みは“気の類”と“形の類”と“経絡類”の三つから成り立っていると考えます。
‐気の類:生体の活力として働く。精・気・神があり、三宝と呼ぶ。
‐経絡類:気血の通路のことで、内に臓腑と結びつき、外に頭、体幹、四肢、体表部と連絡している。
‐形の類:身体の構造を形作る。体内の各器官や組織を指す。五臓を中心とした「蔵象」によって相互に関連づけられている。
以下は教科書にあった「東洋医学の人体の仕組み」の図をベースに、一部加筆(青字部分)したものですが、追記した内容はあくまで個人的な考えです。
消化と代謝の関係がよく分からなかったのでAI(Perplexity Pro)に質問しました。
栄養素の効率的に活用するための働き、前半(消化)、後半(代謝)で役割分担しているようなイメージです。
図の3番目にあった、“形の類”とは五臓六腑を中心とする考えであり、西洋医学では臓器に相当します。例えば、肝と肝臓、腎と腎臓は、それぞれ似て非なるものです。
画像出展:「九州大学附属図書館企画展」
『西洋では身体(ギリシャ語 soma)と魂(ギリシャ語 psyche)はすでに古代から分離したものだった。このことは、一方では体内を観察することへの躊躇を少なくし、医学の発達を可能にしたが、他方、病気はますます純粋に身体的、物質的現象として捉えられるようになった。西洋では今世紀になって、心身医学のような新しい分野が誕生し、この溝を埋める試みがなされるようになっている。』
図の2番目の“経絡類”は、「内に臓腑と結びつき、外に頭、体幹、四肢、体表部と連絡している」。とされています。これに関し、私は「経絡≒ファシア」と考えています。MPS(筋膜性疼痛症候群)の筋膜もファシアです。ファシアの説明は一般社団法人日本整形内科学研究会さまのホームページよりご紹介させて頂きます。
ファシアとは:『全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の網目状組織構造。臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム。』
画像出展:「人体の正常構造と機能」
左側の図の黄色の部分が膜(ファシア)です。
また右の図では、灰色の部分が膜(ファシア)です。
皮下組織の層は浅筋膜に相当します。この層には動脈、静脈、神経、リンパ、受容体など生命のライフラインやセンサーともいえる、神経脈管系が機能しています。ファシアが重要なのは膜という構造的(物理的)な役割に加え、そのファシア内の神経脈管系が相互的に生命維持の役割を担っているためです。
ファシアへの機械的な刺激は、これらの各機能に働きかけ、心身のバランスを整え、酸素や栄養素を提供し、また、からだの掃除をして健康にしてくれるものと考えています。
画像出展:「細胞と組織の地図帳」
真皮の下の皮下組織は浅筋膜と呼ばれており、図中では浅筋膜の中に動脈、静脈、神経、受容体が書かれています。また、この図には書かれていませんが、浅筋膜の下に深筋膜があります。ファシアは広範囲かつ複合的に広がっている結合組織であるといえます。
※リンパ管については下の図をご覧ください。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)作成」
微小循環とリンパ系は密接に連携しながら、体内の恒常性維持、免疫機能などの重要な役割を果たしています。
そして、図の1番目の“気の類”が特に西洋医学と大きく異なる部分であり、まさにこの“気の類”を明らかにすることが、『氣とは何だろう』のヒントになるのではないかと思います。
それは、「生体の活力として働く。精・気・神があり、三宝と呼ぶ」と説明されています。(「東洋医学の人体の仕組み」をベースにした冒頭の図)ここでは“気の類”を広義の“氣”とします。一方、「精・気・神」の中の「気」を狭義の“氣”とさせて頂きます。
そして、広義の気、つまり“気の類”を中心にして検討を進めます。少々強引ですが、「精≒消化系/代謝系」、「気≒呼吸系/循環系」、「神≒神経系」とイメージしたとすると、「精・気・神」は心身のすべてを包含していると考えても良いのではないかと思います。
余談になりますが、「神経系」という用語は江戸時代、『解体新書』を翻訳された杉田玄白が命名したもので、「神気の経脈」であるとされています。このことは、西洋医学が日本に伝来されてきた当時から、脳と神気との関係性が注目されていたということであり、大変興味深いものです。
画像出展:「語源から読み解く自律神経」
現代において精神活動は思考、認知、記憶、創造、感情などを指します。これらの精神活動は新皮質の大脳皮質の働きです。一方、東洋医学の脳は奇恒の腑の一つで、働きは運動を円滑に行い、耳目を聡明にし、長寿を保つとされています。
画像出展:「病気がみえるvol7.脳・神経」
脳(奇恒の腑)の働きを西洋医学の脳の働きに照らし合わせると、「運動を円滑に行う」は一次運動野、前頭眼野、高次運動野が該当します。「耳目を聡明にする」や「長寿を保つ」も大脳皮質が関係しますが、運動には小脳が、生命維持には大脳辺縁系や脳幹も必要です。
画像出展:「病気がみえるvol7.脳・神経」
この図の右側縦列は前頭連合野の機能が正常に働かない場合の状態(障害)です。これをみると五神(神・魂・魄・意・志[思・慮・智])の働きとほとんど合致するように思います。
※「五神」については下の表を参照ください。
これは「東洋医学概論」の内容を元に作った「五神」と「七情」の表です。これらの働きは五臓に割り振られています。
五神の中の神についての説明は、このブログの大元である『東洋医学概論』の記述をそのままご紹介させて頂きます。
『神を分類すれば、神、魂、魄、意、志などが挙げられる(『霊枢』:本神篇)。神は、このなかで最上位にあって、他の神気を支配している。ときにより、魂魄は神の支配を受けずに独自の働きをすることがある。魂・魄は、人体のかげの活動(無意識的、本能的活動)を支配するものである。』
例えば、3000年前のヒトの脳と現代のヒトの脳は、解剖学的・生理学的に劇的な違いはないと思います。つまり、東洋医学の脳(奇恒の腑)と西洋医学の脳に対する理解の違いは、解明された情報の質と量であり、それを可能にしたのが科学とテクノロジーの力だと思います。
東洋医学の脳(奇恒の腑)は骨、髄と共に腎が主っています。腎は先天の精、そして後天の精を受け入れ、発育・成熟および生殖という基本的な生命活動を担っています。そして、腎に納まる精が気に変化すると原気となり、臍下丹田に集まり人体の基礎活力として働きます。以上のことから、腎と脳(奇恒の腑)の関係は非常に重要だと思います。
関元という経穴(ツボ)は、小腸の募穴でおへそより指4本分下とされています。場所は臍下丹田になります。
西洋医学では下腹の臍下丹田は腸がある場所です。そして腸は第二の脳とされ、脳腸相関ともいわれています。東洋医学の腎と西洋医学の腸の違いはありますが、東洋医学の臍下丹田⇔脳(奇恒の腑)と西洋医学の脳腸相関(腸⇔脳)は東西医学の共通性を示すものと思います。
画像出展:「ブレインフォグの原因「腸内細菌の乱れ」と脳腸相関とは?」
こちらは国立・消化器内視鏡クリニックさまから拝借しました。
『脳腸相関とは、脳とおなか(腸)で両方向におこなう情報伝達のやり取りと相互に影響を及ぼしあう関係のことです。』
画像出展:「AI(Perplexity Pro)作成」
この表を見ると、複数の経路を通じて脳と腸が連絡し合っているのが分かります。
科学(テクノロジー)の力が及ばなかった東洋医学の時代においては、五神(神・魂・魄・意・志[思・慮・智])や五情(喜・怒・憂・思・恐に悲と驚を加えたものは七情という)を、脳(奇恒の腑)に関連付けて考えることは難しかったと思います。そのため、重要とされた五つの臓腑(“形の類”)に割り振ったということだったのではないかと想像します。
五神と七情は、現代では大脳新皮質と間脳(特に視床下部)そして大脳辺縁系による中枢神経の働きと考えられます。運動や感覚は中枢神経系と体性神経系(末梢神経系)でつながっており、内臓の働きは中枢神経系と自律神経系(末梢神経系)でつながっています。さらに視床下部は自律神経系に加え、内分泌系や飲水・摂食・性行動などの本能行動をコントロールしており、極めて重要な役割を担っています。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
大脳新皮質は判断、思考、計画、創造、注意、抑制など理性と社会性といえます。多くは神気(五神)に関係していると思います。一方、本能的、情動的なものは大脳辺縁系が担っていますが、特に大脳辺縁系の扁桃体につながる視床下部は内臓に関わる自律神経系や内分泌系を制御しています。また、運動器は中枢神経と末梢神経である体性神経系を介して脳と体躯・四肢をつなげています。
画像出展:「理性は本能に負けやすい!?脳の中には3つの機能があり、バランスが崩れると依存症になる?」
このサイトの他のスライドに『3つのバランスが崩れると依存症になる』という説明があります。これは東洋医学の“内因”(主に七情と呼ばれる7つの感情の過剰や不足によって引き起こされる病気の原因)に通じるものです。
画像出展:「漢方によるストレス・ケアのすすめ」
こちらは東洋医学の病気に対する分類です。内因は七情が関係するとされています。他に外因と不内外因があります。
画像出展:「病気がみえるvol7.脳・神経」
外側の大脳皮質は新しい脳ですが、内部の大脳辺縁系は古い脳です。脳波、CT、fMRI、PETなどの科学の力なしに解明は不可能です。有名な海馬は記憶に関係しています。一方、情動と本能行動の中枢とされ、主に「七情」に関わっているのが扁桃体です。
以下の2つの動画はストレスを軽減する方法を紹介しています。ポイントは大脳辺縁系の中の扁桃体と呼吸(酸素)です。“氣”には様々な解釈があります。その中には大気も含まれます。この動画を拝見すると、呼吸を重視する考え方は東洋医学も西洋医学も同じように思います。
「4ステップで扁桃体の過剰反応を落ち着かせる「心の持ち方、感情の持ち方について」11分52秒。
こちらは「Dr.ヤママンのYouTube Channel」さまからの拝借です。
「脳の扁桃体からの怒りを前頭前野がコントロールします!!」5分41秒。こちらは「精神科医マコマコちゃんねる」さまからの拝借です。
画像出展:「臍下丹田呼吸法」
「呼吸を重視する考え方は東洋医学も西洋医学も同じように思います」とお伝えしましたが、「西洋医学でも、最近では“木”ではなく“森”、つまり身体全体から病状や健康を診るということも出てきているな」と思って調べてみました。
画像出展:「AI(Perplexity Pro)作成」
今では「総合診療」や「プライマリーケア」といった組織もでてきていますが、調べたところ、総合診療の先生の中には鍼治療を取り入れている先生もおいでのようです。
くり返しになりますが、“氣”とは“気の類”、つまり、「精・気・神」の三宝と定義したいと思います。「気を補う」とは「精」なのか「気」なのか「神」なのか、それともすべてなのか、鍼灸師は「精・気・神」を頭に入れておくべきではないかと思います。
「気・血・津液を調える」というのは経絡治療の基本ですが、これは手法でありその対象は三宝(精・気・神)ではないかと思います。
以前、「自然治癒とは何か」ということを検討し、『ストレス適応と栄養代謝』と定義してみたのですが、個人的には、鍼灸(経絡治療)とは三宝に対する施術を適切に行い、『ストレス適応と栄養代謝』を高めるということだと思います。(“栄養代謝”という言葉は、本来は“消化・代謝”の方が適切ですね)
画像出展:「寒い時期の健康管理(市報のだ11月15日号掲載)」
『暑さや寒さなどの外部環境、心理的なストレス、ウィルスや細菌など私たちの生命維持に対する外乱となる刺激が生体に加わると、自律神経系(交感神経・副交感神経)・内分泌系(ホルモン分泌)・免疫系の3つが働いて、身体の機能を平常に保たれます。』
「ホメオスタシス~私たちを守り続けるシステム~」6分14秒
こちらは「ネコかん 【ネコヲの解剖生理学】」さまからの拝借です。
“ストレス適応”はホメオスタシス(恒常性)に置き換えても良いのではないかと思います。
次に気・血・津液と三宝(精・気・神)との関係性を考えたいと思います。ここで出てくる気は狭義の気です。(「東洋医学概論」の図を基に作っています)
狭義の気は、機能別に複数存在しており(図内には真気を含め5つ)、それぞれの気の働きを理解する必要があります。この中で特に注目すべきは臍下丹田の原気だと思います。そして、三宝(「精・気・神」)にも目を向けたいと思います。さらに、西洋医学的な観点からの脳腸相関と臓器間のメッセージ物質のやり取りという考えにも注目したいと思います。
※メッセージ物質
NHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」シリーズでは、「臓器や細胞からのメッセージを伝える物質」を総称して「メッセージ物質」と呼んでいます。これは細胞間情報伝達物質であり以下のようなものとされています。
1.ホルモンやサイトカインを含む、体内で情報を伝達する物質の総称
2.血液や神経を通じて全身を巡る
3.数百種類にも及ぶとされる
脳・脊髄(中枢神経)と臓器をつなげているものに自律神経系がありますが、それに加えて脳や各臓器に様々なメッセージ物質を送って、臓器同士が会話しているとすれば、「神気は五臓に納まる」という東洋医学の発想に近いもののように思います。
まとめ
今回、勉強し直したのは「氣」とは何かを知りたいと思ったからです。そのヒントになるのではと思ったことは、「脳」の働きに関する東洋医学と西洋医学の違いです。東洋医学における「脳」は“五臓”でもなく“六腑”でもなく、”その他の腑”に含まれる“奇恒の腑”で、重要なものと考えられていたとは思えません。奇恒の腑は「脳」の他に「骨」と「髄」があり、いずれも“五臓”の一つである“腎”が主っています。そして「脳」は「髄」の大きなものとされていますが、これは「髄」が「骨」の中にあるものというのが理由です。確かに脳は頭骨の中にあるので髄であるといえます。言い方は良くないのですが、「脳(奇恒の腑)は腎ファミリーの一つ」という位置付けです。
この奇恒の腑である脳について、教科書では次のように説明されています。『脳は、頭骨の中にあり、髄の大きなもので、下は脊髄に連なる。脳は、肢体の運動を円滑にし、耳目を聡明にし、長寿を保つ。脳が充実していると、耐久力ばかりでなく、すべてにわたって一般の基準を超える。不足すると、目が回る、耳鳴り、めまい、すねがだるい、身体中だるくて寝ていると落ち着くなどの症状を呈する。』
ここで説明されている内容は、一つは運動と感覚に関わるものであり、西洋医学の中枢神経、遠心性神経(運動神経)、求心性神経(感覚神経)に相当すると思います。
もう一つは『耳目を聡明にし、長寿を保つ』というものですが、脳(奇恒の腑)の働きとしては細かく示されてはいません。西洋医学における理性などを司る大脳皮質や、本能や情動を司る大脳辺縁系が担っている役割、さらには内臓に働きかける末梢性の自律神経系や内分泌系の働きは、五臓に割り当てられた五神(神・魂・魄・意・志)や七情(怒・喜・思・憂・恐・悲・驚)によって説明されています。
一方、先にご紹介させて頂いたメッセージ物質の存在を考えるならば、脳と臓器、臓器と臓器でもコミュニケーションが発生しており、東洋医学の五臓・五神・七情などの考え方に通じる部分があるように思います。つまり、脳は絶対的な統括者・権威者というより、各臓器、器官、組織などの”つぶやき”に耳を傾けながら、全体をまとめるリーダーという存在ではないかと思います。
最後に、今回のブログでは以下の3点を最も重視したいと思います。
1.施術において、“氣”とは“気の類”、精・気・神の三宝であると考えたい。(現時点では)
2.狭義の気に関しては、先天の精と後天の精から派生する臍下丹田にある“原気”に注目したい。
3.『氣とは何だろう』を考えていくうえで、東洋医学の脳(奇恒の腑)・神気(五神)と西洋医学の脳(大脳・中脳・間脳・脳幹・小脳)に注目したい。
画像出展:「国内外における脳科学研究の現状と問題点について」
ウンザリするような細かい表ですが、ご紹介したのは「脳科学研究はこれから、奥が深いんだなぁ」ということをお伝えしたかったからです。
今後の予定
『氣とは何だろう』というテーマに関して、3冊消化しましたが、今後以下の本を拝読させて頂く予定です。大変なことになっています。ほぼ1年がかりのテーマです。
・「気」とは何か 人体が発するエネルギー
・「気」は脳の科学
・気功の科学 大脳生理学が解明した「東洋の神秘」
・気とエントロピー 医者と患者に役立つ医学
・気をひきだせ、無限の治癒力
・脳のなかの天使
・腸と脳 第二の脳がもたらすパラダイムシフト
・人体 神秘の巨大ネットワーク 臓器たちは語り合う
・「酵素」の謎―なぜ病気を防ぎ、寿命を延ばすのか
・酵素反応のしくみ―現代科学の最大の謎をさぐる
・リンパの科学
・中村天風と植芝盛平 気の確立
・気の発見 著者:五木寛之 対話者:望月 勇(気功家)
・なぜ気功は効くのか
・気療の奥儀 手を振るだけであなたも動物を癒せる
・生体の場の特性
・東洋医学気の流れの測定・診断と治療