“氣”とは何だろう8(科学編)

著者:品川嘉也

初版発行:1990年1月

出版:光文社

目次は“氣とは何だろう7”を参照ください。

 

2.脳波から「気」を解明する

ナポレオンが三時間しか眠らなかったのは、シータ波の作用か?

画像出展:「気功の科学」

 

①ベータ波:眠りが深くなって熟睡の時に現われる。

②シータ波:ウトウトしてくると現われる。デルタ波の状態とは異なり、外界からの刺激にも普通に反応できるので、本人は自覚していない。一瞬の居眠りで事故を起こすのは、シータ波が出ているときである。

・シータ波に関しては解釈の難しい問題がある。瞑想中や荒行、断食などの宗教的修行を積んだ人にもこのシータ波が良く観察されるという事実である。これをどう解釈すべきか、精神を集中することによってシータ波が優勢になると考えて良いのか、それとも、特殊なトレーニングによって、いつでもどこでも一瞬に睡眠をとれるということなのか。この「精神集中」か「ウトウト睡眠」か、この見極めは非常に難しい。

アルファ波についての基本的誤解

③アルファ波:目を閉じて安静にしている時に現われる脳波である。眠っていながら眼球が動き、脳の活動も活発な、いわゆるレム睡眠の際に現われる脳波である。

・アルファ波は8~10ヘルツのアルファ1波と10~13ヘルツのアルファ2波である。アルファ1波はアルファ波に近く、アルファ2波はベータ―波に近い。

・安静にしている状態ではアルファ波はよく出る。ところが、何かものを考えはじめると、アルファ1波波は、後頭部中心に抑制される一方、アルファ2波はむしろ亢進の傾向を示した。実は気功師の脳波でも同じような現象が観察された。

・『アルファ波の活用を解説したハウツー書のなかには、「アルファ波は安静時と集中時に現われる」として、両方のケースであたかも同じ脳波が出るように書いている本がある。これは二種類のアルファ波を区別しなかったために起きた混乱であり、誤った記述である。それを見きわめることが脳の活動を知るには大きな要件となってくるのである。』

④ベータ波:脳が活発に活動しているときに現われる脳波で、別名「精神活動脳波」とも呼ばれる。逆にいえば、目を閉じれば誰でもアルファ波を増やすことができるのである。

・ベータ波では脳のどの辺りを使っているのかがわかる。また、イメージ思考とも関連が深く、ひいては右脳左脳の役割分担とも密接に関係している。

なぜ、ものを考えていても、眠っていても、同じ脳波が出るのか

・「気」を脳波学的に解明していくには、イメージ思考とベータ2波の関係が特に重要な問題となる。気功中に右脳優位にベータ2波が出ている。

脳波学の知見を揺るがした暗算の名人

・ソロバンチャンピオンの女性は暗算時に左脳はまったく使わず、右脳、それも右脳の後部にある視覚野をつかさどる部分が活発に活動していた。彼女の話では、数字を見たり聞いたりすると、頭の中にソロバンが浮かぶそうである。そして、そのソロバンの球が勝手に動いて答えが出るということである。

「気」の脳波は、こうして測定された

・実験は中国人気功師4人、日本人気功師4人、計20回の脳波測定を行った。気功師と「気」を受けた人の脳波も同時に測定した。「気」の受け手はすべて日本人、その中には練功歴2~3年以内の気功の初歩の体験者も含まれていたが、脳波は他の気功の未経験者と有意に差がないことを確かめていた。

・分析に用いた周波数帯域をアルファ1波、アルファ2波、ベータ2波の3つにした。これはアルファ1波がよく出るのは目をつぶって安静にしている状態である。そして、何かものを考え始めると、このアルファ1波は一瞬減少するが、やがてアルファ2波に変る。つまり、この変化を見れば脳波測定者が思考の状態にはいったかどうかがわかる。ベータ波のうちベータ2波を選んだのは、ベータ2波が頭のどこを使っているのかに密接に対応しており、脳の活動部位を調べるにはベータ2波の方が分析しやすいからである。

画像出展:「気功の科学」

 

なぜ、気功師に「脳死」や「ボケ」症状を示す脳波が出るのか

・子どもの頃から練功を積んできたベテラン気功師について、目を閉じてリラックスした安静状態で、「何も考えないでください」と指示して脳波を測定したところ、アルファ波の振幅が普通の人の1/2以下だった。

画像出展:「気功の科学」

 

・極端な例ではアルファ波だけでなく、ベータ波も非常に小さい気功師もいた。これは脳死状態に見られる「平坦脳波」に近い脳波である。気功師の脳に問題はないのでまったく不思議としかいいようがない。

・安静時閉眼時のアルファ波は普通の人はほぼ左右対称で後頭部のみに強く出る。一方、気功師のアルファ1波は過半数の気功師が前頭部寄りに出現した。また、アルファ2波もアルファ1波ほど強くないが一般の人よりは頭の前の方に出ていた。なお、この脳波の出方はボケの指標となっている。これは明らかにされていない何かのメカニズムとしか考えられない。

画像出展:「気功の科学」

 

気功師はなにもイメージしていないのに、イメージを表わす脳波が出た

・気功の時の姿勢(入静状態)は「気」を発するまえの準備段階であるが、気功師の脳波はアルファ1波が減少しアルファ2波が脳全体に広がり、同じ波形となった。そしてアルファ波の強さを示す振幅は一般の人より小さいことも分かった。

これと同じ傾向は、瞑想、ヨガ、座禅のベテランの準備段階でも見られた。

・気功師の練功で、まずは気功師が体の動きをともなわない状態(静功)で、自分自身に「気」をめぐらせた場合の脳波は、アルファ波に混じってベータ2波が現われるが、特徴的なことは右脳優位のベータ2波が頻繁に現われることである。ときによってベータ2波が右前頭部から右後頭部、左前頭部から左後頭部へと激しく移動する。さらに、左脳のみにベータ波2が見られたり、左右の側頭部に分かれて出たり、ベータ波2とともにアルファ2波も移動する。

・このような脳波のパターンは一般の人ではまず見られない。体の動きを伴わない静功の状態であるのに脳の動きは激しく変化する「外静内動」の状態である。

・アルファ2波とベータ2波が同時に同じ場所に現われる脳波パターンは一般の人では強い集中力をもった人が、明確なイメージを強く描いたときだけに見られる。また、右脳のみにベータ2波が現われるのは、催眠状態で自発的にイメージが出現するときにかぎって観察される。

・静功時の気功師の脳波は、イメージの脳波によく似ている。しかも、ベータ2波がイメージ思考と密接に対応していることを考え合わせれば、気功師の頭の中には、さまざまなイメージが駆け巡っていると推測できる。ところが、気功師にそのときの状態をたずねてみると、すべての気功師が「なんのイメージも浮かんでいない」と答えた。

画像出展:「気功の科学」

 

 

気功師と瞑想家の脳波には、共通点がある。

・動功に入ると、アルファ1波、アルファ2波、ベータ1波、ベータ2波のすべてが後頭部に固定され移動しなくなった。静功時には激しく動いていた脳波が、動功にはいると体の動きとは対照的に、後頭部に集まって落ち着く。これを「外動内静」の状態になった。

・アルファ波とデータ波とが同じ場所に現われるのは、普通の人では精神を集中した場合である。

脳波分析から判断するかぎり、気功は頭を高度に使っている状態である。ところが、気功師に「動功中は何を考えていますか」と質問しても、「何も考えていません」という答えが返ってくる。この返答からは、気功とは頭では何も考えているわけではないが、頭はフルに使っている状態と規定できる。

画像出展:「気功の科学」

 

 

「気」によって脳波が同調し、脳が活性化する

実験では「脳波の同調現象」はすべてのケースで観察された。この「同調現象」は気功の脳波以外では観察したことがない。

・「気」の受け手は気功師の「気」を受けると、大多数の受け手の人の脳波に出るはずのない前頭部寄りのアルファ波が発生する。なお、この際、受け手の人は「気」受ける際に常に眼を閉じて何も考えていないリラックスした状態(安静閉眼)にいる。

・気功師が「気」を送ると、受け手側の半数は前頭よりのアルファ2波が観測され、アルファ1波の方は1名を除き、全ての被験者に前頭寄りに現われた。

3.「気」が身体を活性化する

気功は、全脳のトレーニングになる

・ものを考えるとき右脳を活発に働かせているという状態は極めて少ないが、左脳優先の脳の使い方は心身の健康面からみて大きな問題を抱えている。

・日本では教育においても左脳偏重である。英語なども英会話はもちろん、ある程度長文の英語の読み書きには、右脳的なイメージ思考が必要不可欠である。

・右脳と左脳をバランよく使う方法を「全脳思考」という。

気功師の脳波は明らかに右脳優位のベータ2波が見られる。これは気功には右脳の働きを活性させる効果があるということである。

ユングの「共時性」と脳波の同調性

・『ユングのいう因果的世界は、分割脳理論でいえば左脳が捉えた世界に対応するものであろう。とすれば、共時性と呼ばれる非因果的世界は、右脳が活性化されることによって意識に捉えられる世界ということになる。ふたつの世界がふれ合うところに共時性の現象が出現するのなら、それは“宇宙との一体感”の体現であり、とりも直さず気功のつくり出す意識状態とべつのものではないということになる。

気功師の脳波と気の受け手の脳波のあいだのトランスパーソナルな同調には、偶然の一致以上のものがあるはずである。なんどもいうように、「気」は実体ではなく、情報である。その情報が「気」の送り手から受け手に伝わり、身体に作用を及ぼした結果が、脳波の同調現象として現われるのだ。

もちろん、いまのところそこに存在する物理化学的な因果関係は明らかでない。あくまでも意識状態の伝達なのである。その意味でも、脳波の同調現象は共時性というあいまい模糊とした不可思議な現象の実在性を示す、唯一の実証的な手がかりとなっている。

気功における脳波の同調現象のさらなる解明は、今後の研究に待たざるをえない。だが、それが「気功の科学」の中核となり、ひいては共時性をも含めた新たなパラダイム創出のための突破口となりうることだけはまちがいないであろう。』

まとめ:一般人と気功師の脳波の特徴は明らかにことなる

1.気功師の脳波の特徴

1)目を閉じて何も考えていないときの気功師の脳波は、α(アルファ)波のパワーが非常に小さく、平均すると一般人の半分以下しか出ていない。

2)子どもの頃から気功の訓練を積んできた気功師の脳波である。α波だけでなくβ波も小さく、平坦脳波に近いときさえあった。平坦脳波とは「脳死」のときに見られる脳波である。脳機能に何も異常も見られないにもかかわらず、このような異常な脳波が生じるのか不思議である。

3)α波は集中力が高いときに出るという一般的な理解とは異なり、気功師が集中した時の状態の脳波は違っていた。

4)体の動きを伴わない「静功」で「気」を発しているときに脳波の動きは激しく、大きな動作を伴う「動功」の時には脳波の動きが減少した。このようなことは常識では考えられないことだった。通常は動きが大きいほど、脳波の動きも大きい。

5)気功師の脳波に共通して、棘波(スパイク波)という振幅の大きなとがった波が観察されたことも不思議な現象であった。一般的に棘波はてんかん患者の発作時、それもかなり激しい発作の時に見られる脳波である。

6)静功時の気功師の脳波は、イメージの脳波によく似ている。しかも、ベータ2波がイメージ思考と密接に対応していることを考え合わせれば、気功師の頭の中には、さまざまなイメージが駆け巡っていると推測できる。ところが、気功師にそのときの状態をたずねてみると、すべての気功師が「なんのイメージも浮かんでいない」と答えた。

7)気功師の脳波は明らかに右脳優位のベータ2波が見られる。これは気功には右脳の働きを活性させる効果があるということである。

8)安静時閉眼時のアルファ波は普通の人はほぼ左右対称で後頭部のみに強く出る。一方、気功師のアルファ1波は過半数の気功師が前頭部寄りに出現した。また、アルファ2波もアルファ1波ほど強くないが一般の人よりは頭の前の方に出ていた。なお、この脳波の出方はボケの指標となっている。これは明らかにされていない何かのメカニズムとしか考えられない。

2.脳波の同調現象

1)気功師は一般人に比べてβ波が右脳に多く出現することが明らかになったが、この変化は受け手にも現れた。

2)実験では「脳波の同調現象」はすべてのケースで観察された。この「同調現象」は気功の脳波以外では観察したことがない。

3)「気」の受け手は気功師の「気」を受けると、大多数の受け手の人の脳波に出るはずのない前頭部寄りのアルファ波が発生する。なお、この際、受け手の人は「気」受ける際に常に眼を閉じて何も考えていないリラックスした状態(安静閉眼)にいる。

4)気功師が「気」を送ると、受け手側の半数は前頭よりのアルファ2波が観測され、アルファ1波の方は1名を除き、全ての被験者に前頭寄りに現われた。

感想

「気は実体ではなく情報である」ということ、そして、気功師の脳波には様々な特徴があり、気功師と受け手の脳波が同調するという実験結果を、品川先生は特に注目されていました。そして、“ユングの「共時性」と脳波の同調性”に触れていた箇所が特に印象に残りました。

『ユングのいう因果的世界は、分割脳理論でいえば左脳が捉えた世界に対応するものであろう。とすれば、共時性と呼ばれる非因果的世界は、右脳が活性化されることによって意識に捉えられる世界ということになる。ふたつの世界がふれ合うところに共時性の現象が出現するのなら、それは“宇宙との一体感”の体現であり、とりも直さず気功のつくり出す意識状態とべつのものではないということになる。

気功師の脳波と気の受け手の脳波のあいだのトランスパーソナルな同調には、偶然の一致以上のものがあるはずである。なんどもいうように、「気」は実体ではなく、情報である。その情報が「気」の送り手から受け手に伝わり、身体に作用を及ぼした結果が、脳波の同調現象として現われるのだ。

もちろん、いまのところそこに存在する物理化学的な因果関係は明らかでない。あくまでも意識状態の伝達なのである。その意味でも、脳波の同調現象は共時性というあいまい模糊とした不可思議な現象の実在性を示す、唯一の実証的な手がかりとなっている。

気功における脳波の同調現象のさらなる解明は、今後の研究に待たざるをえない。だが、それが「気功の科学」の中核となり、ひいては共時性をも含めた新たなパラダイム創出のための突破口となりうることだけはまちがいないであろう。』

「気功の科学」は今後の研究を待たざるをえないとされています。この本は1990年1月に発行されました。一方、ミラーニューロンの発見は1996年です。このミラーニューロンに関しても勉強する予定です。「気功における脳波の同調現象」のとの関係性に注目したいと思います。

また、「脳波の同調現象」では、気功師が「気」を送ると受け手側の半数は前頭寄りのアルファ2波が観測され、アルファ1波の方は1名を除き、全ての被験者に前頭寄りに現われたということです。これも注目すべきなのかなと思います。

画像出展:AI(Perplexity Pro)が作成」

アルファ波1とアルファ波2のそれぞれの特徴です。

 

画像出展:AI(Perplexity Pro)が作成」